第六話 正義の味方?黄金仮面登場
「まったく、不甲斐ない。エルフの面汚しですわ」
「シルヴィーナ様、そう言われないでください。ソロは黒エルフと言えども我ら中では一の剣の使い手。それでも勝てなかったのです。それは人間の剣術士が恐ろしく高い技量の持ち主だったからでしょう。ここは強者として称えるのが為政者としての懐の深さだと思います」
「解っています。解っていますけど・・・」
まだ悔しがるシルヴィーナだが、それをフォローするファルナーゴ。
ファルナーゴの薦める行動とはエルフを代表する為政者として正しい姿なのだが、果たしてプライドの高い妹はそれを受け入れられるだろうか?
いや、彼女が受け入れなくても、ここに来たエルフ達が「人間は侮り難し」と認識すれば、私の画策した余興は意味あるものになるのだ。
それが人間を格下に見ず、交渉事でも慎重にならざる負えない行動原理とつながればいいのだ・
過度な要求など出ずにエルフ達も思慮を知るだろう。
分別を弁えた交渉はスムーズとなり、人間との関係も平和的に進むはずだ。
今、エルフ達に求められているのは譲歩と自尊心のバランス。
相手の利益のことも考慮しつつ、自ら得られる利益を残すバランス感覚ある交渉が必要だと思う。
私のそんな想いを感じ取ったのか、ファルナーゴはシルヴィーナを連れだってライオネル国王に今回の練習試合の感想を述べに行く。
「いや~。人間の剣術士の技量は素晴らしかったです。我らの中で一番の腕を持つあのソロに勝つとは・・・」
「ありがとうございます。ウィル君・・・いや、ブレッタ家が人間で普通だと思われれば、それは誤解ですよ。アハハハ。あの人達は人間の中でも規格外中の規格外です。頼り甲斐があることは否めないですがね・・・それよりもソロさんでしたっけ? 彼の腕も素晴らしい。我ら一般の人間では絶対に相手にならなかったでしょう。エルフさん達は皆があの精霊魔法を使えるのでしょうか?」
「程度の差こそありますが、基本的にほぼすべてのエルフが精霊魔法の適正あると言われています。ソロほどではなくても、ある程度戦えないと辺境の森で暮せませんからね」
「ほほう。確かに、我らも辺境の魔物には苦労させられています。特に辺境の内部――シロルカの花の内側の領域のことです――は厳しい環境なのでしょうか?」
「いいえ、外郭部より中心部の方が魔物の出現数は少ないです。しかし、外郭部よりも強力な魔物が存在していますので・・・厳しい環境かと問われれば、人間には厳しいと答えておきましょう」
話題が辺境の内部の話になる。
これも会話の中で互いの情報の探り合いでもあるが、これぐらいの情報ならば互いに共有しても損得が無い範囲だろう。
交流とはそのようなものである。
「ところで、あの人間の方は既婚者なのですか?」
「おや? エルフの姫君、ウェル・ブレッタ君に興味をお持ちですかな? 残念ながら、彼は既婚者です。貴方のところに交渉に行っているレヴィッタさんの夫ですよ」
「まぁ、あの方の?」
ライオネル国王は少し意味深な顔で応えた。
これに対して、シルヴィーナは自分が人間の男性へ興味を持つなんて認めたくなかったようで、ポーカーフェイスを貫いている。
妹は自尊心が高く、高貴で高尚な血統者しか認められない性格をしているのだから・・・
私がそんなことを考えていれば、会場がざわついた。
「おい、なんだ? あんなところに人がいるぞ!」
誰かがそう発して、指さす方向を見てみると王城内の尖塔の屋根にひとりの人物が立ち、そこで黄金の髪を靡かせている。
まだ遠いのではっきりとは解らないが、服装からして女性のようだ。
その女性は自分に十分注目が集まったことを意識し、満を持して飛び降りてきた。
普通ならば、あの高さから飛び降りることは普通の人間では自殺行為。
しかし、その人物はまったく平然として優雅に飛び降りてくる。
黄金に輝く女性――そう形容すると一番しっくりくる。
身体中が黄金色の装飾で統一した謎の人物。
顔はどこかで見たことのあるような意匠の仮面で隠しているため、誰であるかは解らない。
解らないが、エリオス国王夫妻の引き攣った顔を見れば、彼女が誰であるかを解っているような気がした。
私も何となくこの女性が誰であるかは推測できたような気もする・・・
そして、その人物が口を開いた。
「私は正義の味方『黄金仮面』よ。レヴィッタから聞いていたけど、アナタ達が悪徳エルフ達ね。傲慢な態度で交渉を進める人類の敵です。正義は何たるかを私が教えてあげましょう!」
自らを正義の味方と名乗るこの謎の仮面女性。
その声を聞いて、私はこの女性の正体にピンときた。
仮面で正体を隠しているようだが、声色までは変れていないようだ。
「皇女様。この場はご退去ください。現在は歓迎式典を上手く進められておりますので・・・」
「私は・・・ええーい。私の正体は公には秘密にしなささい。ローラ!」
もうそう答えているだけで、自分の正体を自分で認めているようなものである。
ここで現れた謎の仮面女性の正体・・・それは隣国のエストリア帝国の第一皇女シルヴィア・ファデリン・エストリアだろう。
私とも面識はあるし、声も覚えている。
この人、ハルさんの結婚披露宴のときに帝都ザルツからやって来て、まだ帰っていないようだった。
大方、レヴィッタから交渉相手のシルヴィーナのことを聞き出して、それを自分が解決してやろうと思っているのだろう。
まったく、迷惑な話だ。
ハルさんが「皇女のお転婆ぶりに頭が痛い」と言っていたのも理解できる。
まとまりかけていたこの場の雰囲気を台無しにするつもりだろうか。
「黄金仮面さん。お勤めご苦労様です」
「あ、ハイッ。ウィル・ブレッタさん」
「ここでは誰も困っていません。そのまま帰っていただけませんか?」
「へっ?」
ウィルさんもこの仮面女性の正体を察しているようで、冷たく退去を求めた。
これに対して黄金仮面は、どうしてそんなこと言うの、と軽くショックを受けている様子。
いいぞ、ウィルさん。
帝国の皇女にこのような直球の意見ができるのは、さすがに余所者エルフの私では役不足です。
ウィル・ブレッタさんとはエストリア帝国の貴族である方だ。
しかも、皇女とは顔見知りのようで、このような要求をしても不敬に当たらないのでしょう。
「なんだ? この人間の女? へんてこな仮面を被っている。さては、変質者か?」
ウィルさんと同じ調子で彼女を否定するのはソロだ。
駄目ですよ、相手は人間で最大の帝国の皇女なのです。
アナタが軽々しく話して良い相手ではありません・・・
私が心配していると、やはりその仮面女子は不快感を露わにする。
「何を言っているの? 私に向かって『変質者』ですって! 失礼極まりますよ。アナタ・・・さてはあのクソ・エルフ女の家来ね。私が懲らしめてあげるわ!」
仮面の奥の目が光ったと思えば、無詠唱で風魔法を放つ。
「な、なんだ!? ぐわーーー!」
突然の暴風魔法の攻撃にソロは呆気なく飛ばされてしまう。
精霊魔法では防げない強力な魔力攻撃だ。
ソロも成す術がない。
「まずい。黄金仮面さん、これはまずいですよ!」
ウィルさんが慌てて駆けだして、飛ばされたソロの腕を掴んだ。
これによってソロが大きく飛ばされて怪我することは無かったが、ウィルさんは巻き込まれた形だ。
強大な暴風の魔法だったが、それでもウィルさんの魔力抵抗体質の力が勝り、ゆっくりと暴風の魔法は黒い霞へと分解されて無害化される。
助かった。
ウィルさんがいなければ、この暴走魔女の攻撃を抑えきれなかった・・・
「も、申し訳ありません。客人にこんなことを・・・黄金仮面様。暴挙はお止め下さい。彼らエルフ達は我々の友好の客人です。あまり酷いことをすると、外交問題になりますよ」
ライオネル国王も血相を変えて暴挙に出た黄金仮面にそう注意する。
「な、何よ。私はレヴィッタが困っているから手助けしてあげたかったのに・・・ウィルさんや国王まで、私を睨まないで!」
明らかに劣勢を感じて、初めの勢いがなくなる自称正義の味方の黄金仮面。
よし、私も追従しよう。
「本当に嫌がらせするのは止めてほしいです。確かに妹のシルヴィーナに失礼な態度があったことは否めませんが、それも暴力で律するというのは感心できません。もし、黄金仮面さんが実力行使を続けると言うのでしたら、こちらの方にも介入して貰います」
ここで、私は自分の後ろに立つジルバ様へ目配せする。
シルバ様は無言で腕組み状態を続けており、物言わぬ圧力を放っている。
その男性を見て自称黄金仮面の皇女様は何かに気付いたようだ。
「こちらの方って・・・アナタ、もしかして!?」
男性のジルバ様はここで何も語らず、不気味に口角だけを挙げる。
銀龍の人間体の姿がそこにあると今更気付く黄金仮面。
さすがに顔が引き攣ったようだ。
「わ、解ったわ・・・今日のところはローラさんに免じて許してあげる。しかし、今後も高飛車な態度でレヴィッタを困らせているようならば、私が天誅を下すから肝に銘じておいてくださいね。オホホホホ!」
黄金仮面は自分の言いたいことだけを言うと笑って誤魔化した。
そして、パッと飛び退き、登場した時の逆の経路で慌てて退去する・・・
まったく迷惑な皇女様だ。
ハルさんから貰った魔法の仮面の力を使って、このエクセリアでお転婆三昧のようである。
この件は後でハルさんに報告しておこう。
もし、皇女の横暴が続くようであれば、仮面の没収も視野に提言したいと思う。
ハルさんならば、実力行使でそれもできるはずだ。
ともかく、これで歓迎式典は正常に戻った。
・・・いや、いきなりの仮面女性からの暴挙に、驚きを隠せないシルヴィーナが口をパクパクとさせている。
そして、エルフ達の雰囲気は元の雰囲気とは違っていた。
人間の脅威と言う意味では解って貰えたかも知れないが、果たしてこれはやり過ぎか・・・
今後の展開に一抹の不安を感じてしまう私であった。




