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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第五十一話 国王凱旋、成された野望


「ライオネル・エリオス国王陛下、万歳ーっ!」


 俺はクリステ領に戻ってきた。

 いや、今日からここは新しい地名・国名となるのだ。

 帝皇デュラン陛下より正式な轄領の許可証を貰い、こうして新生国家の建国と俺がここの元首であることを宣言している。

 スパッシュ氏やベネディクト女史、アリス女史らの有力者の声掛けもあって凄い数の民衆が旧クリステ城前の広場に集まっていた。

 

「ライオネル・エリオス国王、素敵です!」


 声援を発する人々の中には俺に黄色い声援を贈る妙齢の女性の存在も・・・年齢も俺と同世代で少々齢を重ねた感じ出ていて微妙な嬉しさである。

 まぁ、嫌われるよりは好かれる方が良いだろう。

 俺は自分にそう言い聞かせて、この声援に手を挙げて応えてみせた。

 

「キャーー素敵ー!」

「王妃のエレイナ様も、なんて素敵なのでしょう!」

「うぉーーー、本日の『剣舞の姫』様は本当のお姫様になっているぞ!」


 よくよく聞けば、エレイナへの賛美の声も微妙に多い。

 それはそうだろう、今、我が自慢の奥方は内々の結婚式の時に身に着けていた帝国式ドレスを纏っている。

 エレイナはどうやら誇張された自分の乳房に視線が注がれるのが快感になったみたいだ。

 これは詰めものと身体中の肉を引き寄せる帝国秘伝の技術の賜物らしいが、普段は持たない自分の女の武器に視線が集まるのは、愉快になったらしい。

 細くて巨乳・・・男のロマンを体現化したような肉体になっているが、それは衣装のお陰であると真実の彼女を知る俺からして少し引き気味だ。

 それでも国民の夢を壊してはいけないと思い、ここで俺は敢えて何も指摘しない。

 うん、それが正解だ。

 

「私はここに、新生国家エクセリア国の建国を宣言する。ここは開かれた国、自由な国、民衆全員が主役の民主主義国家を是とする国家。法律の整備には少し時間を要するが、それでもゆっくり確実に、そんな国家体制に構築して行きたいと思う。そこには皆さんの協力が不可欠だ。共に強く、開かれた、安全な国家を造って行こうではないか!」

「うおぉぉぉぉーっ!」

 

 集まった民衆からは雄叫びのような声援が贈られ、俺の宣言は肯定された。

 

「手始めにまずは貴族制を廃止する。統治は地区ごとに代表者を新たに選出し、その者が行うこととする。ゆくゆくは広い意味で統治を担う議員と呼ばれる代表者が行うが、その者は選挙と呼ばれる立候補制で民衆から選ばれるようにする。その選出候補者の機会は国民全員を対象として平等に与えられるだろう」

「すげえ! 俺が支配者層に成れるのかよ?」

「やめときな、クロード。お前じゃ立候補しても人気が集まらねぇ―よ!」

「アハハ、言えてるわ」


 そこかしこで、どよめきが起こり、我こそはと名乗りを挙げる者もいた。

 うん、いいぞ。

 そのやる気こそが全ての始まりだ。

 自由で開かれた競争社会、健全な競争社会は、国家をより良い方向へ発展させてくれるだろう。

 

「そして、希望する国民にはすべての者に姓名を与えよう。戸籍システムも新しいものに作り変える」

「おーー、俺も貴族みたいに家名を名乗れるんだな!」


 一部の聴衆が喜んだ。

 確かに一般市民の間で、〇〇家と言う類は一種の憧れがあるのだと思う。

 しかし、俺は単にそんな表面上の格好良さだけで姓名を与えようとしているのではない。

 それは戸籍システムを拡充させるため、国民ひとりひとりを効率よく管理するための方策である。

 先に結論を言ってしまえば、安定して確実な税収を得るための元データとしての措置だ。

 社会を運営するために税収が必要不可欠なのだ。

 公共的な何かをするには必ずカネが必要になる。

 公共事業としてカネが動くから平等な税の徴収と行使が経済論理として成り立つのだ。

 国家が奴隷や奉仕など称して強制的に労働力を徴収するなど経済論理を無視してしまえば、そこから経済的な社会システムは崩れてしまうだろう。

 俺は経済的な尺度で平等な社会を目指している。

 その財源である税収は平等に徴取されるべきなのだ。

 エクセリア国に住み、その国家から公共サービスを得る国民は納税が義務とするが、徴収の平等性は大切だと思う。

 万人が納得する形・・・というのは無理だろうが、それでも、全国民が定められたルールで平等に徴収されていることを知らしめる事が重要なのだ。

 そのためには全国民の所在と家族構成を国家が戸籍としてしっかりと把握する必要がある。

 そのためには姓名を与えて家系を明らかにすることが今回の一番の目的。

 うん、俺、頭良いね。

 国民も喜んでいるし、ウイン・ウインの結果だと思うぞ。

 そして、自らにも戒めを掛けることを忘れない。

 

「私も現在は国王として就任しているが、エクセリア国のいち国民であることに変わらない。然るべき時期が来れば引退する。永久にこの座に留まろうとは思わない・・・この国は国家の長さえも民衆が決める、それが民衆主義なのだ」

「すげえ。ならば、俺も国王になれる」

「だからクロード止めとけって、お前じゃ国王様なんて務まらねーよ。ボルトロールから賄賂を受け取って国がボロボロになっちまうぜ」

「ワハハハ、そのとおりだ!」


 男性が冷やかされて、そこの周辺の国民から笑いが起きた。

 うん、良い雰囲気だ。

 腐敗を由としない社会システム。

 賄賂は俺が最も嫌うところだ。

 国家が正義の心を持ち続けること、それがこのエクセリア国の強みにしていきたい。

 

「本日はエクセリア国樹立宣言に立ち合ってくれて、ありがとう。私から国民に伝えたいことは以上となる。細やかだが、美味しい食事と酒を準備させている。今日は祝日だ。国民の皆も楽しんでくれ」


 俺は用意させた屋台料理を国民にふるまう。

 これだけの人数となると少々費用はかさむが、それでも必要経費だと割り切っている。


「うぉぉ、美味そうだ! くれーっ!」


 先程から美味しい肉の焼けた臭いを振り撒いている屋台に、国民が殺到しようとする。

 

「お前達、待ちな。十分に量は用意しているから、並んでくれ、並んでっ!」


 屋台の店主は焦り、殺到する客の整理に必死だ。

 怪我でも負わせれば、俺の管理責任問題ともなりかねない。


「ゆっくり、ゆっくり、食べ物・飲み物は逃げない。余裕をもって準備しているので、焦らず一人ずつだ。安全第一にして、女子供を優先させて並んでくれ。これからの国家運営と同じだぞ」


 俺も注意を促す。

 集まった民衆が会場のあちらこちらに設置した屋台に整然と並ぶ姿を見た俺は、もう大丈夫だろうと思い、城のバルコニーから移動した。

 

「あなた、お疲れさまでした。良い演説でしたよ」


 正式な妻となったエレイナは俺の労をねぎらってくれる。

 

「エレイナ、お前もだ。きっとその胸で、国民の心を鷲掴みにしていただろう」

「あら? 私はあなたの心を掴みたくて、再びこれを着たのですけど?」


 そう述べて、まがいもの乳房を揺らし誘ってくる我が妻・・・まったく、コイツはどうしてこんなにエロくなってしまったんだ。

 俺はそんな頭が痛くなる想いをしながらも、エレイナにキスで応えてやる。

 妻から拒絶する訳もなく、俺のキスを更に熱く応えてくれた。

 

「うむ、昼からこれじゃ、仕事にならん。エレイナ着替えてくれ」


 俺は昂ぶりそうな自分の欲望を抑えるために、エレイナに服を脱ぐことを要求する。

 これから会議の予定が目白押しなのだ。

 それはエレイナには物足らなく思わせようで残念な顔にさせてしまった。

 それを察したスパッシュ氏とベネディクト女史は・・・

 

「これから王妃様の着替えを国王様が手伝われるそうです。寝室を利用してください」

「ええ、それがいいでしょう。うふふ。世継ぎが早く産まれることはこの国にとっても良い事ですからね」


 昼間からヤッていいと暗に許可を出してくる。

 お前達、余計な気を遣いやがって・・・エレイナの目が輝いてしまったじゃないか!!

 しかし、俺に拒否権は無いようで、嬉々やる気の漲ったエレイナの手に引かれて、侍女案内のもと、国王王妃専用の寝室へと直行させられた。

 

「一時間で済ませる。会議の予定は順次繰り越しだ」


 それだけを侍女に伝えると俺はエレイナに引っ張られて部屋の中へ吸い込まれた。

 

「解りました。ごゆっくり・・・と」


 戸の閉まる寸前、侍女からそんな声が聞こえた気がするが・・・しかし、その直後、俺の自由はエレイナによって封じられた。

 彼女と愛を睦むのが日常となって等しいが、それでも彼女と触れ合う興奮の気持ちは変わらない。

 俺達は短時間で濃密な愛を確かめ合い・・・そして・・・


 彼女との睦会いを手早く済ませて、現在、腕の中に裸のエレイナを抱き、こう語りかける・・・

 

「まったく、お前というヤツは・・・」


 俺からの寵愛を逃さないエレイナの行動に少し呆れて、そんな事を言う。

 

「私はあなたのものです。そして、あなたは私のもの。早く子供が欲しいですから」


 少し照れてそんな要求を突き付けてくるエレイナは滅茶苦茶可愛かった。

 

「子供か・・・」


 俺はエレイナとの間に将来生まれる自分の子供を想像してしまう。

 

「王子になるのか、それとも、王女になるのか・・・」


 男、女、それぞれの場合を想像し、その子供の人生について考えてみる。

 

「人の親としては、自分の子供に国王の座を継がせてやりたいと思う気持ちは、何となく解るが・・・」


 俺は国王の座に永遠に留まらないと決めていた。

 それは俺の考える民主国家の正しき姿だ。

 俺の主義主張だと言ってもいい。

 

「俺は数年で国王を引退する。子供には少々申し訳ないがなぁ・・・」

「あら、どうしてですか? 私はあなたと子供の居る家庭さえあれば、それで幸せですよ」

「俺とエレイナならば、そうだろう。しかし、子供たちは生まれながらにして王子、王女だ。もし、俺が王位から退けば、その生活レベルは転落してしまう印象しか持たないだろう」


 俺はここで生まれた自分の子供達が、果たして普通の一般人の生活に戻れるか、それだけが少し自信無かった。

 

「大丈夫ですよ。あなたの子供なのですから」

「俺の子だから?」


 そこで俺はハッとする。

 そう、俺自体がそうだったからだ。

 ラフレスタ家の次男として生まれ、兄を妬み、栄華を極めたラフレスタ領主の一家から勘当されて、貧乏貴族のひとりとして生まれ変わり、そこで生きてきた。

 必死に生きてきたが、それでも自分が不遇の極みあると自らの人生の境遇を呪った事だけはまったく無かった。

 

「あなたは、いつも自分が最善だと信じた事をやってきました。他人を妬まず。状況に負けず。それは私が隣で見てきましたからね。蔑まず。自分の夢に向かって、ひとつひとつ困難を打破して、そして、最後に夢を叶えたではありませんか?」

「夢か・・・ハハハ」


 ここで俺は少し乾いた笑いを浮かべる。

 確かにヴェルディ時代から、俺は当時の兄をも凌駕する偉大な支配者に成ってやると言う野望があった。

 現在の俺は国王、一国一城の主であり、エストリア帝国の帝皇デュラン陛下からは『同格でよい』とまで言われている。

 今は正にその野望を叶えた状況に成っている。

 しかし、それは結果論だった。

 

「それは成り行きだよ。エレイナ。俺が本当に国王になることだけを望んでいたんじゃない。自由で開かれた、人々が権威によって虐げられることのない社会造りのための手段のひとつに過ぎない」

「あら、国王になっても、まだ、野望が満たされないのですか?」

「そうだな・・・俺は欲深いからな」

「あなたのその欲とは人のため、これからの後世のためにやっているのも私は、私だけは解っていますとも」

「・・・エレイナ!」

「だから、私はあなたを好きになった。だから、私はあなたの子供を産みたいと思いました」

「・・・」

「だって、あなたの子供ですから、あなたの夢を引き継いでくれるのでしょう?」

「・・・そうかも知れない。しかし、それはひとつ間違っている事があるぞ」

「何ですか?」


 それは、俺とエレイナの子供だからだ。

 エレイナと俺の子供ならば、決して困難に打ち負けたりはしない。

 その事を敢えて小さい声でエレイナに伝えてやる。

 この覚悟と希望はふたりだけの秘密にしたかったからだ。

 その直後に再びエレイナからは強い愛の誘いを感じて・・・そして・・・


 結局、次の会議の開始は二時間遅れとなってしまったことは言うまでもない。

 

 


フィナーレ感ありますが、あと一話続きます。


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