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ラフレスタの白魔女 外伝  作者: 龍泉 武
第三部 ヴェルディの野望
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第五十話 俺の帝都での慌ただしい日々

 クリステを平定してから数箇月後。

 厳冬の季節を超えて、季節は春となる。

 エレイナとスパッシュ氏は一箇月ほど前に帝都ザルツへ赴かせたが、今は俺も帝都へ入っている。

 

「この場で敬意は必要ない。楽にして良いぞ」


 そう声を掛けてくるのはデュラン帝皇陛下だ。

 今の俺は帝皇陛下に呼ばれて、クリステ平定の報告を行っている。

 この場も帝皇の広大な居住区間内だが、荘厳な雰囲気を持つ居城の謁見の間・・・ではなく、帝皇のごくごく私的な生活をする建屋の一室なので、緊張は少ない筈・・・と思っていたが、俺はガチガチに緊張してしまっている。

 

「本日はお日柄良く、こちらへお招き頂き、大変光栄の思いであります」


 うん、何を言っているのか解らない。

 俺の口と頭が独立して、帝皇陛下におべっかを使ってやがる。

 くっそう、これが覇皇の迫力ってやつか?

 俺は改めて、産れながらして支配者の座にいるこの国の帝皇陛下を凄いと思う。

 これは、同じ立場になってみいたと解らないものだな・・・

 俺はもうすぐ、この帝皇陛下と同じ一国の主となる。

 だから、この立場にいる人間の大変さが解る。

 端的に言うと、孤独なのだ。

 全てを判断するのは自分だ。

 部下はいるものの、その最終的な決定権は全て自分にある。

 そして、その結果がもたらすものは、自国民の命や利益に直結している。

 だから慎重に判断してしまいがちだが、それだと決断するのに時間が掛かってしまう。

 時には、少ない情報で決断しなくてはならない場合もある。

 国王の座になる前は、俺もいろいろと他人の批判をしてきたが、それでも、自分がその決定する立場になってしまうと、やはり全然違う。

 そして、初見で他人に有無を言わせないこの胆力・・・やはり、エトスリア帝国の帝皇陛下は只者じゃない。 

 そんな生まれながらの覇王は・・・

 

「先ずはクリステの平定は見事であった。貴殿の仕事ぶりはとくと拝見させて貰った」


 俺を褒めてくれると、ここで帝皇の忠実な部下であるリリアリア大魔導士から光魔法の投影がある。

 誰が撮影したのか、それには俺の活躍が短い映像としてまとめられており、自分の行動を客観的に見ている妙な感覚があった。

 最後のルバイア戦では俺の活躍というよりもウィル・ブレッタの活躍により、ヘレーヌ、ルバイア、シャバイア、ゲルリアと敵の大将クラスの首が次々と飛ばされる映像で締めくくられている。

 地味に俺が働いていないようで、ちょっと格好悪い。

 しかし、帝皇陛下は認めてくれた。

 

「約束どおり、貴殿には国をくれてやろう。クリステ一帯を新生国家『エクセリア』として建国するが良い。そして、その初代国王として貴殿が就くのだ」

「ハッ!」

 

 俺は短くそう応える。

 そのタイミングを見計らったように帝皇デュラン陛下の脇に控えている宮廷魔術師長ジルジオ・レイクランド様より書状をひとつ手渡された。

 その書状には、クリステ一帯の領土を割領する許可、そして、それを新たな国家を認める事と、その国家の盟主にはライオネル・エリオスが就く事、独自の政治思想、法律、税制体制を認める覚書が書かれていた。

 許可書類には既に帝皇デュラン様のサインが書かれている。

 手渡された俺がゆっくりと自分のサインを書き入れて、これで正式な書類として締結へと至る。

 これで書類上エクセリア国が誕生した瞬間であった。

 

「帝国民への大々的な発表は明日の戦勝記念式典で行うこととする。ライオネルよ。良い演説を期待しておるぞ」

 

 帝皇デュランはフフと不敵に笑うと、これで戦勝の報告と轄領の褒美の話はお仕舞となった。

 実に呆気ないものだ。

 そして、次の話題は先延ばしにしていたロッテル氏への処分についてである。

 彼は第三皇子ジュリオの護衛主任に就き、遂にその責務を果たせなかった責任があった。

 結果的にジュリオ皇子はまんまと敵側の罠に嵌り、ラフレスタの乱を引き起こす一端を担ってしまったのだ。

 そんな状況を許してしまったロッテル氏には極刑だってありうるほどの罪である。

 

「ロッテルへの処分を言い渡そう・・・貴様は『国外追放』の刑に処す」

「ハッ!」

 

 ロッテル氏はここで言い訳や不平を述べる事など無く、帝皇からの裁きにただ頭を垂れて応えるだけであった。

 元々、彼自身を含めた家族三頭身に至る極刑を言い渡されてもおかしくない罪だけに、これは異例の軽い処分である。

 

「エクセリア国にでも移住し、そこで余生を過ごすがよい」

 

 そんなことを帝皇デュラン陛下から言い渡される。

 それには暗に「エクセリア国にて俺の動きを監視せよ」という命令が含まれていると思ったが、それはこの場で言葉には出さない。

 

「仰せのとおりに・・・」

 

 深く一礼をするロッテル氏。

 これでこの一件も終わりとなる。

 帝皇デュラン陛下はふぅとひとつ息を吐くと、次の話題を述べてくる。

 

「これでエクセリア国は我が帝国と隣国になる。軍事的な同盟も結ぼうではないか。ボルトロールの動きも気になる・・・もし、不測の事態が起こったのならば、義勇兵を遣わせてやろう。そのときの窓口としてロッテルは最適になるだろう」

 

 帝皇陛下のその話題にロッテル氏と俺は思わず顔を見合わせる。

 

「フフ。まあ、そんな顔をするな。これはあくまで不測の事態が起った場合だ。平時ならば何ら影響はないし、心配もいらん」

 

 帝皇陛下の言葉の裏には、エクセリアの平和はそう長く続かない事を俺達に予感させていた。

 そんな雰囲気の中でロッテルは帝皇にひとつの願いを乞う。

 

「解りました・・・そして、陛下・・・最後にひとつだけ私の願いがあります」

「何じゃ?」

「最後に・・・最後に・・・殿下と一目会わせて下さい」

 

 ロッテルがこの場で殿下と呼ぶ人間などひとりしかいない。

 帝国の第三皇子ジュリオ・ファデリン・エストリア、その人だ。

 そんなロッテルからの最後の願いに、帝皇デュランは顔を(しか)めるしかなかった。

 これに便乗し俺も恐れ多く、ひとつ聞いてみることにした。

 

「帝皇デュラン様。ひとつよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「陛下は私がクリステを解放して、そこにエクセリア国を建国することを全て予想した上で、裏からそれをお膳立てしてくれたのではないでしょうか?」


 俺は今まで感じていた不可解な数々の出来事から、そんな事を聞いてみる。

 確かに、俺がクリステを解放する事を、用意されていた感があった。

 最も違和感あるのが、俺がラフレスタからクリステの戦地へ駆けつけた時、騎士団の幹部達がクリステの近郊のディゾン村で待っていた事だ。

 もし、俺が彼らならば一刻も早くクリステに攻め入り、戦っていただろう。

 あの時点で敵に時間を与えることは不利益以外の何者でもない。

 それほど第二騎士団の幹部連中が無能な連中だとは思えなかった。

 あれはまるで、俺が入ってから解放運動を開始するのを待っていたようであり、活躍の場を意図的に用意していたと思えば、辻褄が合うのだ。

 

「さぁ・・・な、儂は神ではない。ここでクリステを解放できたのはライオネル・エリオスの活躍と采配故だろう。だから褒美を出してやるのだ。つまらん勘案をせず、素直にそれを受け取れ」


 帝皇陛下は俺だけに解るようニィーーッと笑ってくる。

 しかし、それに気付いたリリアリア大魔導士はふぅーと溜息を吐いた。

 ここで俺は素直に了解する。

 

「はい。解りました」


 真相はどこかにあるだろうが、それは大した話ではない。

 それよりも、俺は帝皇陛下から下賜された報酬を素直に受け取ることにした。

 

「不肖、このライオネル・エリオス。帝皇陛下から譲り受けました領地を発展させることに粉骨砕身致します」

 

 俺からの返答に、今度こそ帝皇陛下は満足するのであった。

 

 

 

 

 

 その次の日は戦勝記念式典だ。

 ここで俺は晴れて帝国民の前で英雄として披露され、エクセリア国の樹立を宣言することになる。

 

「ライオネル様、どうですか? この衣装」


 俺の前で少女のように(はしゃ)ぐのはエレイナである。

 彼女は俺の前でくるりと回転し、記念式典で着る衣装を披露してくれる。

 それは、細身の彼女の体躯によく似合う衣装・・・・黒いタイトなスカートに水色のブラウスが映えている。

 特に黒いタイトスカートは新鮮だ。

 普段のエレイナはパンツスタイルであり、その綺麗で細い白い足は披露されない。

 しかし、今の彼女の可愛らしい臀部をさりげなく強調した大人びたスリットから延びる細い足が素敵に映える。

 そんなスカートの意匠(デザイン)は、今までのエストリア帝国文化には存在しなかった。

 俺がそのスカートに着目していたのが解ると、エレイナは説明してくれた。

 

「これはベネディクトさんが造ってくれたのですよ」

「ほう・・・彼女は器用だな」


 クリステの祝勝会で出会った彼女はスパッシュ達が民主主義の勉強のために帝都ザルツへ赴くことを知ると、その旅団に参加を希望してきた。

 俺は少し迷ったが・・・それでも彼女の持つ独特の存在感を信じて、何らかの可能性があるかもと参加を許可した。

 それが早くも成果を出したようだ。

 

「ベネディクトさんは持ち合わせたコミュニケーション能力でハルさんとも仲良くなりました。そして、サガミノクニの文化を教えて貰ったようです」

「・・・ふむ、確かにハルさんの世界はいろいろ進んだ文化はあるが、ほどほどにしてくれよ・・・国家機密だからな」


 俺はあまり彼女達に調子に乗らせないようにしたいが、それはもう遅いかも・・・と思ってしまう。

 特に今回のエレイナの衣装はこの後行われる戦勝記念式典で披露されてしまうので、この姿は絶対に話題になると思う。

 俺は生粋の商売人だから、エレイナが穿いているこのタイトなスカートは絶対に人気が出ると予想された。

 正直、これを商品にすれば、バカ売れすると思う。

 あまりにもハルさんを元ネタにして儲けることが続いてしまうと、それはそれで悪目立ちしてしまう。

 ハルさんを利用して金儲けする連中が増えることも良くないだろう。

 複雑な事情が俺の脳裏を過ったが、それでも、ここでエレイナの笑顔を見た。

 最近は忙しい日々が続き、疲れ気味だったエレイナだが、そんな彼女の笑顔が見られて・・・それだけでも俺の気は緩んだ。

 

「まぁ、エレイナが綺麗になったのならば、それだけで俺の利益だ。ベネディクト女史もいい仕事をしてくれた。今後は我が国の服飾業界へ良い刺激となるだろう。新たな産業の創出につながれば・・・ただし、目立ち過ぎない範囲でやって欲しいものだ・・・」


 俺は一転してベネディクト女史の働きを容認することにした。

 やはり衣服は女性の嗜みであり、先進的なものが造れるチャンスがあるのに、それをしないと言うのは、俺の掲げる『自由で開かれた商売のチャンス』というスローガンに反しているのではないかと感じたからだ。

 ハルさんから得られた技術はある程度オープンにしてしまえば、そして、それがハルさんに迷惑が掛からないよう配慮すれば、悪い事にはならないだろう・・・

 そう信じることにする。

 

「ええい、面倒に考えるよりは、行動してみよう。エレイナ、そろそろ出番だ。行くぞ!」

「ハイッ!」

 

 いつも以上に張り切ったエレイナに腕を取られ、俺は戦勝記念式典の主会場である闘技場内へと足を進める。

 別室には一緒に戦った解放同盟と第二騎士隊の面々が既に準備完了しており、自分達のボスである俺とエレイナの姿を認めると、気分をより高めるのを感じた。

 

「姐さん。統領。さぁ、晴れ舞台ですぜェ~!」


 ベンはやる気だ。

 既にベンの相方となっているベネディクト女史は現場で戦った訳じゃないので式典への直接参加は認められなかったが、それでも今は身内身分の専用観覧席に座って、俺達の晴れ舞台を見守っているだろう。

 

「そうだな。お前達、行くぞ!」

「応っ!」

 

 逸る心を抑えるようにして、俺達は闘技場内に移動し、そこでは熱烈な視線を注がれた。

 緊張と言う言葉をあまり知らない俺でさえも、気分が高揚しているのだから、こいつらの浮かれっぷりは致し方のないことだろう。

 そこで俺は帝皇デュラン陛下から促されて、エクセリア国の建国宣言をするのだが、ここで何を喋っていたのかは正直あまり覚えていない。

 俺に記憶に残っていたものは観衆からの熱気溢れる期待の籠った視線と声援だった。

 そして、俺の演説に応えてくれた大きな喝采。

 少なくともエストリア帝国民からはエクセリア国の建国を認めてくれた実感だけが残っている。

 後でエレイナに聞いてみれば・・・「ライオネル様の演説は素敵でしたよ。また好きになりました」とべた褒めしてくれた。

 その後、突然始まったアクト君とウィル君による最高の剣術士どうしの御前試合も面白かった。

 結果は技術的に劣っている弟のアクト君の逆転勝利により、会場は大いに盛り上がった。

 そんな見世物染みた戦勝記念式典も(つつが)なく終わり、俺はどっと疲れが出たが・・・それで終わらないのが今日の俺達なのである。

 

 ここで俺とエレイナは戦勝記念式典の会場から急いで移動し、ザルツ城の中にある格式高いパーティ会場へと入る。

 そこにはエレイナの実家であるセレステア家の家族達が勢揃いしていた・・・

 

「お義父様。態々、ラフレスタから来ていただき、ありがとうございます」


 俺は自分の立場も忘れて謙虚にここに来てくれた人達に対してお礼の言葉を伝える。

 

「いいや。今やラフレスタ解放の英雄となり忙しい御身のことを考えれば、我々が帝都ザルツに来ることなど、些細な事でしょう。それよりも我が不肖の娘を伴侶として選んでくれたことの方が感謝に絶えませぬ。一族を代表して感謝と祝福をお伝えいたします」


 滞りも無く、美辞麗句を返す老紳士はエレイナの実父であり、名門セレステア家の家長者だ。

 どうして彼らがここに集まっているのかと言えば、理由は単純、俺とエレイナの結婚式をここで行うためだ。

 その話が持ち上がったのは数日前、俺はエレイナを正式に娶ることを決めた後、彼女の実父にもしっかりと挨拶をしておこうと、クリステから帝都ザルツに赴く際にラフレスタ領に寄り、セレステア家を訪れて挨拶をした。

 俺としてはもうラフレスタ家から勘当されている身であるため、エリオス家として彼らに挨拶を行い、両親がもうこの世に居ないので、簡単に済ませてしまいたかったが、それでも、セレステア家側はそう簡単に済ませる訳には行かなったようだ。

 彼らは俺の事をまだラフレスタ家の嫡男として取り扱ってくれて、領主に連なる者とし、そこに娘を嫁に出すのだから、敬意の籠った結婚式をさせて欲しいと望まれた。

 俺は遠慮したが、それでも今は国王と言う身分・・・ここでその話を知った帝皇デュラン様が、セレステア家を帝都ザルツに召喚し、ザルツ城の一角を結婚式会場として貸してくれることになり、話が大きくなってしまったのだ。

 明日はラフレスタ解放の際に協力してくれた学生の結婚式に呼ばれており、今日の今しか時間は空いていない。

 全く以て慌ただしいことになってしまったものだ・・・

 俺達が到着するなり、エレイナは待ち構えていた侍女達に拉致されて、支度部屋へと消えて行った。

 花嫁として衣装準備だ・・・エレイナすまない、もう少し頑張ってくれ・・・

 そして、俺はその間、新婦側の親族より挨拶を次々と受けることになる。

 

「本日はお日柄も良く、ライオネル国王に在られるお方に我らセレステア家と婚姻をして頂けるのは栄華の極みであります」


 俺よりも年下の義理の兄からガチガチの緊張状態で挨拶を受けた。

 何んだか、昨日の帝皇デュラン陛下の気持ちが良く解る気がした。

 

「気軽に行こう。私は格式張ったものが苦手なのだ。ザックバランで接して貰えれば良いです。同じラフレスタの貴族じゃないですか!」

「そう言う訳にはいきませぬ。我々の貴方様の生誕の秘密を知る身、同格の扱いなどできる筈もありません」

「ここでそれは言わないでください。エレイナが私との結婚を決意したのも、私の本当の家名が目的ではないでしょうから、我々は互いを必要としています。本当に愛する感情があって、互いに納得して結婚するのですよ」

「さ、左様ですか・・・」


 義兄はそう述べて、まだまだ謙遜を続けている様子であった。

 そんな少し居心地の悪い会話が続いていると、控室の扉が大きく開かれる。

 

バンッ!


「おおーっ!」


 ここで花嫁衣装に身を包んだエレイナが登場して、会場がどよめいた。

 俺も少しばかり息を飲む。

 純白の花嫁衣裳を着たエレイナ・・・その姿は綺麗以上のものがあった。

 帝国式ドレスと呼ばれる女性の主張する乳房を強調させたドレスは、エレイナのそれを普段以上に強調させている。

 どういう技術なのか解らないが、彼女の身体中の肉を乳房付近に集めたのだろうか? 彼女の白い乳房は俺の知る真実よりもかなり誇張されていた。

 胸の谷間とふたつの北半球を露わにしたそのドレスに着目する男達の視線を、勘の良いエレイナが気付かない筈はない。

 

「ライオネル様・・・何んだか・・・不信な視線を私に注ぐのはやめて欲しいものです」

「い、いや、エレイナは綺麗だなーと皆が思っているのさ」


 それにはエレイナは悪戯っぽく笑う。


「それは絶対に嘘でしょう。『お前、涙ぐましい努力なんかしやがって』と・・・絶対にそんなこと思っていますよね?」


 そう言ってエレイナは自らの乳房を指さす。

 盛りに盛った彼女の乳房に普段のエレイナの大きさを解る男達の視線がそこに集まっていたのはお見通しだ。

 これは彼女専用の帝国式ドレスの着付けを行ったメイド達の努力の賜物である。

 

「う・・・」

 

 確かに鋭い指摘だ。

 全く以てそうだが・・・しかし、ここで本当のことを伝えてやるのが正解じゃない。

 

「エレイナ、この前にも言ったな。女の価値・・・少なくともエレイナの価値は胸の大きさで決まるモノではないと」

「ええ。形、柔らかさ、感度でしょうか?」


 俺が以前そう述べたことを思い出したエレイナは自分の上腕で乳房を挟み強調してくる。

 限界まで盛られた彼女の細やかな乳房がここで歪みを魅せて、柔らかさを強調している。

 それが妙に色っぽく、男心を(くすぐ)られてしまったのは蛇足だ・・・

 

「う、うむ・・・ちがう、ちがうぞ! そうしゃない。俺はエレイナの身体だけに惚れたんじゃい。俺は『エレイナ』という存在自体に惚れたんだ。お前は掛け替えの無い存在。俺に安息をもたらせてくれる者。俺にとって役に立つ女であり。お前の役に立ちたい男でいたいと思わせてくれる存在だ」

「あら、今日の貴方様は私のことをとても褒めて下さるのですねー」

「当たり前だ。私の愛する女性はお前しかいないのだから。この婚姻の場で恥はかかせないぞ」


 俺はそう言って接吻をしてやる。

 エレイナもここで抵抗せず、俺からの接吻を受け入れた。

 これはふたりの間で自然な行動であり、誰からも止められなかった。

 それだから、この行為の違和感に気付いた親族達は、俺達が接吻を終えてからしばらくたってからである。

 

「エレイナ、そして、ライオネル殿。普通は神へ愛の誓いを終えてから接吻をするのがしきたりです。節操過ぎますぞっ!」


 そんな苦言はエレイナの父より出された事で、俺とエレイナは顔が真っ赤に染まる。

 

「お義父様、申し訳ない・・・」


 俺ははしたない行為をしてしまったことを今更に恥じて謝ったが、その直後、エレイナからバンバンと叩かれていまい、これはすべて俺がやらかしたことにされてしまった・・・

 

「ハ、ハハハ。これは仲睦まじい事だ」


 呆れた義父からそんな笑い声が漏れて、周囲は笑いに包まれる。

 緊張感が晴れて、程よい和が広まった瞬間でもあった。

 なんだか、神父からの祝福の言葉よりも、この方が俺とエレイナの愛の誓いが認められたように思えた。

 

「う、おっほん。お義父さん、申し訳ありませんでした。それでは、神父立ち合いの愛の誓いの儀式に進めてください」


 俺は恥もかき捨てで、エレイナとの夫婦の契りを急かすこと要求する。

 誰からの異議も無く、こうして親族だけの婚姻の儀式は進められる・・・

 

 その後、俺とエレイナはエレイナの親族立ち合いのもと、夫婦の契りを誓った。

 永遠の愛を唱えたが、それは俺からの偽りのない本当の気持ちだ。

 

 エレイナにもそれは伝わり、涙を浮かべて喜んだ顔を俺は絶対に生涯忘れられないだろう・・・

 

 こうして、慌ただしい一日だったが、俺とエレイナは正式な夫婦になれた。

 

 この事は、俺が国王を拝受された時よりも数倍気分が上がったのは言うまでもない・・・

 

 


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