「遊びに行きたいでーす」
ところでさ、舞踏士ギルドってのはどこに在るのでしょうか?
魔道具屋のデイジーばあちゃんに聞いとけば良かったなあ、失敗したなあって思いながらあちこちで場所を訪ね歩いて、そうだもう一回デイジーばあちゃんの所へ行けば良いんじゃんと思いついた辺りでようやく到着できましたよカロンくんの冒険の出発点(推測)。
今日がリアルの方で仕事が休みで良かったわー。しかも、一日だけ仕事日をはさんでからの貴重な祝日! できれば今日中にせめて冒険が始まりそうなところまで進めときたいよね。今ってたぶんまだチュートリアル状態だろうし……て、あれ? デイジーばあちゃんとの会話はチュートリアルだったとしても、それっぽいのが他になかったような。不親切なゲームだなあ。
とはいえ、元々そういうところが不親切なタイトルのゲームではあるから、意図的にしているのかもね。
そんなことを考えながら、私はそっと目の前の扉を押し開いた。
木の扉が、きぃって音を立てる。
そんでもって中に入ったならば!
――無人でありました。
何でだよ。どういうことだよこれ。
「ごめんくださーい。誰かいませんかー?」
恐る恐る、正面のカウンターの奥へと声をかけてみる。
そうしたならば、カウンターの奥から褐色の肌をしたアラビアンな美女が現れた。まさに踊り子、アラビアンナイト! て感じ。
下から見上げると大迫力のお山が二個ぼん! で、ぷるるんとかなってる。Iカップのリア友があれだから……K、くらい……か? とりあえず肩こりが酷そうだわ。
「いらっしゃい、僕ちゃん。そんなに気になるのかしら?」
「ぷるんぷるんですね!」
「あら? 触らせないわよ。それで、用件は何かしら」
すげえ。さらっと流したよこのNPC。言われ慣れてるなあ。
このくらい堂々とされるとすがすがしい。
「ギルドに登録して、冒険がしたいでーす」
「おちびちゃんが? 冒険? 無理じゃないかしら」
はい、申請が速攻で叩き落されましたね。
上級職にならないとお呼びじゃないということか……。
「遊びに行きたいでーす」
「困ったわねえ。舞踏士の見習いクラスは自力での戦闘が難しいから、とてもじゃないけど冒険に出られるようなものじゃないのよね」
「……じゃあ、何をするものなの?」
戦闘できない冒険者ってそれはありなのか。タイトル買いの勢いのままノリでゲームを始めた私だし、今更に言うけど……どういうゲームですか、これは。
「ステップの練習と、あとはそうねえ。ステージや派遣先への紹介かしらね」
「……へえ?」
あれ? もしかしなくても、なんか思ってたのとは違うような。これって、現実で言うところのダンサーの仕事なんでは……えー。私はゲームでまで仕事するの?
いや、アイドル体験とかしたいならありなのかな。
うーん、見習いクラスはってことは、強くなればいつかは冒険できそうだしまあ良いか。
キャラクターを削除してアカウント作りなおすとか、めんどうくさいからしたくない。
よっしゃ、方針が決まりましたよ!
「派遣先って何処に行くでありますかー?」
「それなのよ!」
うわあうわあ、お姉さんがカウンターに上半身を乗り出すものだから、大迫力のサービスシーンがキター! カロンくんの中身は女だけど、思わずスクリーンショット撮ったった。だってねえ? こんなものを下から見上げる機会なんて、そうあるものじゃないしね。
アラビアンナイトな衣装に包まれたでっかいのがずずいっと迫って来たから、ベストショットですよ。
もしかして私、究極のお宝を入手した感じ?
……にしても、でっかいお山が近いぞお姉さま!
「そ、それって?」
「ただでさえ舞踏士はなり手が少ないのに、よりによって王宮に呼ばれている今日になって人数が一人足りないのよ。今すぐ舞踏士ギルドに登録して、貴方に行ってもらえないかしら」
「ふぁ!?」
いいいいいきなり、王宮っすか? 王宮ったらあれですよね、王様がいるお城のことだよね。
驚きの急展開だな。
てことで、システム音がぴこーん。
初めてのクエスト『王宮からの依頼』を受諾しますか?
はい いいえ
そりゃあ当然、「はい」をぽちっとな。
でもって、「初めて」か。セバスチャンなおっちゃんの服クエストはカウントされてないみたいだし、本来はここからチュートリアルが始まるってことなのかな。
このタイトルのゲームは、本当にいつもこんな調子で不親切だから……攻略サイトとか見ながらじゃないと意味不明なのはもはや日常茶飯事で……あ、うっかりと不人気の理由を思い出しちゃったわ……げふんげふん。
「じゃあお願いね」
そんなわけで、カロンくんは中の人がスキルも把握していないうちにはるばるとお城へ行くことになりました。
楽しみだな、ロイヤルファミリー。
王子様にお姫様。
ファンタジーの定番だよね。ロマンだよね。
カロンくんのピエロ服が火を吹くぜ!
行ってみるべ~。
~天の声~
スクリーンショットの撮り方を知らなかったオンラインゲームど素人な作者は、初期のころの画像が残っていません。残しておけば良かったなあと思います。