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「いらっしゃいませ~」




 気を取り直して、服屋探し二日目であります。

 大丈夫カロンくんの中の人、今日は仕事がお休みってことで時間だけはたっぷりとありますですよ。

 ……すっかりと警戒心にまみれた私は、挙動不審気味に周囲の様子を探りまくりながら散策して、最初に見かけた服屋らしき店舗に入ってみる。

 え、昨日の迷惑野郎どもはどうなったかって? 街中で聞き拾った噂によるとですね、有志による討伐がめでたく終わったらしくて、牢獄行きからの莫大な保釈金をゲーム通貨で支払って、今は金策に励んでいるらしいですよ。

 犯罪者プレイヤーの人らはがんばりどころがずれてる気がするのは、私だけじゃないはず。手間暇かけてまで、よくやるわ。

「いらっしゃいませ~」

 カロンくんに声をかけてきたのは、丸々と肉付いた腹が特徴の悪徳商人……じゃなくて、たぶん服屋さん? だよね?

 この外見のおっちゃんに近くでにやにやされるとか、ちょっと恐いかな。

 そんなことを考えていると、店の奥から「あんた!」って女の人の声がした。

「ひい、かあちゃん!」

「あれだけ店番はするなって言ったのに、また店に出て。あんたは見た目が恐いんだから、仕入をしてくりゃ良いんだよ! まったく、服のセンスがあるのは認めるけど、適材適所ってもんがあるでしょう」

「そう言うなよ、かあちゃん……リリーが急用で出掛けちまったからさ……」

「あの娘ったら! またさぼったのかいっ。あんたも自分の娘なんだから、気後れしてないで止めりゃ良いのに」

「でもよう、かあちゃん……」

「しかたがない人たちだねえ」

 ――えーと? なんだろうね、これは?

 寸劇? クエストかなんか?

 リアリティがありすぎてびっくりする。

 これがVRの臨場感ってやつか。すごいね、VR。ARアプリのペットとはまた別のリアリティがあって、舞台上で演劇を見ている気分だよ。そりゃ人気も爆発するわ。

 ……にしても、寸劇が長いか。会話に切れ目がないな。

「あのう?」

 いつまでも続きそうな寸劇に危機感を覚えて、私は夫婦の会話へと強引に割り込んだ。

 すると、仕入担当「あんた」と接客担当? 「かあちゃん」の視線が私に集まる。

「おや。これはまた、かわいらしいお客さんだねえ。騒がしくてすまないねえ」

 ずずずいっとパンチパーマの中年女性に上から顔を寄せられる。

 大人になってからこんなに極端に見下ろされるだなんてあんまりない経験だから、ちょっとびっくりする。

「そのおっちゃん、服のセンスが良いって本当ですか?」

「そうだねえ。服のセンスについては太鼓判を押すよ」

「だったら、おっちゃんに服を選んでほしいの」

「良いのかい? あんた! あんたにお客さんだよ!」

「本当かい!?  僕に選ばせてくれるのかい!?」

 ぼ、ぼくぅ? そうか、この顔で僕なのか……。

「うん、所持金は5400Gなんだけど足りそうですか?」

「充分だよ!」

「良かったねえ、あんた。あんたの初めての普通のお客さんがこんなにかわいらしい子だなんて……あたしゃ、泣きそうなほど嬉しいよ……」

 そう言ってかあちゃんは、うっすら涙を浮かべてエプロンの端で涙をぬぐっている。

 ……初めての普通のお客さん……すごい設定だな……。

 成り行きにびびっていると、システム音がぴこーんとな。


 ユニーククエスト『セバスチャンの服選び』を受諾しますか?

 はい いいえ


 セバスチャンて……ええっと、「はい」をぽちっとな。

「おおお! じゃあさっそく。これ! これを着てみようか!」

 悪徳商人顔のおっちゃん、超良い笑顔。

 ヨカッタデスネー?

 そうして引き気味で受け取った服は、どう見てもピエロですよ。

「どうもありがとうございます……えっと、着替えー」

 装備変更は試着ボタンで一瞬だった。

 ゲームってすごい。

 現実もこうなら、朝の出勤が楽になるのにな。

「おお、良いね! 次はこれ!!」

「あいよー」

「こっちも!」

「……ああ、なるほど。クエストになるわけだ」

 試着ボタンぽちっとな。

 これは、いつまで続くんだろうね?

 抑圧されたおっちゃんの欲望は留まることや客への遠慮を知らないらしくて、私は結局ログアウトするまで付き合う羽目になった。

 ……私の冒険……?

 うん、始まらないね。

 でもまあ、これはこれで楽しいから別に良いよね。

 続きはまた明日!





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