また遊ぼうね!*
「いや、がんばった!」
盾を無意味にぐるぐる振り回して喜ぶジロチョー。
「……さいこー」
にこっ。とかわいい笑顔のすき焼きさん。
「カロンさん、その防具? 服? ユニーククエストについて詳しく教えて」
と、これはえみりー☆さん。
賑やかだった。どの顔にも笑顔があった。
相乗効果なのか、見ている私もますます嬉しくなってしまう。
街に帰ってもまだ興奮が冷めやらない私たちなのだ。
雲海さんとぶっちゃさんは何も言わないけど、やっぱり嬉しそうだ。なんていうか、こういうのがダイレクトに伝わってくるVRって良いよね。仮想現実なんだなって実感できる。
――今回アトラ遺跡最終をクリアした三人はもちろんだけど、お手伝いの三人も嬉しそうなのには、実は明確に理由があったりする。
お人好しのツンデレ属性持ちぶっちゃさんは別として、雲海さんとえみりー☆さんは、追加ですることになった暁姫回しにて低確率でドロップするという『暁のブローチ』をゲットしているんだよね。
たった四周回しただけで、三個だ。奇跡を通り越して異常だと言われた。
異常……その引き金となった可能性がある要素を、たぶん私は知っている。ジロチョーとすき焼きさんも、同じように知っている。
今回クリアした三人は、示し合わせたかのように口をつぐみ、笑ってごまかした。実際には一度も相談なんかしていないのに、何となくそうなった。誰もカロンくんの幸運ぶりを言う気にはならなかったようだ。
別に秘密にするほどのことでもないんだけどね……カロンくんと偶然居合わせることで、幸運に恵まれる……それでも良いじゃない?
そんな感じでみんなでわいわいと盛り上がっていると、偶然にも見覚えのある美人が通りかかった。――白百合ギルドのエリスさんだ。見れば、エリスさんの頭上にはすでに白百合の表示がない。
すき焼きさんが白百合から抜けて、ギルドマスターのエリスさんも抜けて。元々の白百合ギルドの加入人数が、どれだけ居たのかを私は知らない。でも、この状態で回復職をしたがっていたというちょびさんが白百合に残ったというのは、おそらくあり得ないだろう。
私がじっと見ていると、エリスさんの方もカロンくんに気が付いた。
お互いに立ち止まって、見つめ合う。
私は、にやぁと笑った。
「やあ!」
手を振り上げてくるりとモーションをキメたりなんかして、元気に声をかける。
踊り子らしく、華麗にポーズを決めて見せた。
「良い気なものですね」
対するエリスさんの声音は、絶対零度の冷たさだった。
「だって、楽しいもの」
「……踊り子なのに……」
「むふふ、褒められた!? 楽しいし、良かったらエリスさんも今度カロンと一緒に遊ぼうよっ!」
ノリと勢いだけでつるっとカロンくんの口から飛び出た言葉は、どうやら相手の心にまでは届かなかったようで。
清楚なエルフアバターなエリスさんの端正な花の顔が、はっきりとわかるほどに歪んだ。かと思えば、盛大に拒否反応を示した姿はくるりと踵を返して、去って行く。
お誘いが嫌だったのかは、他人でしかない私にはわからない。
だから、遠ざかる背中に向かってもう一度だけ声をかけてみる。
「エリスさん、また遊ぼうね!」
カロンくんの声に反応して一瞬だけ乱れた歩調は、けれども最後まで立ち止まることなく歩き去ったのだった。
「カロン……この、お人好しめ」
この中では唯一、詳しい事情を知るすき焼きさんに怒られてしまった。
「良いのよー。みんなで遊ぼうよ!」
「うふふ、何があったのか知らないけど、ドヤ顔のノームってかわいい~」
「これが、ジンギスカンのえみりー☆……これが……」
「もはや、犯罪のにおい」
ノームがしゃべればノーム好きが反応して、ノーム好きにショックを受ける一般層プレイヤーがいて、滅多にしゃべらない無口な侍が感想を述べる。
腹が立つことがあった。楽しいことがあった。悔しかったことも、わくわくすることもあった。
私はカロンくんというキャラクターになって、ゲームの中で踊って、出会って、叱られて、笑い合って。
うん、私は確かにカオスティック・オンラインの世界で踊り子で、そして冒険者だった。楽しかったな。
こうして、私の冒険は一つの決着をみた。
ログアウト!
最終ステータス
――――――――――――――――――――
カロン 踊り子レベル25
体力375(+15) 魔力108
物理防御力52(+90) 魔法防御力52(+35)
物理攻撃力20(+2) 魔法攻撃力20(+30)
活力54 生命62
器用17(+1) 俊敏73
知力9 信仰14
幸運76(+40)
武器1 リリカルステッキ 物理攻撃力+2 器用+1 幸運+30
武器2 -
防具1 フラミンゴの聖人服 魔法攻撃力+30 物理防御力+50 魔法防御力+30 回避率+5% スキル継続時間+5%
防具2 -
装飾品1 暁のブローチ 物理防御力+30 魔法防御力+5 確率で体力が1%回復
装飾品2 白鳥眼の首飾り 物理防御+10 幸運+10
マント 絆のマント 体力+15
アバター -
乗り物 黄色いアヒルのおもちゃ(聖獣) 移動速度+2
スキル
情熱ダンス+5 消費体力10% 効果時間60(+3)秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体に物理攻撃力+10% 魔法攻撃力+10%
思い出ダンス+1 消費魔力10% 効果時間60(+3)秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体の獲得経験値がランダム1~41%上昇
安全ダンス+5 消費体力10% 効果時間60(+3)秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体に物理防御力+10% 魔法防御力+10% 再詠唱時間120秒
力のダンス 消費体力10% 効果時間60(+3)秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体に全ステータスアップ+3
了
あとがき。
これでカロンの冒険は一区切りです。
オンラインゲームにありがちな人間関係を文字にしつつ、戦闘の高揚感が少しでも読んだ方に伝われば良いなあと書いたつもりですが、いかがでしたでしょうか? 初めて書いた長編小説(当社比)、気軽に楽しんでいただけたら幸いです。
プロットが完成したらまた続きを書くでしょうが、現時点ではドワ番外編とアニメみたいに格好いいゲーム内実体験なPKに襲撃される(いっぱいあるw)冒頭しか思いついていません。あの緊張感とシビれるような構図は、脳裏にこびりついていますね。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
ひとまずこれで完結としておきます。
それでは、また。
今後の課題メモ
称号 上級職 ドワ ふんどし アイドル おもしろPKエピソード ユニークスキル 主人公的新エリア ボッチ用AIアプゾー氏 主人公のリアル恋愛事情(微)
これでも見直し時にかなり齟齬をつぶしたんですよね。適当に書くとこういうことになるという……。書くのが楽だからって、ファンタジーばっか書いてた人間にはゲーム小説&長編は書くのが難しいのでありますよ。
目標の10万字達成したぞー!!




