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アトラ遺跡最終の、リベンジ戦




 アトラ遺跡最終の、リベンジ戦が始まった。

 景色が切り替わって、二度目のストーリームービーが始まる。スキップボタンを押してみたけど、今回も反応はない。誰かがムービーを最後まで視る気でいるようだ。

 いちおう今回の攻略に際してネットでワールドストーリーの確認はしてきたから、私もスキップで良いんだけれどもね。せっかくだから、視聴することにする。

 このアトラ遺跡というダンジョンには、暁姫というお姫様にまつわる物語があった。

 暁姫は、このゲーム全体のストーリーの根幹にある闇神カオスの使徒だ。使徒とは闇に染まった人間のことであり、総じてダンジョンやモンスターを生み出すことができる存在である。

 ゲームユーザー以外のNPCな人々は、闇神に心を侵されることを何よりも恐れていて、モンスターは闇神の手先だと信じている……そういうバックストーリーがある。まあ、この闇神のあたりは、オフラインから続くタイトルに共通する設定をそのまま受け継いでいることだし、私にとっては別段珍しくもないから割愛するとして、だ。

 1ボスは、暁の思い出に登場した土塊人形ハードクレイゴーレムだった。

 魔法の才能が人間離れしていたせいで恐れられる存在となった暁姫には、友達がいない。かつての居城だったアトラ遺跡にて育児放棄ぎみに幽閉されて育った暁姫は、寂しさのあまり闇に染まることになる……。そんな暁姫が真っ先に作ったのが、1体目のお友達である土塊人形ハードクレイゴーレムだった。

 2ボスは、これも暁の思い出に登場する2体目のお手製友達である愛玩人形ドール。贅沢に魔石を散りばめられた造りで、見た目通りの魔法攻撃特化型の愛玩人形ドールちゃんは、暁姫に似せて造られた姉妹のような存在だった。途中から分身して、本物当てゲームの運ゲーだと多くのゲームユーザーを苦しめた存在であるらしい。

 3ボスは、暁姫の世話をしていたという青年貴族だ。唯一暁姫と接触のある人間として暁姫を哀れに思いつつもいじめていて、その結果として暁姫の闇に浸食されることになった経緯がある。ステッキを振り回してテレポートする通称ヘタレ貴族。『暁姫よ……果てなき夢を……』の迷台詞についてはお前が言うな、ウザいと大層な評判であるらしく、地味に強い割にドロップアイテムも貧相とあって、このカオスティック・オンライン屈指の嫌われ者と化している。

 そして、暁姫自らがゲームユーザーを迎え撃つアトラ遺跡最終ステージなのである。




『主さま……主さま……』

 暁姫の物悲しくもかわいらしい声がして、アトラ遺跡最終ステージの幕開けとなった。

 まず飛び出したのは、当然ながらタゲ取り役のジロチョーだ。

「来いやぁ!」

 叫びながら注目スキルを……と思ったらそうではなかったようで、開幕火力スキルを連打して暁姫から距離を取った。

 すかさずぶっちゃさんから放たれた支援スキルが飛び交い、色鮮やかにボスステージを彩る。

 続いて流れるような動きで火力職の三人が暁姫へ集るのを見て、私も距離を見ながら踊り子スキルを発動。

 ここで使うは、範囲で攻撃力をアップする情熱ダンスでしょう。

 これ以上ない! というタイミングでカロンくんの情熱ダンスが始まったかと思えば、火力スキルがボスステージを埋め尽くす。

 すき焼きさんが魔道書から噴き上げる炎を、えみりー☆さんが雷撃を、雲海さんが刀の連続技を。おそらくはそれぞれの高火力スキルを叩き込む。

 果たして、三人の火力職がせめぎ合った中で最も高いダメージ数値をたたき出して暁姫の関心を勝ち得たのは、なんと驚いたことにすき焼きさんだった。暁姫は、敵の引き付け役である盾職のジロチョーでも有名火力陣二人でもなく、すき焼きさんへと向かって行く。

「わぁお!」

 なぜかえみりー☆さんが驚嘆したように嬉しそうな声を上げる。

 暁姫の体力ゲージは、1/5程度しか減っていない。さすがは難攻不落の暁姫ちゃんである。

「こっちだ!」

 ここで、無言のぶっちゃさんによる支援スキルとジロチョーの注目スキルが発動。

 暁姫の熱い眼差しは、ジロチョーの注目スキル発動により、すき焼きさんから強引にはぎ取られて、一直線にジロチョーへと向かう。

 カロンくんのダンスの効果時間は60秒+フラミンゴ衣装のおかげで+3秒。効果はまだ続いていて、残り30秒ほどだ。

 ダンスの利点は効果範囲が広いことで、欠点は一度踊り始めると効果中の移動ができないことだ。移動すると効果時間を未消化で残したままダンスが中断されて、再詠唱時間に入ることになる。

 ジロチョーは、暁姫の近くで踊り始めたカロンくんを上手くカバーして、立ち位置を調整する。

 ――上手い!

 するとこれを機会と取ったらしい雲海さんが暁姫の背後へと滑り込み、開幕とは別のものらしい単発刀スキルを発動。雲海さんの正面に強大な「殺」の漢字が浮かび上がって、地響きじみた音とともに殺の字がまっすぐに暁姫へと向かった。

 殺の字スキルが多段ヒットして、重なるように大ダメージを表示する。

 えみりー☆さんとすき焼きさんも負けてはいない。それぞれに武器を掲げて得意の魔法を披露する……わけなんだけど。

 ……あちゃー、すき焼きさんが情熱ダンスの効果範囲から出ちゃったよ。範囲スキルの効果エリアって、使用した本人にしか見えないからなあ。

 暁姫がえみりー☆さんへと視線を移して、ジロチョーが焦った表情になる。

「まかせて、大丈夫! ゲージ2/5、そろそろ来るわよ!」

 さすがは有名人、えみりー☆さんの言うことが頼もしい。

 というか、ゲージ2/5って何ですか?

 ダンス中はわりと余裕があるから、内心で「はて?」と首を傾げていると、カロンくんの足元に赤い円陣が浮かび上がった。

「うわっ!」

 嫌な予感がした私は、咄嗟にダンスを中断して右側後方へと回避行動をとった。

 結果としてはこれが大正解だったらしくて、逃げ遅れたすき焼きさんの体力ゲージがぐぐぐぐっと削られた。

 瞬間、ぴかっと聖なる光りが煌めいて、瞬時にパーティ全員の体力が全快する。

 こんなことができるのは、もちろんパーティで唯一の回復職であるぶっちゃさんしかいない。

 すき焼きさんほどの致命傷じゃなくても、全体的に体力ゲージが減っていたからこその全体回復スキル使用の判断だったのだろう。

 ――なるほど、これが治癒術士のぶっちゃさんか。

「ぶっちゃさん、ないす!」

 私は叫んだ。

「ゲージ半分! 来る!」

 えみりー☆さんの声がするなり、次は……あ、これは白百合パーティの時に見たヤツだ。やっばいヤツだ。

 うわ、あわわ。

 足元の赤い円だけでもしんどいのに、その上にいっぱいの武器の乱舞とか!

 実際に体験してみるとひっどいな、これ。

 周りの様子を伺う余裕なんてあるわけがない。

 ダンスどころじゃない私は、無様にあわあわと逃げ惑うだけだった。

「出よう!」

 えみりー☆さんの声がして、誰かが死ぬ前に退却することになった。

 残念無念。




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