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旬の攻略現場




 足早に駆け抜けて到着した、アトラ遺跡最終ボスフィールド前である。

 さすがに旬の攻略現場とあって、多くのパーティで現場は賑わっているようだった。

 中には、こんな場所で露天を出してぼったくり価格で商売をしているプレイヤーまでいるのだから、その商魂たくましい姿に感心するばかりだ。

 アトラ遺跡最終ボス、暁姫。

 この先には、ダンジョン途中の関門となるボスモンスターとは一線を画する強さで知られる、見目麗しきお姫様がいる。

 曰く、愛らしき。

 曰く、可憐。

 曰く、理不尽……。

 これといった攻略法が確立されていない強敵であるがために、ダンジョン実装から数ヶ月が経過した今も存在感を失っていないのが暁姫というボスモンスターなのだ。

 アトラ遺跡最終前では、あちらこちらでパーティ内で真剣に話し合う姿が見受けられた。

 もちろん、ジロチョー率いるカロンくんたちだって、そのうちの一部だ。

 今回のパーティメンバーは、こうだ。


 ジロチョー 盾騎士レベル34

 カロン 踊り子レベル25

 すき焼き 魔道書術士レベル32

 ぶっちゃ 治療術士レベル36

 雲海 刀戦士レベル40

 えみりー☆ 杖魔術士レベル40


 うん、強いですね。

 前回ここに来た時のパーティメンバーも充分に強かったんだろうけど、前回来た時の私はまだろくに狩りもしていない状態だったから、他人の強さについても自分の弱さについても理解できていなかった。

 でも、今回は違う。他の人ほど熱心にゲームをしていなくたって、それなりのプレイ時間が経過した今は、自分の立ち位置をきちんと見据えることができている。カロンくんにだってちゃんと出来ることがあるんだって思える。

 今回集まったのは、私の知り合いばかりだ。たぶん私は前回みたいに壁際の添え物になれだなんて強要されないだろうし、失敗の原因を強く問われる心配もない。

 前回と同じようで、内実はまるで違う。戦える。今のカロンくんには――私には、戦う機会と力がちゃんとある。一緒に立って戦う仲間がいる。

 これは、ゲームだ。真剣にプレイして楽しむべき娯楽なんだ。娯楽で不愉快な気分になるだなんて、本末転倒も良いところだ。

 全力で楽しんでやるんだ……!

 私は、そんなに熱心なゲーマーじゃない。でも、今はわくわく? どきどき? とにかく気分が落ち着かない。

「ちびっ子がそわそわしちゃって、かぁわいい」

「ふぐぅ。へみひー☆さん、かおほひっはらないれ(顔を引っ張らないで)~」

「このしもぶくれなほっぺが良いのよね。ぷにぷに」

「へみひー☆さん……!」

「はいはい、名残惜しいけど手放すわ。……それで、カロンさんは緊張しているのかしら?」

 私は、えみりー☆さんから距離を取って答える。

「そりゃ、してますよ。まともにボスを攻略しようとするのは、これが初めてですもん」

 そう、オンラインゲーム初心者の私にとっては、色んな意味で初体験なのである。

 これまでのボス戦と言えば、トッププレイヤーの寄生、数合わせ要員、ドロップアイテム目当ての周回……並べてみると結構酷いな。どれもが何だかちょっと違うぞ感がぬぐえないものばかりだ。

「あら、そうなのね。ならせっかくだし攻略法は言わない方が良いのかしら?」

「えっ、攻略法があるんですか!?」

 これまで何度もクリアできずに攻略を失敗していると言っていたジロチョーが、えみりー☆さんに食いつき気味に反応した。

「あるわよ。ただし、私が提案できるのはパーティの高火力が前提ならってことになるわね。そうじゃないと時間切れになってしまうもの」

「ああ……確かに、この顔ぶれなら火力はむしろ過剰気味かもしれないですね」

「そうね」

 バフ特化のカロンくんはたいして役に立たないのかもしれないけど、このパーティには高火力で知られているらしいえみりー☆&雲海さんコンビ加えて、タゲ取り役のジロチョーも戦えるし、すき焼きさんだって新装備をゲットしてパワーアップしている。

 これは、何かが起こりそうな予感がする……!

 興奮のあまり私が内心でよさこい踊りをしていると、何事かをじっと考えこんでいたっぽいジロチョーが、えみりー☆さんに話しかけたのが聞こえてくる。

「えみりー☆さん、おれとしては攻略法をすごく知りたいです。だけど、事前情報があまり入ってないらしいカロンの坊主的にもったいないから、せっかくだし初戦はノーヒントで突撃でも良いですか?」

「あら? ジロチョーさんも人が良いわね。私はそれで良いわよ」

「ありがとうございます。他の三人はどうですか?」

「わかった」

 答えながら頷くぶっちゃさんと、無言で頷く雲海さんとすき焼きさん……。

 ところで、ただでさえ有名らしいえみりー☆さんと雲海さんがいて、ひそひそされていたのだ。そこにえみりー☆さんとジロチョーの二人がパーティモードに切り替えないまま会話をしているものだから、うちのパーティはすっかり注目の的なんである。

 熱い視線が集中し過ぎて落ち着かない…………って、すき焼きさんがじりじりと私に身を寄せて来ましたよ。

 気持ちはわかるけどさ、それで良いのかすき焼きさん……とか思っていると。

「……この、装備が、恥ずかしい……」

 こそっと言われて納得した。

 カロンくんはもうこの路線で行くとしても、すき焼きさんの性格ならそりゃあ、ね。

 すき焼きさんといちゃついていたら、ぶっちゃさんまでにじり寄ってきた。

「おれも混ぜて」

 ぶっちゃさんてばクール顔でデレたことを言ってくれちゃいまして、カロンくんはモテモテですよ。

 そうしたら、黄色い悲鳴を上げて誰よりも喜んだのは、なぜかえみりー☆さんだった。

「やだ、かわいすぎでしょ! 貴重なノームが三人で戯れているとか私をどうする気なの! 参加して良かったわ……!」

「キャラが崩壊して……イエ、ナンデモナイデス……え、えーと。えみりー☆さんて、もしかしてノームが好きなの……?」

「もちろんよ! 火力重視でエルフを選んだけれど、種族をノームにするか真剣に迷ったくらいに大好きよ。……これで、カロンさんの装備さえ普通ならもっとかわいかったのにねえ。さすがにその装備は私の許容範囲を超えていて予想外だったわ」

「すき焼きさんの魔女っ子は許容範囲なの?」

「かわいいわよね。ノームの三人は、あとで記念撮影をよろしくお願いよ? カロンさん目当てに来てみたら、他に二人も貴重なノームが増えているだなんて、なんて素敵なのっ」

「えみりー☆さんて、そういうキャラなんですね」

 楽しそうで何よりです。

「んじゃ、アトラ遺跡最終の初戦、行きましょうか」

 緊張と期待に膨らんだジロチョーの声が、パーティメンバーの行動を促す。

 そんなこんなで、何とも締まりのないままボスステージへと突入することになった。

 各自が扉の前にある石版に手を置いて、世界が塗り変わる。






……て、100ブクマ達成しているではないですか!

ありがとうありがとう。ギリギリすぎてすぐはがれそうだから、スクショしておこう( *´艸`)

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