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「来ちゃった」




 いよいよやって来ました、土曜日の夜ですよ。

 ゲームにログインした私は、さっそく飛んできたパーティのお誘いを承諾して、ジロチョーとパーティを組んだ。続いてパーティリーダーについてのポップが表示されたから、これにも承諾する。

 すると、パーティの集合機能を使ってどこからか現れたジロチョーが、カロンくんを見るなり「ぶほっ」と吹き出した。

 失敬なっ!

「おま、おま……! 坊主に何があったんだ……!」

 ぬう、人通りのある往来でひーひー腹を抱えて笑いながら指差すとか、止めてくれませんかねえ。

 セバスチャンな服屋のおっちゃんがカロンくんのために選んだ新しい服は、こちらでございます。

 ええ、そりゃあもう斬新ですよ?


 フラミンゴの聖人服 魔法攻撃力+30 物理防御力+50 魔法防御力+30 回避率+5% スキル継続時間+5%

 鳥人の偉人をモチーフにした舞台衣装。フリンジを活かした装飾は、見る者の距離感覚を惑わせることだろう。


 防御力や回避率はともかくとして、注目するべきはスキル継続時間が+5%なことだろう。ただでさえ手数の少ないカロンくんなのだ。服を着替えるだけでスキル継続時間が+5%とあっては、踊り子として着ないわけにもいかない……セバスチャンめ……。

 というか、ジロチョー氏は笑いすぎなのではないですかねえ。

 パーティリーダーをジロチョーへと投げ返してから、反撃に出る。

「わ~ら~う~な~!」

「いてっ! こら、蹴るなってのっ」

「ゲームで痛いとかあるもんか……ていっ、ていっ」

 ジロチョーのつま先をめがけて、両足でジャンピング踵落としである。命中するなりケツ振りをして踵でぐりぐりするのを忘れない。

「だから、止めろっての。このゲームはフレンドリーファイヤもプレイヤーキラーもあるんだから、普通に体力が削られてくだろっ」

「あ、そうでした」

 私は、しぶしぶジロチョーの足の上から撤退することにした。

「坊主よ、おれは言いたいことがある……」

「ぬ? すき焼きさんがログインしてるみたいだから呼ぶね!」

 ジロチョーは説教好き、とかカロンくんの中の人の心にメモっとく。

 街中なら問題ないって本人が言ってたもーん。言ってたったら、言ってたんだもーん。

 てことでジロチョーの推定説教らしきものをさらっと聞き流すと、予定通りにすき焼きさんをゲットして合流する。

 新生、ピンクでリボンな魔女っ子すき焼きちゃんの参戦である。

「カロンの坊主………………は、服を着替えたことに言いたいことはあるけどまあ良いとしてだ。すき焼きさん、今日もよろっす……それで、えっと。すき焼きさん……で、合ってますよね?」

 ジロチョーの問いかけに無言で頷くツインテールなノームちゃん。

 頬が赤くなっててあざとかわいいであります。

「ねえねえ、じろさん。私にもよろしく言ってー」

「ああ、坊主もいたな。よろしく……なあ、カロンの坊主よ? たった二日の間にすき焼きさんに何が起こったんだ?」

「昨日は私と街巡りしてたの」

「ああ、それでか」

 納得するんかい。

「じろさんも今度一緒に行こうよ?」

「あー、おれはイケてる火力盾を目指しているから、遠慮しとくわ」

「それ、どういう意味かな!?」

「どういう意味も何も見たらわかるだろう。二人はノームだからまだ許されるかもしれんが、おれはヒューマンでしかも筋肉質な男なんだぞ。視覚の暴力になりそうな予感がひしひしとするわ。むしろ盛大に爆死する予感しかないわ。ただでさえ、ノームが二人もいるとおれが保父さんぽくっなって、たまに引率気分になっとるというのに……」

「良いじゃん、かわいいじゃん。かわいいノームのパパ位置とか最高じゃん。一緒に犠牲になって、イロモノライフを楽しもうじゃないですか!」

「断る! 坊主の言い草からして嫌な予感しかしねえ」

 全力で拒否されたから、とりあえず腹いせに黒鉄のこん棒でジロチョーのつま先を殴っといた。

「だからな、坊主よ……」

 ジロチョーが何かを言いかけたるよりも先に、カロンくんに話しかけてくるプレイヤーがいた。

「カロン? 何してんだ」

「あ、ぶっちゃさんだー。はろー」

「はろー。その服、何。初めて見る装備」

「むふふん。よくぞ聞いてくれました。これはね、カロンくんの戦闘服その2なのだ!」

「へー」

「ねえ、ぶっちゃさん。今日は時間ある?」

「あるけど、それが?」

「アトラ最終の攻略手伝ってー」

 言ってから、速攻でぶっちゃさんに向かってパーティの勧誘を投げる。

 よし、承諾された。

 私ってば良い仕事してるな!

「ああ……えーと、盾と魔法職? カロンが踊り子、で……おれか」

「やた! じゃあ、あと二人だね。じろさんとすき焼きさん、聞いてよ。ぶっちゃさんが手伝ってくれるってー」

「お、おう」

「よろしく。ジロチョーさんは確か、火力盾だったよな?」

「あ、はい。そうです」

「了解」

 ぶっちゃさんが頷いて、正式に攻略パーティに参加することが決定した。

 私がご機嫌でいると、ジロチョーがこそっと耳打ちしてくる。……このゲームって、こういう設定がすごく細かいんだよね。モーションで自動的にジロチョーと私だけの限定会話仕様に切り替わるとかホント、感心するよ。

「坊主にしては良いとこ目をつけたな? ぶっちゃさん、あの人の回復はめちゃ上手いぞ。体力ゲージ気にせずに突撃できる」

「そうなの? 初めてパーティ組んで遊ぶんだよね」

「はあ? じゃあ、どうやって知り合ったんだよ。フレンドなんだろ?」

「街で一緒に遊んでたんだー」

 私は、ご機嫌で答える。

 ジロチョーと私だけの限定会話仕様が解除になった。

 私とのないしょ話を終えたジロチョーは、ごほん、とかって漫画みたいな咳をして言った。

「カロンの坊主……そこで相談なんだが、もしかしてパーティの残り二枠分、火力職に心当たりがあったりするのか?」

「聞いてみようか?」

「頼む」

 私のフレンドといえば、残るは安夢路のアニキと雲海さんだけだ。

 そして、火力職となれば――刀戦士の雲海さん、彼一人だけなのである。




 そんなわけで、雲海さんと連絡が取れて攻略のお手伝いを承諾してもらったわけなのですが。

 パーティメンバーになった雲海さんの背後からひょいと顔を覗かせたのは、見覚えがあるけど想定外の顔だった。

「来ちゃった」

 あ、はい。

 うふっ、と可愛くモーションプレイされて、思わず無言で頷いた私。

 ……なんで雲海さんの後ろにジンギスカン協会のえみりー☆さんがいるんですかねえ。

 だけど、たぶん私以上に驚いたのが、ジロチョー&すき焼きさんコンビだったのだろう。

 目を見開いて呆然と凍結するすき焼きさんを放置して、ジロチョーが慌てた様子でカロンくんに駆け寄ってくる。

「ちょ、おま、どういうツテなんだよ……!」

 ないしょ話設定にすらならない、えみりー☆さん本人に筒抜けなないしょ話()である。

「えーと。前に野良で一緒したって言ったよね? 別世界を見たよ!」

「野良で一緒って……マジでそれだけでこれか。コミュ力がすげえのな、坊主。勇者と読んでやろう。勇者カロン」

「あいさ!」

「ちげーよ……」

 自分から言い出したくせにこの言い草。

 てか、えみりー☆さんを呼んだのは私じゃないんだから私に聞かれても答えようがないのよね。

 パーティリーダーのジロチョーが動揺しすぎて機能不全になっているから、とりあえず私からえみりー☆さんへ向けてパーティの勧誘を飛ばす。

「すげえメンツだな」

 ジロチョーが呆れたように言った。

「何か不満が?」

「ねえよ。むしろよくやった! これならクリアできるかもしれん。……えー、パーティリーダーのジロチョーです。仕切らせてもらうので、よろしくです。それで、まずは確認を。アトラ最終の未クリア組は挙手で、」

 ジロチョーと私、すき焼きさんが手を上げる。

「てことで、未クリアはこの三人です。残りのお三方は手伝いをありがとうございます。助かります」

 クリア済みの三人が頷く。

「クエストの受注、装備や消費アイテムの準備は大丈夫そうですか? ……あ、はい。それじゃ、これからアトラ遺跡に入るわけですけど、最終までは一気に駆け抜けてなるべく敵を無視する方向でおねです。あと、注意事項としてボスフィールドでは撤退指示役の合図で一斉にボスフィールド脱出ってことでお願いします。撤退指示役をえみりー☆さんにお願いしても良いですか?」

「良いわよー」

「助かります。ドロップアイテムは、恨みっこなしの自動振り分け勝負ってことで良いですかね?」

 各自頷く。

「んじゃ、後腐れなく楽しく行きましょう」

 慣れた様子で指示を出すジロチョーの舵取りで、いよいよアトラ最終への攻略の旅路が始まった。




~天の声~

パーティリーダーの舵取り次第で熾烈な言い争いにもグダグダにもシビれるような楽しい時間にもなる、これぞ一期一会な野良パーティの醍醐味ですね。ジロチョーはそのへんに手慣れたキャラクター設定になっています。

募集型の野良パーティの場合、舵取りがしっかりしているパーティリーダーの募集から募集枠が埋まります。そして、自動編成型の野良パーティは……混沌としていますね。このあたりに固定パーティが好まれ、ギルドが好まれる理由があるのでしょう。

ちなみにお気軽プレイヤーな作者は圧倒的野良派です。野良だと気軽に上から下まで多種多様なフレンドが増えていくので、ふざけたお遊びから廃狩りまで遊ぶのに支障もなく、フレンドたちには仲良くしてもらいましたね。




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