すき焼きさんが目を見開いた
決戦前夜の金曜日、カロンくんは諸事情によりご無沙汰ぶりの街の散策をすることにした。順当に露店放置で死亡したカロンくんですからね……デスペナルティがですね……。
しかも、なぜかすき焼きさんと一緒だったりする謎。
今日もすき焼きさんからの狩りの誘いをお断りしたら、どうしてかすき焼きさんからパーティ申請が飛んできて、合流した次第です。
「すき焼きさん、無理をしてまで私と一緒しなくても良いのよ?」
「おれがいたら悪いのかよ」
ぷう、とふくれっ面のツインテールノームちゃんがかわいい。
こういう時って、きっと中の人を想像しちゃダメなんだろうな。
すき焼きさんは、かわいいノームちゃん……ノームちゃん…………よしっ!
「悪くないけど……カロンくん、今日も狩りとかしないよ?」
「……一人で狩りしても面白くねえし」
ぷいっと横を向くノームちゃん。
「あー……じゃあ聞くけど、すき焼きさん的には明日の準備はもう良いの?」
「おれの準備? もともと問題なかったところに、カロンのツテのおかげで資金もできた。ジロチョーさんがお勧めの白鳥眼の首飾りも買った。……することがねえんだよ」
すき焼きさんの人見知りは、どこへやら。遠慮なくぶーぶー言う姿を見て、1ボス周回時との落差にちょっと呆れる。
私と一緒の時は人見知りが発動しない不思議……というか、せっかくアバターはこんなにかわいいのに口が悪いなあ。
「だったら良いかな。でも、あとで文句を言わないでねー?」
「言わねえったら。しつけえな」
すき焼きさんはそう言って、またぷうと頬をふくらませる。そのうち膨らんだほっぺたが破裂してしまいそうだ。
「じゃあ、行こうか」
ノームが二人となれば、ここは当然アヒル船長の出番でありますよ?
二人して、よっこらしょっと。
ぴよぴよぴよぴよ……。
というわけで、本日はすき焼きさんと仲良くデートですよ。
行き先?
まずは、すき焼きさんに案内されて回復アイテムなんかの消費アイテム系を適当に補充してからの、次はそのうちまた行こうと思っていた悪徳商人面のおっちゃんがいる服屋さんなのである。
今さらながら看板を確認すると、セバスチャンの呉服店て……確かにそんな名前だったな、そういえば。あの丸っこくて濃ゆいおっちゃんが、あの顔でセバスチャン……。
アヒル船長から下車して、気取った態度ですき焼きさんの手を取る。キザなキメ顔を心掛けながら、一緒に入店する。
「いらっしゃいませ~」
これこれ、この悪人面のおっちゃんだ……て、今日も店番していても良いのか?
あれっ? とかって首を傾げていると、やって来ましたお約束。裏ボスこと服屋のおばちゃんが登場ですよ。
店の奥から「あんた!」っておばちゃんの声がした。
「ひい、かあちゃん!」
「あんたは顔が怖いんだから、店番はするなって言っているでしょうっ」
「そう言うなよ、かあちゃん……リリーが急用で出掛けちまったからさ……」
リリーさんは、また急用ですかそうですか。いつも不在なリリーさんは、本当に実在しているキャラクターなんだろうかと疑問になってきた。
前回来店した時もいなかったから、ちょっと見てみたかったんだけどな。
「またさぼったのかいっ。あの娘ったら! あんたも自分の娘なんだから、気後れしてないで止めりゃ良いって言っているのに……!」
「でもよう、かあちゃん」
「まったく、もう。うちの人間どもときたら……」
まだ続きそうなのと、カロンくんの横でぽかんと口を開きっぱなしになっているすき焼きさんがアレ過ぎる顔をしているのとで、私はおばちゃんの追撃を止めることにした。
「こんにちはー?」
声をかけると、おっちゃんとおばちゃんの顔付きが変化して、商売人の顔になった。
「おや、あんたはうちの人が前に服をプレゼントした子じゃないか。ちゃんとうちの人が選んだ服を着てくれているんだねえ」
「もらった服は、どれもお役立ちでした。それで、今日はもっと他にも何かないかなーって思って来てみたのですよ」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。前回と違って支払いはしてもらうことになるけど、所持金の方は大丈夫なのかい?」
「えーと、たぶん?」
「あんたっ。お客さんからのご指名でコーディネイトの仕事だよ。惚けてないでシャキッとおしっ」
「お、おおうっ」
どもりながら頷くおっちゃんは、相変わらずどの角度から見ても悪徳商人として完成されているキャラクターデザインだ。
おっちゃんはわたわたと店の奥へと引っ込んで行き……何やらオレンジ色のふわふわとしたものを持ち帰った。
見るからにデザインがヤバそうっていうか……。
全貌を知る前からすでにどん引きしていると、カウンターテーブルの上にそれがばっさと広げられた。
うわあ……これ……これ……。
「2380650Gだね」
「えっ!」
うそーん、所持金の全額じゃないですか。
やだわー。
そう思って選択肢表示を確認すると、
フラミンゴの聖人服 を2380650Gで購入する
はい
正直言って、目を疑いましたよ。
「いいえ」の選択肢が消えとるがな。
娯楽ゲームとして、これはありなのか?
……いや、セバスチャンの悪徳商人顔はこれの前振りだったのかもだね。
「うわ、これ買うしかないんだ……」
私の懐具合がピンチですよ?
いや、まあ、おもしろいから買うんだけどね……。
ぽちっとな。
「まいどありー!」
おっちゃんとおばちゃん、夫婦揃って満面の笑顔である。
これは、是非とも娘のリリーさんも見てみたいなあ。おもしろいから、コンプリートしてみたい気がしてきた。
さてと、カロンくんのが終わったところでだ。
「じゃあ、次はすき焼きさんの番だね?」
「えっ……はあ!? おれもかよ!?」
「せっかくだから買ってみなよ。良いものが買えるのかもよ?」
道連れは多い方が良いよね~。
へいへいそこのノームちゃん、カロンくんと一緒に仲良く変人コスチュームプレイをしようなんだぜ!
そんなこんなでセバスチャンなおっちゃんがすき焼きさんのために店の奥から引っ張り出してきたのは、レースが満載のピンク魔女っ子衣装だった。
カロンくんのに比べたら断然かわいいけどでもこれ、すき焼きさんの趣味じゃなさそうだなあとか思って横を見ると、案の定すき焼きさんが引いている。
「ささ、お嬢様。どうぞこちらの試着をしてみてくださいませ」
セバスチャンが揉み手で促して、すき焼きさんにも例のあれが表示されたっぽい? ユニーククエストの魅力を拒否しきれなかった結果、試着したすき焼きさんはというと……。
「知力……+50!?」
すき焼きさんが目を見開いた。
どうやら予想外に性能が良かったようである。
……ふむ、ツインテール魔女っ子プレイとかやりおるわ。すき焼きさんも罪なちびっ子よのう。
「あ、お嬢様。こちらもよろしいかと思いますよ」
悪徳やり手商売人は、追撃の手を緩めない。すき焼きさんが衝撃から立ち直った頃には、次の試着用衣装が用意されているのである。
そうそう、これこれ。意外と疲れるんだよね~。
最終的にすき焼きさんが選んだのは、一番初めに着たピンクでリボンなミニスカート丈の魔女っ子ドレス一着だけだった。
次々とお着替えをすることになったすき焼きさんは、クエストを終えた頃には「ステは良いけど……無料なんだけど……」と虚ろな様子で呟くようになっていた。何やら葛藤があったようだ。
まあ、ねえ? すき焼きさんの中の人は男性っぽいし、いきなりミニスカート丈は抵抗があるんだろう。これがヴァーチャルシステムじゃない二次元の時代ならまだしも、現代だとほぼ現実と変わらない感覚のVRだしね。
その後、私はすき焼きさんにセバスチャンクエストを二回目に体験したら無一文になった話なんかをしつつ、再び二人してアヒル船長で移動して戸締まりしたデイジーの道具屋の前を通り過ぎ、舞踏士ギルドのお姉様に適当にあしらわれて、冒険者ギルドでボス討伐クエストなるものを受注した。
すき焼きさんに指摘されて初めて知ったけど、ボスにも討伐クエストなんてものが設定されていたんだねえ。今までも受けとけば良かったのかもしれないと思うと、何だか悔しい気分になったよ。
そんなこんなで、本日の予定が終わる頃には現実の方の就寝時刻が迫っていた。
別れ際に私の用事に付き合ったすき焼きさんから話しかけられたのが印象的だった。
「なあ、カロン」
「なあに?」
「今日一緒に過ごしてわかった。カロンのプレイスタイルは、何ていうか濃いんだな……」
ツインテールなノームちゃんが、なぜか目を細めて遠くを見ている。
「そう? 適当感に満ちているでしょ?」
「そう、なのかもな……」
遠くを見詰めるノームちゃんは、ピンクでリボンな魔女っ子ドレスがよく似合っている。
えーと、んーと、明日が楽しみだね?




