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オークション




 仕事から帰って、用事を済ませてからゲームにログインした。

 最近だともうこれ、すっかり日課になってるよね。ゲームにハマってるんだなあとか、どこか他人事のように感じたりなんかする。

 フレンドリストを見るとジロチョーはまだログアウト中で、どうしようか迷っていると、すき焼きさんから「ペア狩りする?」とかってかわいくお誘いされたんだけど断った。ジロチョーとのオークションな先約がありますからね。

 すき焼きさんのお誘いを断ったあと、待ち人がログインするまで暇だから、街の中央にある噴水横に座り込んでわからないなりに操作ウインドウを立ち上げて、オークションの項目をタップしてみる。

 すると、黒背景のウインドウが展開して、それっぽい高級そうな音楽がゆるく流れ始めた。

「ふーん。アイテムのカテゴリーごとでわかれてるのか」

 ざっと見たところ、1G出品から10000000Gクラスの高額出品まで様々だった。中には、売る気がなく999999999999Gでアイテムを自慢見せしていると思われる出品もあったりなんかする……と思ったら、これコメントに「交渉可」だって。商売人だのう。

 金額の横には出品者名とコメントが記載されていて、さらにその横には出品アイテムの装備可能レベルなんかが記載されている。

「とりあえず、回復アイテムくらいは買い足しとこっか」

 さすがに、初期アイテムとドロップアイテムだけだと在庫が苦しくなってきたからね。回復職さん頼りは心苦しい……槍さんのおかげで資金はあるから、それっぽいのをがっつりと買い込んだ。

 続いて武器の項目を見てみると、何ということでしょう。そこには、見覚えのある……黒鉄のこん棒さんがずらっと……ずらららららららっと並んで表示されているではないですか。人気のなさがひと目でわかる1G即決価格だった。

 アイテム類はNPCの店舗でも売却可能だから、確実にそれ以下でオークションに流れていることになる……そこまでかよ。てか、小石×9999の方が遙かに高価格なのはどうしてですか? 何だろう、この謎の屈辱感は……。

「坊主がすごい顔をしとる」

「紫のパンツは黙ってて」

「人、すら抜けてやがる……だと?」

「はいはい。遅かったんだね、じろさん」

「仕事が長引いてだな。というか、カロンの坊主は何をしてそんな顔になったんだ」

「こんぼーさんが……」

「ああ、あれな。安いだろ? ついでだから黒鉄の槍も見てみ?」

 ジロチョーに言われるまま表示を切り替えていくと、そこには黒鉄のこん棒とは次元の違う値段が並んでいた。

「槍が高い……杖も、高い……」

「杖は、杖魔法士と治癒術士に人気があるからな。火力に直結する武器はどれも人気が高いんだ」

「じゃあ、こんぼーさんにも攻撃力があればきっと、」

「それは絶対にないから。ダサいから。あんなフランスパンもどきの復権はないから」

「むう」

 こん棒が不人気すぎて悲しい。

 良いじゃん、こう、原始人ファッションで角なんかはやしてみたりして、こん棒を振り回せば鬼ごっこプレイが盛り上がるよ……たぶん。

 考えてると虚しくなってきたぞ。

「で、だ。オークションなんだが。坊主の場合はマントと装飾品を買ったら良いと思うんだよな」

「手先の指輪じゃダメなの?」

「ダメってことはねえけど、そこは幸運や防御が上がる方が良くないか? ほら、他にも幸運とか、幸運とか?」

 ジロチョーの幸運押しがひどい。

「あー、はいはい……」

 言われたとおりに装飾品の項目を見ていくと、手先の指輪さんがやはり1G即決で出品されていた。

 そんなんばっかだな!

「この、アイテムの後ろにNとかPってあるのは何?」

「NがNPCメイドで、Pがプレイヤーメイド、Dがドロップ品、無印が店舗で買える既製品だな。既製品以外はどれも性能がまちまちで一概には言えねえけど、プレイヤーメイドの方が面白いものが多いかもだ」

「ほうほう」

「坊主は、即決落札はわかるよな?」

「うん。ネットオークションで使ったことならあるよ」

 装飾品の項目を展開していって、ジロチョーが希望する幸運ぽい指輪を探す……なかった。でも、首飾りならあった。

「白鳥眼の首飾り?」

「おう。それだ。それ、幸運の置物なカロン坊主には良さそうな感じだろう?」

「物理防御+10の幸運+10か……良いね。でも、一番安い即決250000Gでも充分に高いよ」

「もっと稼げば問題ないだろ」

「そうだけどさ……」

 仕方がないなあ、ジロチョーが物欲に支配されとる。

「買えたか?」

「うん、買ったよー」

「実は、おれも買った」

「えっ、どうして?」

「ドロップが良くなる可能性が高いなら、使える機会があれば使うに越したことはないだろ。すき焼きさんにも余裕があれば勧めるつもりだ」

「そうだけどさ……」

 パーティ単位のステータス合計なのか、個人のステータスが重視されているのか、それともラストアタックが影響する……とか? 踊り子の場合は効果範囲が広いから……と、なるほど。だから踊り子は幸運押しが強いのかもだね。

「じろさん、マントはどれかお勧めはある?」

「うーん、マントか………………あ、あれがあった。絆のマントが良いな」

「はいはい、絆ね……」

 そんな感じで、装飾品とマントを購入した。

 ジロチョーが言うには、「武器と防具はぜひ現状維持でおね!」だそうです。

 オークションでの買い物が終わると、ジロチョーがそういえば、という感じでカロンくんに話しかけてきた。

「ところで坊主は、文字のチャットは使わない感じなのか?」

「うん?」

「ずっとメールばっか使ってて、個人チャットはオフってあるみたいだからさ」

「それって、使った方が良いものなの?」

「使ってみればわかるんじゃね。オンにしてくれたら、こっちからメッセージ送るぞ」

「お願いします」

 ウインドウがぴこん、て立ち上がってカタカタカタ……文字が増えていく。

「これ、ゲームを遊ぶのには邪魔なんでは……」

「慣れたらどうってことないぞ。ちなみに、思考入力とキーボード入力が可能だ」

「うーん、私はメールとボイスチャットで良いかな」

 どうしても使わないといけないって時にならないと、使わない気がした。

「坊主は、このあと狩りに行くのか?」

「行かなーい。最近がんばってたから、私は土曜日の決戦まで露天を出してのんびりと休憩するもー」

「……サボる時はサボりまくる感じのプレイスタイルか……」

「そだよー」

 しっしっとジロチョーを野良募集へと追い払って、私は露天をセットする。

 地味に小石がいっぱい溜まってるんだよね。

 まずは、コメントを出してっと。


『幸運の小石 1個10000G お客さん、お安くしてますよ? へっへっへっ』


 次に、大量の小石をセットする。

 このぼったくり販売のポイントは、小石×9999個という表示にある。

 9999個で10000Gなら高くないけど、カロンくんのぼったくり詐欺露天のすごいところは、1個で10000Gになることだ。

 別に売れなくても問題ないからこそのお遊び露天価格である。

 ついでだから、いつもの闇を垣間見る全体チャットを眺めてのんびりしようっと。


 鯖吐:生まれ変わるってすばらしい キリッ(・ω・)

 ゆきな:うっざ!

 鯖吐:(・ω・)

 ちーずたっかるび:売り 黒鉄の槍1200000G ささやきお願いします

 鯖吐:ゆきっちが冷たいお(・ω・)


 ……相変わらずなノリだった。

 てか、いつ見てもいるこの鯖吐さんとゆきなさんて、実はNPCとかいうオチなんだろうか。中の人が入っているプレイヤーだとしたら、長すぎるログイン時間に物悲しいものを感じちゃうのは私だけではないはず……。




 あ、この日の露店の売り上げはどうなったかって?

 ログアウト中に露店放置してたら売れる間もなくプレイヤーキラーさんに露店襲撃とかされたらしくて、様子見でログインしてみたらいきなり蘇生しますか? からのスタートだったよ。

 ついでに、称号とやらも増えたりなんかして。


 ぴこーん。

 ――称号『始まりの蘇生者』を獲得ました。

 効果 生命+1


 忘れたころにやって来る。それが風物詩というものですね。

 まったりだの。





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