「また、槍か……」
翌日、仕事から帰るなりそわそわした気分でカオスティック・オンラインにログインした私は、フレンド欄に見知ったプレイヤーネームがあるのを確認して、ほっと安堵の息を吐いた。
ジロチョー ログイン 盾騎士レベル33 ジムジ王国王都街中
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すき焼き ログイン 魔道書術士レベル31 ジムジ王国王都街外れ
良かった……二人とも、フレンド登録が消されてない!!
こう、やっぱりさ? 私は、グダグダしながら遊ぶのが楽しいんだよね。
そりゃあ、言ってしまえばゲーム内での付き合いに過ぎないんだろうけど、発言や行動は中の人のものなんだから、好き嫌いはどうしてもある。
まだカロンくんと遊んでくれる気があるんだなって思うと嬉しくなった。
よっしゃ、はりきってカロンくんの方から遊びに誘ってみるとしようか!
……そうして、歴史は繰り返されて、何事もなかったかのように話は1ボス周回の会へと戻ったのでありました。
……なぜだろう……ほんとに、なぜなんだ……確か私は、「遊ぼうよ!」と普通にお誘いしただけだったはずなのにな。
一緒に遊べるのは嬉しいんだけど、またこれか……そんなことを考えたいけない私を許して。
だってね、だってなんだよね、これね…………ずっと同じことしてるから、めっちゃ飽きるんだよ!! 心の中の何かが死んでいくのを感じるんだよ!
三度目の開催となった1ボス周回の会では、またもやドロップした三本目の槍をすき焼きさんがゲットして、やっぱりジロチョーに槍を押しつけると……じとっとした視線がカロンくんに集中することになった。
こっち見んな。
「また、槍か……」
ぼそっと不満そうに呟くジロチョー氏。
「何だよー。良いじゃん、高く売れるじゃん。じろさんの贅沢者め」
「否定はしない」
「ほらー、レベルもちゃんと上がってるし!」
「おれの魔道書は……」
て、すき焼きさんまで言うのか!
「ありません! もー、みんなして物欲ばっかだよね。物欲センサーが強すぎるんじゃないの?」
「そういう坊主は、しれっと黒鉄のこん棒とか持っていやがるし」
「これは私のだからあげないよ?」
「全力でいらんわ!」
「そこまで言わなくても!」
本当にこん棒は不人気なんだなと再確認させてくれてありがとうね!
ふんっ。
「ところでじろさんとすき焼きさん。今日も五回終わったわけなんだけど、今日はまだ時間がありそうだよね?」
「ああ、それな。息が合ってきて連携がうまくなったのと、坊主のダンスが意外と強力だったのとで効率が上がったみたいだな。おれも時間的にあと二回くらいならできそうなんだが……すき焼きさんはどうですか?」
「い、いいいけましゅ!」
「了解、と。んじゃ、先にこの槍をオークションに投げておきますね」
ジロチョーは、慣れた手付きで手を動かす。
「オークションか-。そういや私はまだ売ったことも買ったこともないや」
「何だ、じゃあ坊主がオークションに出品してみるか?」
「じろさんに任せるよ」
「坊主……人任せにしていると女にモテないんだぞ? モテ男に必要なのはマメさと誠実さだ」
「私にはすき焼きさんがいるから良いもー」
「えっ!?」
「えっ、て何さ。この、すき焼きさんめ~」
下あごをくいっとして、うりうりと弄ってみる。
ふうん。この程度ならハラスメントブザーは反応しないんだね。
「まあ、あと二回するか。んで、終わったらすき焼きさんと坊主のちびっこコンビに相談があるんだわ」
「? はーい」
「は、はい」
てことで、本日六戦目。
短剣と魔道書はドロップしてくれませんでしたとさ。
本日の1ボス七周回を終えて、ジロチョーがきりっとした顔で言った。
「まずは、二人にこれを渡しておく」
ぴこん、ておなじみのシステム音がする。
『ジロチョーと1100000Gをトレードしますか?』
ふぁっ!?
をいをいをい。紫のパンツの人よ。
また、桁が上がっとりますがな……。
「じろさんこれって、槍が売れたの?」
「攻め気味のぼったくり即決価格で落札設定しておいたら、わりとすぐ売れたぞ。一本目から一人当たりの取り分は500000、600000、500000Gだ。いやあ、うるおった!」
「すっごいねえ。ねえ、すき焼きさ……」
とかすき焼きさんを見たならば、そこには見てはいけない感じに緩んだ表情をする美幼女がいた……あいや、これはすき焼きさんのキャラがどんどん壊れていくなー。
VRはこういうのも筒抜けなのですね……。元が見目麗しい美幼女だけに、緩み切った顔を見たくないから油断しないで欲しい。
「で、だな。話ってのはだな。こんだけ懐がうるおったらさ、おれらってもう金で欲しい武器を新調できるわけなんだよ」
「ああ……、言われてみれば確かに。大抵のものは買えそう」
「だから、この予算を使って装備を揃えてボスに挑んでみても良いんじゃねえかなって思うわけだ」
一理ある話だった。
でも、ねえ?
「じろさん、カロンくんはまだ25歳でありますよ?」
せめてレベル30まで上げてからの方が良い気がするんだよ。
そうしたなら、ジロチョーはうんうんとしたり顔で頷いて言った。
「そりゃそうだが。踊り子はもともと攻撃力ねえし。しかも、坊主の場合はなんでか盾職のおれよりも防御力がカッチカチだし。その上で聞くが、坊主がレベル30になるまで待つ必要があるのか?」
「あう。ないかもしれない……」
私がぼやっとした同意を返すと、ジロチョーはターゲットを次にすき焼きさんへと移した。
「すき焼きさんはどう思いますか?」
「良い、と思う。ジロチョーさん強いし、おれも手元に黒鉄の魔導書はねえけど、ウサギ狩りで出た魔導書がある……」
珍しく長台詞を噛まないすき焼きさん。素敵だね。成長を感じるね。
……というよりかは、それだけアトラ最終の攻略をしたがっているということなんだろうなあ。
あとは、1ボス回しに飽きたってのもありそうだ。
「俺の短剣は軽戦士用でそこまで値段が張らないから、ついでに盾も新調するつもりだ。すき焼きさんは今のままでも充分に強いから、槍で稼いだ金を使わなくてもどうとでもなる。あとは、坊主だけだろう。まあ、むかつくことにピエロ服はそのままでもいけてそうなんだが、オークションの使い方を教えてやるから装備を補強したら良いと思うぞ」
しれっとむかつく言うなし。
カロンくんがジロチョーの頭をかじっちゃうよ?
それにしても、ジロチョーが道化師の服に嫉妬とか……笑う。
「アトラ最終ボス? とやらはいつするの?」
「今週の土曜日なんかでどうだ?」
「オケだよー」
「いいいけ、ましゅ」
……おかえり、すき焼きさん。短い成長期だったね。これがVRで良かったね。いくら舌を噛んでも大丈夫だからね。
てことで、週末な土曜日夜のログインでアトラ最終に挑むことが決定し、パーティメンバーの残り三枠を野良募集してみるかってことになった。
はてさて、どうなることやら。




