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信頼できる仲間がいれば怖くない。




 1ボス周回とやらを初体験した翌日、仕事から帰ってゲームにログインして、メールでぶっちゃさんやら雲海さんやらの謝罪メールに対応していると、ジロチョーからの狩りのお誘いメールが届いた。

 熱心だのう。さすがは32歳……とか落ち合ってから言ってみると、満更ではない顔をされた。さては、中の人の実年齢は32歳以上とみた……!

 ジロチョーの希望ですき焼きさんにも連絡を取って、街の中心にある噴水に三人で集合する。

「それで、三人揃ったわけですが。じろさんや、今日は何をするの?」

 私は、ジロチョーを見上げて質問してみた。

 ジロチョーからは何にも聞いてないですからね……。

「ん? もち、1ボス回しだろ?」

「え!? 今日もあれするの!?」

「そりゃ、色んな意味でおいしいからな。三人で回せてしかも稼げるとかそうないんだぞ。しかも、この面子だと欲しいものが被らない上に、売り捌いて山分けするにしても揉める感じでもない。野良専のおれからすると、貴重すぎる機会なんだ……!」

 力いっぱい、ジロチョーに力説されてしまいました。

「えー、他のこと…………あ、うん…………?」

 それでももっと他のことをしようよ、と提案しかけた私なんだけど、途中で断念する。

 なぜって、すき焼きさんまでもがめっちゃ期待した目で私を見ていたからだ。

 まあ、実際にありがたい話ではあるんだけどね?

 この場合は、たぶんジロチョー&すき焼きさんの二人がいたらボスの周回が可能なんだろうしさ。でも、人間関係的に私がいた方が気兼ねなくできるし、ドロップも期待できそう……ってことなのかな。

「じゃあ、じゃあ、今日は私も近くで踊っちゃうけど……それで、良いのよね?」

 死ぬかもしれなくても、全力で参加しちゃうぞ!

 意気込んで提案した私に、ジロチョーは呆れた顔をして頷いた。

「当たり前だろ。これは、経験不足っぽい坊主の練習も兼ねてるんだぞ。……あ、そういや忘れるところだったわ。槍が売れたから先に分配しておくわな」

 ぴこん、とシステム音がして、ジロチョーから申請が来る。


『ジロチョーと500000Gをトレードしますか?』


 ん? んんん?

 遠慮なく受け取ったものの、桁がおかしい。

 これ、私の目がおかしくなったのかな?

「じろさんこれ、500000Gに見える……」

「1500000Gで売れたからな!」

 とかジロチョーにドヤ顔で言われてしまった。

 ……え、嘘でしょ!?

「高い!」

「槍はほとんどの物理火力職が装備できる武器だから、人気があるんだぞ。槍ほどじゃなくてもおれが欲しい短剣は軽戦士や盾騎士が使えるし、魔道書も魔法火力職がだいたい使えるから人気がある」

「じゃあ、黒鉄のこん棒は……」

「こん棒は供給がありすぎてもう飽和状態だっての。まったく売れねえから安心しろ!」

「えー」

 えみりー☆さんから貰った大切な黒鉄のこん棒氏にケチをつけるだなんて!

 私がぶーたれているのに気が付いたらしいジロチョーが、言葉を続けて説明してくれる。

「こん棒ってのはだな。盾職のおれにもいちおう、装備するだけならできる。だけど長さが微妙で使いにくい割に攻撃力はないし、黒鉄のこん棒に関してはさらに重くて特殊効果もないわけだから鈍器系がメイン装備になる回復職にも不人気だ。何より、ダサい!」

 ぐさっ。

 ダサい……うん、言われてみたら確かにそうかも……。

「ジロチョーさん、そこまで言わなくても……」

 おろおろするすき焼きさんはマジで良い人!

「すき焼きさん……!」

 ひしっと抱き付こうとした私なんだけれども。

 

 ぶー!!


 ブザーが鳴って、手がスカ振りしましたとさ。

「何これ?」

「坊主のくせにいっちょ前にハラスメントブザーとか鳴らしてんじゃねえよ、だせえ」

「ハラスメント……そんなものがあるんだ?」

「ちなみに同性でもブザーが鳴るぞ」

「うわあ」

 とりあえず、同性で鳴らした人がいるんだなって思った。そんでもって、私みたいに中の人の性別がキャラクターアバターと違うこともありえるんだから、そりゃそうかとも思った。

 このゲーム、プレイヤーキラーは推奨しているのにこういうのにはうるさいのね。

 お子様方も遊ぶゲームだから、この辺りのバランスは注意しといて正解ってことなんだろう。

「んじゃ、行くか」

 ジロチョーが言って、すき焼きさんと私が頷く。

 ボスステージへと突入した。




 初めはあんなにビビっていた巨体も、信頼できる仲間がいれば怖くない。

 こんな風に巨人の足下に近づくこともできちゃったりなんかして……っと、危ないなっ!

 カロンくんの鼻先を、触れてはいけない何かがぐるんと通り過ぎましたよ!?

「あ、わりっ」

 へろっとした顔でジロチョーに謝られた。

「わりっ、じゃないでしょ! 今、ぴりっとした! カロンくんピンチだよ、ピンチ!」

「あー、悪かったって。おれのヘイト管理ミスだ。あとで坊主に回復アイテム渡すから許せよ」

「むう。仕方ないなあ。約束だよ? 絶対なんだからね?」

「……すき焼きさん、聞いて。カロンの坊主がいじめる……」

「……(こくっ)……」

 あ、すき焼きさんてばここで頷いちゃうんだ。

 へーほーふーん、そうですか。そういうことをしちゃうんだ。

 くっ、普段は人見知りなのにこういう時だけ……!

 私はイベントリをあさって目的の物を取り出す。

「とうっ」

 ひゅうん!

 ささっ。

 えみりー☆さんから貰った小石を投げてみると、予測していたわけでもないだろうに、すき焼きさんは余裕で避けていらっしゃった。

 悔しいっ!

「カロンの坊主よ……それはないだろ。いくら仲が良いっても、非戦闘時に素手ならまだしも、戦闘中に石を投げるのはやりすぎだ。おれが悪かったのは謝るから、無関係なすき焼きさんに当たるのはよせ」

 突然まともなことを言われた私は、面食らってジロチョーを見た。

 1ボス戦はまだまだ序盤、巨人の体力ゲージを一定値削るまではまだまだ余裕がある。

 だからこそ、こんな風に悠長な会話もできちゃうわけなんだけれども……。

「えっ、何? ゲームなのにダメなの?」

「ゲームだからだよ。ゲームだから本当の意味では誰も死なないし、さらに言うとこのゲームにはプレイヤーキラーまである。でもだからって、さっき坊主がしたみたいなことばっかしていると現実でも絶対に影響が出てくる。カロンの坊主は、現実で疲れた時なんかに簡単に人を傷つけるような人間になんかなりたくないだろう?」

 ボスステージを序盤のまま維持したジロチョーは、器用に立ち回って時間稼ぎをしながら、私に向かって見解を語る。

「うん、それはそうだね……」

「おれは野良メインで遊んでいるから、わりと良い確率でこじらせている系に遭遇するんだよな。これはカロンとはまた別パターンになるけど、いい加減な奴、自分が一番じゃないとすぐ手抜きする奴、初めからできないって決めつけて他人に頼るばっかの奴……確かにこれはゲームなんだけどな。おれには、あいつらの現実にまったく影響していないとはどうしても思えねえのよ。肝心な時に逃げ癖があるとか最悪だろう。ゲームは、一定のルールを守って遊ぶからおもしろいんだ」

 ジロチョーが言っているのは、絶対ではないだろう。証明がされているわけでも、通説があるわけでもない。

 だけど、ジロチョーの言ったことは私の中にすとんと落ち着いた。

「うん……わかった。もうしない」

 だから私は、同意する。

 そんな私に、ジロチョーはなおも言葉を続けた。

「まあ、何だ。全部わかった上で突き抜けたことをしたいのなら、それもありだとは思うけどな。ただ、そうなったらなったで当然こういう主義なおれはそっと距離を置いただろうし、ほとぼりが冷めたあたりでフレンド登録を消すだけだわ」

「すき焼きさん、ほんっとうに、ごめんねっ」

 謝るから見捨てないで! とは、さすがに言わない。

 私の謝罪を受け入れるかどうかは、完全にすき焼きさんの自由だ。

 これは、フレンド登録を消されても仕方がないことだ。

 この程度のことでって思う人がいるかもしれないけれど、匿名の世界なんだから、「この程度のこと」で消されても仕方がないんじゃないかなって思ったんだ。

「気に、してない」

 たどたどしく言って、すき焼きさんがにこっとかわいい笑顔を見せてくれる。

 ひとまずは、見た感じ修復しようがないほど不快にさせたわけじゃなさそう……な、気がする……?

 危ない危ない。

 ゲームは気分良く遊ばないとだよね。

 私は、楽しいからって調子に乗りかけてた。反省しよう。わざわざ言いにくいことを言ってくれたジロチョーには感謝しよう。

 ――その後、順調に1ボス五周回を終えて通算二本目の槍をゲットしたすき焼きさんが、無言でジロチョーに槍を押しつけて、欲しいものが入手できなかった二人が仲良く一緒に凹むという姿を見ることになった。

 そんなこんなで、二人の助力もあってカロンくんのレベルは順調に23歳になったわけですが。

 正直言って、カロンくんの中の人はそれどころじゃないのだ。

 うー、二人は次もまたカロンくんと一緒に遊んでくれるのかな……私は心配だよ。




~天の声~

狩り場によって適職がありますよね。

でも、都合良く高火力と盾を揃えるのは意外と難しいこともあったりなんか。

さらに言うと、高火力と盾が揃ったとしても、知り合い程度でのペア狩りなんかは精神的な意味でかなりチャレンジャーだなと私は思いました。

この辺りの人集めなんかも、オンラインゲームの醍醐味ですよね。人間対人間だからこそ、自然とそこにドラマが生まれます。


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