1ボスステージを抜ける*
ぴかっと光ってドロップや経験値などの一覧表示がされて、1ボスステージを抜ける。
基本的に、ボスエリアの周辺はどこも安全地帯になっているものであるらしい。
一回目の1ボスを無事に終えた三人は、戦いを終えた満足感に浸って――いたのは、どうやら私だけだったようでありますよ。
安全地帯にてドリンクタイプの回復アイテムをここここっ! と咽喉越しも軽く一気飲みしていると、真顔のジロチョーが言った。
「坊主に話がある」
「何だね、紫のパンツのイケメンよ」
「いや、それはもう良いから」
「じゃあ、じろさん何さ?」
「あの壁際の無意味なおもしろ動作は……じゃなくてだな。あれ? おれは何を言おうとしてたんだ……」
愕然とするジロチョーの手をぽんと叩いてなぐさめて言葉を継いだのは、すき焼きさんだった。
こんな時だけコミュ障がなおるとかずるい! ずるいったら、ずるい!
……ところで、何だって私は説教されそうな雰囲気なんだろうか。
「坊主のあそこでその装備であのダンスは、どう考えても酷いよな? 心配したのに、吹き出して街へ死に戻りそうになった……」
「あー……そういうことか。ごめんね?」
「いくらなんでも、こんな所で笑い死にはしたくはないんだが?」
「ごもっともであります。次からは気を付けるね」
言われたのは、至極もっともな話だった。
このゲームは、街エリア以外で死亡すると最後に立ち寄った街の協会で蘇生&復活し、なおかつ街エリアに拘束されるというデスペナルティが30分間付加される仕様になっていることを、アトラ最終の初アタックで学んだ私はもう知っている。
課金アイテムを使えばすぐに街を出ることも可能だけど、そんなことをするのはガチ勢くらいだろう。
誰だって限られた現実時間をやりくりしてゲームを遊んでいるのだから、ふざけました、その結果として相手を死なせちゃいました、では遺恨が残るのは当たり前の話だった。
……ああ、何だか踊り子やノームがハブられる理由が見えてきた気がするね?
ジンギスカン協会の人たちみたいに効率的とまでは言わないけれども、せめて事故は少なくしたいし、できれば死にたくないと考えるのは自然な流れだった。
「私からもじろさんに質問があるんだけど……盾騎士って攻撃力が高いの?」
「おれか? おれは、火力盾を目指してるんだ。格好良いだろう?」
「カッコ良いんだ? そもそも火力盾って何なの?」
「またそれか。さすが初心者だよな……普通、盾役は防御力が高い替わりに攻撃力は低い。だがおれはそこを少し柔らかくして、火力スキルを育てている。工夫するとぽこっとユニークスキルが生えたりして楽しいぞ」
「そういうものがあるのね……あ、ユニークスキルって何?」
「ユニークスキルってのは、キャラを育成しているうちにランダム派生して……もしかして坊主は、寄生プレイのしすぎでユニークスキルが一つもなかったりするのか? マジで? スキルの文字色が青、赤、緑になっていたら基本的にユニークスキルだぞ」
な ん で す と?
えーと、んーと。あ、これか。
カロンくんの中の人、確認中……。
「じろさんがそういう言い方するってことは、見たらわかる感じなんだよね?」
「わかるぞ。ユニークスキルはありそうか?」
「……うーん、私は一つもなさそうだね。普通に全部、文字が黒いよ……」
私が言うと、ジロチョーとすき焼きさんが揃って可哀想なものを見る目でカロンくんを見てきた。
え、そんなになの?
「……ユニークスキルがないのって、変なんだ……」
「変というよりは、なるほどと思ったかな。寄生プレイっていうのはだな、高レベルや強いプレイヤーとパーティを組んで、自分は戦わずに経験値を稼ぐ行為を言うんだが……坊主の場合は、ジンギスカンに養われたって言っていたからな。運営がそんな罠を仕掛けていたとは……まさかこのゲームの醍醐味の一つでもある、ユニークスキル育成を潰しに来るとは思わんかった。この調子だと、そのうちシナリオやクエストの方も何かありそうだな」
「おれも、聞いたことがないです……最近のアップデートで追加されたのかも知れない、でですね」
すき焼きさん……あなたは、なぜそこで噛んじゃう悲しい子なんだ……きりっとした真面目顔がさらに噛み噛みを引き立てているっていうか。
すき焼きさん、一緒にがんばろうね。強く生きようね。
「ああ、なるほど。アプデの一覧を見て確認してみるわ……」
すき焼きさんの舌噛み事件を華麗にスルーしてのけたジロチョーが、何やら手でタップやらスワイプやらの仕草をし始める。
ちらっとすき焼きさんを見ると、一瞬だけ目が合った後にまたもやすうっと目を横に逸らされる。
またですか! 私たちはもう何度も一緒に行動した仲だったはずだよね? ね? そうだと言ってくださいよ。
もー、もー!
「あ、アプデの知らせの、下の方にすげえ小さい字で書いてあったわ。マジで字が小さい。説明書の予防線項目かよ」
「へー……」
「へー、て。坊主はそれで良いのか?」
「良いも何も、私のレベルはまだ上限の半分くらいだし、これからスキルが派生する余地だって残っているもの」
「それもそうだったな」
あははは、と意味もなく顔を見合わせて笑い合った。
カロンくんは未だに成長期真っ最中なんである。
「ところでカロンの坊主よ。1ボスの時の話なんだけどな。殴られたはずなのに服しか装備してない坊主がどういうわけで無事だったんだ?」
「どういうって、たぶんこの道化師の服が物理防御力+50の魔法防御力+50だからじゃないかな?」
「はあ?」
「えっ!」
二人が揃って驚きの声を上げる。
こういうときだけすごく仲良しさんだわー。いや、元々仲が悪いわけじゃないんだけどね。
「えっとねえ、んー……装備を二人に見せる方法ってあるの?」
「あるぞ」
ということで、ジロチョーの指示通りに操作したらこんなん出ました! と、カロンくんの秘密を暴露してみる。
まあ、そうは言ってもたいしたものではないんだけどね。
カロン 踊り子レベル20
体力315 魔力98
物理防御47(+50) 魔法防御47(+50)
物理攻撃20(+2) 魔法攻撃20(-30)
活力37 生命56
器用15(+11) 俊敏67
知力9(+5) 信仰9
幸運65(+60)
武器1 リリカルステッキ 物理攻撃力+2 器用+1 幸運+30
武器2 -
防具1 道化師の服 魔法攻撃力-30 物理防御力+50 魔法防御力+50 幸運+30
防具2 -
装飾品1 手先の指輪 器用+10
装飾品2 -
マント -
アバター -
乗り物 黄色いアヒルのおもちゃ(聖獣) 移動速度+2
驚きの防御力!?
という展開なのかなーって勝手に私は思ってたんだけど、実際にカロンくんのステータスを見たジロチョーが注目したのは、装備の性能ではなかったようだ。
「幸運がすでに100越え……どうやったらそんなことに? 」
「……あのアヒルが、聖獣……」
ジロチョーもあれだけど、すき焼きさんよ。
今さらそれを言いますかね?
「って、待て。待て。これは……一回しただけでレアドロの黒鉄の槍が出た、だと……?」
「そういえば、カロンと、ウサギ狩りで……魔道書が、ドロップした……」
「すき焼きさん、それマジで言ってます? て、ことは……もしかして、カロンの坊主の幸運100越えはハリボテではない……?」
「本当、です。まま魔道書が、ドロップしました。おれも、偶然とは思え、ななくなってきた……」
二人のギラついた視線がカロンくんに集中する。
何かな、二人とも?
「まあ、良いか。続きをしてがっぽり稼いで帰るぞ。おれは、ここのレアドロップのどす黒い短剣が欲しいです」
「おれも、ここのレアドロップの、呪われそう……な、魔道書が欲しい……」
みんな正直者だのう。
二人の目がGマークに見えるわ。
歌わないけど踊れるカロンくんはがんばるよ!
とか思って1ボスを5回ほど回してみた私たちなのですが、結果は残念なことに。
――レアアイテムは、ジロチョーがゲットした黒鉄の槍一本だけしか出ませんでしたよ。
槍なんか使わないからってことで、黒鉄の槍はジロチョーがオークションに出して売れたら三等分して売上を分配してくれることになったようだ。
ちなみに、カロンくんのレベルがいっこ上がったのですよ。




