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「そんな裏技があるんだ……」




 てくてくと街中を歩く。

 この道のりを歩くのも三回目ともなると、さすがに緊張感は薄れていて、しかも今回はパーティ内に見知った人たちがいる。仲間っていうのは良いものだね。こう、安心感? みたいなものがあって、居心地が良いよね。

 ちなみに、アヒル船長はイベントリの中でお留守番である。

 ジロチョーを一人だけで歩かせるのは居心地が悪いからね。

「ところで坊主よ、そのピエロ服はなんぞ」

 さっきからカロンくんをガン見していたジロチョーが、やっと聞いてきた。

 えへへ。

 カロンくん、ついに道化師の服をジロチョーにもお披露目したのですよ。

「良いでしょこれ! 知り合いだけなら遠慮はいらないと思って」

 初披露は王様とドワ漢衆相手だったがな!

 ちなみに、一回目に見た時はすこーしだけ動揺していたすき焼きさんはというと、見たところ平常心。というか、突然にコミュ障を発病したのか必要最小限しか会話がなくなった感じ? カロンくん相手や白百合の時は普通だったのに……なんとまあ。

「他にもっとないのかよ。普通に鎧とかそういう、装備っぽいやつ」

「えー、じゃあちょっと恥ずかしいけど、これ?」

 お着換えボタンぽちっとな。

「……全身黒タイツ……その水玉は……いやいや、坊主はいったいどんなプレイをしてきたらそんなことになるんだ」

「じゃあ、やっぱり道化師の服にするー。踊り子は鎧系が装備できないもーん」

「なんつー不憫な……」

 踊り子の悲しい装備事情を知らなかったらしいジロチョーから哀れまれているうちに、狩り場へと続く入場口に到着したようだった。




 挙動不審なすき焼きさんといつも通りなジロチョーの二人が話し合って決めたのは、「アトラ遺跡1ボス周回」とやらだった。

 何でも、アトラ遺跡1ボスは最悪、盾と火力がいればペアで回せるし、奇跡的にレアアイテムをゲットできたならドロップもおいしいからそこにしようということになったようだ。

 回復職がいないのに、ボスとか大丈夫なの? て聞いたら、攻撃が直線的で避けやすいし、そこで死ぬようなプレイヤースキルならカロンくんがアトラ最終をクリアできる確率は絶望的なんだとか。自分以外のパーティメンバーを廃人ばかりで五人揃えるか、年単位でボスの弱体化を待つしかクリアできないだろうとまで言われちゃった。

 うわあ、厳しいんだなって思ったよ。

「てか、今月の頭くらいはまだレベル1だったはずの坊主が、もうアトラ遺跡最終を攻略する気になってるとか笑うわ。どんなミラクルがあったんだよ」

「たぶん、すごい強い人たちに引率してもらったんだと思う」

「野良パーティでか?」

「そうだよ? えーと、一人はフレンドになった……雲海さん!」

「ぶっ」

「えええっ!」

 お、すき焼きさんが久しぶりにしゃべったぞ。

 私がにこーっと笑顔になってすき焼きさんを見ると、すき焼きさんがはっとした様子で顔を背ける。

 ちぇ、何でだよ!

「いや、仲良しコントは良いから。おれは、坊主があの雲海さんとフレになったあたりを聞きたい」

「あたりって言われても……狩りが終わったら普通にフレンド申請が来たよ? ちなみに現在の雲海さんは35歳であります」

「しかも、向こうからかよ。坊主のコミュ力がすごすぎだろ。この子ってば怖いわ」

 そう言われてもなあ。

 あんな強い人たちだから、カロンくんからフレンドになりませんか? とか言っても無視されるだけな気がする。

「もしかして褒められてる? ジロチョーお父さんはかわいい息子をもっと褒めてくれても良いのよ?」

「いや、褒めてないから。……でもそうか、このノリでフレになったんだろうな。おれやすき焼きさんも同類だろうし」

「カロンは、すごい……」

 すき焼きさんが……以下略。

 それにしても、二人してこの反応をするってことはだ。

 当然二人は雲海さんのことを知っているんだってことになるよね。

「雲海さんて有名人なの?」

 私は、事情通らしいジロチョーに質問してみる。

「有名ってか、野良に顔出しする中では物理火力系のトップ層だな。おれはまだ組んだことがないけど、どんな感じなんだ?」

「んー、無口だけど感じの良い人たちだったよ?」

「たち……雲海さんだけじゃないのか。そりゃそうか、アトラ遺跡は六人の入場制限があるからな。こうなってくると聞くのが怖いんだが、他の四人はどういう人らだったんだよ?」

 この話題、いつまで続くんだろうか。狩りはしないのかな?

 まあ良いけど。

「ジンギスカン協会ってギルドのえみりー☆さん、ジョバンニさん、あとは……忘れちゃった」

「うげ、よりによってジンギスカンかよ。それはアトラの道案内くらいなら余裕だったろうな」

「すごかったよー。さくっさくって進んでった。回復職の人がいなかったのに最終もいけるけどしないって言われたしね」

「さすが過ぎる……て、さり気にカロンも3ボスまで終わってんのな。マジで怖いわ」

「むう。酷い言われような気がする……そう言うじろさんだって3ボスまで終わってるんじゃんかー」

「そら、おれはゲームのサービス開始日からプレイしているレベル32で、攻略具合にしても普通に順調なわけだし? あ、二人の準備が良さそうならさっそく1ボス回しを始めるか。アトラ遺跡の入場制限消化枠ってことで残り3枠は、野良で募集するぞ。すき焼きさん、良かったらおれにパーティリーダーをパスってもらえるかな?」

「は、はいっ」

 いや、だからさ。すき焼きさんはいい加減に緊張をほぐれとこうよ。傍目にもがちがちすぎるよ。すき焼きさんはカロンくんと違って充分に強いんだから、緊張する必要なんてないはずでしょ。

 ええっと、ダメそう?

 ……ダメなんだね……すき焼きさんの場合は、まずは目線で私に何かを訴えようとするのを止めるところからコミュニケーションを学んでいこうね……。

 なぜかカロンくんをガン見しているすき焼きさんの様子を見て、私はため息を吐く。

 すき焼きさんのコミュ障発動の基準とタイミングが独特すぎて、他人には理解できないでありますよ。

 そんなふうに、すき焼きさんと目と目でやり取りをしているうちにも、ジロチョーの野良募集準備が着々と進められていくのを眺めていると。

「……アトラ遺跡1ボスまでの入場制限枠募集……? じろさんや、このパーティ名はいったい何ですか?」

「ああ、坊主はまだ知らなかったのか。アトラ遺跡は確かに六人制で入場制限があるんだが、同時に抜け道もあってだな……パーティ人数のカウントは、実はアトラ遺跡入場時と各ボスクリア後の通過エリアでのみ再判定される仕組みになっている。だから、これからおれたちが行く1ボスまでなら、ソロ狩りしたい奴やおれたちみたいに少人数で狩りをしたい連中が一緒に乗り合わせて入場して、入場制限を通過後にそれぞれの目的で枝分かれすることもできるわけだ。ただ、これだと大々的に少人数での狩りを宣伝することになるから、PKほいほい予防で募集パテ名で居場所を特定されないように注意な」

「そんな裏技があるんだ……」

 でもそれって、突然パーティを追い出されたりもするのでは……えええ、ダンジョン内でぼっちとか、怖すぎなんですけど!?

「ん? おもしろい顔して、カロンの坊主はどうしたよ?」

「いや、だってさ。カロンくんだとパーティを追い出されちゃいそうだなって思ったから。帰り道が一人とか、怖すぎる……」

「そんなことはしねえって。帰り道っても、死に戻るか人数制限判定踏んでアトラ遺跡から弾き出されりゃ良いだけだし……というかな、パテから追放されるかもしれないのはどこでパテ組んでも一緒だと思うぞ」

「何ですと!?」

「いやいや、そこは全力で驚くことじゃねえから。……なんつーか、カロンの坊主はたまにすげえゲームの仕様にうといよな。ここまで何も知らないままでゲームをしようってんだから、いっそ感心するわ」

 こんなことで感心されても私はちっとも嬉しくないですよ?

 ――その後、ジロチョーの野良募集で集まった残り3枠分のプレイヤーと合流。後からパーティに加わったプレイヤー三人は、アトラ遺跡入場後に簡単な別れの挨拶を済ませると、即パーティを抜けていきおった……なんていうか、すごくあっさりとしていた。カロンくんのピエロスタイルに誰も注目しなかったくらいに、あっさりだった。

 ジロチョーが言うには、この手の野良募集はこういうものであるらしい。

 さて、アトラ遺跡1ボスのボスステージは、アトラ遺跡に入ってすぐの石板から行くことができる。

 楽しみだの。




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