「怪文書違うもん!」*
後日、あらためてすき焼き……さんと話をしているうちに、がんばって一緒にアトラ遺跡最終を攻略しようってことになった。
すき焼き……さん、て呼んじゃうよ(照れ)。なんであの時だけ平気だったんだろう。やだ、照れくさいわぁ。
……じゃなくて、アトラ遺跡最終の話だった。
アトラ遺跡最終のボス暁姫は、現状だと一般勢にとっては強すぎて、上位勢以外でクリアしている人はほぼいないということだった。
だから、すき焼きさんと二人だけだとクリアなんて絶対に無理だ。どうやっても無理だ。かといって六人での入場が必須条件であるアトラ遺跡に残り四人を野良募集するとなると……たぶん今度はカロンくんがネックになって弾かれてしまう。
カロンくんのレベルは20だ。ただでさえノームの踊り子ってだけでも敬遠されるのに、レベル20ではお話にならない。しかも、すき焼きさんが言うには、レベル20を超えたところからレベリングに時間がかかるようになるというではないですか。
ということで、すき焼きさんと相談してまずはカロンくんのレベリングをしようってことになった。
二人でペア狩りだとまた例のウサギ狩りになるわけだけど、さすがにウサギばっかでレベリングは精神が死んでしまう予感がひしひしとする。
だからって野良はなー……となって、私はとりあえず貴重なフレンド様たちに問い合わせてみることにした。
カロン
へいへいへい。
そこのイケメン、カロンくんを養って。
送信、と。
返信はすぐに来た。
ジロチョー
どこの誰さん?
十文字以内で言い表せ。
ぐぬぬ。
生意気な……。
カロン
あなたの息子カロンくん だよ!
ジロチョーお父さん、紫のぴちぴちパンツを履く趣味だけはどうかと思うの。
ジロチョー
誰がお父さんだよww
おれの勝負パンツとか見たことないだろ。
黒いパンツの坊主よ、今は奇跡的におれ様の手が空いてるからパテ呼んでくれ。
「すき焼きさん、一人だけど釣れたよー」
「おお、職業は何?」
「んーと、盾騎士だね」
「盾とかマジで? 盾と回復は捕まえにくいってのに、すげえな。ぜひ呼んでほしい。踊り子のカロンがどうやって知り合うんだろう……」
すき焼きさんの許可が取れたから、フレンド欄からジロチョーにパーティ参加要請をとばす。
すぐに承諾の通知が来た。
「えっと……どうやって知り合ったか、だっけ? 確か、じろさんとは街の道ばたで知り合ったような気がする……?」
「聞いてもさっぱりわかんねえ……」
さて、次は……アニキ……雲海さんとぶっちゃさんは空いて……うーん、フレンド欄を見るに、どうも街じゃないところにお出かけしてそうだね。さすがは人気者たちだ。
カロン
安夢路のアニキ、お暇ありそうっすか?
カロン
雲海さん、お暇ありそうなら狩りをしませんかー?
カロン
ぶっちゃさん、お暇ありそうなら狩りをしませんかー?
送信!
……でも、待ってみたけど雲海さんとぶっちゃさんからの返事はなかった。どうやらお取り込み中であるらしい。
そして、どこぞの安夢路のアニキはというと……試しに送ったメールのお返事には、
安夢路
漢道( `ー´)ノ
とだけあった。
文面からして触ってはいけない何かを感じ取ったカロンくんの中の人は、以降文字表示されるドワの現在地を眺めつつ、そっとしておくことにする。
うかつにドワへと触れてはならぬ……そう、私の本能が訴えていたのだ。
ふんどしなんか思い出したりしてま…………いえ、嘘吐きました。ごめんなさい。集団ふんどし姿が強烈すぎてあいつらの姿が脳裏にこびり付いていますですよ。
アニキさんたち、ふんどし姿で引き締まった尻を振るとか反則っす。
「えっと。……すき焼きさん、他の人は無理みたい。返事がないや。すき焼きさんは誰かいないの?」
「なっ、ギルド抜けたぼっち属性持ちに話を振るなよ。というか、カロンはこの短期間でフレが何人もいるとか、もしかしてリア充なのか?」
「えへへ~♪」
違うけどね。こういう時は、笑って誤魔化しとくよ!
そうこうするうちに、何もないところに突然現れたジロチョーがパーティに合流した。何でも、条件を満たせば、パーティリーダーがいる場所へ一瞬で移動するワープ機能があるんだそうだ。
パーティリーダーは、すき焼きさん。
気が付くとジロチョーは、すき焼きさんの隣にドヤ顔で立っていた。
「じろさん……意味もなくドヤ顔とか見てる方が恥ずかしいからさ……」
「なぬ? カロンの坊主は……て、レベル20? いつの間にかすごい成長したのな」
「それ、フレンド欄見たらわかるじゃんかー」
「はは、知ってた知ってた」
「嘘くさいわー」
「ぶーたれてるとおもしろかわいい坊主になるのな」
ジロチョーは、ヒューマンの盾戦士さんだ。圧倒的身長差でもってして上から見下ろし、カロンくんの両頬がむにぃっと外側へと引き延ばされる。
「ノームってほっぺたが伸びるんだよな。おもしろいぞ」
「は~な~せ~」
ぺしぺしっとしばいてジロチョーの手を振り払ったった。
ジロチョーの手がすんなりと離れていく。
「で、坊主に呼ばれてみたわけだけど、具体的に何するん?」
聞かれたから、答える。
「アトラ遺跡最終の攻略がしたいから、それに向けてカロンくんのレベリングをしようと思うの」
すると、ジロチョーは顔をしかめて渋い顔になった。
「アトラの最終か…………あれは、なあ……」
「じろさんはもうクリアしてるの?」
「いんや。まだクリアしてない。いつだったか坊主から怪文書もらった時も野良で組んでやってたけど、結局は無理ゲーだったわ。廃人様だと周回できるらしいけどな……あれって、まだ情報が出揃ってないだろう?」
「怪文書違うもん!」
「気になるのはそこかよ……」
呆れ顔になったジロチョーは、私では相手にするだけ無駄だと思い出したらしくて、すき焼きさんにターゲットを移した。
「すき焼きさん? よろしくです」
「えっと……じ、ジロチョーさん、よろしくです。その、カロン、さん、とずいぶん仲が良いみたいですね」
「そうでもないと思うけど……まあ、気は合いそうですかね。そういうすき焼きさんは、どうやってカロンの坊主に丸め込まれたんで?」
「その、カロン、さん……が初めてパーティ組んだのが、たぶんおれたちだったんじゃないかと……?」
「ほほう、初めての寄生先が……ぐえっ」
寄生先言うなし。失敬な!
ついつい、うっかりとカロンくんの拳がジロチョーの腹を抉っちゃったじゃないかー。
やだー、カロンくんが乱暴者になってしまうではないですか!
「じろさんが、レベル32になってる」
「おう! 32になるとスキルレベルが一つ上がるからな」
うん?
聞いた覚えがあるようなないような単語が混じっていたぞ?
「スキルレベル……?」
「そこからかよ!?」
「えへっ」
「いや、さすがにかわいくはないから。あざといだけだから」
「えへへっ、私ってば褒められてる……それで、スキルレベルって何さ?」
ジロチョーはほんっとにノリが合う人だな。
違和感がなさ過ぎて、逆に怖いかもしれない。
「褒めてないからな。幸福の枝といい、マジで良い性格してるよなー……スキルレベルってのはだな、職業レベルが上がるとボーナスポイントってのが付加するから、そのポイントを振ると上がるんだぞ。このボーナスポイントは基本的に2レベルアップごとに1ポイント増えて、ステータスかスキルにポイントを振れるようになっている」
「じろさん、説明をありがとうであります」
どれどれ、そういえばステータスとか詳しく見てなかったな。
そう思って覗き見すると、確かにスキルの右下にスキルポイントなるものが表示されていて、ステータス値とスキルのところがオレンジ色に光っていた。
これってたぶん、ステータス値かスキルのどっちかにポイントを振りなさいってことだよね。
いやあ、カロンくんの中の人、当然のように見落としてたわ~。まあ、予定外にレベルが急上昇しちゃったのも大きな理由だろうけどね。レベル上がるのが早すぎて、ゲームの理解度が追い付いていないんでありますよ……ヘルプを読んどけよって? あははは……。
てことで、ボーナスポイントを振った結果はこうなった。
カロン 踊り子レベル20
体力315 魔力98
物理防御47(+8) 魔法防御47(+17)
物理攻撃20(+20) 魔法攻撃20(+5)
活力37 生命56
器用15(+10) 俊敏67
知力9(+5) 信仰9
幸運65(+20)
スキル
情熱ダンス+5 消費体力10% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体に物理攻撃+10% 魔法攻撃+10%
思い出ダンス+1 消費魔力10% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体の獲得経験値がランダム1~41%上昇
安全ダンス+4 消費体力10% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体に物理防御+9% 魔法防御+9% 再詠唱時間120秒
力のダンス 消費体力10% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒 new!
効果 パーティ全体に全ステータスアップ+2
ステータス値の方はレベルアップで一緒に上がるみたいだから、スキルにだけボーナスポイントを注ぎ込んでみた……んだけど、うん。あんまり変わった気がしないぞ!
特に思い出ダンスだよね……このスキル、1%変わった程度じゃ実感できなさそう……。
それと、またいつの間にか生えていたらしいカロンくんの新スキル、力のダンスだよ。効果の初期値で全ステータス+1って……ううん? 試しに+2にしてみたけど、これって意味があるものなのか??
踊り子のスキルは、どこまでも茨の道をいくんだなあ。
あははは……。
~天の声~
カロンはボーナスポイントを放置したまま寄生プレイで急成長した弊害で、最も一般的な踊り子スキルの派生になっています。
本来は、レベルが上がるごとにボーナスポイントを振ったりクエストをこなしたりしているうちに、ユニークスキルがポコポコ生えたりします。
ドワ集団? 奴らは現実では甲子園切符へリーチをかけつつ主人公がゲームプレイする裏舞台で虎視眈々とステージデビューの準備をしています。ユニーク満載の主人公属性集団ですね。




