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すき焼きさんとデート




 新たにフレンドになったぶっちゃさんと街で仲良く横滑りして遊んでいると、通りすがりのすき焼きさんと遭遇した。

「よ、よう?」

 すいー、すいー、すいー。

「……か、カロン?」

 何だろう。どうしてだろう。

 こっちを見るすき焼きさんが、なんだか挙動不審に見えますよ。

 声が上擦ってるし、仕草がどこか落ち着かない。そわそわしてる?

 まあ、この横滑りはわりと目立つのかもね……。

「すき焼きさん、こばはー!」

「あ、うん? カロン、時間、ある?」

 やっぱり挙動不審ぎみに見えるすき焼きさんに言われたから、ぶっちゃさんの顔をチラ見する。

「行ってこいよ。こいつがあれなんだろ?」

「うん! ありがとうなのです。またですのー!」

 てなわけで、カロンくんはすき焼きさんとデートをすることになった。

 無言ですき焼きさんからパーティー申請が送られてきたから、承諾する。

 パーティ名は……虫焼き……とは、何ぞや?

「虫……?」

「フィールドに出て、ついでに狩りをするぞ」

「でも、虫……また、虫……虫怖い……嫌い……」

「じゃあ、ウサギで。その辺で話しても良いけど、ついでに狩りをしながら話で良いよな? カロンは座ってるだけで良いから」

「う~、わかったー」

 ん? あれ?

 すき焼きさんの挙動不審さんがどこかに行って、普通になってるよ。これって、横滑りに引いてたってことなのかな。

 ……まあ、良いか。深く考えるのは止めようっと。

 それにしても、またカロンくんは戦闘に不参加か。踊り子ってこんなんばっかだなあ。

 少しふてくされた気分で狩りクエストを街で受注してからすき焼きさんに付いて行くと、街の外壁を潜り抜けて……おおお! 平原だ! うわあ、うわあ、行ったことないけど北海道の地平線って感じだ。まさに大自然。これはテンションが上がる。

「カロン?」

「地平線がある!」

「もしかして、フィールドエリアに出たのは初めてとか?」

「VRMMO自体これが初めてだぞ!」

「それは、また……このゲームは風景も作り込んであるから、そういうの見て回っても楽しいのかも?」

 ちちち、と鳥が鳴いた。

 風が吹いて、遠くに見える木々が揺れ動く。

 思い切り息を吸い込んでみると、さわやかな空気で内側が満たされた気がした。

 ……これが、全部作り物なのだ。

「カロン、こっち」

 すき焼きさんに手を差し出されたから、握り返してみる。

 ぐっと握り込まれて、そのまま二人で手を繋いで歩いた。

「ねえ、まだ歩くの?」

「もうちょっと」

「そうなんだ……」

 二人ともノームだから、歩幅がですね……あ、そうだ。

 すき焼きさんが相手なら問題はないんじゃない?

「ねえねえねえ、すき焼きさんや」

「あ? 何だよ」

 立ち止まってくれたから、イベントリからよっこらしょっと。

 アヒル船長(聖獣)の登場だい!

 どどーんの、ばーんなのである。

「……カロン、これは何だ……?」

「アヒル船長だよ! ……じゃなくて、えっと。黄色いアヒルのおもちゃ(聖獣)? っていうレアアイテムで……王様が踊り子のダンスに感動して下賜した一品に、聖獣の魂の一部が宿りしもの。伝説の魔道具職人アイアイサーが最盛期に発表した意欲作だと云われている。同種族に限り二人乗りが可能……だって! すき焼きさんもカロンくんと同じノームだから、たぶんウエルカム。一緒に乗ろうよ?」

 カロンくん、格好良くキメたった。

 イメージは、バイクで二人乗りだ。

 颯爽と美少女の前に現れたイケメンのバイク乗り(アヒル船長乗り)カロンくん!

 自慢の愛車に乗って、「へい、そこの彼女? 乗ってかな~い?」とお誘いしてみる。

 すき焼きさんはかなり戸惑った顔をしていたけど、すんなりとカロンくんの背後でアヒル船長に跨がる。

 ぴよぴよぴよぴよ。

 二人乗りで移動開始なのだ。平原をまっすぐに進めって言われたから、アヒル船長のハンドル(ハンドル無いけど)を切る。

「こんなもん、どうやって入手したんだよ……」

「舞踏士ギルドのクエスト報酬でもらったのですよ。そういえば踊り子って、普通のアイテムには縁が無いのに、こういう変なのはやたらと手に入る気がするよね」

「他にもあんのか?」

「あるよー。人様にはお見せできない服とか服とか、ステッキとか!」

「ふむ……踊り子って確か、まともな装備はほぼ装備できなかったよな? もしかして、その代わりにこういう特殊アイテムを入手できるってことなのか?」

「まだゲーム始めたばっかでよく知らないけど、もしかしたらそうなのかもね? ふんどしを装備してる筋肉……んんん、踊り子さんたちもいたよー。すき焼きさんてば鋭いね」

「踊り子の他にも、色々と制限が厳しい職業がいくつかあって……でも、そうか。そういうふうになってたんだな」

「そういうふうって?」

「生産や戦闘だけじゃない遊び方もできるってことだろ……あ、ここだわ」

 言われたその場所は、平原の終わり辺にあった岩場だった。

 岩場……段差……嫌な予感が。

 アヒル船長をイベントリに収納して、すき焼きさんの後を追うようにして岩をよじ登る。

「到着したぞ」

「ここで何をするの?」

「こうする。……ふぁい!」

 掛け声と同時に、すき焼きさんが装備した分厚い書物から、派手な魔方陣っぽいエフェクトが出現。

 ひゅ~ん、ちゅどーん。と、爆破した……ら、どどどどどっと凶悪な面構えをした白いもふもふたちがわんさか駆け寄ってくる。

 だけどもふもふたちは、岩場の高低差に阻まれてこっちを攻撃できないようだ。

「うわっ、もふもふなのにかわいくない……そして目付きが怖い……」

「けど、数が多いから経験値はおいしいぞ」

 すき焼きさんは慣れた様子で定期的にちゅどーん、ずぱーん、と魔法を繰り出しては白いもふもふたちを血みどろの地獄絵図へと変えていく。

 このゲーム、どうして変なところでリアリティを追求しようとするんだろうか……良いけどさ。

 まったりと二人で狩りを……いや、すき焼きさんが狩りをしている横で、カロンくんはかわいくお座りをして経験値をもぐもぐしている次第だ。

 アリの時ほどじゃないけど、経験値のゲージがぐいぐい増えていくな。

「あの時は悪かったな」

 すき焼きさんが、ぽつりと言った。

「なにがー?」

「……あの後な、おれ胸糞悪くなってギルドを抜けたんだよ」

「なんと」

 見れば、確かに「白百合」の表示は消えている。

「おれもカロンと同じでノームじゃん? ノームは初期値で知力の数値が低いから、踊り子だけじゃなくて魔法職でもハブられるんだよ。悔しいから火力上げて、そこそこ強くなったらエリスから誘われて白百合に入ったんだけど……まあ、確かにエリスは腕も悪くない治癒術士だし、あいつが白百合のギルドマスターなんだから仕方ないんだろうけど、でもさ。ちょびが回復職したいって言っているのに盾職を強要するのはさすがに違うと思うんだよ。急遽カロンに来てもらったアトラ遺跡最終で一人分の欠員があったのも、白百合内でエリスともう一人がもめたからだし……」

「色々とあるんだねえ」

「ずるい奴も、調子良い奴も、面白い奴も……ゲームには色々といる。ゲームだけど、アバターを操作しているのはやっぱり人間だから、こういうのはどうしても最後には人間対人間での話になってくる。そうなると、おれみたいにソロ狩りが可能だと、結局ソロの方がアイテムも独り占めできて良いんだって結論になっちまう」

 しょんぼりと、肩を落として独白するノームちゃん。

 わからなくもない話だった。

 私はまだゲームを始めてひと月も過ぎていないけど、それでも笑ったり心弾んだり、驚いたり悲しかったりした。

 そこに、データでしかないとはいえお金やレアアイテムなんかが絡んでくるのだ。

 それは、もめ事にもなることだろう。

「ねえ、すき焼きさん」

「何だよ?」

「お着替えしても良い?」

「好きにしろよ」

 道化師の服を装備して、すき焼きさん相手に初披露した。

 ドワ以外のプレイヤー相手に披露するのってこれが初めてだよね、確か?

「ぶっ。それってアバター装備か? ひでえ!」

「違うよー。普通のレアアイテムだよー。……傷心のすき焼きさんのために、カロンくんが情熱ダンスを踊ってしんぜよう。だんしんぐたいむ!」

 私は、そこまで口が達者な方じゃない。だから、心行くまで踊ることにしたんだ。

 理由なんてない。この時の私は、踊りたくてたまらなかった。

 補助マークの指示に自分の動きを追加して、くるりくるりと身動きをする。

 道化師の服の襟にぶら下がった丸い飾りが、カロンくんの動きに合わせて揺れ動いて優しい色合いのエフェクトがカロンくんのダンスを演出してくれる。

 別に、振り付けなんかする必要はないのだ。

 心の衝動に突き動かされて、ただ踊った。

 情熱ダンスの効果時間は、60秒。踊っている私にとってはあっという間だった。

 効果時間が終了すると同時にエフェクトも消えて、でも私は構わずに踊りを続けた。

 ちゅどーん。

 派手な爆発音がして、ようやくカロンくんはダンシングタイムを終了する。

 すき焼きさんの横にちょこんと座り直した。

「ふう、良い汗かいたわー」

「気持ち良さそうに踊ってたな。もしかして、ダンスって楽しいのか?」

「楽しいよー。すき焼きさんもやってみる?」

「いや、おれは…………ん?」

「どったの?」

「いや、今……レアアイテムのドロップログが……」

「え、戦いながらそんなの見てるんだ……」

 このゲームのドロップアイテムは、基本的に敵を倒すと職業や戦闘貢献率しだいで自動的にパーティ内に振り分けられる仕組みになっている。

 だから、カロンくんはいつもほぼ何も貰えないのよね……くすん。

「何がドロップしたのー?」

「なに、これ……嘘だろ? みんな散々ウサギ狩りはしているはずなのに……ボスじゃなくてこいつからドロップするのか……」

 うわごとみたいに呟いたすき焼きさんが取り出したのは、優し気な白いオーラがふわっと纏わり付いた由緒ありげな一冊の本だった。

 よくわかってないけど、本だしどう見ても魔道書術士なすき焼きさん用のレアアイテムだよね。

「綺麗な本だね。おめでとうです!」

「それで良いのかよ、カロン……」

「ふふ。何のことだい、すき焼き?」

 にやりと、口の端を引き上げてキザに笑ってみせたカロンくん。

 調子にのって、すき焼きさんをキャラクター名だけで呼んでみる。

 すき焼きよ、これからも末永くよろしくな!




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