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アトラ遺跡最終




 扉の前にある石版に手を置くと、ごごごごご……と巨大な石の扉が左右に開いて、ドーム型のアトラ遺跡最終ステージの全容が明らかになる。

 これまでもボスのステージは闘技場みたいな背景になっていたけど、ここはやや様子が違っていた。

 ドーム型なのは一緒なんだけど、背景が茜色の空になっているのだ。一面の朱色が目に飛び込んできて始めに私が思ったのは、血の朱色だった。

 少しして、ボス戦にはセットになっているらしいボスのストーリームービーが始まる。

 スキップボタンを押してみたけど反応がない……これって、もしかして全員が選択しないと意味がないのかもね。

 まあいいか。せっかくだし見ておこうっと。


使徒 暁姫(あかつきひめ)

 暁姫という一人の幼女が天蓋付きのベッドで目覚めるところから、ムービーは始まった。

 物悲しげな音楽が流れる中で、暁姫は上体を起こしてぼんやりと宙を見ていた。

 窓から見える月夜がクローズアップされて、場面が切り替る。

『ああ……(あるじ)さま……妾を導きたもう……』

 暁姫は、ドレスを着た少女になっていた。何があったのか、ドレスがぼろぼろに破れていて、暁姫自身も全身傷だらけだった。

 よろめきながら歩く暁姫の背後に、黒い影が浸食していき――暁姫の悲痛な悲鳴が鼓膜を揺らした。

『主さま……主さま……』

 かわいい声で虚ろに呟く暁姫が黒い影に覆い隠されたその時、暁姫だったものの内側からうねった何かが生まれる。

 瞬間、朱色が視界を染め上げて、戦闘音に切り替わった。


 ……正直言って、これだけだとさっぱりわからないよね。ムービーは意外と凝っていて綺麗だったですよ、うん。ドレスとか柄が細かいってか、レースまでしっかりと作り込まれて……じゃないや。こんなことをしている場合では無いのだった。

 えっと、カロンくんはボスステージに入って右隅……右隅……あった。あそこか。

 私は、ててててっと走って移動する。

 あー、もしかしてこのボスステージって、空の上な設定なのかな?

 眺めが良いなあ。下の方に街らしきものが見えてるよ。

 さすがに座って待っているのは気が引けるから、無駄に武器を構えてみたりして観戦することにする。

 観戦……観戦か……せっかくえみりー☆さんが面白そうなことを教えてくれたのに、これじゃ話が違うよね……あはは、カロンくんはここに何しに来たんだろう……しょぼん。

 みんな楽しそうですねー、いいな、カロンくんもあそこに加わって踊りたいよ。どうするんですか、この新しく覚えた新スキルは……むーん、暁姫さんあんなにかわいかったのに凶悪になったなー。スカートがカッターみたいになってぐるんぐるん回ってるよ。あれは痛そうだにゃ~。

 ……虚しい……。

 こそっとこの安全地帯とやらのお外に出たらダメだろうか。きっとダメだよね……少なくとも、バレたらエリスさんがめっちゃ怒りそう。

 あ、じゃあ少しだけここからはみ出して踊ってみるのはどうだろう? 少しだけなら、たぶん影響はないだろうし。ちょっとだけ……ほんの、ちょっとだけだから……。

 私は、慎重に足先をずらしていって、立ち位置を変えてみる……と、その途端にその辺の宙に浮いたナイフやら斧やらといった武器の矛先がカロンくんに方向転換する。

「カロンさん! 邪魔だから動かないで!」

 なぜか即バレして、エリスさんのお叱りが飛んでくる。

 仕方がないから、慌てて安全地帯へと引っ込むカロンくん……。

 エリスさんは姑かよ。

「……切ない……」

 見れば、最終ボス暁姫の体力ゲージは現在半分くらいになっている。

 視界の右隅にあるボスステージのカウントは、残り20分ほどだ。ちょうどボスステージの制限時間30分中の10分が経過した計算になる。正直言って、初心者過ぎて順調なのかどうかすらわからない……つらい。

 カロンくん以外は何やらがんばっているご様子……切ない。

 あの宙づりで浮遊するいっぱいな武器やらが、たぶんエリスさんが言ってたザコなんだろうな。

 て、盾騎士のちょびさんがやばそうなことになっている。体力ゲージが二割を割り込んで赤くなっちゃってるよ。

 エリスさんの回復は……? とか思って見たら、エリスさんもやばかった。他の人もなんか危なそうな雰囲気だなあ。

 そんなこんなで残り15分を切った時だった。

 まず、暁姫の回転攻撃に耐えられなかったらしいちょびさんの遺体が時間経過処理にてポリゴンの欠片となってお逝きになった。

 次にステッピーさん、すき焼きさんにザコが突き刺さってホラー映像化して……白さんが逝き、エリスさんが無残に切り刻まれて動かなくなった。

 そして、最後に残ったのがカロンくんだ。

 わらわらっと暁姫とザコな武器が視界に押し寄せてきたかと思うと、最後は誰よりも切り刻まれて全身にしびれを感じてブラックアウト。




 街へと死に戻って、エリス嬢による反省会ならぬカロンくん集中砲火大会がただ今開催中であります。

 視界の隅には、黄色い文字で「デスペナルティ残り時間00:22」と表示されている。そういえば、デスペナルティなんてものがあったなあ、このゲーム。街で辻斬りされた時以来のことだったから、すっかり忘れていたよ。

 それにしても街への死に帰りって初めてなわけなんだけどこれ、パーティは継続されるんですね。

 こんなふうに知りたくはなかったよ……。

「カロンさん、私は右隅から動かないで欲しいって言いましたよね?」

「あい……」

「どうしてあの時動いたりしたんですか?」

「ごめさい……」

「ふざけないでください。白百合の三人はまだ良いですけど、ステッピーさんと白さんはせっかく手伝いに来てくれたんですよ」

「あい……そですネ……ごめさい……」

 ところで私ってば何で何回も謝ってるんだろう……これって本当に私が謝るところなんだろうか。

 カロンくん、ちょっとはみ出ただけでむしろ何もしてないと思うんだけどな。

 違うの??

 オンラインゲームに関してはど素人過ぎて、判断ができなくてつらいっす……。

「エリス、もういいんじゃねえのか。そもそも強引に誘ったのはおれたちの方だったんだし、そのくらいにしとけよ。カロンさんが泣きそうな顔になってるだろ」

「すき焼き……でも、」

「でもじゃねえっつの。終わり終わり。ステッピーさん、白さん、白百合への協力ありがとうございました!」

「いや、結局最終のクリアはできなかったから……力が及ばずで申し訳ない」

「いえいえ、またタイミングが合えばぜひ協力をよろしくお願いします」

 まだ言い足りないらしいエリスさんを諫めたすき焼きさんとステッピーさんが挨拶を交わして、ステッピーさんの姿が消える。どうやら気まずいからって即ログアウトをしたらしい。

 この雰囲気だとそりゃここにいたくなんかないよねー。

 ……正直言って、私も消えてしまいたいのであります……。

「また声をかけてくれたら、手伝うよ」

 続いて、これは槍騎士の白さんだ。

 白さんもここにいたくなかったのか、即ログアウトでお消えになった。

 お願いだから、私も連れて行っておくれ……。

 灰になった気分で白さんが消えた宙を眺めていると、視界の隅っこにいるすき焼きさんに話しかけられる。

「カロンさんも」

「あい……」

「また、よければ一緒に遊んでください。今日はありがとうございました」

「………………あい……」

 絞り出すようにして、すき焼きさんに返事を返すのが精一杯だった。

 すき焼きさんがなおもまだ何かを言いたそうにこっちを見てたけど、さすがに気を使う余裕なんてない。

 言いたいことならいっぱいあったけど、カロンくんの中の人は社会人でそこそこ良い年齢だから、そんなことはしない。できれば、したくない。

 渦巻く言葉を全部を飲み込んで押し黙ることにする。

 この日は、失意のままログアウトすることになった。




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