アトラ遺跡最終前*
前回のジョバンニさん引きいるジンギスカン協会の時と同様に、街の片隅にある石版ぴかっで、サブダンジョンへと突入する。
前回と違うのはここからで、遭遇する敵モンスターもボスステージも全部無視して素通りで走り抜けて、行き止まりにあった魔方陣でワープを繰り返し、あっという間に見覚えのある扉の前へと到着した。
あーあ。成り行きで来ちゃいましたよ、アトラ遺跡最終前。
今回のパーティ構成は、こうだ。
エリス 治療術士レベル29
すき焼き 魔道書術士レベル30
ちょび 盾騎士レベル30
カロン 踊り子レベル19
ステッピー 杖魔術士レベル30
白 槍騎士レベル31
ステッピーさんがエルフの男性で、白さんがふんどし姿じゃない普通のおっさんドワーフね。
そんでもって、今日になって確認したカロンくんのステータスがこうだ。
カロン 踊り子レベル19
体力305 魔力96
物理防御45(+8) 魔法防御45(+17)
物理攻撃19(+20) 魔法攻撃19(+5)
活力36 生命54
器用15(+10) 俊敏67
知力9(+5) 信仰9
幸運62(+20)
スキル
情熱ダンス 消費体力10% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体に物理攻撃+5% 魔法攻撃+5%
思い出ダンス 消費魔力10% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒
効果 パーティ全体の獲得経験値がランダム1~30%上昇
安全ダンス 消費体力15% 効果時間60秒 再詠唱時間120秒 new!
効果 パーティ全体に物理防御+5% 魔法防御+5%
レベルが上がったことで、いつの間にか新しいスキルが生えていたようだ。新スキル! わくわくする響きだよね。
これで、ちょこっとはダンスのバリエーションを回せるんじゃないかなあって思う。
装備の方も、視覚的に他を選びようがない防具はそのままフリル紳士の一張羅だけど、すっかり忘れていた手先の指輪と前回もらった黒鉄のこん棒を装備して、たぶんパワーアップしたはず。
指輪はともかくとして、黒鉄のこん棒は初めてのまともな武器だ。見るからに打撃しかできなさそうだし見た目は棘のないサボテンっぽいけど、レアアイテムらしいし少なくとも木のこん棒よりはマシになったはずだと信じている。
それにしても、ここまで来といて今さらだけど良かったのかね、これで。
せっかくえみりー☆さんが準備してから行くと良いよって言ってたのに、これじゃ話が違うよね。
ほんと今さらなのよね。
みんなが扉の前で集合して、あらためてエリスさんが口火を切る。
「ステッピーさん、白さん、白百合の攻略協力をありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
「ああ、うん。それは良いんだけど……なんでレベル19の踊り子がいるの? 見たところ白百合の人でもないらしいし疑問しかないんだけど?」
これは、ステッピーさんの台詞。
まあ、当然ちゃ当然の疑問だよね。
「それが……白百合の一人がログインしていなくて、急遽声をかけてようやく捕まったのがカロンさんだけでした」
「うーん。アトラ最終の攻略は今が旬だから仕方ないか……てか、低レベルの踊り子でよくここまで到達できたよな」
「それなんですよねえ」
と、二人して何かを言いたそうな顔でこっちを見る。
ある程度は予想してたことだけど、すごい言われようだな!?
でも聞こえない。私には聞こえませんよ。
男は目を瞑って寡黙にやり過ごすんだ。男は背中で語るのみ(ドヤァ)!
……は、さすがに良くないな。沈黙はあかん。
えっと、無難に、無難に……。
「運が良かったのですよ!」
こういうのは、どうせ何を言っても気に入らないんだろうからさらっと流しとくに限るよね。
「……攻略手順を確認します」
エリスさんが本題に入る。
「まず、私とちょび、物理火力の白さんが先行してボスステージに突入。ボスの体力を三割ほど削ります。続いて魔法火力の二人が入場受付時間ぎりぎりの5分前にステージに入場して、途中で沸いたザコを一気に殲滅してください。ヘイトが魔法火力に移動するでしょうから、そこをちょびと私でフォローします。その間は魔法火力の二人が危ないので気をつけてください……あとは、臨機応変に対処ってことで良いですか?」
「待った」
「はい、ステッピーさん何か?」
「それだとたぶん、おれとすき焼きさんが死ぬよ。今回は回復がエリスさん一人だし、それじゃまずい。だから魔法火力は一人ずつ範囲を使ってザコ処理することにして、火力勢でヘイトをパスし合って回した方が良いと思う。えっと、順番としては、初めが物理のちょびさんと白さん、ザコが沸いたら次がおれ、すき焼きさん……で、ボスは余裕がある人が削っていく感じで良いんじゃないかな。ここのボス自体は柔らかくてあんま強くないけど、ザコの数が多くて痛い。てことで、全員で一緒にボスステージに入った方が良いと思う」
「では、それで」
「あの、あの!」
エリスさんが話を終わらせようとしているのを察して、私は強引に割り込んだ。
「はい、カロンさんは何か?」
「私は何をしたら良いですか?」
「ああ……もしかしてここは初めてですか?」
「あい」
「では、ボス部屋に入ったらすぐ右隅手前に移動して、そこから動かないでください」
「ええ……?」
「ここのボスは、右隅手前に安全地帯があるんですよ。だから、死なないようにそこにいてください」
「………………あい」
マジですか。
ほんっとーに、本気でカロンくんは何もしないってこと?
ええええ……何だそれ。
もやっとした気分になった私だけど、こんな間際だと考えるような時間は取ってもらえない。
「準備は良いですか?」
エリスさんの問いかけに、理解が追い付いていない私以外の全員が頷く。
だから私も気乗りしないまま石版に触ることになって、アトラ遺跡最終ボスとの戦闘の火蓋が切って落とされることになったのだ。




