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アリ狩り




「カロンさんは、ワールドストーリーの攻略はどこまで進んでんの?」

 最終的にカロンくんが参加したすぐ後に刀戦士の雲海さんていう人がパーティに参加して、そうしてパーティリーダーであるジョバンニさんから言われたのが、これだった。

「……わーるど、すとーりー……?」

 はて、何のことでしょうか?

 ワールドストーリーも何も、そもそもゲームっぽいことをほぼしていない状態だとは言い辛い。

「オーケー、理解した。このゲームの良いところは、どこから攻略してもワールドストーリーのピースが埋まっていくことだから、カロンさんも自分のペースで攻略していくと良いと思う。ただまあ、今回のアトラ遺跡に関しては駆け足でアリまで行ってもらうってことで。他の人には悪いけど、どうせアリへ行く道はボスを倒していくだけだから、新規っぽいカロンさんのストーリーをさくっと消化しながら進むってことで良いかな?」

「りょ」

「良いわよー」

「わかった」

「はい」

 てことで、『アリ狩り』パーティのメンバー構成はこうである。


 ジョバンニ 盾騎士レベル30 募集主

 えみりー☆ 杖魔術士レベル30

 ナナハン 杖魔法いレベル30

 きなこ姫 錬金術士レベル30

 雲海(うんかい) 刀戦士レベル30

 カロン 踊り子レベル4


 うん、やばいねこれ。

 カロンくんが悪目立ちしすぎぃ!

 唯一の救いは、フリル紳士の一張羅が初心者っぽく見えないことかな。他の人たちの立派そうな装備に見た目だけは負けてない……はずだ。

 まあ、えみりー☆さん、ナナハンさん、きなこ姫さんの三人は超絶美人なエルフさんだから、そっちのが目立っている気がする。

 作りものだっていうのがわかってても、華奢で色白で美人ってのは目の保養だねえ。いや、眼福よ。

 ちなみに、ジョバンニさんは狼獣人で、雲海さんは狐獣人なんだって。こっちも耳としっぽがふっさふさ! 色々といるもんだねえ。

 ノームのカロンくんは、アヒル船長と道化師の服をとりあえず封印することにした。ブラックタイツ? やつは着用すると見た目がヤバいから論外だ。カロンくんがかわいいからまだかろうじて変質者にはなってないものの、これがドワーフなんかが着た日には確実に放送事故級の……全身タイツのくせに一部だけ水玉模様とか、凶悪すぎるだろ。どことは言わない。乙女としては言えないんだけど、あんなところを水玉模様にする必要が本当にあったのかを開発者に問いたい。

 そんなこんなで、よくわかってない私は言われるままに狩りクエストとやらを街のハンターギルドにて受注してから、ジョバンニさんたちに付いて行くことになった。

 アヒル船長がいないと、ちょこちょこ歩き……カロンくん地味につらいな。

「カロンさんの服ってもしかして限定アバターとかですか?」

 歩きながら聞いてきたのは、錬金術士のきなこ姫さん。見られているなあと思ったら、そういうことか。

「違います。装備アイテムですね。踊り子は服が防具扱いになっていてこういうのしかないっぽいです」

 ドワーフの赤ふんどしとかな!

「ああ、そういう。踊り子ってきついですよね。……あ、カロンさん。そこの石版に触ってください」

「あい?」

 言われるままに手を置いた。


 ぴかっ!


「ひえっ!?」

 光った!? 何事ですか!

「これが、サブダンジョンアトラ遺跡への入り口です。次はこっちー。付いて来て」

 私以外の五人は心得ているのか、慣れた様子でさくさくと進んでいく。

 あれしてー、これしてー、これカロンさんにプレゼントするから、次あれしてー。て具合に光ったり移動したり、イベントムービー見たり見なかったり。

 私、ほとんど付いて行くだけの状態なのに必死。

「ここの1ボスは死なない程度に参加してね。死んだら直近に滞在した街に戻って30分拘束されて、そうなると私たちとはお別れになっちゃうからね」

「え、ボス!?」

「うん。アリ狩りは3ボスの先ね。さあ、適当にがんばってこー」

「あい!」

 めっちゃ緊張した……のに、ボス氏は超火力勢の前で消し炭になった。

 炎やら光りやらがどどどどどっとかなって、ずがーん。

 気が付いたら巨体のたくましいボスさんが膝を付いて無言で『………………(がくっ)』だって。

 何だろう。かわいそう? うん、ボスがかわいそうなんだよ!

「黒鉄のこん棒がドロップした。誰か欲しい人いる?」

 ボス戦終了後、えみりー☆さんがおっしゃった。

「いらん」

「同じく」

「じゃあ、カロンさんで」

「りょ」

「異議なし」

 て感じで、ぴこんてシステム音。


 『えみりー☆と黒鉄のこん棒をトレードしますか?』


 だって。

 もちろんいただける物は遠慮せずに頂戴いたしますよっと。

 ぴこん、て音が鳴って黒鉄のこん棒がカロンのイベントリに入った。

 おー。カロンくんだと装備できなさそうな予感がひしひしとしているけど、なんか嬉しいぞ!

「えみりー☆さん、ありがとうです!」

「ふふ、カロンさん喜んでるね。プレゼントのしがいがあるよ。使わないのなら遠慮なく黒鉄のこん棒を売り払って、ゲームを楽しむための足しにしてね。ノームは手足が短すぎて動きは辛いけどやっぱりかわいいなあ。カロンさんは、レアアイテム入手は初めてなのかしら?」

 ……って、あれ? こんな言い方するってことは、もしかしなくても黒鉄のこん棒とやらは、カロンくんにも装備できちゃうってことですか!?

「レアアイテム……それって良い物?」

「良い物だね。このサブダンジョン産のアイテムは、深淵層産とボス産以外は供給過剰で値段はもうそこまで付かないと思うけど、ボス産のなら今はまだ使えるし売れるよ。物によっては高額で取り引きもされているしね。あ、レアアイテムの背景は色つきになってるやつね。青と赤と緑がレアアイテムで、黒がノーマルで、白がゴミって具合になってるの。だから、背景の色が青、赤、緑ならレアアイテムなんだよ。色の違いはヘルプを見てね」

 ほっほー?

 そうなるとカロンくん、幸福のえ……じゃないや。木の枝や店で買ったの以外はほぼレアアイテム装備していたのか。

 アヒル船長が赤、服屋のおっちゃんにもらった服類が赤、リリカルステッキが緑……黒鉄のこん棒は緑だね。

 道理で手持ちの服が強いはずだ。納得した。

「良い物をありがとうです!」

 ありがとうを言うのは、大切。思っているだけじゃ伝わらない。

 これ、人間関係の基本中の基本だよね。

「良いのよー。じゃあ次へ行こう」

 にっこり笑い合って、その後もカロンくんは言われるままにボスと石版を制覇していく。

 ゲームの楽しみは半減しているのかもしれないけど、一緒に行動している人たちが親切で嫌味じゃないからぜんぜん気にならない。

 いやー、この人ら強いわ。めっちゃ強いわ。

 元から募集してた四人は同じ「ジンギスカン協会」ってギルド名からして知り合い同士っぽいし、刀戦士さんはギルドに入ってなさそうだけど遜色なく強い。

 カロンくんは何してたんだって?

 それぞれ情熱ダンス踊ってみたよ。ダンスは範囲効果だから盾戦士さんも含めて全員の火力が上がったって喜ばれた。おー、褒められると嬉しいね!

 ジョバンニさんの宣言通り1ボスに続いて2ボスもさくっと終わって、3ボス氏は『暁姫よ……果てなき夢を……』でムービーが終了した。

 3ボスが終了してまっすぐに歩いてたどり着いた巨大な扉の前で、ジョバンニさんがカロンくんを振り返って説明してくれる。

「あ、ここがサブダンジョンの最終ボスな。扉の開放作業は、ボス部屋の石版を触るだけだから。さすがに最終くらいは寄生クリアじゃなくて自力でクリアしたいだろうから、お楽しみってことでよろ」

「うわあ。ジョバンニが良いように言った!」

 すかさずツッコミを入れるえみりー☆さん。

 どゆこと?

「えみりー☆、うっせ。この面子ならクリアできなくもなさそうだし、ついでに最終までしても良いけど、回復がいないと死に帰ったら面倒くさい。せっかく来たのに死んだら人数合わせで野良募集した意味がないだろ。このサブダンジョン、六人フルパーティじゃないと入れない仕様なんだよなあ」

「ジョバンニがぶっちゃけすぎー」

「ああ、だからレベル4の私でも入れてくれたんですね。ありがたや」

「カロンさんは穏やかさんだねえ。怒る人は怒るとこだよ、これ?」

 そう言われてもなー。

「ゲームがよくわかってないから、気分を味わうだけでも良いかなって。ノームで踊り子だとパーティに入りづらくて困ってました」

「だからって転職はしないつもりなんでしょう?」

「あい!」

「だよねえ。私らは最前線組でいたいから効率を重視するけど、カロンさんみたいな遊び方だとまた違うよね」

「もう良いか? アリ狩りに行こう」

 ジョバンニさんが会話を切り上げて、全員にぴりっとした緊張感が走る。

 はて?

 こんなに強い人たちなのに、どういうことだ?

 戸惑っていると、顔に出ていたのかえみりー☆さんが教えてくれた。

「このサブダンジョンは良く出来ていてねえ。3ボスまでは最近新規で始めた人でも工夫次第でどうにかなるんだけど、最終ボスとこの深淵層エリアだけ敵がすごく強いの。だから、さっきジョバンニは軽く言ってたけど、サブダンジョン実装から三ヶ月くらい過ぎてるのに、最終ボスだけは未クリアな人が多いのよ。あと、アリの狩り場はすぐそこだからね」

「そういえば……パーティ検索したら最終ボスって書いてるのがありましたね」

「それそれ。レベル上げて、工夫して、装備整えて、仲間を集めて。カロンさんもそうやってクリアすると良いと思うよ」

「ほえ……」

 何それ。よくわかんないけど、めっちゃ楽しそうなんですが。

 えみりー☆さんの提案は、私の心に強く深く刻み込まれた。

 カロンくんでもいつか来たいな。

 ……その後、キラーアントなる巨大な蟻と対面したカロンくんの中の人、絶叫してパーティメンバーをびびらせることに成功したりなんか……。

 ジョバンニさんから、当然のように不人気職なはずの踊り子のスキルの使いどころを指定されて驚いたり、指示されていなくても各自がお互いのスキルを把握してるっぽい動きに感動したりして、なるほどこれがパーティの連携かと思わされたりした。

 盾職のジョバンニさんがスキルで敵モンスターを引き付けて、その敵の背後に回り込んだ火力勢が敵モンスターを殲滅していく。

 各職のスキルには再詠唱時間が設定されているはずだから、一人でも勝手な動きをするとたぶんこの調和は生まれない……そんな気がした。

 いや、ほんとすごいんだ。

 ジンギスカン協会の人たちは内輪の仲間っぽいからまあそんなこともあるよねって思ったけど、刀戦士さんは違うし。

 お互いに知り合いではあるようだけど、それだけだとこんなに綺麗に入れ替わり立ち代わりの攻防にはならないと思うんだよね。

 しかも、カロンくんの踊り子スキルまで計算に入れ込んだ上で!

 これまでゲームにそこまで熱心じゃなかった私は、この人たちにはいったいどんだけゲームの知識があるんだろう、この人たちが見ているゲームの世界はどんなものなんだろうとカルチャーショックだった。

 遊びに全力ってこういうことなんだねえ。そりゃ、こんだけ夢中になれたなら楽しいだろうねって思った。

 私は必死に踊って踊って踊って、たまに錬金術士のきなこ姫さんから謎のフラスコを投げつけられたりして、気が付くとカロンくんのレベルは、19になっていた。

 えぇ、何これ怖い。

 ……レベル19てあんた……。

「踊り子さん、お上手。ノームだから効果範囲が狭いはずなのに、ハズレが一回もなかったもの。課金のしがいがあったわ」

「途中からきっちり位置取りして、ダンスと殲滅のタイミングを合わせてきてたよな。経験値うまうまだった」

「楽しかったわ。経験値系アイテムはイベントのまで使っちゃったもの」

「経験値おいしい」

 褒められて嬉しいはずなのに、喜びきれない自分がいるのはなぜなんだ。

 何ていうか……この人たち、すごいんだけど、強くて良い人たちなんだけど、根本的な感覚が違うっていうか……ん、カロンくんはこの領域までは目指さなくても良い気がしたよ。

「30って、最高レベルじゃないんですか?」

「現時点でのカンストはレベル40よ。昨日のアップデートでレベル上限が解放されたばかりだから、まだレベル30から動いていない人がほとんどだけどね」

「なんと」

 レベルの上限って上がるものなんだ!?

 そうか、これがオンラインゲームなのか。仕様が更新されていくってこういうことなんだね。拡張パックを購入しないと変化がないオフラインとは違って果てしないな。

 カロンくん、まともに戦える日が来るんだろうか。イタチごっこになりそうだ。

「プレイヤー全体のレベルを底上げして、運営的にはこのサブダンジョンの最終ボスを攻略させたいみたいよ」

「ああ、そういう……」

 納得いたしました。

「あとはこれ。カロンさんにプレゼントね」

「あい?」

 えみりー☆さんから、9999個の小石を3セット頂きました。

 ……枝の次は、小石ですか……もらうけど。いや、ありがたく頂戴するんですけどね?

 そんなわけで本日のアリ狩りの結果は、こうだ。


 ジョバンニ 盾騎士レベル30

 えみりー☆ 杖魔術士レベル31

 ナナハン 杖魔法いレベル32

 きなこ姫 錬金術士レベル32

 雲海うんかい 刀戦士レベル30

 カロン 踊り子レベル19


 レベリングへの強いこだわりがあるらしい五人に圧倒されていると、無言で刀戦士の雲海さんからフレンド申請が送られてくる。もちろんウエルカムだ。

 ふっふっふ。今更ながらヘルプで調べたらですね。フレンドってのはね、アドレス登録みたいなものなんだよ! メールできる(使用済!)! チャットできる(未使用)! 相手のレベルと職業と現在地とログイン状況がわかる(三人目ゲットだぜ)!

 うんうん、便利ですね。




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