幸福の枝
さて、カロンくんの初狩りを終えた翌日である。
仕事から帰ってゲームにログインしてみたは良いものの、さすがに昨日の今日では狩りをする気にはなれない。てか、ぶっちゃけカロンくん一人だと狩りができな…………げふんげふん。
とまあ、どんな経緯であれ一応はレベル4に上がったし、ここは一つ他のことでもしてよう……って、ことで。
「とりあえず、アヒル船長を出してえ……」
乗る! 歩きたくない!
ぴよぴよぴよぴよぴよ……。
いつものように周りがどよっと騒がしくなって、視線が集中するのにもわりと慣れてきたわー。やだー、カロンくんてば人気者!
「あとは……」
とりあえずこれでしょう。気になってたけど知り合いの前だと恥ずかしくて振り回せなかったカロンくんの武器をじっくりと観察しておかねば。
ぶ・き!
ですってよ、奥さん?
なんて素敵な響きなのでしょうか。
私はてっきり、踊り子は武器を持てないのかと……まあ、厳密には武器? て感じなんだけどね。
木の枝 物理攻撃力+1 器用+1
ただの木の枝。武器として使えばぽきっと折れる。薪として使用可能。
これだけかよ……さすが木の枝。てか、武器のくせに折れるって何だよ。もっと根性を見せてくれよ。期待を裏切らなさすぎてびっくりだわ。別に裏切ってくれても良かったのですよ……?
はっ。
いやいや、まだ私には希望が残されて……!
リリカルステッキ 物理攻撃力+2 器用+1 幸運+30
魔法少女の日用品。振り回せばあなたもきっと魔法少女に?
やったね、+2だ……て、そんなわけあるかー!
ねえ、君たち武器なの? 本当に武器なの? むしろ見た目だけちょっぴり武器っぽい形してるのがむかつく……!
くっ、現実から目をそらしたらダメだね。
木の枝が薪……で、リリカルステッキは魔法少女の日用品。あはは~これ、武器じゃねえな。あはは~。
開き直ったら不思議と良い気分になってきて、リリカルステッキさんをぷらぷらと振り回す。
ピンクなリリカルステッキさんは、先端にピンクのハート。ハートの両脇にはデフォルメされた羽根が付いている。持ち手も妙に凝った細工模様付きときたもんだ。
微妙にイラッとしたところで、視界の右上がぴこぴこ点滅しているのに気が付いた。
なんぞこれ?
私は、えいやっとぴこぴこを指でタップしてみる。
したらば、視界に複数のウインドウがぱぱぱっと展開する。
そこに書いてあった内容はというと……。
すき焼き
なんかごめんな。
また遊ぼう。
お、おおう。
すき焼きさん良い人だなあ。これ、メールか何かかね……て、ぴこぴこよく見たらまんまメールのアイコンじゃん。へえ、こういう機能もあるんだねえ。
んーと、返事を書いとくか。
カロン
機会があれば、次は小人デートしようよ。
今はまだ貧乏なカロンくんだけど、がんばって稼ぐよ!
送信、と。
マジでまんまメールなんだね、これ。入力もキーボード出てきたし……文字制限は300字か。地味に記憶容量を圧迫しそうだしこんなもんかね。
へーほーふーん?
まあ、大見得切ってデートの誘い投げたわけし、金策でもしますか。
すき焼きさんたちとの狩りですこーし所持金が増えたけど、微々たるものだしね。
金策……カロンくんにできることがあるんだろうか……狩りはしばらく無理そうだし、クエスト的なのもちょっと……てところで、カロンくんの中の人はひらめきましたよ?
さっそく吹き出しコメントを書く。
『幸福の枝 1こ1000Gなり 安いよ安いよ(嘘)!』
んで、確か物売りしてた人がいたくらいだから、どっかにたぶんあるはず……あった。
発見した露店項目をタップして、木の枝……じゃないや、幸福の枝をセットしていざ出店!
アヒル船長に乗ってぴよぴよ鳴きながら売り歩く、さすらいの幸福の枝売りなカロンくんが完成した。
うんうん、これで完璧だろう。
売れるかな~?
とか思いながら、この日はオート露天設定にしたままで早々にゲームをログアウトしたわけだ。
――けれども、この時の私は知らなかったのです。
まさか、幸福の枝の値段設定を間違えて売っていただなんて……カロンくん、恐ろしい子!
~天の声~
ログアウト中にも露店はできますが、当然PKもされちゃいます。PKされるってことは、ログインしていきなりデスペナになっていることもあったりなんか。
それでも気にしない人は露店落ちして、気にする人は中の人がいる時にだけ露店をしています。
荷物の盗み行為は、街エリア外のみです。街中はただ、嫌がらせをするために犯罪者がうろつくという……。




