むしろこれが正しい踊り子の姿なのか!
それは、いきなりだった。
ドワーフが適当に散らばって各々にポージングを決めた瞬間、彼らの衣装が一斉にぱぱぱっと切り替わったのだ。
「うげっ!」
しまった。
視界の暴力に遭遇して思わず淑女にはあるまじき声が……て、違う。今はカロンくんだったわ。中の人が乙女な私、セーフ!
ドワーフたちが着替えた衣装、それは日本人ならばそれなりに見覚えがあるだろう赤い布切れ――これすなわち、赤ふんどしだった。
このゲームは、グラフィックが綺麗でリアルちっくだからさ……ドワーフの肉体美と股間が強調されて、こう。
揃って飛び跳ねる赤ふんどし! 腰を振る赤ふんどし! お手て繋いで軽やかなステップを披露する赤ふんどし!
この人たちは、本当にこのゲームを始めたばっかなんだよね……?
……完成度が無駄に高いし……。
なのに、ここまでダンスを作り込むとか絶対にプレイするゲームを間違ってる……いや、違うのか。むしろこれが正しい踊り子の姿なのか!
ドワ先輩すごすぎ。私は悟りが開けた気分ですよ。
私が感動している間にもドワ集団は汗が飛び散りそうな、言葉では言い表しにくい渾身の一発芸を披露した。
『トーテムぅ!』×15
十五人分の股間が、神々しくそろってぴかー!!
ドワーフ集団が、腰を突き出しながら叫んだ。
今、存在しないはずのスポットライトが見えたぞ。もしかして、幻覚症状!? 怖いっ!
……ではなくて、もしかしてスキルの効果なのかな? 踊り子ってこういうのもあるのか。
複数の股間が縦に重なる表示とか、ゲームでしかできない芸当だな……この、表示バグを利用したっぽい無駄に完成度の高い一発芸はいったい……。
さらには、流れるような動きで次の決めポーズらしきものを披露するドワーフたち。
『トーテムぅ!』×15
ジャンプしながら十五人分の股間が、神々しくぴかー!!
そのドワ集団の中でも安夢路っちは、なぜかロイヤルファミリーじゃなくこっちに向かって流し目をして……止めれ。いちいちこっちを見ないでいただけませんかねえ。
そうして最後に真横にドワ尻が整列して、王族に向かって尻を付き出してふりふり。……尻肉が固すぎて揺れないとかもうさ……。
そんなふうにして、何が何だかわからないうちにドワーフズオンステージは終了した。
何かをやり終えた感が満載の赤ふんどしたちが、ぞろぞろとステージわきへと引き上げて来る。
安夢路が私を見て、ひと言。
「どうだったよ?」
「すごかった!」
そらもう、あらゆる意味で感動した!
「そうだろうそうだろう。やっぱ男はドワーフだよな!」
「そうだね! ドワ!」
『ドワ!』×15
どんどん、足が踏みならされる。
お、おう?
安夢路は私の反応に気を良くしたのか、「まだ練習中でデビューしていないが、そのうちプレイヤー相手に盛大にデビューする予定だからその時はぜひ来てくれ」とか言われちゃったよ。
こんなに濃ゆいのに無名とな!? 練習中によく隠し通せたな。そう思って聞いてみたら、全員リア友で同じ部活仲間なんだそうだ。部活って……社畜社会人からするともはや響きが懐かしいでありますよ。
ドワーフの中身は中学生か高校生……とかって、かつて自分にもあったかもしれない若さというものについて思いを馳せていると、毎度おなじみシステム音がぴこーん。
『王様がカロンの踊りを楽しみにしています。カウントダウン30……29……』
えっ、えっ? ちょっと待って。
私のカロンくんは、あいつらのあとで一人で踊るの!?
これ無理じゃん。あのインパクトダンスより目立つとか絶対にありえないじゃん。
そう思った私は、せめてもと目立つと言えばやっぱりこれだろうと判断して、苦肉の策で「道化師の服」にお着換えする。
ピエロ服で勝負だ!
……その結果。
てててててて。
ちまっ。
ちょいっ。
たららら~♪
ててっ。ちまっ。
……孤独プレイつらい……一人で舞台とか広すぎ……。
なんでドワーフたちは集団で、カロンくんは一人舞台なんだろう……。
ちまちまっ。
てててっ。
たったったっ♪
「あらあらあら、かわいらしいですこと」
「ノームというのは本当に手足が短いねえ。引っ張れば伸びたりするのかな?」
おっとりとしたロイヤルファミリーの会話が聞こえてくる。
何ですかこの羞恥プレイは!?
涙目気分で舞台袖を見ると、ドワーフたちが全てわかっているぞってな顔をして去って行く……うわ、相手にされてないし。
こうして、私の公式初舞台は散々な結果で幕を閉じたのである。
心が折れて、ログアウト。
~天の声~
ドワ×15 → ギルド単位でクエスト受注
カロン → 個人でクエスト受注
トーテムライト ドワーフたちの祈りの力が実を結び、希望の光となったもの。ユニークスキル。




