ある日突然フラれた私のざまぁな話
「沙由、別れよう。」
突然の俊之の言葉に、私は頭を殴られたような衝撃を受けた。
「好きな子が出来た。」
私の激震に全く構わず、俊之は続けた。
「い、嫌。。」
やっと吐き出した私の言葉は俊之に全く届かなかった。
「そいつ、お前よりずっと若くて可愛いし。つーか、ここ俺の家だし。出てって。」
昨日までの優しいと思ってた彼はもうどこにもいなかった。
私は、そのままカバン一つで部屋から追い出されて、もう死んでもいい、いや死んだ方が良いと思うほど絶望した。
~
「寄生虫女を振ってやった。」
久しぶりに会う俊之の突然の宣言に、和希は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「寄生虫女?」
「沙由だよ。」
「‥‥‥それって同棲してた彼女じゃなかったか?」
「俺が全部生活費払ってたんだぜ?ありえねぇだろ。」
「‥‥俊之って一人養えるほど稼いでんのか?」
「まぁな。」
「すごいなぁ。俺なんか1人で暮らしていくので必死だよ。」
「まぁ、家事はあいつがやってたから家政婦雇ってたみたいなもんだよ。」
「ひどい言い方するなぁ。」
「でさ、新人の後輩に告られて、付き合うことにしたんだよ!5歳も年下だし、悩んだけどさー、まぁ、せっかくだしな。寄生虫追い出したから、余裕も出来るだろうし?」
和希は、友人であるはずの俊之の言葉を遠い気持ちで聞きながらとりあえずビールを飲み干した。
俊之ってこんなに偉そうだったっけ?という言葉はビールと一緒に飲み込んだ。
~
俊之に突然捨てられて、家も何にもなくなって、最初はビジネスホテルで泣きながら、呆然としてた。
それでもなんとか這いつくばって仕事に通って、会社の近くに家も借りた。
そして2ヶ月くらい経ったある日、私は突然悟った。
「あれっ?なんか俊之と暮らしてた時より断然快適じゃね?」
前は、毎朝早起きして俊之の朝食とお弁当作ってから、家から会社まで電車だけで一時間以上かかってたし。
仕事帰りは駅前のスーパーで夕飯の買い物と俊之用のお酒を買ってから重い荷物を持って20分かけて家まで帰ってたし。
俊之は私より先に帰ってもテレビ見てて、私が家事してる時も酒飲んでたし。私が作ったご飯食べて、私が沸かしたお風呂に、私が洗い物してる間に入ってたし。私がお風呂入ってそのままお風呂掃除してる間に酔っぱらって寝てたし。
てか私が家事をしないとめちゃくちゃ不機嫌になるから会社の飲み会や友達とのご飯もなかなか参加出来なかったし。
今は、私は朝ご飯食べない上にお昼は社食があり、家から会社まで徒歩10分だから起きる時間は2時間遅くなった。
仕事帰りに、気軽に同期と飲みに行けるし。
家でも自分が食べたいものを作れるし、お風呂も好きなタイミングで入れるし、家事の時間が減って時間が出来たのでのんびり読書や、映画も見れて幸せ。
正直、「振ってくれてありがとう」くらいの快適さだった。
~
「沙由にメールが届かねぇ。マジありえねぇ。」
1年ぶりにあう俊之が乾杯と同時に放った言葉に、和希は早くも、二人で飲みに来たことを後悔し始めていた。
「沙由ちゃんって、一年前くらいに別れた子だろ?」
「あいつがいなくなってからおかしいんだよ!」
「‥‥‥何が?」
「電気とか止まりかけるしさ!」
「はっ?電気?」
「あぁ、携帯もガスも水道も、アイツ口座引き落とし解約してて信じらんねぇわ。」
「えっ?公共料金、彼女が払ってたの?あれっ?生活費全部俊之が払ってたんだよな?」
「ああ、家賃は全部俺が払ってたからな。」
「‥‥‥家賃、だけ??」
「はっ?家賃が一番でかいんだから、家賃払ってたら生活費全部俺が払ってるようなもんだろ?」
和希は何も言えずとりあえず残りのビールを半分ほど飲み込んで間をもたせた。
「飯代、酒代、ワイシャツのクリーニング代も意外とかかるし、マジないわ。」
「‥‥‥それ全部彼女が出してたのか?」
「当たり前だろ。俺は家賃払ってんだから。」
「‥‥‥家賃は俊之が払ってたとして、その、沙由ちゃんが、食費とか全部払って、家事も全部やってた?」
「おぅ、俺が家賃払ってたんだから、他の支払いや、家事をやんのは当たり前だろ。」
いやいや、家賃めっちゃ押すけど、お前の部屋、立地も良くないし駅から遠いし古いし狭いし多分そんなに高くないだろ!とは和希は言えず、残りのビールを一気飲みした。
「‥‥‥後輩と付き合うって言ってなかったか?」
「なんか思ってたのと違うって意味わかんねぇよな!付き合う前は全部奢ってたのを割り勘にしたからか?強欲な女って怖いよな!」
「‥‥‥家賃しか払ってなかったのが全部払うようになったら、奢る余裕ないよなぁ。」
和希の呟きは、ビールのお代わりを注文していた俊之には届かなかった。
~
「あの時はどうかしてた。
いまなら沙由がどんなに大事だったか分かる。
しながわのバーで飲んだこと忘れてない。
てを繋いで、沙由の温もりを感じたい。
るびーの指輪を送るから、帰っておいで。」
知らないアドレスからメールが届いた。
そのメールが、2年前に別れた着信拒否している俊之がフリーメールで送ってきたものだと私は直感的に分かった。
正直「今さら何言っちゃってるの?ばーか。私、結婚したし。」くらい返信してやりたかったけど、縦読がヤバイし、「し」と「る」が無理やりでとにかくヤバイし、これは関わってはいけない案件だと思い、そっとメールを削除した。
俊之にフラれて死にたいとさえ思ったときに、それでもなんとか頑張って本当に良かったとしみじみ思う。
どんなに辛くたって、絶対にまた前を向いて笑えるって、私は自分のドン底の経験を思い出して、晴れ晴れと思った。