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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
番外編

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帰郷 後編

 立派な馬車に揺られて、僕は故郷のロニタ村に向かってる。ノエルさんの父さん──クレマンさんと、ノエルさんと、パフィ、フルールと一緒に。

 パフィは猫の姿のままで、僕の膝の上で寝てる。クレマンさんは黒猫が魔女だとは思ってないだろうなぁ。

 フルールに興味があるみたいだったけど、テイマーのスキルがあってもフルールほどウサギにそっくりにはできないと思うってノエルさんに言われて諦めてた。


「馬車って思ったより揺れないんですね」


 オブディアン家の馬車が特別かもしれないけど。


「ロニタ村と契約をしてから、街道を舗装したのだよ。凹凸のある道を走ると車輪も故障しやすいからね」

「おかげで遠征も楽になったよ」


 道までキレイにしちゃうなんて、ノエルさん家は凄い。ラズロさんが王家よりお金があるって言ってたけど、冗談じゃなく本当のことだったりするのかも。

 ダンジョンを閉じるのにあちこちに行った時、荷馬車があまり揺れない道があったんだけど、もしかしてあれも……?




「アシュリー、起きて、着いたよ」


 ノエルさんに声をかけられて目が覚める。いつの間にか寝ちゃってたみたい。


「村に着いたんですか?」

「そうだよ」


 開いた扉の先に、見慣れた景色があった。

 いつも見ていた空、村の人達の家。ここでずっと暮らすんだと思ってた村。今の僕が住む場所は別のところにあるけど、ここも僕の帰る場所の一つだと思う。


「アシュリー!」


 名前を呼ぶ声がして、そっちを向いた瞬間抱きしめられた。この抱きしめ方は、母さんだ。


「ちょっと母さん、ずるいよ!」


 兄さんの声が聞こえた。母さんで見えないけど。


「そうだぞ!」


 母さんが離れたと思ったら父さんに抱きしめられた。苦しいんだけど、その苦しいのも嬉しいって思っちゃう。


「おかえり、アシュリー!」

「おかえり!」

「ただいま!」




 三年ぶり?の家は、想像していたより散らかってなかった。バスケットの中にいっぱい詰め込まれているのがいくつもあるけど。


「アシュリーがいなくなってからはしばらくの間、家の中がぐちゃぐちゃでなぁ」

「そうそう、しっちゃかめっちゃかで」


 兄さんが頷く。


「風呂も家のには入れなくなったから、村の風呂に入ろうとしたけど、父さんはその前に水浴びしてからじゃないと入れなくなってさ」

「冬は狩りができないから、そこまで汚れないけど、それでもなぁ」


 王都の土産に茶葉を買ってきたのをカバンから取り出して、厨房に入ってく母さんの後を追う。


「休んでていいんだよ?」

「うん。これね、王都の土産だよ」


 茶葉の入った袋を母さんに渡す。


「おや、茶葉じゃないか。ここじゃなかなか手に入らない高級品だよ」


 鍋に水を入れる。


「もっと散らかってるかと思ってた」


 母さんは肩をすくめる。


「父さん達も言ってたろ。アシュリーがいなくなってすぐは散らかってたよ。食事も貧相になってねぇ」


 頭を撫でられる。


「おまえに頼りきりだったからね」

「でも今はそう見えないよ」


 見回してみても、そんなに汚れてないし。


「そりゃあそうさ。子供のおまえができて、アタシら大人が二人いて、家のことができないなんて恥ずかしいからね、頑張ったもの!」


 そう言って母さんはカラカラと笑った。


「でもこうなるのに一年ぐらいはかかったかねぇ」


 父さんは山にいることが多いし、母さんだって機織りの仕事で忙しい。布を織るのは時間も手間もとてもかかるから。


「今更だけど、ありがとうね、アシュリー。アンタのおかげでアタシらは仕事のことだけ考えられてたよ」

「うん」


 村にいる時は、僕のスキルが中途半端で、家のことぐらいしか役に立てなかった。でもこうやって礼を言われると嬉しい。じんわり胸があったかくなる。良かったって思う。


 沸いた湯の中に茶葉を入れて、スプーンで軽くかき混ぜて止める。茶葉が鍋の底に落ちたら器に注ぐ。

 母さんの持つトレイに器をのせて、父さん達の元に戻る。


「おぉ、茶じゃないか、久しぶりだ」

「アシュリーが土産で買ってきてくれたのか? 高かっただろ、ありがとな」

「せっかくだから喜んでもらいたくて」


 三年も会ってなかったのに、いつも一緒にいたみたいに父さん達は普通だった。


「今だから言うけどな、パフィ様が留守の間にアシュリーが村を出てった後、大変だったんだぞ」

「え、そうなの?」

「おまえ、毎朝パフィ様の元に朝食持って行ったりしてただろ、身の回りの世話をしに」

「うん」


 それは今もだけど。


「村人全員怒られてなぁ」

「機嫌が直らなくてねぇ、困ってたらパフィ様が王都に行くって言って」

「皆は反対しなかったの? パフィがいなくなったら色々困るでしょ?」

「話し合いにはなったけど、パフィ様は魔女だからね、ひと所にずっといるのが珍しいんだって村長が言って」


 そうそう、と父さんが頷く。


「たまに顔を見せてくれたらオレ達も安心だってなってな」


 村の皆はパフィに頼る部分もあったけど、パフィはそういうのが好きじゃないから、自分がいなくてもできるように色々と教えてたもんね。


「そうだったんだ」


 父さんの大きな手が僕の頭をくしゃくしゃに撫でる。


「おまえとパフィ様がいなくなったのは寂しいがなぁ、なんとか協力してやってる。それに今はオブディアン家が村の後ろ盾についてくれたからな、他の村に足元を見られることもなくなった」


 気になっていたことを聞かせてもらって、ほっとした。


「安心した」

「今度こっちから会いに行くよ」


 兄さんが言った。


「本当?」

「おぅ。これでも商人としてそれなりに成長してるんだぞ」

「楽しみにしてるね」


 王都でお世話になってるラズロさん達のこととか、僕のスキルの話とか、話しても話しても、話したいことがなくならなくて、あっという間に時間が過ぎて夜になった。

 明日にまた王都に戻るって言ったら、父さんと母さんに挟まれて寝ることになった。


「小さかったアシュリーも、もう十三か。十六の成人の祝いの為に金を貯めんとな」

「ほんとだねぇ」

「子はあっと言う間に育つとは言うが、本当だな」


 母さんが僕を抱きしめる。


「ずっとずっと、そばで守ってやれると思ってたのに」


 涙声の母さんに、僕も涙が出そうになってきた。


「離れててもな、おまえになにかあったら駆けつけるからな」

「おまえは辛抱強くて泣き言を言わないから、親としちゃ心配だよ」

「でもあと三年で大人になるよ」

「馬鹿だね、親からしたら死ぬまで子供なんだから、守ってやるのさ」

「年を取っても?」

「当たり前だ」


 涙が出てきて、目をぎゅって閉じて、母さんにくっつく。


「まだまだ子供だねぇ」


 優しい声に、涙がどんどん出てきた。

 母さんの手が背中を撫でてくれる。父さんの手が頭を撫でてくれる。

 あったかくて、しあわせな気持ちになる。


 スキルが中途半端だから、父さんも母さんも僕のことを持て余してるんじゃないかって思ってた。

 でもそんなことなかった。こんなに思ってくれてたんだって分かったら、嬉しくて、ほっとして、胸がぎゅってした。


 ダリア様の言葉を思い出す。

 スキルは運命を決めるものじゃなくて、祝福なんだって。父さんと母さんが僕のスキルを知ってがっかりしたように見えたのは、僕が役立たずに思えたからじゃなかった。僕のことを考えて心配になったんだって、今なら分かる。




 早起きした僕は、パフィの庵に向かった。

 寝起きで機嫌があんまり良くないパフィに、お湯を張った桶を渡す。


「おまえは村に戻っても早起きだな」

「パフィ、村の中散歩しようよ」

「歩かんぞ」

「うん、猫の姿でいいから」


 顔を洗い終えたパフィは、猫の姿になった。

 すっかりパフィ用になったカバンの中に入ってもらって、庵を出る。


「ここを出ることになった時は、村にちゃんとお別れしてなかったんだよね」

『そうだろうな』


 パフィにつきあってもらって村の中を散歩する。

 不思議なことに、住んでいた時には気にしなかったこと、気づかなかったことが色々あった。


「ちょっとだけ寂しいね」

『そういうものだ。当たり前にあるものに対して、人は関心を払わんからな。直に王都がおまえにとってそうなるだろう』

「そっか」

『悪いことではない。常に周囲に気を配るということは警戒しているということでもある。記憶にも残らないということは、その必要もない程に安心できる場所だということだからな』


 少し寂しいって思ってたんだけど、パフィのその言葉で安心した。


「そうだね」


 ノエルさんはきっと、僕がまた村に来れるようにしてくれると思う。父さんにも母さんにもまた会いに来れる。兄さんは会いに来てくれるって言ってたし。

 そんな日が来ると思ってなかった。無理だって思ってた。


「ねぇ、パフィ」

『なんだ』

「そのうち旅にも行けるようになるかな?」

『行けるだろうよ』

「何処に行きたい?」

『なぜ一緒に行く前提なのだ』

「え、行かないの?」

『……行ってやらんこともない』


 変わるものはたくさんあるって知った。

 ずっと同じじゃないって。

 でもできたら、パフィとはずっと一緒にいたいって思う。


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