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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
番外編

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魔女の集い 中編

 明日は満月で、魔女が集う日。

 ここに来ると聞いてるけど、どこでやるんだろう。


「パフィ、場所はどこでやるの?」

『火を焚くからな、庭がいいだろう』

「分かった。料理だけど、冷めても美味しいものを」

「何故だ」


 聞いたことのある声に僕とラズロさんは固まる。

 声のしたほうを見ると、七色の尾羽の大きな鳥に乗ったダリア様がいた。


『早い』

「一晩だけなどつまらぬからな。人の子を傷つけぬように魔力は封じてきた。案ずるな」


 前と違ってダリア様がそばにいても、息苦しくなったりしない。封じるって、どういうことなんだろう。ダリア様は大丈夫なのかな。ラズロさんは固まったままだけど。


『何をした?』

「外に漏れぬよう封じておるぞ、このようにな」


 たくさんの指輪と腕輪をつけてる。この前はどうだったのか覚えてないけど、こうして見せるってことは、あの指輪達がダリア様の魔力が漏れないようにしてくれてるんだろうな。


「それでも漏れる分はな、これに食わせた。ほら、これだ」


 そう言ってダリア様は大きな卵を見せてくれた。

 縦長で、固そうな殻。僕と同じぐらいの大きさに見える。


「孵化する前にアシュリーにやろうと思ってな」

『いらん。来るな。ドラゴンの卵ではないか……』


 ドラゴン! おとぎ話の中でしか見たことがない。存在するんだ!

 今僕にくれるって言った?


「ドラゴンを育てるとダリア様の魔力が減るんですか?」


 孵化するのに魔力が必要になるのかな?


「古代種のドラゴンは魔力を恐ろしく必要とするからな。孵化したらテイムせよ」

『古代種をテイムできるのはダリアだけだ』

「ドラゴンでは気に入らぬか?」

『無理だと言ってる』


 残念そうな顔をするダリア様と、呆れた顔をするパフィ。

 うん、無理だと思う。少し憧れるけど、ドラゴンなら大きくなるだろうし、ごはんもたくさん必要になるだろうし。


「では別のものにするか」

『なにもいらん』

「我が同胞の弟子なら我の弟子も当然だろう。師匠が弟子にものを与えるのは珍しいことでもあるまい」

『勝手に師匠に加わるな』

「細かいことを言うな」


 カラカラとダリア様は笑う。まだ会うのは二回目だけど、色々気にしない性格みたい。


「仕方ない。我の不在時に庭で留守番でもさせるか。それなら好き放題出かけられるしな、うむ、名案かもしれん」

『……勝手にしろ』


 ダリア様、強いなぁ。パフィ、呆れてなにも言わなくなっちゃった。


「孵化したら、ドラゴンを見せてもらえますか?」

「勿論だとも、我が弟子よ」

『勝手に師匠になるな』


 近くにあったテーブルにラズロさんがコーヒーを置いた。さっきまで固まってたのに、いつの間にか回復したみたい。よかった。


「おぉ、すまぬな」


 鳥から降りたダリア様は、僕にドラゴンの卵を渡してから椅子に座った。

 卵、重い。それとあったかい。


『さりげなくアシュリーに渡すな』


 パフィの尻尾がくるくると回って、僕の腕の中にあった卵が浮く。ふわふわと浮かんだまま移動して、ダリア様の膝の上にのった。

 ちょっとだけ残念。


「重くてなぁ」

『当たり前だ』


 ぷんぷん怒ってるけど、黒猫の姿だからパフィが可愛い。背中を撫でたら尻尾で手を叩かれちゃった。


「ドラゴン、駄目か?」


 ダリア様、諦めてなかった。


「ここではドラゴンが育つには狭いと思います。あと、僕のお給料だとおなかいっぱい食べさせてあげられないので、それはかわいそうかなって」

「確かにな。古代種のドラゴンはよく食うぞ。オーガなども丸呑みだ」


 ちょっとごはんとして用意できそうにないなぁ……。


「では別の生き物にするか。餌にさほど困らず、場所もとらぬものか……なかなかに難しい注文だ」

「ねぇ、パフィ。僕、うっかりしてダリア様になにかお願いした?」


 パフィにこっそりとたずねる。


『ダリアはな、大の魔物好きだ』

「魔物好き」

『ダリアをのせている鳥はな、ダリアが作り上げたこの世界唯一の鳥だ』


 七色の尾羽を持つ大きな鳥は、羽を閉じてダリア様の隣で大人しく座ってる。いい子だなぁ。


「大人しくて良い子だね」

『アレは大人しい部類に入るな』

「もっと色々いるの?」

「いるとも。今度パシュパフィッツェと共に遊びに来るがよい」

『飛ぶのは面倒だから断る』


 そういえば他の魔女の使い魔は乗れるのに、パフィの使い魔のマグロだけは乗れない。


「そうか、ならば乗れる魔物を贈るとしよう。なにが良いか。鳥か、獣か、悩ましいな」


 ダリア様の庵に行かないために言った言葉だったんだろうな。パフィはしまった、という顔をしてる。猫のしまった顔。ごめんパフィ。ちょっと面白い。


「話は戻るが、我の魔力に当てられることもないのだから、アシュリーも参加せよ、弟子として」


 パフィと話しててもそうなんだけど、魔女はこうと決めたら変えないんだよね。これはパフィが諦めることになりそう。


『火傷するほど熱い奴を食わせてやれ』


 パフィの言葉にダリア様がカラカラと笑う。


「我は火の魔女だからな、火傷なぞせぬ」


 焦熱の魔女だもんね。

 悔しそうにしてるパフィの背中を撫でる。


「パフィの大好きなものづくしにするからね」




 笑顔で食堂に入ってきたノエルさんは、ラズロさんと同じように固まった。


「……焦熱の魔女 ダリア様……?」

「この前見た顔だな?」


 ノエルさんは慌てて頭を下げる。


「よい、楽にせよ。我も楽にさせてもらっておる」

『くつろぎすぎだ、馬鹿者め』


 ダリア様は食堂の椅子を魔法で変えてしまった。ゆったり座れる椅子に。膝の上にはドラゴンの卵。

 ラズロさんが出した料理はぺろりと食べてしまって、テーブルには大皿が何枚も重ねられてる。

 パフィもそうだけど、魔女ってよく食べる。

 

 ノエルさんがこっそりと僕に話しかける。


「集まりって明日だったよね?」

「一日だけじゃつまらないからみたいですよ」

「つまらないって……」


 魔女はきまぐれだから。


「明日は庭で、貝や魚、肉を焼こうと思うんです」

「え? 庭?」

「はい。僕も魔女の集いに参加するんです」


 ノエルさんは目を閉じて眉をひそめる。


「…………僕も参加していいかな?」

「伝えておきますね」


 ノエルさんがお疲れの顔になってしまって、ちょっと申し訳ない。

 






 集まりは夜なのに、アマーリアーナ様とヴィヴィアンナ様は日が暮れる前にやってきた。

 パフィは呆れているけど、どことなく嬉しそうだから、良かった。

 皆、パフィを心配してきてくれたんだと思う。

 ずっとキルヒシュタフ様と冬の王のことを考えて生きてきたパフィはつらかっただろうから。


「アシュリーに使ってもらおうと思って、お肉をね、持ってきたのよ」


 ヴィヴィアンナ様とアマーリアーナ様は大量の肉と野菜、果物を持ってきてくれた。

 ダリア様が抱えてる卵を見て、「なぁにそれ、ドラゴンの卵焼きでも作るの?」とアマーリアーナ様が言った。


「アシュリーが喜ぶかと思ったのだがなぁ、パシュパフィッツェに断られてしまった」

「当たり前じゃないの」

「テイムはできぬとしても、庭番として飼うのも一興と思っておる」

「ますます狭くなるわね、ダリアの庵」


 そんなに色々いるんだ。

 ちょっと行ってみたい。


「せっかく集まったし、さっそく始めましょうか」


 アマーリアーナ様は空中で寝っ転がってるパフィの鼻先を指でつついた。


「パシュパフィッツェも、いい加減元に戻りなさいよ」


 人の姿に戻ったパフィは、三人の魔女を見てため息を吐いた。


「本来は明日なのだぞ」

「いいじゃないの。沢山の死者を弔うってことで」


 ダリア様が片方の眉を上がる。


「なんだ、もうやるのか?」

「キルヒシュタフがいないのだ、その分我らがやるほかあるまい」

「気にするな。あれはそなたになんの咎もない」


 パフィは僕が見てることに気づいて、僕のおでこを軽く叩いた。


「用意しろ、魔女の宴を始めるぞ」


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