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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第四章 魔女の国

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059.五百年前と、今

 密偵としてこっちに送られた魔術師は北の国に送り返されるんだけど、パフィがそれだけで帰すはずもなくって。


『スキルを封印して返してやった』


 楽しそうに言うものだから呆れてしまうけど、こちらからしたらそのほうがいいのかなぁ、と思ったり。

 それにしても、楽しそうだなぁ、パフィ。


「スキルの封印なんてできるんだ」

『できるぞ。新たなスキルを与えることや伸ばすことはできないがな』

「そうなんだ?」

『それは神の領分だ』

「僕のダンジョンメーカーを封印しようとは思わなかったの?」


 今の生活が嫌だとかそういうことじゃなくって。

 もし封印されていたら僕はまだ村にいたんじゃないかなって、ちょっと思ってしまって。


『村にいる分には問題ないと思っていたしな。それに今はアマーリアーナがいるから無理だ』

「あ、そっか」


 そうだった。

 アマーリアーナ様はヴィヴィアンナ様のために僕に魔力水晶トラスを作らせたんだもんね。


『前の生活が恋しいか?』

「母さんたちに会えなくなったのはやっぱり寂しいよ。帰りたいとはちょっと違うんだけど」

『おまえも村を出てから二度、冬を越しているからな。今回が三度目だ』

「あっという間だったよ」

『良いことだ。過去も大事だがな、明日はくる。できるなら先のことを考えて生きていけたほうがいい』

「そうだね」


 これからのことを考えると、不安もある。

 でもなんていうか、僕の気持ちに関係なく明日はやってくるから。


『ところで昨日の魚貝のスープ、熱すぎたぞ』

「え、そうだった?」


 たっぷりの魚貝を入れて作ったスープは好評だった。魚貝の売上に貢献しようということになって、レシピをギルドに教えた。元はギルドの人から教えてもらったものだったからお金はもらうつもりはなくて。こうしてみたよ、と報告みたいな感じ。

 あのスープがギルドの中の屋台でも食べられたらいいなぁ、っていう僕とラズロさんの下心。


『熱かった』


 でもみんなそんなこと言ってなかったけど……。


「あ、猫舌?」


 二股のしっぽで頰をビシビシ叩かれた。

 痛い……。


「ねぇ、パフィ、魔術師が来るのが終わったらどうなるの?」

『秘密だ』

「僕が子供だから?」

『国の取り決めをそう易々と教えるわけなかろう』

「あ、そっか。そうだよね、ごめん」


 魔術師たちはこの国で、ナインさんと同じように人として生きていけるようになるんだなって思うと、ほっとする。

 ナインさんも同じように思ってたみたいで、前に蜂蜜を溶かしたホットミルクを飲みながら呟いてた。


 自分だけ助かった。申し訳なく思う。


 ナインさんを連れてくると決めたのはナインさんじゃないけど、でもやっぱり、そう思っちゃうよね。

 自分だけって。


「魔術師の人たちは審査が終わったらすぐにこっちに来るの?」

『いや、この冬を越えるまでは無理だな』

「そうなの?」

『確認はしたがな、念の為という奴だ』


 パフィが調べて、それをくぐり抜けられるとも思わないけど……用心に越したことはないよね。


「食事とかどうするの? 着るものとか」

『レンレンが張り切っていたな』

「なんで?!」


 レンレンさんは魔法薬学の人なのになんで?

 あ、もしかして野草を……?


 ……生き延びてくださいね、魔術師さんたち……。







 皆の食べたいものをダグ先生が集めてくれたので、次の週から魚貝じゃないものを作ることになった。この季節でも手に入れられるものにはなっちゃうけど。


「魚貝は自分用にたまに食うかな」

「いいですね。僕も食べたい。前に庭で焼いて食べたの、美味しかったです」

「あれな! 休みの日にでもやるか!」

「賛成ー!」


 ふと、魔術師の人たちのことを思い出した。


「北の国から逃げてきた魔術師の人たち、レンレンさんのごはんを食べてるって聞いたんですけど、大丈夫なんでしょうか?」

「それなぁ……。他の薬学師がきちんとしたもん食わせてるらしいから大丈夫だろ」


 ……魔法薬学の人たち、きっと見るに見かねたんだろうな……。

 レンレンさんはあいかわらず野草を主食にしてるみたいだし。


 ラズロさんは食事を終えて、コーヒーを淹れてくれた。僕のは蜂蜜入りミルク。


「気になってたんですけど、魔術師の人たちが沢山増えて困らないんですか?」

「魔法使いの数五百人、魔法薬学師四百人弱。魔術師百人だ」


 魔術師がすごい少ないんだ。

 魔法使いと魔法薬学師は同じぐらいいるのに。


「魔力を持つ人間は圧倒的に北側で生まれやすいみたいでな。南の国なんてうちの国よりいない」

「へぇー。なんででしょうね。なにか理由があるのかな」


 僕の生まれた村は王都より西にある。


「遥か昔はそうじゃなかったと聞いたことがありますよ」


 声のしたほうを見ると、ダグ先生だった。

 僕たちを見て笑顔になる。手に紙の束を持ってるから、皆の食べたいものをまとめてくれた奴かも。


「お邪魔します」


 ラズロさんは立ち上がって厨房に入った。ダグ先生にコーヒーを淹れるんだと思う。


「先生、昔ってどのぐらい昔ですか?」

「文献によれば、五百年前は南の国でも魔力を多く持つ者、魔法使いがいたようです」

「なんででしょうね」

『知りたいかしら?』


 振り返ると白と黒の大蛇がそこにいた。

 ……今日はお客さんが多い。


「アマーリアーナ様、こんにちは」


 赤い舌がチロチロと口から出てくる。


『ごきげんよう、アシュリー』


 ダグ先生を見ると、目を細めていたぐらいで、いつも通りだった。コーヒーを淹れて戻って来たラズロさんが一番びっくりしてたぐらいで。


「アマーリアーナ様は理由を知ってるんですか?」


 知っているわよ、と答えると、白黒の大蛇はズリズリと音をさせながらテーブルの横までやってきた。おなか痛くないのかな。

 僕の蜂蜜入りミルクを差し出したら、喜んで受け取ってくれた。


『五百年より前はね、魔力を持つ者は世界中にいたのよ。今も魔法のスキルを与えられた者は南にもいるだろうけど、魔力が足りないわね』

「五百年前、なにかあったんですか?」

『魔女が生まれたの』


 魔女が生まれると魔力を持つ人が減るの?

 あれ? その魔女って。


『パシュパフィッツェが生まれたのよ』


 魔女の中で一番若いのがパフィだというのは教えてもらって知ってた。


『パシュパフィッツェが何かをしたわけじゃないわよ?』


 なにか隠してるような口振りだけど、僕にはそれがなんなのか分からない。


『六百年ぶりの新しい魔女の誕生を、私たちは喜んだものだわ』


 今の話だけで、アマーリアーナ様が千年は生きてることが分かってしまった。知ってたけど、魔女って本当に長生きなんだなぁ。パフィは僕の村で暮らしていたけど、他の魔女たちは寂しくないのかな。


『生の胡椒をもらっていくわね』

「あ、はい。どうぞ」


 裏庭のダンジョンの野菜や花、香辛料があっという間に育つのは、アマーリアーナ様の時間をもらっているからだ。

 好きなだけ持っていって欲しい。パフィは拗ねそうだけど。


 アマーリアーナ様がいなくなった後、ダグ先生とラズロさんが大きな息を吐いた。


「噂には聞いていましたが、肝が冷えますね……」

「なんでアシュリーは平気なんだよ……」

「パフィで慣れてるんだと思います。それに魔女だからといって、なんの理由もなく怒ったりしないですから」

「なにで怒るか分からんって話なんだよ」


 第二王子たちが起こしたことを知って、人のほうが怖いと思った。魔女は確かに怒ると怖いけど、理由もなく怒らないから。

 たまに無茶苦茶だって思うこともあるけど。


 パフィが生まれたことと、北の国に魔力の多い人が生まれやすくなることがつながらない。


「ラズロさん、アマーリアーナ様のおっしゃっていたこと、分かりましたか?」

「……あれ、理解させるつもりで話してないだろ」


 ラズロさんも分からなかったみたい。


「南側の魔力を魔女様が吸っちまった、って話でもないだろうしなぁ」


 それだとノエルさんたちも魔力が少なく生まれてるはずだし。


「ダグ先生?」


 なにか真剣に考えているようで、眉間にしわが寄ってる。

 話しかけられたことに気がついて、ダグ先生がこっちを見る。


「あぁ、すまないね。ちょっと気になることがあったものだから」


 気になること?


「前にアシュリーくんと冬の王の話をしただろう?」

「はい」

「気になってね、調べてみたんだよ」


 ダグ先日はこめかみを指で押さえて、息を吐いた。


「冬の王に関する文献を調べたところ、五百年より前にはなくってね、あってもそれ以降だった」

「魔女様と冬の王に関連があるってのか?」


 いや、と答えてダグ先生は首を振った。


「いくら魔女といえど、生まれて間もないんだし、それはいささか強引だろうと思うのだがね……私も関連があるのかと訝ってしまう」

「魔女様のことは置いといても、なにかがあったんだろうな、冬の王を生み出すなにかが」


 南の国や西の国でもスキルを与えられる人はいるけど、魔力が足りないから、魔法使いや魔術師になれなくなってしまった。

 この国もたぶんそう。


 五百年前に生まれたパフィ。

 同じぐらいのときに出てくるようになった冬の王。


 先生たちが言うように、そのことがつながっているような気がしてしまう。

 思い込みは駄目だって分かるけど、同じ頃に大きなことが続けて起きたなら、そう思ってしまうものだと思う。


「冬の王って、なにがしたいんでしょうか?」


 魔力の高い魔物に取り憑いて、人のいる場所を目指すという冬の王。

 いつも退治されているから、冬の王が何のためにそんなことをしているのかが分からない。

 魔物だし、関係ないのかな。


「より高い魔力を求めてるんじゃないかと噂だよ」


 今度はノエルさんが来た。


「魔力ですか?」


 そう、と答えて僕の隣に座る。


「コーヒーでいいな?」

「うん、ありがとう」


 ラズロさんが厨房に向かう。


「高い魔力を持つ魔物に憑依して、他の魔物たちを引き連れて移動するんだ、冬の王は」

「最初から人間に憑依するとかはできないんですか?」

「そうなんだよね。それができないのは、なにか理由があるのかも知れない」

「北の国がやってるとか?」

「いや、それはないと思うよ。毎回被害が甚大だからね」


 それが毎年のように起きてるとなると、北の国がわざとやってるってことではないのか。

 うーん、僕には分からないな。


「今回のことで西の国と我が国は裏でやりとりをしていてね」


 西の国。今回北の国から要請を受けてるという国だよね。


「北の国は、氷花の魔女 キルヒシュタフ様と少なからず縁があるようなんだ」


 ノエルさんが大きなため息を吐く。


「キルヒシュタフ様は、焦熱の魔女 ダリア様に並んで、創始の魔女とも呼ばれるんだ。

魔女の強さはその身に宿す時間が全てだと聞いたことがある」


 キルヒシュタフ様はたぶん、パフィのように助けてくれたりはしないんだろうな。

 でも、魔女はきまぐれだから、なにがきっかけで動きだすか分からない。

 パフィとキルヒシュタフ様がぶつかるようなことはないとは思うけど、同じ魔女だし。

 でも、なんだか胸がざわつく。


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