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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第一章 新しい生活のはじまり
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002.いざ、王都へ

 王都までは、クリフさんとノエルさんの脚でも一週間かかるらしい。そんな所に僕が加わってしまったから、多分もっとかかると思う。


「すみません、お邪魔してしまって」


「いやいや、アシュリーを保護したいのは国の都合だから、気にしないで。それより、こっちに来て朝ごはんにしよう」


 ノエルさんは口調も優しいし、とても話しやすい。

 クリフさんはカッコいいと思うけど、ちょっと怖い。


「はい、ノエルさん」


 二人は適当な場所に腰掛けると、干し肉とパンをかじり始めた。

 おお、旅慣れてる人は、こういった食事をするんだなぁ。

 僕が感心していると、クリフさんが聞いてきた。


「アシュリー、食べ物は用意してないのか?」


「あっ、今から作ります!」


「作る?」


 牛のモッズは連れて来れなかったけど、鶏のコッコは僕でも抱いて移動出来そうだったので、連れて来た。って言うかついて来た。

 モッズは女将さんに譲った。お礼にとベーコンをたっぷりもらった。


 カバンからフライパンを取り出し、ベーコンをフライパンに2枚並べ、コッコの卵をその上から割り入れた。


「まさかそれをそのまま食べるのか?」


 怪訝そうな顔で見るクリフさんに、僕は苦笑した。


「違いますよー。焼いて食べます」


 フォーコ、と唱えると、小さな炎が現れた。その上にフライパンを当てる。


「凄い! 魔法をそんな風に使おうなんて、考えた事なかった!」


 ノエルさんの言葉に、僕はハハ、と笑った。


「普通はもっと火の力が強いから、こんな風には使えないと思います」


「確かにそうだろうけど。うぅん、面白い」


 ジュウジュウと音を立ててベーコンが焼けていき、ベーコンの上の卵にも火が入って、透明だった白身が白くなっていく。


 十分に焼けたあたりで、フライパンの下の炎を消した。

 母さんが焼いてくれた丸パンをナイフで切り、フライパンの上のベーコンと卵を揺らして動かし、パンの上に乗せて完成だ。

 ベーコンの脂が硬めのパンに染み込んで、柔らかくなる。


「あちちっ」


 半熟の卵を潰す。ベーコンの塩みとの相性が良くて、僕はこの食べ方が大好きだ。


 ノエルさんとクリフさんは二人で僕に背を向けて何やら話している。

大人の話だろうか?

 気にしないようにして、パンを食べる事に集中する。


 食べ終わったので、アクア、と唱えてフライパンを洗う。

 これにもノエルさんは驚いていた。

 ヴェント、と続けて唱えて、フライパンを乾かしたら、かばんに入れて僕の朝食は完了だ。


 ノエルさんが僕の両腕をガッ、と掴んだ。

 えっ! 何?!


「アシュリー、お願いがある」


「えっ?! お願い?!」


「素材を僕たちも提供するから、次から僕たちの分を作ってもらえないだろうか?」


 へ?


「王都を出て、たまに寄った村で料理を口にするものの、まともな食事をずっと摂ってなくてね、正直大分辛くなっててね。

あと一週間程だと思ってたんだけど、アシュリーの食事を見ていたら我慢出来なくなってしまったんだよ」


 なんかすみません……。


「大した物は作れないですけど、それでも良ければ……」


「ありがとう!」


 ノエルさんに両手を掴まれてぶんぶん上下に振られた。

 クリフさんにも抱きしめられてしまった。

 ……二人とも、過酷な食料事情だったんだね……パンとか干し肉だけだと辛いよね、やっぱり……。


 道中、食べられそうな獣がいたら捕まえる、と二人は言っていたんだけど、僕ですら感じるその殺気の所為か、獲物は全然獲れそうになかった。


「すまない…」


 クリフさんがしょんぼりした様子で干し肉をかじろうとした時、草の陰から何かが飛び出して来て、コッコを狙った。

 さすが騎士というのか、瞬間的にクリフさんの短剣がコッコを狙った影に刺さった。

 コッコは無事だ。


「チネクだな。これなら食べれそうだ。ところでアシュリー、解体は出来るか?」


 チネクと言うのは森などに生息するそんなに大きくない獣で、すばしっこいけど、肉に臭みはなく、美味しい。

 罠を仕掛けても頭が良くて、餌だけ取られて逃げられる事が殆ど。


「あ、はい。実家でやってたので」


 コッコが狙われないようにノエルさんに抱いてもらってる間に、チネクを捌いていく。

 その様子をクリフさんが見てる。見られてると緊張するんだけどな……。


「動きに無駄がない、血抜きも完璧だ。凄いな、アシュリーは」


 父が狩人な為、日常的に動物を捌く事になれてるんだよね。


「血の臭いで他の獣が来たら、お願いします」


 僕が言うと、クリフさんは頷いて無論だ、と力強い返事をくれた。

 さっきも一瞬で仕留めてたしね。さすが騎士団の副団長。


 捌いて肉の部分を水魔法でキレイに洗ってから、塩を揉み込む。

 脂身の部分はあまりなかったけど、取っておいて、焼く時に使う事にした。


「あ! コッコ! ちょっと待って!」


 ノエルさんの腕からコッコが逃げ出したようで、ノエルさんが慌てて追いかける。


 僕も捌くのが落ち着いたから、水魔法で手を洗って、コッコ追跡に加わる。


 コッコは地中に埋もれた何かを必死に掘り起こそうと、嘴で突いてる。

 何があるんだろう? ミミズ? コッコも食事の時間?

 掘るのをノエルさんと一緒に手伝っていると、土の中からノグの実が出てきた。

 生だとちょっと匂いが強いけど、火を通すと匂いも緩和されて美味しいんだよね。

 ノグの実を3つ程手に入れて、携帯用のまな板でノグの実をざく切りにする。

 小さめの鍋にノグの実を入れ、水と塩を入れて火魔法で煮ていく。ノグの実のお陰で美味しいスープが出来そう。


 15分ぐらい置いて肉に塩味を染み込ませた後、フライパンで焼き、クリフさんとノエルさんにチネクステーキを食べてもらった。


 自分だけのお皿しかなかったので、回して食べる。スープを入れるカップも同様に。


 二人は肉をひと口食べると、言葉を発する事なく、黙々と食べた。


「美味しい…!」


 僕もひと口食べる。

 うん、やっぱりチネクの肉は美味しい。まさかこんな形でチネクが食べられるなんて、幸せ!


「アシュリーの料理は、塩味だけなのに美味しいな。」


 クリフさんの言葉にノエルさんも頷く。


「そうですか?」


「うん、調理人に向いてるんじゃないかな。僕、たまに食べに行くね?」


「オレも行く」


 空腹と、久々の食事という二重の効果で、二人の中で僕の料理が美味しい物というイメージが付いてしまったような気がする!




 翌日からコッコも食材採りを手伝ってくれて、二人の殺気も控えめになったのもあり、そこそこの食材が手に入った。


「獣を食料として認識する日が来るとは。と言うかこれまでどれだけ勿体ない事をしていたのかと思い知らされた」


 感慨深げにクリフさんが言った。


「本当だよねー。でも、アシュリーがいないと駄目な気もするけど」


「まぁな」


 普通の人の魔法だと、もっと強いから料理には使えなさそうだもんね。


 コッコがキノコを採ってきて、クリフさんも探しに行ったけど、見つけて来たのが全部毒キノコで、その事を伝えたら物凄いがっかりされた。

 ごめんなさい、クリフさん…。

 でもこれ、笑い茸で、死ぬまで笑うって言われてるし、これは身体が痒くなって死んじゃうキノコだし、こっちは食べると凄まじい下痢になって三日三晩苦しむんです。

 ノエルさんが持ってきたキノコは泣き茸って言って、ひたすら泣いちゃうという、人前で泣きたくない男子には蒼白もののキノコ。美味しいんだけどね。

 その事を説明すると、クリフさんとノエルさんの顔が真っ青になった。


「キノコはコッコとアシュリーに任せる。獣なら任せろ」


 ノエルさんもうんうんと頷く。


「ありがとうございます、クリフさん」


 獣は素早いから僕には仕留められないので、クリフさんとノエルさんにお任せしたい。


 コッコが見つけてきてくれたキノコとノグをみじん切りにし、塩、日が経ってきたミルクをフライパンに入れ、火魔法で炒める。炒め終わったら、カップに移しておく。

 風魔法でミンチにしたチネクの肉をフライパンで炒めて、その上にキノコソースをかけて出来上がり。


 二人とも、今日も一言も発する事なく、僕の作ったご飯を平らげていく。

 目の端が光ったような気がするのはきっと気の所為。

 僕も二人が食べ終わった後、チネクの肉を食べる。

 うん、こってりしたキノコソースが美味しい。


「お世辞抜きでアシュリーは、絶対に良い料理人になるよ!」


 ノエルさんが目をキラキラさせて言った。

 今までも褒めてくれてたけど、今日のは特にお気に召したみたいだ。


「ありがとうございます。励みになります、そう言っていただけると」


 謙虚だなぁ、と言うと、ノエルさんは僕の頭を撫でた。


「王都まではあと2日もあれば着くだろう」


 クリフさんが言った。


「もう少し進むと視界が開けるから、王都の城壁が見えると思う」


 僕が住んでいた村とは比べものにならないぐらい大きい街なんだろうなぁ。

 本当なら踏みしめられた道で行くんだけど、僕の足が遅いのと、二人が食材確保の為に森の中を進んだのもあって、思いの外早く王都に着きそう。


 こんな訳の分からないスキルを手に入れなければ、一生足を踏み入れる事なんてなかっただろう、王都。


 僕の胸は、期待で大きく膨らんでいた。


 クリフさんとノエルさんに挟まれ、鞄の上にコッコを乗せ、森の道なき道を進んでいると、突然目の前の世界が開けた。


 平野の真ん中に、城壁に囲まれた大きな街!

 村にある、木の囲みなんかの比ではない、二階建てのお家よりも高さがあるんじゃないだろうか?!

 全然、街の中が見えない!


 行列が見える。

 王都に入る為の検問所だと思う。

 初めて王都に入る僕は、最後尾に並んで検問を受けねば。


 そう思って行列の最後尾方面に向かおうとした所、クリフさんが言った。


「アシュリー? 何処に行くんだ?」


「えっ? 列の最後尾に…」


 ノエルさんが笑って言った。


「アシュリーには必要ないよ。僕達がいるもの」


「えっ? でも、あの?」


 有無を言わさずクリフさんが僕を抱き上げると肩に乗せ、ずんずん検問所に向かう。


 えぇ?!

 そんな、皆並んでるのに、いいのかな?!


 検問所に立つ兵士の人が、クリフさんとノエルさんを見て、敬礼をした。


「お疲れ様です! ご無事のご帰還何よりです!」


 さすが騎士団の副団長達! 有名なんだ!


 兵士の人はちらりと僕を見た。


「訳あって保護した。身元は保証する」


「分かりました。お二人がそうおっしゃるのであれば、お通りいただいて結構です」


 まさかの! 顔パス?!


 クリフさんはそのまま僕を下ろしてくれない。街の人達がジロジロ見てくるから恥ずかしい!


「クリフさん、下ろして下さいっ! 僕、自分で歩けますからっ! 重いでしょうし!」


「全然重くない。っていうか軽すぎる。アシュリーは痩せすぎじゃないか?」


「街中は色んな人がいるからね。保護の為にも、このままでいさせてくれると嬉しいな」


 そう言われてしまっては、これ以上我儘は言えない。

 二人のお陰で検問を通らずに入れたのだもの。


 街の中央の広場を抜けると、巨大な建造物が見えた。

 お城だ…!


 クリフさんの肩にのったまま、お城の門の前まで辿り着くと、ようやく下ろしてもらえた。


 胸に手を当てたクリフさんは両足を揃えた。

 城門の前の兵士さん達も、同じように足を揃え、胸に手を当てる。


「任務完了につき、クリフォード・フォン・ジャーメイン、帰還した」


「ご無事のご帰還、お待ち申し上げておりました」


「副団長、あの、この子供は?」


「アシュリーという。途中の村で保護した。

第一級危険スキル持ちの子供だ」


 兵士さん達の顔色が悪くなる。


 第一級危険スキル?

 ダンジョンメーカーの事?

 でも僕、魔力がないよ?

 あぁ、でもノエルさんが、悪い奴が僕の力を悪用するかも知れないって言ってた。


 兵士さん達は恐々した顔で僕を見ると、城門を開けてくれた。


 中を少し進んだ所で、クリフさんが足を止めた。


「ノエル、師長に至急取り次いでくれ」


 ノエルさんは僕の頭を撫でると、また後でね、と言って去って行った。


「さ、アシュリー、厨房に案内しよう」


「はい!」


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