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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第一章 新しい生活のはじまり
16/77

016.パニーノはいかがですか?

 ようやく乾いたカラシナの種を、熱湯でキレイにした瓶に入れる。

 サイモンさんからもらったカラシナは結構な量だったから、種の数もかなりある。出来上がったらザックさんとサイモンさんにも渡そう。

 皆にも粒マスタードの美味しさを知ってもらいたいし。

 五つの瓶に塩を入れて、種を入れる。ネギをみじん切りにしたものと、砂糖も加えてから、ザックさんからもらった白ワインビネガーをひたひたになるように注ぐ。


「どうせ吸うんだから、もっと入れちゃ駄目なのか?」


「そうすると上手くいかないって教わったんです」


「楽できねぇなぁ」


 ブツブツ言いながら、全部の瓶の種に、ひたひたになるように白ワインビネガーを注ぐラズロさん。


「これは氷室に入れんのか?」


「いえ、このままです」


 種からぷくぷくと上がる気泡を見て、おぉ、と嬉しそうにするラズロさんに、僕も嬉しくなる。


「ラズロさんが手伝ってくれたから、きっと美味しく出来ますね」


 ラズロさんが目をぱちぱちさせた後、「ノエルの気持ちが分かった気がする」と言った。

 ノエルさんの気持ち? え? 何だろう?


「気にすんな、うん、気にしないでくれ」


「分かりました」


 明日になったら、乾燥した種がたっぷり白ワインビネガーを吸うから、またひたひたになるように継ぎ足す。

 三〜四日そのままにしておく。最近寒いから、四〜五日置いてもいいかもしれない。

 種がパンパンに膨らむまで待って、潰したら山のように積み上げて放って置く。種の殻が柔らかくなるまで数日置くと、ツーンとした刺さる臭いが落ち着いてくる。

 そうしたら味見が出来るようになる。ラズロさん、待てるかな……?




 端肉をまた煮込む。

 何処から知ったのか、端肉が更に運び込まれて来たので、僕は毎日のように端肉を煮込んでる。

 煮込んでる間は部屋が暖かくなるし、食べたら美味しいからと、皆には好評で、休憩に来る人も増えてる。

 僕が字の練習をしていたりすると、文官の人がわざわざ教えてくれたり、子供向けの本を持ってきてくれる。


「最近忙しそうだな」


 休憩にやって来たノエルさんの前に、ラズロさんがコーヒーを置く。

 ノエルさんの顔に疲労が見える。


「今年は冬が早い分、病が流行るかも知れない」


 ノエルさんはため息を吐く。


「病は風に運ばれて来るからなぁ」


 ラズロさんも困ったように頭をかく。

 本当に風が運んで来る訳ではないんだけど、人や動物によって運ばれたりするのは分かってる。でも、昔からそう言われる。


「ノエルさん、ごはん、食べれてますか?」


 ここの所ランチの時間にノエルさんは食堂に来ていない。トキア様も忙しそうなので、文字の勉強もしていない。


「食べる時間が取れなくって」


 胸ポケットから懐中時計を取り出すと、行かなきゃ、と呟くように言って立ち上がる。

 じゃあね、と言って食堂を出て行くノエルさん。


「ラズロさん、ノエルさん達はどんなことをしてるんですか?」


「冬が早いって事は、それだけ食物が足りなくなるって事だ。そうなれば魔物は人を襲う。空気が乾燥する所為で山火事も起きやすくなる。そうなったら魔法師団が魔法で火事を収束させる。魔物が群れを作り始めたり、強い魔物が現れたと聞けば騎士団も、魔法師団も出動する」


 はぁ、とラズロさんもため息を吐く。


「その為に、各地の状況を詳細に確認しておく。被害を最小限にする為にな」


 今は来るべき時の為に準備をしているのかな。

 村でも冬は魔物が攻めてくる事があって、魔女がいつも撃退してくれていた。

 僕にもっと魔力があれば、お手伝い出来るんだろうけど、出来ないし……。


「ラズロさん、トキア様に作ってるパニーノを、もっと沢山作ったら、皆食べてくれると思いますか? あれだけだと身体が温まらないから、スープも作りたいです」


「おぅ、作ってやれ作ってやれ、泣いて喜ぶぞ。早速今から作ろうぜ」


「はいっ」




 パニーノを大量に作った。コーヒーや紅茶を飲むように口に出来るスープが良いんじゃないかと言う事になった。


「ラズロさん、スープはとろみを付けた方が冷めにくいと思うんです。それと、具を潰そうと思います」


「名案だと思うけど、量が増えたら大変じゃねぇか? 大丈夫か?」


 僕の魔力を心配してくれてるみたい。


「味見しながら魔力を回復します」


「おぅ、食っとけ食っとけ」


 魔力は睡眠、食事によって回復される。後はポーションと呼ばれる液体を飲む事でも回復するみたい。僕は魔力がそもそもそんなに無いから、少し食べれば回復出来ちゃうんだけど。


 キノコのペーストをパンに挟む。それから、ニンジンの酢漬けも一緒に。スープはジャガイモとネギのポタージュ。

 粒マスタードが出来たら、パンに少し塗るとピリッとした辛味と酸味が加わって美味しいと思う。

 ラズロさんはようやく落ち着いてきた粒マスタードを、三日おきに味見しては顔をしかめてる。まだ辛さが強いみたい。

 最近、サイモンさんとデボラさんから食材が届く。食材と言っても、お店に並べなくなってきた奴。

 食堂には沢山の人が食べに来るし、物によっては保存食に出来る。フルールがとにかくよく食べるから、僕としてはとっても助かってるんだけど。


「サイモンさんとデボラさん、こんなに食材を僕に渡して、大丈夫なんでしょうか?」


 結構くれるから心配になってきてしまう。

 ラズロさんは苦笑して、問題ねぇよ、と答えた。


「王都で商売やってる奴はな、売り物を廃棄する場合、金を払わなきゃなんねぇんだよ。液体なんかはそのまま流しちまえば分かんねぇだろうけどな、固形物はそうもいかねぇだろ」


 ん? それって?


「迷惑なら迷惑って言って止めるぞ?」


「いえ、僕としては助かるんですけど、売り物なのに大丈夫なのかなって思っていたんです」


「アシュリーならそう思うだろうと思ってたけどな。

実際、フルールがよく食うもんなぁ」


「そうなんです」


 あ、これはちょっと食べるのが難しそうだな、と思うものでも、フルールはペロリと食べてしまう。


 ザックさんからも赤ワインビネガーや白ワインビネガーが定期的に届く。ビネガーを使って結構な量を酢漬けにして氷室に保管してる。

 お陰で冬に突入したにも関わらず、野菜が食べられるのはとっても嬉しい。

 流石にもらってばっかりは悪いので、ラズロさんに言って酢漬けを渡してもらってるけど。サイモンさんにも。


「アシュリーが迷惑じゃなければな、もらって欲しいって店は他にもあるんだぞ」


「えっ?」


 捨てるのにお金かかるなら、そう思う人は結構いるかも知れない。


「オレも一緒にやってるとは言え、オレがやれるのは火や水を使わない部分だけだからな。どうしてもアシュリーに頼らざるを得ないだろ? アシュリーに無理はさせたくないからな」


 ラズロさん、優しい……。


「そう言えば、ここって人は増やさないんですか?」


「それがなぁ……」


 困ったようにラズロさんが頰を掻く。


「本職で料理人をやってた奴が来たら、アシュリーの料理が食べられなくなるんじゃないか、って皆心配になっててな……」


「それは、そうだと思います。僕は見習いなので」


 頷く。


「それを嫌がる奴等がいてな、採用そのものを打ち切ったらしい」


 えっ?!


「その代わりと言っちゃなんだけどな、オレらの給金、倍になった」


 ハハ、と笑うラズロさん。


「アシュリーにとって迷惑なら、オレから掛け合うけど、どうする?」


 うーん……。


「ラズロさんは、大変じゃないですか? 僕の思い付きで振り回してしまってると思うんですけど」


「オレはアシュリーが来てから良い事しかねぇよ」


「本当ですか?」


 ラズロさんは笑って、僕の頭をポンポン叩いた。


「嘘なんか吐かねぇよ。元々定職にも就かねぇでフラフラしてた所を、暫定対応として入っただけだったんだがなぁ。アシュリーとこうして色々な料理を作るのは、正直に楽しいぜ」


 ホッとして笑った。


「良かったです」


「これからもよろしくな」


「はい」


 パニーノとスープをワゴンに乗せてラズロさんと配りに行く。断られる事もあるだろうと思うけど。

 まずは魔法師団の人達の部屋に行く。

 忙しそうにバタバタと走る人達。

 この部屋には毎日トキア様用の食事を持って行ってるから、すっかり顔見知りで、そのまま一番奥のトキア様の部屋に通される。


 トキア様の部屋に入ると、ノエルさんもいた。


「いらっしゃい、アシュリー」


 疲れているのに笑顔を見せてくれるノエルさん。でも、顔から疲れが滲み出てる。


「あの、トキア様」


「どうかしたか?」


「ご迷惑でなければ、魔法師団の皆さんにも、パニーノを食べていただきたいんですけど、駄目でしょうか?」


「それは願ってもない事だが、食堂で通常の仕事もしながらだろう? 大変ではないのか?」


「食堂は忙しくないんです。食べに来る人が減ったので」


「とは言え、食堂への人員募集は取りやめになった。負担は変わらぬぞ?」


 そう言ってトキア様はノエルさんを見た。ノエルさんがそっと視線を逸らす。ラズロさんの言ってた、採用に反対した人、ノエルさんなのか……。


「出来る範囲で頑張ります。それに食材がいっぱいなんです」


 どう言う事だ? と言いたげな顔でラズロさんを見るトキア様。ラズロさんが僕に話してくれたのと同じ内容を話すと、トキア様は頷いた。


「我等としては大変助かるが、無理のない範囲で構わない。団員達にも、食堂からの好意によるものであると伝えておく」


「ありがとうございます」


「アシュリー、この差し入れは、他の省にもいくらか回せるか?」


「はい、出来ます」


 トキア様は頷いて、ラズロさんの方を向いた。


「明日からは持って来なくて良い。こちらから取りに行かせるし、食べに行ける者は食べに行かせる。作りすぎは気にしなくて良い。とにかく出来る限り作ってくれ。

他の省には私から連絡しておく」


「分かりました」とラズロさんが頷いた。


「ありがとう、アシュリー。凄い嬉しいよ」


 ノエルさんに抱きしめられた。最近全然食べられてないって言ってたもんね。

 簡易な食事だけど、食べられないよりはいくらか良いと思う。

 それに、本当に食材が減らなくて、それなのに冬用の食材が運び込まれてて、どうしようって思ってたのは本当なんだよね。


 魔法師団の執務室を出てから、クリフさんの騎士団の詰所に向かった。

 ラズロさんがいたから、すぐに中に通してもらえた。僕はまだ、騎士団の人達とはあんまり面識がない。騎士団の人達は食堂に来ないから。


 団長室に通された。

 緊張する。騎士団長は、とってもとっても偉い人だって聞いてたから。本当だったら、僕なんか一生会えない人だって。

 大きな机に、立派な髭の鋭い眼光をした人が座っていた。あれが噂の騎士団長……?


「ラズロ? どうした? それにアシュリーも」


 クリフさんが寄ってきて、僕の頭を撫でた。大きい手に撫でられると、父さんを思い出す。


「今年の冬は過酷になる事を想定して各所が対応に当たってると聞いています。まともに皆さんが食事も取る余裕がないとも。それで、出来る範囲ではありますが、簡易的な食事を提供出来ないかとお持ちしました」


「魔法師団長がいつも召し上がっていると言う奴か?」


 クリフさんの問いにラズロさんが頷く。

 さっきのラズロさん、いつものラズロさんっぽくなかった。大人って凄い。


「そなた、名は?」


 突然団長に話しかけられてびっくりしたけど、慌ててお辞儀をする。


「アシュリーといいます」


「アシュリー、騎士団はそなたも知っての通り身体を資本とする。差し入れ、有り難く頂戴する。出来るなら多めで頼む。儂も食べたいからな」


「閣下が召し上がるのですか?」


 驚いた顔でクリフさんが団長を見てる。ラズロさんも。


「何かおかしいか?」


「閣下の御身は……」


 鼻で笑うと、団長は立ち上がって、あっという間に僕の前にやって来た。大きな身体! クリフさんより大きい?


「!」


 脇の下に手を入れられ、抱き上げられた。


「そなた、小さいな。ちゃんと食べておるか?」


「は、はい、食べております」


「レイモンドに似ておる」


 レイモンド?

 クリフさんが俯く。


「儂の息子の名だ。そなたと同じ瞳の色、髪の色をしておった。そなたより身体は大きかったがな」


 もしかして……そのレイモンド様は……。


 団長はため息を吐いた。

 悪い予感というのか、悲しい過去の話が続きそうで、身構えていると、予想外の事を団長が言った。


「儂の後など継がぬ、と言って、あろう事か女の姿で出奔しおって!」


 …………えっ?

 どうすれば良いのか分からなくてクリフさんを見る。困った顔をしてため息を吐いてる。

 色々、あるんだな、って思った。


 騎士団の詰所を出てから、ちらり、とラズロさんの顔を見る。ラズロさんが笑った。


「オレの知ってる事なら教えてやるよ」


「あの、騎士団長の息子さんのレイモンド様は……」


「さっき閣下が言ってたように、家出した。女になるって言ってな」


 なれるの……?


「ま、気にすんな。それより、アシュリーはお偉いさんの心を掴む才能に溢れてんな」


「髪と瞳の色がたまたまレイモンド様と一緒だっただけですよ?」


「そんなの建前に決まってんだろ。あのオッサン、トキア様と同じぐらい厳しいんだからな。……っつっても、トキア様もアシュリーの事を気に入ってるから、分かんねぇか」


 トキア様は厳しそうだけど、優しいと思う。

 え、でも、騎士団長に会ったのは初めてだし……。


「騎士団長は王弟だ。庶子だけどな」


 オウテイ? ショシ?


「王の腹違いの弟だ、って事だけ分かるか?」


 頷く。

 それとどれぐらい偉い人なのかも分かりました。


「団長はクリフから連絡を受けて色々調べただろ。第一級危険スキル持ちを、S級ダンジョンからの帰還時に連れ帰ってるんだからな」


 S級ダンジョン……?


「食堂に戻ったら、パニーノを作りながら教えてやるよ」


「はい、よろしくお願いします」




 食堂に戻った僕達は、早速次のパニーノを作る。


「S級ダンジョンにいる魔物は、色んなのがいるらしいぜ、オレも見た事はないからな、又聞きだぞ?」


「はい」


「魅了をする魔物もいるらしい」


 ミリョウ?


「相手の行動や考える事を、本来の人間が望まないものに強制的に変えるもんだな」


 なにそれ、怖い!


「クリフとノエルが魅了されて、連れ帰って来たんじゃないかと思われて、アシュリーの事を調べたとしても不思議はないって事だ」


 えっと……それって僕、疑いは晴れたのかな?

 ラズロさんは笑って僕の頭を撫でた。


「問題無いと判断されたからあの反応なんだろ」


 ほっ。

 僕は僕で、魅了なんて使えないけど、疑われたままはやっぱり嫌だから、それがなくなったなら嬉しい。


 ラズロさんがスープの具材を切ってくれている間に、僕は今朝届いた卵を鍋にいれ、水を張る。


「何を作るんだ?」


「茹で卵です。それと、イワシのオイル漬けと重ねたら美味しいかなと思って」


「好き嫌いは分かれそうだが、美味そうだな。味見させてくれ」


「はい、お願いします」


 イワシのオイル漬けを瓶から取り出して細かく刻む。

 茹で上がった玉子は、適当な大きさにして、イワシのオイル漬けと混ぜる。

 それをパンで挟んで完成。

 味見用をラズロさんに渡す。ラズロさんは臭みの強いものでも結構平気だから、好きかも知れないなと思う。

 パンの半分を一口で食べてしまう。


「んん、イワシの濃い味が卵で緩和されるな。このままでも美味いが、マヨネーズが入ってたら更に美味くなりそうだ」


 マヨネーズ?


「前にイースタンが食わせてくれたんだけどな、卵とオイルと胡椒を死ぬ程攪拌して作るクリームなんだけどな、これが美味いんだよ」


 それ、僕でも作れるかな?

 攪拌は、風魔法で出来るし。


「興味津々って顔だな。夜にでも宵鍋に行ってイースタンに聞いてみるか?」


「はい!」


 沢山作ったパニーノとスープは、トキア様から連絡を受けた人達に伝わったらしくて、作った分だけもらわれていった。

 食べ物が無駄にならないのは嬉しい。







 宵鍋に行くと、イースタンさんがいた。


「よっ、アシュリー、元気してたかなー?」


「はい、元気です。イースタンさんも、お元気そうでなによりです」


 僕とイースタンさんの会話を、ラズロさんが聞いて笑う。元気だったかを確認する程、顔を合わせない期間があった訳じゃないんだけど、僕は子供だから城の外にあまり出ない。


「ラズロにこき使われてない? 大丈夫?」


「おぅ、毎日こき使ってるわ」


「わー、最悪な職場だねー。こんないたいけな子供に何て事を」


 軽口を叩きながら、運ばれてきたエールを二人は口にする。僕はジュース。王都は水がキレイじゃないから、一度沸かしてからじゃないと使えない。だから水屋さんが存在する。魔法で水を出して売る。僕は弱いけど魔法が使えるから、買った事はないけど。

 煮込まれた料理がテーブルに置かれると、イースタンさんが皿に取り分けてくれた。


「いただきます」


 室内とは言え、空気は冷たい。料理から上る湯気は、良い香りをさせながら消える。

 今日の煮込みは芋煮だ。僕の好きな料理の一つ。


 口に入れた芋は、ほろほろと崩れる。染み込んだ味と、芋の甘さが口の中に広がる。


「美味しいです」


「いっぱい食べなー」


 ニコニコしながらイースタンさんが別の料理を取り分けてくれる。


「イースタン、マヨネーズの作り方をアシュリーに教えてくれないか?」


 ラズロさんがそう言うと、イースタンさんは手を差し出した。


「しっかりしてんなぁ」


 頭を掻きながら、ラズロさんは銀貨1枚を渡す。


「足りない。3枚」


「取りすぎだろ」


 文句を言いながらラズロさんは銀貨を追加で渡す。後で返さなくちゃ!


「まいど」


 イースタンさんは懐から紙とペンを取り出すと、作り方を書いていく。勉強したから、何て書いてあるのか読める! 前ならきっと分からなくて、ラズロさんに読んでもらったりしたと思う。


「はい、コレ」


 紙を受け取ると、ラズロさんと読んだ。


「なるほどな」


 コツについても書いてある。親切。


「出来上がったら食べさせてねー」


「食わせる訳ねぇだろ。このレシピの内容からして銀貨3枚はボッタクリ過ぎだ」


 えへ、とイースタンさんが誤魔化すように笑う。

 そういうものなのかと思ってたけど、どうやら違うみたい?


「あ、銀貨返そうか?」


「いらねぇよ。代わりにおまえには絶対食わせない」


「ぅわぁん、アシュリー、助けてー」


 僕に泣きつこうとしたイースタンさんの頭を、ザックさんが叩いた。ザックさん、むっとしてる?


「おまえ、今日からここでの飲み代、倍だ」


「えっ?! それ酷くない?!」


「子供相手にふっかけたおまえが悪い」


 ……これは、止めた方が良いのかな?


「それにこの前寄越した香辛料、半分しけてたぞ」


 ザックさんの言葉にイースタンさんの笑顔が固まる。

 ……なるほど。商売人は逞しいって聞くけど、こういう事なのかな? 兄さんは信用商売だって言ってたけど、そこが行商との違いなのかも?


「あれは、わざとじゃないし、だからいつもより値段下げただろ?」


 悲鳴のように必死に弁解するイースタンさんだけど、ザックさんは聞く耳を持つ気がないみたいで、奥に戻ってしまった。それをイースタンさんが追いかける。


「悪い奴じゃねぇんだけどな、たまにこう言う事をするからな、気を付けろよ」


「はい」


 と言っても、それすら気付けないかもだから、しっかりしないと。


「気にしないで肉食え、美味いぞー」


「はーい」


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