014.行商人と粒マスタード作り
ラズロさんと僕は、裏庭にやって来た。
要らない布が欲しいと言ったら、ラズロさんが城のメイドさんから使い古しのシーツをもらって来てくれた。
シーツの真ん中にカラシナの枝を置き、ブーツを履いた足で踏む。
足の下で種が弾ける感触がする。
「踏むのか?!」
「そうなんです」
扱いに困っていたサイモンさんは、店頭に出していたカラシナ以外の物も、あの後城に届けてきてくれた。
僕としては嬉しいけど、扱いを知らないサイモンさんからすれば、困る量だったと思う。
僕と同じようにブーツを履いて、シーツの上のカラシナを踏むラズロさん。
「お? 何か弾けるな」
「はい。踏むと殻から種が出てくるんですよ」
「これ、楽しいな!」
笑顔で踏んでいくラズロさん。童心にかえるって、こういう感じかな?
「そうなんです。僕、粒マスタード作りでこの作業が一番好きです」
結構な量だったけど、ラズロさんが一緒にやってくれたお陰で、思ったより早く終わらせることが出来た。
シーツの上に、黄土色の殻と、こげ茶色の種に分かれているのが見える。
枝だけを取り出し、フルールに渡すと、ポキポキと音をさせながら食べ始めた。いつも思うんだけど、フルールの食べる時に出す音、美味しそうで、困る。食べてみようかな、とか思ってしまう。
「フルールは美味そうに食うよな」
どうやらラズロさんも同じこと考えてたみたいで、笑ってしまった。
「僕も思ってました」
「あの音さ、試してみたくなるよな。絶対不味かったり、食えないもんなんだろうにさ。この前だってトキア様が持ってきた紙をシャクシャクいわせてて、リンゴでも食ってんのかと思ったよ」
それは美味しそうな音。
シーツの端を持つ。
「ラズロさん、反対側を持ってもらえますか? 振って殻と種を分けたいんです」
「おぅよー」
殻と種が溢れ落ちないように、軽く揺らしていくと、目に見えて殻だけが上に集まってくる。
「なるほどなー、軽い殻が上に寄せられる仕組みかー」
殻をフルール用の木の器に移す。フルールはまだ枝に夢中だ。かなり本数があったから、しばらく枝を食べるのに時間がかかるだろうな。
一緒に殻を器に移しながら、ラズロさんが話し始める。
「アシュリーが来てから、オレの衛生状況がすこぶる良いぜ。
溜めてからじゃないと出せなかった洗濯が二日にいっぺんぐらいの頻度で洗われるからな、それにオレ自身も毎晩風呂に入ってる。肌がスベスベになってきた所為か、女受けも良い。アシュリー様々だよ。
なんか礼をしたいんだけど、何か欲しい物はないのか?」
清潔になると女の人にモテるのか。
どんなに格好良くても、不潔だったり、においがしたら、嫌なものかもね。
「僕は村にいた時と同じぐらいに清潔に過ごさないと、どうも気持ち悪いんです。好きでやってることなので、気にしないで下さいね」
ラズロさんがシワシワの服を着なくなって、せっけんの良い香りがするようになったのは、僕にとっても嬉しい。
正直に、王都の人達は、お風呂に入れないからなのか、におうのです。買い出しに出かけたときの僕の悩みの一つだったりする。
「でもなぁ……あぁ、そうだ、風呂で使うせっけんあるだろ。あれを差し入れるってのはどうだ? 洗濯にも使えるだろ?」
あ、それは凄く嬉しいかも。
この国は表皮を削ると油が出て来る木が沢山あるからか、油が安い。
せっけんは油を沢山使うんだけど、油が安いのもあって、値段が高くない。
「助かります」
「タオルはどうする?」
せっかくお風呂でキレイになっても、皆は洗濯がマメに出来ないんだとしたら、タオルも清潔じゃないって事だから、あんまり良い事じゃない。
「タオルはこっちで用意します」
あの大きな金ダライだと、沢山洗えるから、洗濯の回数も減ったんだよね。
「分かった。マナーの守れない奴は出禁にするから安心しろよ」
マナー? あぁ、身体を洗ってから、ってことかな?
「よろしくお願いします」
シーツの上に残った種を器に移す。
「そんで? この種は直ぐに使えんのか?」
「いえ、ゴミと種を分けるんです」
器の中の種とゴミの混ざった状態を見て、ラズロさんが嫌そうな顔になる。その気持ちは分かります。
「かなりゴミが細かいぞ?」
「村では目の粗さが違うザルがあって、それでふるってました」
ラズロさんは器をじっと見つめながら、確認するように聞いてきた。
「粒マスタードってのは、美味いんだよな?」
「僕は好きです」
「よし、ちょっと待ってろ。アシュリーが好きなら、来年も作ろう。ちょっとザル買ってくるわ。そんで、一番最後に使うザルは種だけ通さない大きさが良いんだよな?」
え? ザルを買う?
「は、はい、そうですけど……」
器から種を少し取ると、茶でも飲んで中で待ってろ、と言ってラズロさんは出かけて行ってしまった。
ラズロさんもそうだし、ノエルさんもクリフさんも、行動が素早い。これが出来る男の秘訣なのかも知れない。
食堂に戻って紅茶を飲みながら、字の練習をしていると、思った以上に早く帰って来たラズロさんが、キラキラした笑顔をしていた。
ザルを買ってこんなに笑顔になるかなぁ?
「待たせたな、アシュリー!」
「あ、いえ、全然待ってませんけど、何か良いことがあったんですか?」
「掘り出し物を見つけたぞ!」
掘り出し物?
そう言って僕の前に置かれたのは、透明な器だった。
「透明な器……?」
「玻璃って言ってな。サキナ国ら辺の特産品だ」
サキナ国? 聞いた事の無い国だ。
「アシュリーはよくひき肉を作るだろう? 細かさが分からないから、蓋を開けて確認してるが、これなら外からでも確認出来るんじゃないか?」
「ラズロさん、凄い!」
受け取ったハリの器を眺める。厚みは結構あるから、風魔法でも壊れないかな? 最初は弱めで試してみようかな。
「よし、粒マスタード作り、やろうぜ!」
そうだった!
ザルを抱えるラズロさんの後ろについて、裏庭に出る。
「まずは一番大きなザルだな」
フルールが立ち上がるようにしてザルのにおいを嗅ぐ。
「これは食べちゃ駄目だよ」
おでこを撫でると、耳をぴょこぴょこさせる。
「殻、全部食い終わったみたいだぞ。はえーな」
フルール用の器の中にたっぷり入っていた筈の殻は、一つも残ってなかった。
おなかぺこぺこだったのかな?
金ダライを下にして、ザルをラズロさんが持つ。そこへ種とゴミの混ざったものを入れる。
ラズロさんの揺らす動きに合わせて、比較的大きなゴミを残して金ダライの中に落ちていく。
大きめのゴミ──ゴミって言っても、植物なんだけどね。今の僕達には要らない部分とか、カラシナの枝についてた他の植物とか、もろもろ──それをフルールの器に移すと、両手で挟むようにして食べ始めた。
今日もフルールが可愛いです。
金ダライに落ちた種たちを器に戻して、さっきよりも目の細かいザルでこしていく。
この作業をラズロさんと繰り返していく。
……ラズロさん、ザル、十種類は、さすがに買い過ぎだと思います。
十種類のザルを通したからか、ゴミは殆ど無くなった。残りは目で見て取れる程になったから、手で寄り分けていく。
「んで? この後はどうすんだ?」
「天日干しして乾かすんですけど、サイモンさんに保管されてる間に種も十分に乾燥してるみたいなので、洗います」
金ダライに種を入れる。ザラザラーと粒が金属に当たる音がして、金ダライの底は一面、カラシナの赤茶色の種でいっぱいになった。
水を魔法で注ぎ、洗っていく。これは洗濯のようにはいかないので、手でゴシゴシ洗う。
うぅ、水が冷たい!
水はあっという間に黒く濁るので、その都度、水を替えて洗う。量もあるので時間はかかったけど、水が濁らなくなるまで種を繰り返し洗った。
洗い終えた種をシーツの上に拡げて乾かす。
念の為、フルールには食べちゃ駄目だよ、と伝えておく。
「アシュリーさん、手が、手が冷たいです!」
ラズロさんの唇が紫だった。何故?!
食堂に戻った僕達は、コーヒーを淹れてひと息吐いた。
僕は放置してしまっていた紅茶に、温めたミルクを注いで飲む。
「はー、あったまるわー」
「本当ですねー」
ひと仕事終えた後のお茶、美味しいです。
「種が乾いたらどうすんだ?」
「お酢で漬けるんです。村では、日が経って悪くなってしまった白ワインを使ってました」
「ほぉ、じゃあ、ザックに聞いてみるか」
「ザックさん?」
「宵鍋の店主だよ、この前会っただろ?」
あの髭もじゃのおじさん、ザックさんっていうんだ。
「ザックさん、髭、凄いですよね」
「髭が無いと年齢より若く見えて、客に舐められる事があるらしくてな、仕方なく伸ばしてんだぜ、アレ」
確かにお店には色んなお客さんがいた。人の良さそうなおじさんから、体格の良いおじさんと、色々だった。
王都だから柄の悪い人も出入りする事もあるんだろうし、お酒が入ったら余計だよね。
「お店を切り盛りするのも、大変ですね」
「よし、コレを飲み終わったら行くぞ」
「あ、はい!」
宵鍋に行くと、当然だけどお店は開いてなかった。
裏口のドアをラズロさんが叩く。
ちょっとしてドアが開いてザックさんが出てきた。手を拭いてる。何か作業していたみたいだ。
「おぅ、ラズロにアシュリーじゃねぇか、どうした?」
「悪くなった白ワインがあったら、分けてもらえないかと思ってな」
「あぁ」
入れ、と言われて裏口から中に入らせてもらう。
良い匂いがする。仕込み中だったのかな。
この前食べた料理、美味しかったなぁ。
「どのぐらい必要なんだ?」
「あ、もらえるだけもらえると嬉しいです」
ラズロさんが瞬きする。
「いつも控えめなアシュリーが、そんなにはっきり欲しがるなんて珍しいな」
「あ、すみません。凄い図々しかったですね」
慌てて、少しで、と訂正する。
「何に使う?」
「野菜の酢漬けを作る時によく使うんですけど、普通の酢で作るよりも香りが良いんです。生の野菜を食べる時にかけても美味しいんですよ。
粒マスタードと、白ワインビネガー、あ、悪くなって酸っぱくなった白ワインのことを、僕の村ではそう呼んでるんですけど、それとオイルを脂身の少ない肉にのせて食べても美味しいんです。今度作りますね」
ラズロさんの咽喉がごくり、と鳴る。どうやらラズロさんはお腹が空いてるみたい。
「待ってろ」
ザックさんはそう言って、奥から小さな樽を持って来てくれた。
「アシュリー、その粒マスタードってのは何だ?」
「酸味のある調味料です。液体じゃないので、ソースみたいにかけたりもします」
ふむ、とザックさんは呟くと、顎の髭を撫でる。
「良かったらその粒マスタードを分けてくれねぇか。勿論代金なら支払うぜ」
「白ワインビネガーをもらうんですから、お代なんてもらえないですよ!」
「こっちからすれば捨てるしかないもんだ。それで物々交換にはならねぇよ」
でも、元は商品だし、料理にも使えるし、良くない気がする。
「じゃあ、こうしようぜ。ザックは不要な白ワインビネガーだったか?を、アシュリーにやる。アシュリーは粒マスタードをザックにいくらか分ける。ついでに宵鍋に来た時に、サービスしてもらう」
「えっ! それ、ザックさんだけが損しちゃうじゃないですか! 駄目ですよ!」
ザックさんが顎を撫でながら言った。
「近頃見ねぇ程に良い子ちゃんだなぁ、オイ。ラズロ、ちゃんと守ってやれよ?」
「おぅよ」
ほら、とザックさんが樽をラズロさんに渡す。
……!
またしても話が勝手に進んでいる気がする!
「じゃ、じゃあ、僕、宵鍋に来たら何か裏方手伝います! 洗い物とか!」
タダより高いものはないんだぞ、って父さんと兄さんがいつも言ってたし!
「おぅ、こき使ってやるよ」
ほっ。伝わったみたいだ、良かったー。
「こき使うって言われて笑顔はおかしいだろ」
「えっ、だって、僕ばっかり得をするなんて、良くないですよ」
「アシュリーの両親にご挨拶に行きたくなってきたわ」
「何の挨拶ですか?」
僕とラズロさんは、白ワインビネガーの入った樽を持って城に帰った。
宵鍋から戻る途中に、洗った種はいつ乾くのかと聞かれた。数日かかりますと答えたら、ラズロさんはショックを受けていた。
ちょっと粒マスタードに対する期待が高まり過ぎな気がするなぁ。
「最近は空気が乾燥してるので、直ぐに乾くと思います」
たぶんだけど。
「その後に白ワインビネガーを入れるんだったら、最初から入れちゃっても良くないか?」
「カビたり、味のイマイチなのになってしまいますよ?」
「早く乾けー」
思わず笑ってしまった。
ラズロさんのこの切り替えの早さ、凄いと思う。
「それで? 乾いたら白ワインビネガーを入れて?」
「どんどん白ワインビネガーを種が吸っていくので、ヒタヒタになる状態のままで、3~4日置いておきます。
膨らんでまるまると膨らんだ種を潰します。それでまた3~4日置いたら完成するんですけど、味が落ち着いてないので、更に氷室に置いておきます。食べられるかどうかは、味見しないと分からないです。種によって食べられるようになるまでにかかる時間が違うので」
「なるほどな。じゃあそん時の味見、オレもやらせてくれよ」
本当にすぐ食べたいんだね……。
「はい」
城に戻った僕達は、ザルの上にカラシナの種を並べていく。早く乾くように、くっつかないように。
「今年は冬が来んのが早いかも知れねぇな」
「本当ですね」
王都での初めての冬。
お休みの日、ノエルさんと一緒にお買い物に行く予定。この前は最低限の物しか買ってない。冬用の物はまだ全然揃ってないから、冬が来るのが早めなら、準備を急がないと。
「ラズロー!」
食堂の窓から、守衛さんが声をかけてくる。
「おう! 何だ?!」
「おまえの知り合いだって言う行商人が城門に来てる!」
「今行く!」
ラズロさんが走って駆けて行く。片付けをして、僕も食堂に戻る。
端肉でペーストを作る為に、鍋をとり出す。前は高い位置にあったのを、僕でも取りやすいようにとラズロさんが場所を移動してくれた。
あんなに端肉を買って来られてどうしようかと思ったけど、端肉を毎日のように煮ていると、食堂が暖まるから過ごしやすい気がする。
鍋に端肉を入れて、魔法で上から水を注いでいく。
沸騰させてから弱火で煮込みたい。火魔法を3つ同時に出して、鍋の下に入れる。
煮込みながら何を買うかをメモする。トキア様に教えてもらい始めて、少しずつ書けるようになって来た。
簡単なのは書いたり読んだり出来る。
スポンジは必須。駄目になった時の事も考えて、多めに買いたい。
リンさんに頼まれてる手に塗る油に、香りの良い薬草を入れたいんだけど、薬研が無くて困る。
今後も使うし、薬研も買おうかなぁ。高いかなぁ。日用雑貨じゃないから、値段が分からない。
村では魔女の家にあった薬研を使わせてもらう代わりに、魔女の分も作ってたんだよね。
当たり前になり過ぎてて、使おうとして無いと気付くものが多いなぁ。
王都は雪、いっぱい降るのかな。雪ってフルール食べるのかな?
「アシュリー?」
ラズロさんが戻って来た。
「おかえりなさい、ラズロさん。良い物は見つかりましたか?」
「いや、今から見に行く。アシュリーも厚着して来いよ。見た事無い物も結構あるから、買わなくても楽しいと思うぜ。それから買い食いもするから、フルールもな」
「はーい」
「アシュリー、いくらなんでも薄着過ぎるぞ」
厚手のコート……は無いのです、実は。慌てて村を出たから準備も出来なくて。
説明した所、ラズロさんは頭をガリガリとかいた。
「これだから坊ちゃんは……」
行くぞ、と言って歩き出したラズロさんの後をフルールを抱いて付いて行く。フルールを抱いてると温かい。
最初に入ったのは洋服屋さんだった。
「厨房に立つ事が多いから薄着なのかと思ってたら、最低限の冬着すら持つ余裕も与えてなかったとはな」
ったく、とラズロさんはブツブツ言いながら、服を見て行く。
突然振り向いて、僕の鼻先を指で突く。
「金の事を口にするのは禁止だ。言ったらくすぐりの刑だぞ」
えっ、くすぐり! それは嫌です!
ラズロさんは服を選んでは僕の身体に当てて、いいな、とか、思ってたのと違うな、と呟く。
付いて歩いてるだけなのに、疲れて来た。
「よし、決めたぞ」
ラズロさんは厚手のチュニックを5枚、ベストを3枚、ズボンを3本と、手袋、コート、靴底のあるブーツを選び、会計をさっさと済ませてしまった。
止めようとしたけど、間に合わなかった。
「コートはこのまま着て行こう。あと手袋も。後は城に届けてくれ」
店員さんは笑顔で頷いた。
「ほら」
渡されたコートを羽織る。膝まで丈があって、表は皮、中側は毛皮だった。もふもふとして温かい。
「手袋もしとけ」
手袋は子供の僕にもぴったりの大きさだった。こんな小さな手袋まであるなんて、王都って凄い。僕が村で使っていた手袋は大人用しかなかった。
「ありがとうございます、ラズロさん」
「気にすんな。請求は全部クリフとノエルに回す」
「えっ!」
「さっきも言ったけどな、もう冬が見えてるっつーのに、冬着も持たせずに連れて来たのはあの、出来の良いお坊ちゃん二人だ。アシュリーの荷物が少し増えたぐらい、大した事なかったろうに、それすら気遣ってやれてねぇんだから、良いんだよ」
「で、でも」
「この程度の気遣いも出来ないとな、女にモテないんだって事を教えてやってんだよ」
僕の洋服と女の人にモテる事がイマイチ結びつかない。
「さ、行くぞ」
僕とフルールは慌ててラズロさんの後を追い駆けた。
行商人のお店は、露店だった。お店を構えていないから、それもそうだよね。
村に来た行商人は、酒場の一角で商いをしていたなぁ。
「ラズロ」
店主っぽい人がラズロさんに向けて笑顔で手を上げる。
「おぅ、邪魔するぞ」
台の上に並ぶ商品は、見た事がない物ばっかりだった。
「今回は何処だ?」
「西だよ」
「西も色々あんだろ」
「ラズロが気に入りそうなのは、練香かな」
「ほー」
ネリコウ?
ラズロさんは練香と呼ばれる物を見てる。
見ると、香りのする小さな塊みたい。一つひとつを手に取って香りを確認してる。
「ラズロの連れの君、名前は? オレはイースタンって言うんだ」
突然話しかけられてびっくりしてしまった。
イースタンと名乗った行商人の人は、褐色の肌で、金髪、緑色の瞳をしていた。
「あ、初めまして。アシュリーといいます」
「アシュリーか、よろしくね。
どんな物が好き? ここ以外にも物はあるから、言ってくれれば探してくるけど」
好きな物……。
「今欲しいのは、薬研とスポンジと羽毛です」
「は? 羽毛? もしかして君、ロニタ村の出身?」
「!」
何で羽毛から村の名前が?!
驚いてる僕を見て、イースタンさんは目を細めて笑った。
「あはは、当たりだ。ロニタ村の人は羽毛を入れた布団を好んで、村から出た後、わざわざ羽毛を入手してまで作るって聞いた事があってさ」
「そうなんですね。僕も同じ事を考えてました」
「残念ながら羽毛の取り扱いはないなぁ。それに今から入手して作っても間に合わないし」
そうなんだよね。どうしよう。
村から持ってくれば良かったのかな……。
でもあんな嵩張るもの持って来れなかったし、羽毛布団が一般的じゃないなんて思わなかった……。
「今回の冬は諦めて、別の物を探したらどう?」
「そうですよね。来年に向けて準備します」
何でもかんでもノエルさんやクリフさんに頼りたくはないし。王都になら羽毛を扱ってるお店があるかも知れないし!
僕は結局何も買わず、ラズロさんは練香をいくつも買っていた。全部自分で使うのかな?




