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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第一章 新しい生活のはじまり

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010.ネズミ退治?

 聞くところによると、ラズロさんは厨房に来て毎朝、ネズミが罠にかかっているかを確認していたらしい。

 罠を置いた直後は順調にかかっていたネズミも、学習したらしくひっかからなくなっていた。

 ネズミがいなくなったのではなく、学習したと分かるのは、パンが食べられて、残骸だったりクズが残っているからだったりする。


「アイツら……許せん……!」


 それで今日になってラズロさんが、何をこんなに怒ってるいるのかと言うと……。


「オレが大切に取っておいたサラミを……!」


 ずっとパンばかり食べていて飽きたのか、ラズロさん秘蔵のサラミを齧られてしまったみたい。

 聞けばサラミは買うとかなり高いものらしい。


 ノエルさんと僕は隣り合わせで座りながら、怒ってるラズロさんを遠巻きに眺めていた。

 ……と言うか、あまりに怒ってるから近付けないでいるんだけど。


「ラズロが好んで食べるサラミは、普通のとちょっと違ってるんだよ。わざと周りの皮の部分をカビさせるんだ」


「えっ! わざと?」


「薄くスライスして、皮部分を剥がしてから食べるからね、大丈夫だよ」


 そうなんだ。まさかカビ部分も食べるのかと思ったから、安心した……。


「今度買ってきてあげるよ。……あ、そう言えばこの前の買い物で買い忘れた物はなかった?」


 買い忘れ……。

 洗濯用に買った金タライの蓋が欲しかったんだよね。


「この前買った、金属のタライにのせる蓋が欲しいです」


「タライに蓋?」


 ノエルさんが怪訝な顔になる。


「はい。洗濯を終えた後に脱水するのにタライに蓋をしたいんです」


 あぁ、とノエルさんが頷いた。


「洗濯の時も魔法を使うって言ってたね」


「ノエルさんは寮で洗濯をしてもらってるんですか?」


 いや、と首を横に振る、


「実家に持って行ってるよ」


「ノエルさんのお家は王都にあるんですか?」


「うん」


「コイツの家は王都では知らない者はいないぐらいの名士だぞ。貴族じゃねぇけどな」


 いつの間にかラズロさんがやって来て正面に座っていた。


「そうなんですか?」


 ノエルさんを見ると苦笑していた。

 否定しないところを見ると、事実みたい。


「王家より金持ってんじゃねぇの?」


 ?!


 それに対しても否定しないノエルさん。

 ……どうしよう、僕、お近付きになっちゃいけない人に近付いちゃったんじゃ……?


「家は確かにそうだけど、僕は三男坊だし、家は関係ないよ。己の腕だけで生きていかなくちゃならないんだから」


 認めた!


「神童さまが良く言うよ」


 どうして良いのか分からないでいると、ノエルさんが苦笑しながら僕の頰をムニムニ摘み始めた。


「僕は僕でしかないよ、アシュリー」


 ちょっと寂しそうと言うか、困ってそうと言うか、そんな表情のノエルさんを見て、今まで大変だったんだろうなって思った。勝手な想像なんだけど。


 手を伸ばしてノエルさんの頭を撫でてみた。

 びっくりした顔のノエルさんが、困ったように笑った。


「年下に撫でられたのは、人生初だよ」


 村の魔女が言ってた。

 魔法や薬は表面の傷は治すけど、心の傷は治さないって。心の傷を治すのは、時間だったり、自分の強さだったり、誰かの優しさなんだって。

 年は関係なく、傷付いてる人がいたら優しくしてあげると良いって教えられた。

 どう優しくして良いのか分からなくって、思わず撫でちゃったけど。


 ノエルさんはにこにこしてる。


「何だか気を遣わせちゃったけど、僕は家族との関係は良好だから安心してね」


「えっ、あ、ごめんなさい! 早とちりして!」


 慌てて手をノエルさんの頭から離す。今度はノエルさんの手が僕の頭を撫でた。


「秘蔵のサラミをネズミに食われたオレを慰めてくれよ」


 恨めしそうな顔のラズロさんに僕とノエルさんは笑った。


 ラズロさんのサラミは置いといて、ネズミは本当に何とかしないといけないよね。


 なぅー、と鳴いて現れたネロは、僕の足に身体を擦り付ける。小さな頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。

 毎日思ってるけど、可愛いです。


「ネズミがね、これ以上悪さすると僕達のごはんが減ってしまうんだって。困ったねぇ、ネロ」


 足元でちょこんと座っていたネロは、尻尾をゆらゆらさせて、に!と鳴いて食堂から出て行った。


「自由だなー、ネロ」


「猫はきまぐれだから可愛いんですよ」


 うんうん、とノエルさんが頷く。







 夕方、ネロが食堂のはじっこで何かしていた。

 何かを運んでいるみたいで、食堂を出たり入ったりしているのを遠巻きにしながら、ラズロさんと厨房で夕食の準備をしている。

 夜には王城で働く人たちも帰宅するのが殆どだけど、お城を無人にする訳にはいかないから、夜勤の人たちがいる。その人たち用に作る。

 ラズロさんは外に食べに行くけど、僕は夜勤の人たちと同じ夕食を食べさせてもらってる。それから、ノエルさんがよく食べに来てくれる。

 夕食の準備を終えたラズロさんは意気揚々と出かけて行った。飲み過ぎないで下さいね、と声をかけると、夜の街にあるのはお酒だけじゃないんだぞ、とご機嫌な顔をして出かけて行った。

 ……何だろう? 賭け事かな? 酒と自由となんだっけ?


 今日は平らにしたパン生地の上に、秋野菜をたっぷりとチーズをのせて石窯で焼いたもの。

 窯の中の火は、魔法で直ぐに起こせるので、以前よりも使用頻度が上がったらしい。

 いつもなら焼いて置いたものを出すから、冷えているんだけど、少し待っていてもらえれば火魔法で焼けるので、温かいものが食べられると好評なんだって。

 火を起こすのとか、火力を維持するとかって、結構大変だもんね。スキルをもらう前は薪で火を起こしていたから、大変さはよく分かる。

 魔力は弱いけど、あって本当に助かってるもの。


 ノエルさんがやって来た。

 食べに来ない日は連絡が来る。食べに来る日に連絡じゃなくって、食べに来ない日に連絡が来る。


 いつもの席に座ったノエルさんの前に、焼きたての秋野菜の具のせパンとサツマイモのスープを置く。


 「今日のスープはとろりとしてるね?」


 スプーンでスープを掬うと、とろみに直ぐ気付いたようでノエルさんが言った。


「はい、とろみをつけてみました。とろみのある方が温かさが長持ちする気がします」


 大分寒くなったきたし。


「寮の食事は、僕が帰った時には冷めてて美味しくないんだよ……その点ここに来れば温かくて美味しい食事と、もふもふとアシュリーに癒される」


 僕は癒しに入らない気がする。きっと気を使ってくれてるんだろうな。ノエルさん優しいもの。


「僕もノエルさんとの夕食、好きです」


「アシュリーが尊い」


 尊い?

 いくら何でも、それは褒め過ぎだと思う。


 サツマイモのとろみスープを飲んだ後、野菜のせパンを頬張るノエルさん。


「んんー、美味しいっ! とろけたチーズが落ちないようにするのに慌てちゃうけど!」


 僕もパンに噛り付く。チーズが熱い!

 二人ではふはふ言いながら食べる。


「美味しそうだな」


 声のした方を見るとクリフさんだった。

 クリフさんはここ数日、ちょっとした遠征に出ていたらしく、顔を見ていなかったんだよね。


「おかえりなさい、クリフさん。お城には報告に来たんですか?」


「あぁ。それで食堂に寄ってみたら二人が美味しそうに食べてるからな、我慢出来ずに声をかけてしまった」


「クリフさんも食べますか?」


「もらえるか?」


「はい、ちょっと待ってて下さいね」


 焼き上がった次のパンを、食べやすいようにナイフで切れ目を付ける。

 新しいお皿にのせてテーブルに戻る。取り皿とスープをクリフさんの前に置く。


 今回のクリフさんの遠征の話を聞きながら、焼きたてのパンを食べる。二人は健啖家なんだって。ラズロさんが教えてくれた。よく食べる人ってことらしい。


「このとろけるチーズがたまらないな」


「本当だよね。あつあつで、火傷しそうなのに、我慢出来ずに食べちゃうんだよね」


 分かる。

 溶けたチーズは、野菜や肉とも相性が良くって、美味しくて僕も好き。

 チーズと魚で何か作れないかなぁ。またデボラさんのお店に行ってみたい。


 食べ終えてみんなでコーヒーを飲んでいた時、クリフさんが言った。


「入った時から気になってるんだが、あれは何なんだ?」


 クリフさんが指差した先に、なにやら小さな山のように積み上げられたものが見える。


「?」


 ちょうど明かりの届かない所で、厨房からもこのテーブルからも死角になっている場所。

 ノエルさんと僕は立ち上がって見に行く。

 そこにはラズロさんの敵が山盛りになっていた。


 積み上げられたネズミを前に僕とノエルさんは固まる。

 ……何でこんな所に? 罠が周囲にある風でもないのに……?


 なぅー、と鳴きながらネロが身体を擦り付けて来て思い出した。

 僕とラズロさんが夕食の準備をしている時、ネロが食堂に出入りして何かやってたんだよね。

 まさかやっつけたネズミを持って来てくれてるなんて思わなかった。しかもこの量。


「今日、ネロが一生懸命何かを運んでたんですけど……これだったのかも……」


 ネロを見る。


「このネズミは、ネロがやっつけてくれたの?」


 にゃ! と勢いよく答えるネロに、もう一度ネズミの山を見る。

 かなりの数を捕まえてくれたんだと思う。


「ネロー! 凄い! 凄いよー!」


 顔を両手でそっと挟んで撫でると、ネロは目を細めて気持ち良さそうな顔を見せた。


「ネロは腕利きの猫だね。これはラズロに何かおねだりして良いレベルだと思うよ」


 僕の横にいたノエルさんが真剣な顔で言った。


「お礼なら僕がします。僕のお願いを聞いてくれたんだと思うんです。だから、僕からお礼がしたいです」


 食材を駄目にされるのを見ていて、やっぱり嫌な気持ちだったんだよね。

 ネズミだって生きてるから、食べなくちゃいけないんだけど、あの食べ散らかされた後を毎日見ていたから、どうしてもね。


「ネロは何が欲しい?」


 やっぱり猫だし、マタタビかな?

 今度王都に出たら探してみよう。


 ネロは僕の手のひらに自分の頭を擦りつけてくる。

 撫でられたいのかな?

 小さくて可愛いネロの頭を優しく撫でる。


「ありがとう、ネロ。本当に困ってたからとっても嬉しいよ。ネロは凄いね」


 にゃ! と鳴くと胸に抱きついてきて、顎にスリスリしてきた。


「!」


 ぅわぁ~っ、か、可愛い……!

 ぎゅっとネロを抱きしめる。もふもふであったかくて柔らかいです。

 はぁ、しあわせ。


「尊すぎて僕の目が潰れそうなんだけど、どうすれば良いと思う? クリフ」


「潰れるまで見た方が良いんじゃないか?」


 何か物騒な話をクリフさんとノエルさんがしてる。

 尊いから目が潰れるってどう言う事なのかな。


「ネズミを片付けないとだけど、それは僕がやっておくから、アシュリー、コーヒーのおかわりもらっても良い?」


「はい。でも良いんですか? お願いしてしまって」


「うん。魔法薬学を専門にしている知り合いがいるから、渡しておくよ」


 魔法薬学?


 うふふ、とノエルさんは笑った。


「次に会った時に教えてあげる」


 僕の知らないことが世の中には沢山あるんだって、新しい言葉を聞くたびに思う。

 村にいたら絶対に聞かなかった言葉。


「はい、ノエルさん」


 ネズミをノエルさんにお任せして、僕はコーヒーのおかわりを用意しに厨房に向かった。

 ネロはまだ甘え足りないのか、僕の肩に飛び乗る。


「わっ、ネロ、危ないよ?」


 にゃうにゃう、とネロは答える。なんだろ。大丈夫、って言ってるのかな?


「ちゃんと掴まってるんだよ?」


 なぅー、と鳴くと、僕の頭にしがみつく。


「大変だよ、クリフ! 可愛すぎて気絶しそう!」


「気絶したら運んでおいてやる」


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