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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第一章 新しい生活のはじまり
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001.ダンジョンメーカーって、何ですか?

行き当たりばったりな話になると思いますが、よろしくお願いします。


 僕の住むこの世界では、7歳になると神様から特別なスキルをもらえる。

 もらえる数は人によってマチマチで、一つしかない人もいるし、沢山もらえる人もいる。

 一体どんなスキルがもらえるんだろうとワクワクして、7歳になる前日は興奮でなかなか寝付けなかった。


 幼馴染のアリッサは、僕よりも二ヶ月も早くに7歳になった。彼女は未来を予知出来るスキルを与えられて、それが直ぐに王都の神殿に知られ、聖女として迎え入れられた。

 いつも一緒に泥まみれになって遊んでいたアリッサが、見た事もないような真っ白いドレスを着て、髪もキレイに整えられて、貴族しか乗れないような馬車に乗せられて王都に行ってしまった時は凄く寂しかったけど、自分の誕生日が近付いてきたら、そちらにばかり気がいって、アリッサの事はたまに思い出すぐらいだった。

 我ながら薄情だけど。


 僕が神様から与えられたスキルは、僕が思っていた以上に多かった。


・テイマー

・魔法

・料理

・ダンジョンメーカー


 ダンジョンメーカー??

 初めて聞いた。


 それにしても、何だか方向性がバラバラだ。

 はっきり言って僕は同い年の子達より小柄で、モンスターをテイムするなんて無理だ。

 テイマーはまず、モンスターに自分が強い事を認識させなければならない。つまり、戦うって事だ。

 出来てスライムだと思う。


 魔法はいいかも知れない! と思ったけど、暗記は苦手だ。

 呪文の詠唱なんて出来そうにない。

 ……と思ったのも束の間、村に住む魔女に魔法の力を見てもらったら、魔法使いとして使い物になるレベルではないと断言されてしまった。


 料理はかろうじて出来る。って言うか、得意だけど、ほどほどだと思う。


 それにしても、ダンジョンメーカーって何だろう?

 神父様に聞いても、うーん、と首を捻られてしまって、村中の大人も知らなかったらしく、分からずじまい。




 家族も将来の方向性が決まらない僕をどうしたものかと、持て余しているようにも見える。

 2つ上の兄は商人のスキルを与えられて、今では隣村との交易を任せてもらえるぐらいまで成長してる。


 3年の間に僕が出来た事と言えば、家畜をテイムしたぐらいで。

鶏のコッコと、牛のモッズから毎日卵とミルクをもらっては売ってお小遣い稼ぎをしているような状況。


 僕の住むロニタの村は、グリマ王国とナギーノ王国の境にあって、たまにどちらかの王都に向かおうとする旅人が立ち寄るような、何の変哲もない、これといった特産のない村だ。

 みんな優しくていい人達だけど。


 頼まれていたミルクを村の酒場に配達に行ったら、見た事ない人がいた。


 金髪碧眼で、キラキラ輝く鎧に真っ赤なマントを羽織った騎士と、銀髪に赤い目をして、ローブをまとった魔法使いのような人の二人組だった。


 村に他所から来た人がいたら、いつも質問していた。

 ダンジョンメーカーというスキルをご存知ですか?って。

 でも、あの二人には何というか質問しにくい。

 何というか話しかけるなオーラって言うのかな、そう言うのが漂っていて、とてもじゃないけど、そんな勇気ない。


「アシュリー、こっちだよ」


 カウンターにいた女将さんが僕の名前を呼ぶ。


「こんにちは、女将さん。これ、頼まれていた物です」


 モッズから採れたミルクが入ったミルク缶をカウンターまで運ぶ。


「ありがとうね! アシュリーのとこのミルクは美味しいから本当助かるよ!」


 ありがとうございます、と女将さんにお礼を言う。


 僕のモッズから採れるミルクを買ってくれるのは女将さんだけだ。

 普通はみんな自分の家の牛から採取する。だからわざわざ人から買ったりはしない。

 でも、女将さんはご主人が亡くなってからお店を一人で切り盛りしなくちゃいけなくて、子供も別の街に出ていなかったから、牛の世話まで手が回らないからと、僕からミルクを買ってくれるのだ。

 本当に、ありがたい。


「そう言えば、あの二人にはいつもの質問をしないのかい?」


 女将さんが、さっきの二人組をあごでしゃくって指す。

 僕は慌てて首を横に振った。


「忙しそうだし、いいよ」


「ははぁ、まぁ、話しかけづらい雰囲気ではあるけどね」


 理解してくれたと思った瞬間、女将さんが二人に声をかけた。


「お二人さん、ちょっとこの子が質問があるって言うんだけど、良いかい?」


「?! おっ、女将さん?!」


 良くない! 良くないってば!


 二人組はのっそりと立ち上がると、カウンターまでやって来た。

 あぁ、明らかに面倒くさそうな顔してる!


「なんだ、女将」


「アタシじゃなくてね、この子、アシュリーって言うんだけど、アシュリーが聞きたい事があるんだってさ」


 どん! と背中を叩かれて、あまりの強さに咳き込んだ。


「何だ?」


 騎士の目が僕をじっと見つめる。

 うぅ、怖い…。怖いけど、これはもう、覚悟を決めるしかないのかも。

 だって僕がいつもしてる質問を女将さんは知ってるし、僕が適当な事言っても、騙せないから。


「あ、あの、騎士様は、ダンジョンメーカーというスキルを、ご存知ですか?」


 二人の顔がぴくり、と動く。

 ひっ。僕、なんかいけない質問した?!


「何故、そんな事を聞く?」


 さっきよりも低くなった声が、騎士からかけられる。

 騎士の隣に立つ魔法使いのような人が、騎士に声をかける。


「ちょっと待って、クリフ、この子、ダンジョンメーカー持ちみたいだよ」


「何?!」


「とは言っても、魔力量が高くないから、大した事は出来なさそうだけど」


 魔法使いの人、僕の持ってるスキルが見えるの?!


 驚いている僕に、魔法使いの人は申し訳なさそうな顔で謝罪を口にした。


「ごめんね、勝手に見て。普通は知らないスキルを口にするからさ」


「い、いえ。あの、僕、このスキルが一体何なのか分からなくて、それで村に来る人に聞いていたんです。

ご存知だったら教えて欲しいんですが、ダンジョンメーカーって、何をするスキルなんですか?」


 場所を変えようか、と言われて、3人でテーブルに座ると、騎士の人が僕の為に飲み物を頼んでくれた。

 遠慮したんだけど、さっき驚かせてしまったお詫びだからと言われた。いい人!


 魔法使いの人がしてくれた説明によると。

 ダンジョンメーカーというスキルは、ダンジョンという、亜空間を作り出せるというもので、魔力量が多ければ多いほど広く、深い、複雑な構造のものを作り出せるらしい。

 かつていたこのスキルの持ち主は大層な魔力の持ち主で、恐ろしい大きさのダンジョンを作り、しかもそこに魔物を放つという事をしたらしい。

 魔物は決してダンジョンから出ては来なかったらしいけど、それはどうやら結界のような物が張られていたから問題なかったらしく、その結界が破れてしまった為、そのダンジョンから魔物が出て来て、大変なんだって。

 どうも、魔物の住む世界とダンジョンをつなぐ魔法陣があって、倒しても倒してもその魔法陣から魔物がやって来てしまって、キリがないらしい。

 数年前に結界が張り直されたお陰で、魔物がダンジョンから溢れて来る事はもうないみたい。

 ただ、一時期溢れ出た魔物達から採れた皮や角といった物を求めて、冒険者達に討伐依頼が出るらしい。


 そんな事が出来るのかー、と思いながら聞いていたら、魔法使いの人が申し訳なさそうに言った。


「さっきも言ったけど、多分アシュリーには無理だと思う。

あの…色々スキルを持っているみたいだけど、どれもそれ程ではないから…」


 事実とは言え、改めて言われると凹む。


「ご、ごめんね。気を悪くしないでね」


「いえ、事実なので大丈夫です」


「以前そのダンジョンを作ったのはクロウリーという魔術師であり、ダンジョンメーカーだったんだよ」


 魔術師? 魔法とは違うの?


 よっぽど僕が分かってない顔をしていたんだと思う。魔法使いの人が説明してくれた。


「えっとね、アシュリーも魔法をちょっとは使えると思うけど、それって大気中にあるエーテルを集めて使用するから、そのエーテルが無い場所では使えなかったりするんだよ。火山で水の魔法使おうとしても無理なんだよね。

だけど、精霊と契約していたりすると使える。だから僕のような魔法使いは複数の精霊と契約をして、魔法を使わせてもらうんだよ。日常使いするような魔法なら、精霊と契約する必要はないけどね。

魔術師っていうのは、魔力を込めた魔術符や陣を用いて魔法と同じ効果を発現させる者たちの事を言うんだけど、かなり高度な技術を要するから、数は少ないね。魔道具なんかを作ったりもする」


「へーっ」


 色んなスキルがあるんだなぁ。


「それで、アシュリーは今後どうやって身をたてていくの?」


「僕のスキル、全部中途半端で、なんとか出来るのは料理ぐらいなんですけど、この村で料理屋を開いても誰も来ないだろうし…。

テイム出来るのも牛とか鶏ぐらいで、魔法も攻撃出来るような威力も無いしで、どうしていいやら、途方に暮れてます」


 あはは、と力無く笑ったら、騎士の人が言った。


「それなら、王宮の調理場で働けば良い。

ちょうど見習いが辞めたばっかりで、人が足りないってボヤいてたからな」


「あぁ、それはいいかもね。料理の基本的な事が覚えられるだろうし、将来的に自分の店を持つのもいいし」


「えっ、そ、そんな、僕なんかが王宮の調理場で働いていいんでしょうか?!」


「誓約書は書かされるだろうが、問題ないだろう」


 魔法使いの人が困ったように言った。


「ちょっと言いづらい事だけど……アシュリーの持つその、ダンジョンメーカーというスキルはね、悪用される恐れがあるから、出来たら王宮で保護させてもらえると嬉しいんだよね」


 悪用?

 でも僕の魔力じゃ大した大きさのダンジョンは作れないって……。


「亜空間を作れれば、破落戸を匿う事だって出来ちゃうでしょ? 別にダンジョンでなければいけないって訳じゃないからさ」


 なるほど。僕には思いつかなかったけど、確かにそういった使い方も考えられるんだなぁ。

みんな頭がいいなぁ。


「そうと決まれば、親御さんに会わせてもらっていいかな? 僕達、明日の早朝にはこの村を発つつもりでいるからさ」


「お二人も王都に向かうんですか?」


 二人は、あ、と声に出して言うと、騎士の人が僕に向かって言った。


「オレはクリフォード・フォン・ジャーメイン。

騎士団の副団長を務めている。クリフと呼んでくれ」


 魔法使いの人は、にこっと微笑んだ。


「僕はノエル・オブディアン。魔法師団の副長をしてるんだよ、これでも。ノエルでいいよ」


 クリフさんとノエルさんを連れて家に帰ったら、父さんも母さんもぽかんとしていた。

 それから、ノエルさんが僕のスキルの事を説明してくれて、王家の監視下に置かねばならないと言った。


 父さんと母さんは何度も二人に頭を下げて、僕の事をよろしくお願いします、と言ってくれた。

 母さんは僕の事をぎゅっと抱きしめて泣いた。

 まさかこの村を出る事になるなんて、思ってもみなかった。

 ずっと、この村でそれっぽいスキルを手にして、生きていくんだと思っていたから。


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