その十八 ドリー盗賊団との一夜前編
「ふぅ……もう朝か」
俺は重い体を起こし少し寝不足な目を擦る。
「準備するか」
俺は机の上に置いてあるスカーフとベルトを取った。
「よいしょっと」
スカーフを首に巻きベルトを腰に巻く。
ベルトのポケットには解毒のポーションを入れる。
「よし!行くか!」
俺は1回深呼吸をして、扉を開けた。
そして俺の生死が決まる1日が始まった。
「おはようかつ。昨日はよく眠れた?」
「この顔を見れば分かるだろう」
俺は不機嫌そうにミノルを見る。
「かつちょっと顔が怖いわよ。もしかして朝弱いの?」
「今日は特にな」
もうちょっと寝とけばよかった。
「おはようございます。かつさん。今日は絶好のクエスト日和ですね」
「当然じゃ、妾は晴れ女じゃからのう」
いつも通りのテンションで2人が階段から降りてきた。
「お前らこんな日でそのテンションって……緊張感なさ過ぎだろ」
すると2人はキョトンとした表情を浮かべる。
「こんな日だからじゃないんですか?」
「そうじゃよ。緊張していざって時動けなかったら大変じゃろう。気を楽にしてればいいんじゃよ!」
そんなポジティブな考えを俺は全く受け入れられなかった。
「まあ今回はかつにとっては大切な日だものね。そう暗い気持ちになるのもわかるわ。でも、そういう日こそ自身を持って胸張って行くのよ!気持ちで負けてちゃ、勝負でも勝てないしね!絶対勝ちましょ!」
そう言って、ミノルは手の甲をだす。
気持ちで負けてちゃだめか………
「そうだな。せっかくここまで来たんだ。前向きに行こう!」
俺はミノルの手に俺の手を乗せる。
「そうですね。絶対勝ちましょう」
それに続いてリドルも手を乗せる。
「ま、妾が居れば楽勝じゃろ」
そう言って手を置こうとするのを俺は全力で邪魔した。
「な、何で邪魔するのじゃ!?」
「ちゃんと言えこのツンデレロリコン」
「な、何じゃ!?その呼び名は!」
「早く言え」
「くっ!?わ、分かった……」
そう言ってデビは抵抗するのを諦めた。
「み、みんなで(主に妾の力で)勝つぞ!」
「おい!今小声で変なこと言ってなかったか」
「知らん、そんなもん」
するといつの間にかデビが手を置いていた。
「おまっ!?ドサクサに紛れて手置きやがったな!」
「もういいでしょ。それよりもこのクエストが無事終わってシアラルスに戻ったら祝勝会でもしましょう」
「いいですね。とっておきの店を紹介しますよ」
「その時は妾はたくさん食うぞ!」
未来の話みたいになってるがそんな事を話していると気持ちが少しは楽になった。
「みんなで勝とう!」
その言葉にみんなが頷く。
「それじゃあ無事を祈ってえいえい―――」
「「「「おーーー!!!!」」」」
―――――――
「来たな」
俺達はブルームーンを守る為ドリー盗賊団より早くカジノ店に来ていた。
「よう!かつとそのパーティーメンバー今日は何しに来たんだ」
「白々しいぞ。分かってんだろ」
「そう、怒るなよ。でも、本当に守りきれんのか?あれは俺にとって大切な物なんだぞ」
「嘘つき………」
すると扉の奥からツキノが出てきた。
「ツキノ!?どうしてここに居るんだ?」
「かつ知り合いなの?」
「ああ、1回カジノで戦ったんだよ」
あの時と服装は変わらないしこの独特な喋り方は忘れるわけが無い。
「何だかつ、ツキノを知ってたのか。ツキノは俺の秘書だ。だよな」
するとその言葉にツキノが頷く。
あいつの秘書?
「もしかして俺と最初にカジノをしたのってお前がやらせたのか!?」
「おいおい、何でもかんでも俺のせいにするな。その件に俺は全く干渉してないぞ」
「そうなのか……」
どっちみち何かしらの理由で俺とやったのだろう。
にしても風間の秘書か、確かにこのおっとりとした雰囲気は風間が好きそうな感じの人だな。
「そんな事よりそこのツキノと言うやつ。さっき嘘つきと言っていたがそれはどういうことじゃ」
そういえばツキノは最初そんなことを言っていたな。
「ああ、あれはお前らの来た理由を知ってるくせにっていう意味だ。こいつどんくさいから言うの遅くなっちまったんだろ」
「そうなのかツキノ?」
するとツキノは少し躊躇うようにゆっくりと頷いた。
「なっ?」
言わされてる?
いや、少し疑い過ぎだな。
「それじゃあ俺達はもう行くぞ。今日はイベントの前日ってことで休みだ。存分に力を振るって構わないぞ」
風間を俺の方を見てニヤリと笑う。
こいつ俺が力を使えないって分かってるな。
いや、もうこの店ごと吹き飛ばすか?
そっちの方がかなり楽なのだが。
「ああ、後あまり物を壊すなよ」
ちっ!バレたか。
「それじゃあな。あ、別に警備を許したんじゃないからな。守る事を許しただけだから外に出てろよ」
「失礼します………」
そう言われて俺達は外に出た。
「とりあえず私達はここで見張ってましょうか」
「そうですね。ちょっとした軽食がありますよ」
「それまでこれ食って来るの待つか」
俺達は外でしばらくの間待機していた。
そして外で待機して11時間が経とうとしていた。
―――――――――
24時58分
「なあかつやっぱりそのベルト妾にもくれんか。そっちの方がいいのじゃ」
「これは特典で貰ったんだよ。しかも俺が買いに行ったんだからこれは俺が使うのが普通だ」
あの時特典としてもらったベルト。
最初はいらないなと思ってたが、使ってみると案外使いやすい。
リュックに入れるよりすぐにポーションを取り出せるし、多く入れることもできるからな。
「あんまり暴れて、解毒のポーションこぼさないでよ。1つしかないんだから」
「分かっておるわ!妾は子供じゃないのじゃ!」
解毒のポーションもかなり手に入りにくい為1本しか買えなかった。
だから他の瓶に解毒のポーション移し替えてなんとか4人分の解毒のポーションを作った。
「不測の事態に備えてもうちょっと買えればよかったんですけどね。購入制限がある以上しょうがないですね」
その時何やら中で物音が聞こえた。
「っ!?今のって……」
「分からないけど確認したほうがいいわね。みんな裏口から行きましょう」
あまり物音を立てられないため無言で頷く。
出切るだけ足音を立てずにゆっくり移動する。
裏口の方に行くと扉が開いていた。
「これって………」
「鍵が無理やり壊されていますね。間違いなく侵入したと思われます」
「分かった。それじゃあ行こう――――」
―――――――
カジノ店裏口前。
「はあ……人使い荒いよな。昨日とか知らせに行っただけで瓶投げつけられたらしいぜ」
「マジかよ!俺もうやめようかな……」
「やめたらやめたでやばいらしいぞ。だってな……あいつ――――」
「まて!しっ……誰かいるぞ」
「まじか……よし」
その時人影が現れた。
そしてその瞬間その人影を掴み空かさず床に叩きつけて毒の魔法を体に入れる。
「っ!?これは……人形!?」
「おやすみ―――」
「あだ―――!?」
「あぎゃ―――!?」
「頭を魔法で強打された事によって気絶させた。驚くほど作戦通りだったな」
もし俺だったらそのまま扉に入ってたな。
人形を見ると紫色に変色している。
これは一発KOだな。
「やっぱり戦ってきただけはあるな。俺よりもそういうの慣れてるみたいだ」
「まあクエストとか色々やってたから、これくらい余裕よ。とりあえずこの人は寝かせといて。かつロープ持ってるでしょ。この人縛って」
「分かった」
俺はリュックからロープを取り出し、男2人を縛った。
「ここからは2手に分かれましょう。このカジノ店は広いし毒の使い手って事は罠もあるかもしれないしね」
「分かりました。それじゃあ僕とミノルさんで行きましょう」
「え?今なんて言った?」
リドルがミノルを選んだ?
いやいやあいつがそんなこと言うわけ。
「だからミノルさんと僕、かつさんとデビさんの2手に分かれましょう」
「え?あ……ミノルはそれでいいのか」
「いいわよ。たまにはこういうのもね」
「あ、そうですか」
何か負けた気がする。
「それじゃあかつは2階をお願いね。また後で倒したらロープで縛っておいてね。連れて帰らなきゃいけないから」
「あ、ああ……」
そう言って首のついてるスカーフを口まで上げて2人で消えていった。
「…………」
「なんじゃその嫌そうな顔は」
「いや、別に」
よく考えたらリドルがこの中で組みたいマシなやつはミノルしか居ないか。
「よし、それじゃあ俺達も行くぞ」
「分かっておるわ。足を引っ張るんじゃないぞ」
俺達はスカーフを口まで上げて奥に進んだ。
奥に進むに連れて少し空気が淀んでる気がする。
「何か気持ち悪いのう」
「毒ガスとか巻かれてるのかもな。とりあえずはやく2階に行こう」
ていうかこの建物に2階なんてあったのか。
「デビ2階までの行き方分かるか」
「あそこの階段からじゃろ」
デビが指差す方向には明かりも付いていないし夜なのもあって真っ暗で何も見えない。
「ん……見えない。お前目良いんだな」
「ま、妾は最強じゃからな」
相変わらずの偉そうな態度だが事実上俺よりも強いだろう。
「とりあえずお前の言った通りあっちに行くか」
するとデビが何かを感じ取ったのか、動きを止める。
「どうした?何かあったのか」
「奥にひとり隠れておる」
「何!?どこだ」
だが誰かいるような気配を感じられなかった。
「本当に居るのか?居ないように見えるけど」
「だいぶ先じゃ階段の前付近で見張っておる。まだ妾達に気付いていないじゃろう。どうする?」
「奇襲しよう」
「ふっ了解じゃ」
俺達はこっそり後ろに回った。
「どうだデビ目の前にいるか?」
「だいぶ近くまで来たな。とりあえず妾の最強魔法で――――――」
「バカ!お前こんなところでそんな大規模な魔法使ったら店がただじゃすまないだろ」
俺は柱からこっそりと敵を覗いた。
だいぶ夜目が聞くようになったがまだぼんやりとしか分からん。
「こういう時暗視ゴーグルとかあればなぁ……」
とりあえず倒すか。
俺は手の中で小さい氷の塊を作った。
「ほいっ」
それを階段より少し遠くに飛ばした。
遠くからコンコンと言う小石が落ちるような音がした。
「ん?何だ」
その音を追うように敵が投げた場所に向かう。
「これは……石?いや、氷!?まさか―――ぐふっ!」
「ウオーター!からのアイス!」
俺は後ろを向いた瞬間、口を押さえながらなるべく音を立てないように地面に倒し、ウオーターで口の中を一旦溺れさせてから凍らせた。
「………!…………!!!」
「よし!これで騒がれることは無い。それじゃあ」
俺はアイスで作った氷のハンマーを持ち上げた。
「………!!………!―――――」
鈍い音がした途端叫ぶことなく気絶した。
「よし!気絶したか。とりあえずこのままじゃ死んじまうから口の氷を割っとこう」
俺は口の氷を割ったあとロープをだし縛り上げた。
「とりあえずこいつをバレないように隠して。おい!デビも手伝え」
「お主、昔何か危ない仕事でもしていたのか?妙に手際が良いのう」
「何もやってないから。ていうか結構押し倒すの怖かったんだからな。反撃とかされるんじゃないかとか思ったし」
今も手が震えている。
「そうかならよいのじゃが」
そう言って、デビは足を持った。
階段の後ろにバレないように隠した。
これでしばらくは見つからないだろう。
「よし!それじゃあ2階に行くぞ」
「分かっておる。レッツゴーじゃ!」
俺達は音を立てないようにゆっくり上がった。
「ここが2階フロアか」
正直暗いし行ったこともないので2階がどんなフロアか分からない。
しかも風間は奥の扉に隠したと言うが扉が多くどこに隠しているのか検討もつかない。
「とりあえずしらみ潰しに行くか?でも下手に行動すると見つかる可能性があるしな」
「大丈夫じゃ!敵が来そうになったら妾の方が先に見える」
「そうか!今回はデビ、お前が初めて輝いてる瞬間だぞ」
「おいそれはどういう意味じゃ」
とりあえずこれで敵に見つかる心配はないだろ。
「それじゃあガンガン進むぞ」
「とりあえず奥に進めばいいんじゃろ?風間とかいうやつも言っておったし」
確かに奥にあるとか言ってたが、本当にあるのだろうか。
それも嘘だったとしたら?
いや、あんまり変な事は考えないようにしよう。
「おい、止まるのじゃ敵がおる」
「まじか。敵は何人だ」
「2、3人じゃろう。守ってる訳じゃなく徘徊しておるから、避けて行けばいいじゃろう」
俺は見えないのでデビの手を繋いで離れないように付いていった。
「よし抜けたみたいじゃな」
「そうだな。………おい、そろそろ手を離せよ」
「へ?」
「へ?じゃねえよ!手を離せ、もういいだろう」
「違う!お主が手を繋ぎたいというから繋いでやっておるのじゃ。感謝しろ」
「そんなこと言ってねえよ!幻聴でも聞こえてんのか!?とりあえず離せ!」
俺は手を振り払って無理やり手から離れた。
「たく、遊んでる暇ないんだぞ」
「分かっておる。お!いい感じの扉があったぞ」
そこはちょうど2階の奥の部屋でしかも扉が少し大きい気がする。
「おい、こっちからなんか声が聞こえなかったか」
「ほんとか?俺ちょっと見てくる」
するとこちらに近づいてくる足跡が聞こえた。
「しまった!?声出しすぎたか」
「お主がうるさいからじゃ」
「な!?ああ!もう!それは後だとりあえず中には入れ!」
俺はバレないようになるべく急いで扉の中に入っていった。
「ふぅ……あぶねえ、危うくバレるところだったな」
「そうじゃのう。え――――――」
「とりあえず部屋の中だから電気付けるか。デビ?」
返事がない。
俺はテビの方を向く、だがデビの気配を感じない。
その瞬間部屋の明かりが付いた。
「まぶし!」
俺はいきなり明るくなったので目を少し閉じたがしだいに慣れてきてゆっくりと開ける。
「よお!かつ!久しぶりだな!!」
「お、おまえは!………誰だ?」
その瞬間、目の前の男がギャグ漫画ばりに椅子からこける。
「て、てめぇ……相変わらず生意気な態度だな。だがそれでこそ復讐しがいがある!」
「か、かつ……」
「デビ!」
後ろを振り向くと大柄な男がデビを押さえつけていた。
「そいつは人質だ。返して欲しければ俺と戦え」
「人質だす!返すだす!」
「くっ!お前ら卑怯だぞ」
「黙れ!勝てばいいんだよ勝てば!さあやろうぜ!」
あの大柄な男が扉の前にいるから脱出も難しい。
デビも捕らわれてるしこれはやるしかないか。
「分かった。やってやるよ」
「ははははは!!!それじゃあ復讐開始だ!」




