その十六 割引券
「お邪魔しまーす。マキノ、例の解毒剤のポーションを取りに来たぞ」
「あ、いらっしゃいませ。やっと来ましたね。遅かったじゃないですか」
マキノは暇そうに椅子の上でまったりとしていた。
「そんな遅かったか?手紙が来てすぐに来たつもりなんだけど」
「昨日出したんですけどね。もしかして遅れてたのかな?」
昨日出していたのか。
ここの手紙の届ける方法はあんまり分からないけどそれくらいかかるのかもな。
「まあそんな話は置いといてこんなのどうですか!?今流行りの魔力上強ポーションで値段が何と今なら300ガルアきっかりですよ!しかも専用のポーション入れベルトを付けて値段は変わらず300ガルアです!どうです!?」
ものすごい圧だな。
片手に魔力上強ポーションを持ってものすごい熱意で宣伝してくる。
「いやいや、今回はそんな変な物を買いに来たわけじゃなくて解毒剤のポーションを買いに来たんだろ」
「あ〜そうでしたね。すいません。つい、いつもの癖で宣伝しちゃいました。うちあんまり人来ないので人が来ること自体珍しくて。うざったいですよね」
そう言って、目に滲んだ涙を拭く。
何かそんな悲しそうにすると心が揺らぐ。
そういえばまだ2回しか来てないけど人、見たことないな。
外の近くには人をちらほら見かけるのに居ないってことはこの店自体に問題があるのか。
「はぁ……今日は買う気無かったけど、分かったよ。それってなんガルアだ」
そう言って、俺は金の入った袋を取る。
多少金は入っている。
ちょっとしたものなら買えるだろう。
「本当に買ってくれるんですか?」
「一応店に来てるんだし何か買わないと失礼だろ。だから買うよ」
「ありがとうございます!それじゃあ特典のベルト取ってきますね!」
そう言って急いでベルトを取りに行く。
本当に嬉しそうだな。
久しぶりの客なのだろう。
すると勢い余って机に腰をぶつける。
「痛っ!」
「おい、慌てんなよ。何か落としたぞ」
俺は机から落ちた物を手に取る。
「商売の上手なやり方?」
俺は本のタイトルを読むと栞が挟まっているページをめくった。
「あ………」
「これって………」
そこには先程マキノが言ったセリフがそのまま載っていた。
「この同情を誘って物を売ってみようってやつを俺にやったのか」
「は、はひ………」
「対象者が、間抜けそうな人、騙されやすい人、同情されやすそうな人って書いてあるがこれは俺と思ったのか」
「は、はび……」
こいつの返事がおかしいのは放っておいて確かめなきゃいけない事がある。
「この対象者、俺はどれに入るんだ?」
「え、えっと……」
「正直に言えば怒んないぞ」
そう言うとマキノは分かりやすいくらい嬉しそうにする。
「本当!?それじゃあ全部!」
「はい!ドーン!!」
「ぎゃぁぁああ!!目がぁー目がぁー!!」
俺の冷気をちょくに目にあたったことで痛みで転げ回る。
「たく、俺は客だぞ!そんな態度だから客が来ないんだよ!」
「ぐ!?痛いところ付きましたね。そうです!私は、商売が下手なんです!」
そう言って、開き直るように宣言する。
「どうでもいいからとりあえず解毒剤のポーションよこせ」
「私だって頑張ってるんですよ!なのにみんな私の接客がうざいとか圧がすごいとか意味分かんないこと言って買っていかないんですよ!」
「それは客の言い分が正しいと思うぞ。そんなことよりポーションくれよ」
「私の!私の何がいけないと思います!?」
すると俺の胸ぐらを思いっきり掴んだ。
ああーもう!何でこんなめんどくさいことになってるんだ。
ここはもうズバッと言っとこう。
「お前……接客業向いてないんじゃない」
「な!?」
するとマキノが崩れるように膝を落とす。
「私……接客……向いてない……」
なんかものすごく落ち込んでしまったな。
いや、でも俺も結構言われたしな、自業自得だろう。
「私……どう……すれば……」
「えっと……まあとりあえず接客をもっと練習するとか、それかもう自分から行かずにお客さんが質問するのを待つとかがいいんじゃないか」
「そんなの……出来ない……私……話しちゃう…」
「………お前それわざとやってるだろ」
するとマキノがゆっくりと顔を上げた。
「…………テヘペロ♡」
「アイス!」
「きゃぁぁああ!!目がぁー!!!」
「真面目にやれ!たく、お前は何がしたいんだ」
マキノは目を痛がりながらもゆっくりと立ち上がる。
痛いのか片目を押さえている。
「私の片目が冷やされて悲鳴を上げてるぞ!」
「中二病の演技下手すぎだろ」
「いやぁー面白いですね。はい、解毒ポーション」
そう言って解毒ポーションをすんなり渡す。
「どうしたんだいきなり、そんなすんなり渡して」
「いや、もう満足しましたので。暇だったんですよ。私」
「暇だったのか。ていうかなんか宣伝とかして人呼べばいいじゃないか」
「面倒くさいんですよねー。そういうの」
こいつやる気なさ過ぎだろ。
「まあお前の店だしお前の好きにしろよ。それじゃあ、金はここに置いておくから頑張れよ」
「はい、ありがとうございました。これあげます」
「ん?何だこれ」
その紙には割引券と書いてあった。
「え?これって………」
「これ結構お金かかるんですよね」
「え、それだったらいらない――――――」
「それではまたのお越しをお待ちしております!」
そう言って追い出されるように外にほっぽり出された。
「たく、荒いんだから」
俺は強引に渡された割引券を見る。
「期限は1か月。地味に面倒くさい期間だな」
俺はそのまま割引券をポケットに入れた。
「宿に戻るか」
―――――――――
アジト 23時27分
グラスに入った氷が傾けるたびにカラカラと鳴っている。
この音が鳴っている時が俺の唯一の至福の時だ。
「ボスいよいよ明日ですね」
「ああそうだな。明日は黒の魔法使いが必要としているブルームーンを盗む大切な日だ。お前も早く休め」
「休むだす!休憩だす!」
すると扉の外から騒がしい足音がしたかと思うと扉が勢いよく開く。
「ボ、ボス!大変――――」
「おいてめぇ!俺のブレークタイム中はノックしろって言っただろうが!殺すぞ!!」
俺は怒りの矛先に思いっきりグラスを投げつけた。
グラスが音を立てて砕け散る。
「す、すいませんボス!く、黒の魔法使いから手紙が来ていて」
「あ!?手紙?見せろ!」
あいつらからの手紙はろくなことが無いが中を見なきゃ殺される。
俺は震える手下の手から手紙を奪い取った。
「ひぃっ!?」
「ち!何だ?俺たちを付けてる奴らがいるだと?『明日俺達の計画を阻止しようとしてる奴がいる。気をつけろ』は!誰だそんな身の程知らずは!!」
封筒の中には一緒に写真も同封されていた。
「あ!?こいつらが?おいおい見たこともねぇ顔だな。どうせ小物だろう。自分の力量も知らずに突っ込んできたマヌケだな」
すると横目で見ていたケイガが驚いたように写真に釘付けしている。
「どうした何かあったか」
「この2人組……俺を屈辱的にも縄で縛り付けやがった奴らだ!」
「へぇ〜こいつらが」
ケイガとデフには以前ゴールドフィッシュの入手を任せたが何者かにやられて帰った来た。
「あの屈辱をやっと果たせるぜ!そうだろデフ!!」
「復讐だす!殺すだす!」
「ああそうだ!ぶっ殺してやろうぜ!!」
「はははははは!!!そうか、そうかそれじゃあ明日はお前らにとっても良い日になるな」
見たところ弱そうだがあいつらがわざわざ注意するくらいだ少しは警戒しておくか。
「ボス!この男女は俺がやらしてください。必ず殺して見せます」
「そうだな。お前らも前回失敗してさぞ悔しかったろう。いいぞ、やらせてやる」
「ありがとうございます!ボス!」
「ありがとだす!感謝だす!」
案外明日はつまんない仕事と思ったが面白くなってきたな。
「はははは!明日はブルームーンを手に入れ4人の命が消える日だ。楽しみだ」




