その十 ブルームーン
「それで昨日の話の流れ的にカジノ店に行くんだよな」
「そういう事になるわね。かつはそれで大丈夫?」
ミノルは、昨日のこともあり俺がカジノ店に行くのを心配そうな顔で見つめる。
「俺は大丈夫だよ。それにもう時間が無いしな。俺の私情でやめるわけにもいかないだろ?」
「かつがいいなら、分かったわ。それじゃあみんなカジノ店に行くわよ!」
「了解じゃ!それじゃあリドルよ!おんぶよろしく」
唐突な申し出に困惑するリドル。
「いいですよ」
「え?いいのか?」
予想だにしてなかった解答に思わずデビが聞き返す。
「珍しいな。リドルがデビの為になにかするなんて」
「そうですか?僕だってそれくらいの事はしますよ」
そうは言っても、あいつが素直に応じるとは思えない。
何か裏がある気がするな。
「はい。これでいいですか」
「うむ!くるしゅうない!お主も下僕にしてやっても良いぞ」
「それはいいです」
リドルの即答にデビが少し落ち込んだ様子を見せる。
「ちょっとかつあれ見て」
「ん?どうした?て、あ〜〜………そういうことか」
リドルがおんぶしているデビの背中には値札がはっきりと見えるようにぶら下がっていた。
「あれ、リドルが仕掛けたのか?」
「多分そうでしょう。リドルってこういうの好きよね」
「それについては同感としか言えない」
そんな事も露知らずデビは嬉しそうにリドルの背中で笑っている。
「リドルって不思議よね。何考えてるかよく分からないっていうか。たまに変な事言うし。昨日も知らないうちにどっか行っちゃってたし」
「え?一緒にいなかったのか」
それは初耳なんだが。
「途中までわね。でもいつの間にか出かけちゃってかつが帰ってくる5分前くらいに帰ってきたのよ」
「5分前ってさっき帰ってきたばっかだったのか!?」
それにしてはだいぶ前からいましたよみたいな感じだったけど。
「それで、リドルはどこに行ってたんだよ」
「それが言ってくれなかったのよね。その後すぐに作戦会議しましょうって言ってきたし」
「そうなのか……」
するとミノルが思い出したように続きを話す。
「あ、それとね、昨日の作戦の内容もリドルが考えたのよ」
「え?そうなのか?でも………」
あの作戦は完璧にミノルが思い付いたような話し方だったが。
「それでねその作戦を私が立てたことにしてほしいって言ってきて、それで私が考えた作戦ってふうにしたのよ」
「なんだそりゃ?なんでそんなことするんだ?」
「だから不思議って言ってるのよ」
俺達はデビをおんぶしているリドルをまっすぐ見た。
「なんかジロジロ見られてる気がするのじゃが、気のせいか?」
「気のせいですよ」
ちょっと変わったやつだと思ったけど。
「リドルって何者なんだ」
そんな俺のつぶやきにミノルは少し頷く。
「あ、着きましたよ。カジノ店」
そこには昨日と同じように光り輝いている看板を掲げている店が建っていた。
「とりあえず私が言ったことは内緒よ?」
「分かってるよ。黙っておく」
「何の話をしてるんですか?」
デビを背中から下ろしながらリドルはこちらの話に興味を抱いた。
「いや!なんでもない!」
「そうですか……」
するとリドルは少し疑問に思ったような表情を浮かべた。
しまった!少し強く否定しすぎたか!
「それより早く入りましょ!ほらほら!」
「ちょっ――――ミノル押すでない!妾のスピードに合わせろ」
何故合わせなければいけないかと思うがそれよりもミノルグッジョブ!
「ふーっ……またここに来ることになるとわな」
中はいつも通りの沢山の人で溢れかえっていた。
中には悲痛な叫びをする人と歓喜な叫びをする人などがいる。
「これは先日来ていただいた。今日も来てくださったのですか?それでしたら先日の分が残っているので今―――――」
「ああ、すいません。今日はカジノをしに来たわけじゃないので」
「と、いいますと?」
「えっと……風間という人に会わせて欲しいんですけど」
「風間様ですか。分かりました、少々お待ちください」
そう言って従業員は扉の奥に消えていった。
「大丈夫か?何か難しそうな顔してたけど」
「そうですね、昨日のこともありましたしね」
昨日のことといえばあいつらはデビの件だと思うだろうが俺はその後のことを思い出してしまう。
「まあ、大丈夫じゃろ」
「なんでお前がそんなこと分かんだよ」
「なんとなくじゃ。風間という男は何か来そうな気がする」
反論したいがホントだから反論できないのが悔しい。
そんな話をしているとやはりあの男が来た。
「かつ、まさかまたお前と会うことになるとわな」
「うるせー、別にお前に会いたくて来たわけじゃない」
「ま、そりゃそうだろうな」
こいつの顔はもう2度と見たくないと思っていたが人生はそんなうまくはいかないらしい。
「それで今日は何しに来たんだ?まさか金をくれとか言うんじゃないだろうな」
「そんなこと言うわけ無いだろ!」
「まあーまあー落ち着いてかつ。今日はちょっとした用があってきたのよ」
「用?何だ」
微妙な空気変化に気付いたのか風間が真剣な表情をする。
「この店の何処かにブルームーンって言う宝石があるわよね」
その言葉を聞いた瞬間風間がこちらを睨みつけるように見てきた。
「なんでお前らがそのこと知ってんだ?」
「それは企業秘密よ。それよりあるの?ないの?」
「………あるよ。それで、それがどうしたんだ?」
こちらを警戒してるのかすぐに場所は話さない様子だ。
「それが今誰かに狙われてるって知ってる」
「そういえばそんな話があったな。なんだ?もしかして警備させて欲しいってことか?」
「できればだけど……」
その作戦はなしの方向って聞いたのだがもしかしてを狙ったのか?
だったら無理だろ。
それは俺次第だけどな。
「そうだなぁ〜、かつがやりたいって言うならやらせてもいいぞ」
「絶対やだ!」
「だ、そうだ。諦めな」
白々しいな。
今の俺がそんな事言うわけ無いだろ。
それを分かってて質問したんだろうけどなあいつは。
「一応この中では1番信頼できるやつがかつなんで、あいつがやらないって言うならやらせられないな」
「何が信頼できるやつだ。おちょくるのもいい加減にしろよ。やらせたくなかったら最初からそう言えよ」
「俺は別にそんなこと言ってないだろ?お前次第ってだけだ」
だからそれがおちょくってるってことだろ!
と、言いたいがここで言えばヤツの思う壺だ。
ここはぐっとこらえよう。
「ふっ、昔よりは冷静になったのか?まあそれもいつまでもつかだけどな」
「ミノルもういいだろ。宝石のある場所は分かった」
「え?かつ分かったの?」
ミノルが分からないのも無理ないけどな。
「あいつは大切な物を自分で持っとく体質なんだ。だからどうせどっかしらに入れてあるんだろ」
俺の予想を聞いて風間が不敵に笑う。
「流石、幼馴染だな。俺のことをよく分かってるじゃないか」
「うるせー、幼馴染なんて2度言うなよ」
「お前が幼馴染にしないで下さい、お願いします風間様って言ったらやめてやるよ」
「じゃあもういい」
こいつと話してると頭が痛くなりそうだ。
「ミノルもう行こう。ここに居たくない」
「わ、分かったわ」
俺を1分1秒でも風間から離れたいので無理やりミノルを外に連れ出した。
「お〜い!かつ!俺は3日後イベントの前日にブルームーンを1番奥の部屋に保管しとく!守ってみろよ!お前の力で」
風間の挑発に乗る気はない。
だがこれだけは言っておかなければいけないと思った。
「最初っからそのつもりだ。俺は俺の為にブルームーンを守る」
「あっそ、がんばれよ」
そう言うと風間はそのまま奥の扉へと入って行った。
「かつ、行こっか」
「ああ……」




