その二十三 腹違い
「終わりだ」
冷たく鋭い声が倒れて居るガイスに注がれる。
二人の間に激しい戦いが起きたにも関わらず、周囲の被害は最小限に抑えられた。
それほどゼットの力が圧倒的で魔法技術が卓越していたという事になる。
時間にして約三分、だがリミットまでは使い切ることは出来なかった。
「なぜだ、完璧だったはずだ。お前が襲って来たとしても俺には対処できるプランがあった。この力をお前を殺す為に編み出したんだ。なのに何で通じなかった」
「お前は言ったはずだ。俺とお前は今まで魔法を交わしたことがない。それが俺の実力を見誤っていたことになる。俺は昔の俺よりも強い。人は成長する事を忘れていたようだな」
「成長‥‥‥?さすがは最強になる為に生まれた生物だな。あの時点が上限ではなく、まだ上を行くのか。ならなおさら、惜しいな。その力をすべて失うというのか」
ガイスはボロボロになった体を無理矢理起こそうと、歯を食いしばりながら地面に手を付く。
ゼットはその様子を最後まで見るつもりはなかった。
時間はもう迫っている、ゼットはイズナを追いかけようと扉へと向かう。
「お前が行く先は魔法が存在しない場所かもしれない。いや断定する、絶対に存在しない!だからこそその力をすべて失う事になる。そもそも半獣が生きていける環境ではない可能性だってある。これは自殺行為だ!それが分からないのか!」
聞く耳を持たない歩く足を止めることはしない。
「決着はまだ付いていない。俺を殺してみろ、腰抜けが!」
決着はもう付いている。
これ以上構う必要はない、今すぐにイズナを追いかけなければ。
「あの女を気にしているのか。どうやらあいつはお前が思っている以上の馬鹿らしいぞ」
その言葉が聞こえた瞬間、ゼットは信じられない物を見た。
そこには木の陰で隠れていたイズナの姿が合った。
どうして、なぜ?
数々の疑問が頭の中を駆け巡る中、その刹那背後に居たガイスから魔力が感じ取られた。
「死ね」
その一言が自分に向けられたものではない事は理解していた。
魔法が放たれ、それが一直線にイズナに向かって行く——————その間を割り込む様にしてゼットが身を挺して魔法を防いだ。
「っ!?」
「うおおおお!」
気付けばゼットの口から雄叫びが漏れ出ており、その怒りは今までのゼットからは想像できない程の物だった。
怒りの形相のまま、己の魔力を右手に集中させる。
「インパクト!!」
「――――――っ!!!?」
体を押さえつけたガイスの体を衝撃が駆け巡る。
体をのけぞらせるとそのまま動かなくなってしまった。
だがまだ生きていることをゼットは気付いていた。
『殺せ』
頭の中で言葉が鳴り響く。
ゼットは再び魔力を込めた、その一撃は確実に相手を殺すことが出来る。
そのまま倒れて居るガイスに向かって終わりの一撃を放とうと、魔力を展開させる。
「駄目!!」
その時、背後からいきなり抱き締められる。
それによりゼットは意識を取り戻したかのように、ハッと自分が何をしているのか気付いた。
そして自分の手と倒れて居るガイスを交互に見る。
「お願い戻って来て、一人で行かないで」
「イズナ‥‥‥ああ、大丈夫だ。ずっと一緒だ。側にいる。だから少し待っててくれ」
ゼットはイズナから少し離れると自分のローブを脱いだ。
そしてそこにある魔法陣を書き記した。
それはかつて授かったインパクトの魔法陣だった。
「お前をどうしようかずっと考えていた。だからこれはお前に返すよ」
ゼットはそう呟くと静かに目を瞑る。
そして時間にして約三秒後、目を開けるとローブに書いた魔法陣が赤い色に光るとそのまま消えていった。
「さらばだ、親友」
そしてローブをそのまま捨て去ると、そのまま風に運ばれて飛んで行った。
「行こう、イズナ」
「うん」
二人は既に閉じかけていた扉へと向かう。
その瞳には不安と期待が込められていた。
二人は強く手を繋ぎながら、その扉へと入って行く。
新たな世界に希望を見出しながら。
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「これが俺のあの島で起きたすべてだ」
長い昔話を話し終えた達成感からか、父さんは一息つく。
それにしてもすごい話だったな。
俺が来る前までのにゃんこ島の話しか、それにしても父さんたちがここに来た理由がそんな物だった何て。
「どうしたんだ、黙って。話しが難しすぎたか」
「いや、そう言う訳じゃないんだけど。ちょっと衝撃過ぎるっていうか。まだ飲み込み切れてないっていうか」
上手く言葉にしようとすると、つっかえてしまう。
というか俺の父親ってマジですごい人だったんだな。
「それでその後、父さんたちはこの世界にやって来たんだよな。それで俺が生まれて、その後に妹も生まれたんだよな」
「‥‥‥ああ」
何だ今の?
少し間が合ったような。
俺の言ってる事は間違っていないはずだよな。
それでも言いよどんだ理由って何だ。
「何か隠してる事があるの?」
「これは、お前らにずっと言えなかったことだ。隠していたわけじゃない、ただそれを伝える勇気が俺には無かった」
父さんは辛そうな表情で俯く。
こんな風に弱気な父親は見たことがない。
先程の話をしている時と言い、今日は父さんの知らない一面をよく見る。
だけどこれはあまりよくないような気がする。
それでも俺は聞かなきゃいけない、それが今日ここに来た理由なのだから。
「教えて、ここまで話してくれたんだ。最後まで聞きたいよ」
「‥‥‥分かった。親としての責任を果たさないとな」
父さんは手で顔を覆うと覚悟を決めたように、身を見開いてこちらをしっかり見る。
その空気感が俺も妙な緊張感を覚えてしまう。
父さんの言葉に身構えていると、ゆっくりとその口を開いた。
「イズナはこの世界に来て、お前を産んだ後に死んだ」
「‥‥‥え?」
「妻とはこの世界で出会い、そして花恋が生まれた」
その言葉の一つ一つを理解しようとして、俺は必死に耳を傾ける。
頭の中で情報が整理されないまま、父さんから次の言葉を聞く事になる。
「お前と妹は母親が違うんだ」
この日、俺はずっと母親だと思っていた人物が母親ではない事を知った。
俺の母親は俺が知らない間に死んでしまっていたのだ。
 




