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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
最終章 異世界で最強を目指す物語
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その二十一 家族になれたら

遠方から多くの人の叫び声が聞こえて来る。

森を挟んだ場所にある為、現在のゼットの居場所では向こうの様子を確認する事が出来なかった。

ゼットは静かに怒りを感じながら、対峙しているガイスを見る。

まるですべてが自身の思い通りであるかのように、ガイスは余裕たっぷりに笑みを浮かべる。


「守る者が多いな。それとも見捨てる者がと言った方がいいか?」

「何を言っている」

「自分を守護者だと言っておきながら、お前は結局この島を、そして人々を捨てていくと大体的に宣言したわけだ。そして今、自分一人だけこの島から逃げようとしている」

「発想が飛躍しすぎているな。考え事をし過ぎると妄想の域に行くのか。残念だが、俺は誰一人見捨てない。そこを退け」


ゼットは今までガイスに対して明確な敵意を示したことはなかった。

だがこの時ばかりは明らかな敵意をガイスに示す。

ガイスは本気でゼットが怒りを感じているのだと知り、さらに煽るように声を出す。


「見捨てないというのなら選んでみるがいい。今のこの瞬間、着実に多くの人々が犠牲になっているぞ。扉の破壊かそれとも人命救助か。早く選ばなければ勝手に選択肢が消えるぞ」


ガイスは展開していた魔法陣を扉に向かって放つ。

それは巨大な炎の塊で、その一撃はあの扉に致命的な損傷を促すには十分な威力を誇っていた。

下手に触れれば暴発し、周りに被害が及ぶことをゼットは分かっていた。

かといって対処が遅れると、爆発範囲に扉も巻き込まれる。

ゼットは思考する、そして結論を出すまでにかかった時間はおよそ三秒。


「お前こそ長年一緒に居たのに俺の事が分からないのか。全部守る、守護者ってのはそう言うもんだろ」


ゼットは風の魔法で空中を飛ぶと放たれた火球へと迫る。

火球の進行速度は、現在の位置からおよそ五キロ離れている扉にたどり着くまで一分もかからない。

それほどのスピードで飛んで行った火球に対し、ゼットは魔法陣の展開と発動では間に合わないと判断。

浮かせた体を火球へと向かわせる。

その様子を下から見ていたガイスは全てを察する。


「ああ、なるほど。無茶なことをするな」


すでに火球と扉までの距離は一キロを切っていた。

ゼットはさらにスピードを上げて、火球との距離を縮めていく。

そして伸ばした手が火球へと届いた。


「っ!」


猛烈な熱気と炎が渦巻いている中、そこに手を突っ込む。

通常なら一瞬にして手はただれ、数分の内に肌は焼け焦げて骨は一欠けらも残らない。

それでもゼットがただ火傷のみで済んでいるのは、それほどまでに魔法に対する耐性が強いからだ。


「ウォーターインパクト!アイスインパクト!」


ゼットは左右で別々の性質を持ったインパクトを発動させる。

水の魔法で内部から威力を殺し、さらに氷の魔法で暴発させる前に固める。

それによりゼットの魔法は完全に殺された。

スピードを失ってただの氷の塊となったそれは、ゆっくりと落ちていく。

だがゼットはそれを許さなかった。

自身を浮かせている風の魔法の範囲を広げて、氷の塊を浮かせて見せた。

そしてその塊を現在人々が襲われている地点へと持って行こうとする。

すべてを救うと誓ったゼットが下した決断。

ガイスの攻撃すら利用しようとした直後、孤高の王はほくそ笑んだ。


「分かってないのはお前だ。俺がその判断を予想できないと思ったのか」


凍らせたはずの火球が再び熱を持ち始める。

それはゼットからしたらありえない事だった。


「これは魔力‥‥‥?まさか!!」

「あらかじめ貯めておいた魔力だ。その魔法は二重発動を前提として作り出している」


氷の殻破った瞬間、炎が再び生まれる。

そしてそれは無実の人々へと向かって行く。

ゼットは再びそれを凍らせようとするが、すでにその炎はゼットの元から離れている。


「待て!!」

「すべてを守るだって?笑わせないでくれよ。そんな夢物語あるわけないだろう。お前は自らの手ですべてを壊すんだ」


ガイスは再び魔法陣を展開させる。

それは雷の魔法で先程よりも速度が速い物だった。

それにまだゼットは気付いてない。


「これでおしまいだ」


その言葉と同時に魔法は放たれた。

それにゼットが気付いた時にはすでに雷の魔法は扉に直撃する直前だった。

ガイスは勝利を確信した。

それがまだ確定していない勝利だというのに。


「「まだだぁああああ!!」」

「っ!?」


直後、二つの魔法がそれぞれの魔法を吹き飛ばした。

雷の魔法は岩の魔法に阻まれ、炎の魔法は風の魔法で打ち消された。

ガイスはすぐに視線をその魔法を放った人物へと向ける。

それはゼットも同様だった、だが互いの反応は真逆であった。


「「ブライド、デュラ‥‥‥!!」」


片方は感激し、もう片方は疎ましく思った。

尊敬と憧れ、憎悪と嫌悪。

ブライドとデュラが、その二人に向ける視線もまた真逆だった。


「師匠、ここは俺達に任せてください」

「師匠にはいかなきゃいけない場所があるんだよ。もう直に扉は開く、ちょっかい出してくる馬鹿どもはもう静かにさせた。後はあんたらが扉を潜るだけだ」

「最愛の人ならすでに安全な場所でメメ博士と一緒に待ってもらってるわ。早く迎えに行ってあげて」

「金魚の糞共が。邪魔をしやがって」


合流した三人に対してガイスは明らかに疎ましそうに言葉を吐く。

ゼットは地上に降りるとガイスと対峙している三人を見る。


「お前らどうしてここに」

「あっちの方は片付けたんで、こっちの様子を見に来たんです。どうにもあの男の姿が見当たらないから、ゼット師匠にちょっかいかけてるんだろうと思ってたんですけど。予想通りって所かな」

「俺達の役目は師匠を安全に送り届ける事。それなら最後の最後まで手伝わせてください」

「まだ何も終わってないんだから。これから先、今よりもっと輝かしい日々を送るのにこんなサプライズは必要ないでしょ。ただ笑って見送りしたいだけなんだから」

「と言う訳でテメエは邪魔だ。島の奴らをそそのかして扉ぶっ壊そうとしたみたいだが、それは無理だぜ。ガイス、最後の最後でミスをしちまったな」


ブライドのその言葉にガイスは明らかに怒りを見せる。


「ミスだと?ゼットの周りでしか粋がれないガキどもが、調子に乗るなよ。自分でも何かを成し遂げられるとでも本気で思ったのか。この世界はそんな甘くないんだよ。少し他人よりも魔法が扱えるからと俺と並んだ気でいるのか」

「お前こそどれだけ自分大好きなんだ。並んだだって?ちげえよ、もう超えてんだよ。ゼットさん、早く行ってくれ。あと十分もすれば扉が開く。ここは俺達に任せろ」

「ブライド、デュラ、クリシナ。感謝する。最後の最後までお前らには迷惑をかけたな」


その言葉を受けて、ブライドはゼットの方を見る。


「ゼット師匠、俺はあんたに感謝してるんだ。ゼット師匠のおかげで今こうして誰かと生きて行ける。それを教えてくれたのは紛れもなくあんただ」


ブライドはいつもよりも表情を柔らかくさせる。

それを見てゼットは少し驚く。


「俺、実は親を殺した事があるんだ。そいつがどうしようもないクズ野郎でよ。他所で女作って出て行ったくせに、捨てられたからって借金作って戻って来やがったんだ。今でもよく思い出せる。玄関の前で地面を頭にこすりつけて、涙でぐちゃぐちゃになった顔で何度も母親の名前を呼んで謝ってた。それに対して母親は許して、もう一度家に居れたんだ」


ゼットはブライドの言葉に耳を傾ける。

そのままブライドは話しを続けた。


「だが謝ったのは最初だけで、あいつは家で威張るようになった。自分で作った借金の癖に母親に朝から晩まで働かせて、自分はギャンブルでその金をドブに捨ててた。借金取りが来た時にはいつも母親に対応させて、何かあればすぐに泣きついて金をせびってた。そう言うクズに振り切った人間って言うのは、妙に相手の心に入り込むのが上手かった。俺の母親もそいつを見捨てられずにいた。見捨てればよかったのに、それを分かっててあいつは」

「ブライド‥‥‥」

「そしたらある日、ギャンブルに負けて苛立っていたそいつが母親に暴力を振るっていたのをちょうど家に帰って来た時目撃した。今までと比にならないくらいの暴力を見て、思わず俺は包丁を握りしめて何度もそいつを刺した。血まみれになりながら、母親の方を見た時俺は褒めてもらえると思った。母親を守った自分が誇らしかった。だけど現実はそんな上手くはいかなかった」


ブライドはゆっくりと自身の手を見つめる。

そして何かを掴むようにしてその手を握りしめた。


「母親は死んだ父親を抱きしめて、それを殺した俺を憎しみを込めた視線で見て来た。それを見てすべてを察したよ。母親が本当に愛していたのは父親で、俺に対する愛情はただ父親が居なかった時の穴埋めに過ぎなかった。クズを愛する奴も同じくクズだってな。それを理解して俺は、母親も殺して金だけ奪って逃げた。その後、俺は裏社会で生きていく内にこんな場所に来ちまった」


ブライドは握りしめた拳を広げると、ゼットの方を見る。


「ここに居る奴らは皆同じく普通に生きられなかった人達だ。心に傷を負った者同士仲良く出来るなんて、そんな事ははなから望んでなくて。傷のなめ合い何か意味がないって分かってた。家族ですら理解出来ないのに、他人何か理解出来るはずがないと。いつ裏切られるかも分からない奴に、背中を見せれるのかってな。でもあんたは違った。あんたは俺達に背中を見せてくれた。それが俺にとって、とても頼もしかった。あんたみたいになりたかった、あんたみたいに生きて見たかった。自分だけではなく他人を救える強い男になりたかったんだ」

「俺は強い男と言う訳じゃない。ただ周りの奴らが少しでも健やかに生きていけるように。俺のすべきことをしただけだ」

「そう言う所だよ。ゼット師匠が共同生活を提案した時、正直言うとあまり乗り気はしなかった。他の奴らと一緒に住むことを俺はあんまりよく思ってなかったから。それでもこいつらと過ごす毎日は、俺が忘れていた家族との時間を思い出させてくれた。誰かと一緒に過ごす大切さや楽しさを、もう一度感じることが出来たんだ。ゼット師匠とクリシナとデュラとメメ博士、俺は皆と過ごせて、出会えてよかったよ」


それはブライドの心からの答えだった。

それを聞いてゼットは安心したように笑みを浮かべる。


「ありがとう、おかげでもう心残りはない。ブライド、この島をお前に任せる。じゃあな」


ゼットは感謝の言葉を述べると満足気にその場を去っていた。

そしてそこには五人しか残っていなかった。


「随分と大人しかったな。昔話を聞くのが好きなのか」

「最後の最後に同情心を持って欲しかったみたいだからな。可哀そうだから言わせてやったんだよ。それで遺言になるだろうからな」

「遺言かどうかはこれから決める事だろう」

「私達があなたの醜い野望を止めてあげる」

「かかって来い。自らの立場を分からせてやる」


こうして戦いの火蓋は切られたのだった。



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