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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
最終章 異世界で最強を目指す物語
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その十三 正しき力

「どうやら王としての自覚が出て来たみたいだね」


仮会議場兼作業場として利用している家にガイスがやってくる。

ここに来るのは城の建設を始めてから一か月後の事だった。

書類を纏めていたゼットは久しぶりの来訪に驚いた表情を浮かべる。


「もうしばらくは帰って来ないんじゃなかったのか」

「町から噂が聞こえて来てな。反対派の声が鳴りやみ結束が固くなったと。街の様子を見る限り本当だったな」


ガイスは普段よりも上機嫌な様子で飲み物を入れたカップを机の上に置く。


「それでどうなんだ。この街が完成した暁には王の誕生を祝う戴冠式をするのは。いや、元々王は居ないのだから王の誕生を祝う誕生式の方がいいか」

「ガイス、俺はこの島の守護者であるが絶対的な存在ではない。王という肩書はお前が受け持てばいい。俺にはすでに役割がある」

「まあ、まだ城の完成は先だ。それに問題はまだ山積みだ。お前が説得した者以外にも協力を拒んでいる者達が居る。元A組、俺達と同じ起源の半獣、我が強い強者たち、奴らは独自に行動をし自由気ままにモンスターを狩り過ごしている。危害を加えなければ放っておいても問題ないが、どうする守護者」

「一人、気になる奴がいる。もしかすると危険が及ぶ可能性がある」

「危険?」

「ああ、だから少し気になるんだ」


ゼットは書類を纏めるとすぐに出かける準備をする。


「何処に行くんだ」

「作業の手順書を配って来る。それと近々開かれる魔法講義の内容をまとめた物もな。ガイスも参加するだろ」

「そっちの方は任せる。俺は城をいち早く完成させたい。あの城はこの街のシンボルになるだろうな」

「そうか、ならこっちの事は任せてくれ。講義の場所の確保と人数分の席、さらには講義の宣伝用のチラシとそれを配る人員の確保と抗議の補助をしてくれる者も必要だな」

「嫌味を言えるようになったのか。成長したな。分かった、予定を教えてくれたなその講義の人員確保とチラシ配りを手伝おう。俺も可能な限り手伝うさ」

「助かる」


ゼットはガイスに対して優しく微笑むとそのまま出て行った。

必要な作業工程を教えた所で早速ゼットはある人物の元へと向かう。

するとその目的の人物は一人岩に座り込んで空をボーっと眺めていた。


「日向ぼっこか?今日はあまり天気は良くないぞ」

「特に理由はない。何をしに来たんだ」

「話をしに来た。こっちに降りて来て話さないか」

「断る。俺は話し合いは好きじゃない。一人で居る方が気が楽だ」

「そう言うな、弁当を持って来た。一緒に食べないか」

「手料理をするタイプには見えないな」

「正解だ。これは俺の知り合いが作った。絶品だぞ」


ゼットは持って来た木材で作った弁当箱を開けて見せる。

それは今の環境では考えられない程に色とりどりの食材で作られた弁当だった。

そのあまりの出来栄えにデュラは思わず喉を鳴らす。


「食いたいか?力作らしいぞ。珍しく爆発せずに作ったんだ」

「爆発?」


その言葉にデュラは一瞬食べるのを躊躇う。

その変化に気付いたゼットは慌てて弁解をする。


「ああ、いや気にしないでくれ。言葉のあやだ。ほら、食いたいだろ。俺が一人で食べてもいいんだがな」

「俺はモンスターか何かだと思っているのか。ご飯でつられるほど単純じゃ」


その時モンスターの方向と聞き間違えるほどの音がデュラのお腹から鳴り響く。


「何日ぶり何だ」

「三日ぶりだ」


ゼットから受け取った弁当をすぐに食べ始める。

その様子をゼットは静かに眺めていた。

その視線に感づき、デュラは少し恥ずかしそうに睨みつける。


「食べる様子を見るのが趣味なのか」

「そう言う訳じゃないが、随分美味しそうに食べるなと」

「意味が分からないな。本当に何しに来たんだ」

「話だと言っただろ。弁当が食べ終わってからでいい。時間はいっぱいある」


デュラが弁当をすべて食べ終わるまでそんなにかからなかった。

弁当箱の中身はまるで新品の弁当化の様に綺麗な姿に戻っていた。


「それで話って何だ」

「講義を開くんだ。手伝ってくれないか?」

「講義?何の講義だ」

「魔法の講義だ。この島の人々に魔法を教えたい。モンスターがはびこるこの世界では力は必要だ」

「モンスターを蹂躙する為か」

「自分を守る為だ」


その言葉にデュラは微かに動揺する。

それはデュラの心の中ではそれはあまりにも傲慢な考えだったからだ。


「力は溺れる物だ」

「そうだな、だが使い方をきちんと教えれば正しい事に使うはずだ」

「人を信じすぎだ。姿は変わろうと中身は変わらない。俺は見て来た、人間の欲深い醜悪さを。この姿こそ答えなんじゃないのか」


自らの尻尾と耳を恨めしそうに触る。

デュラは実験を経た半獣となった、皆が通る道であり皆が知る苦しみ。

それは一秒だって忘れることがない悪夢、そこから解放されたとしても消えるわけではない。

奥歯を噛みしめるように引きつった顔をするデュラに対して、ゼットは優しい声で話す。


「それでも俺は人を信じたい。弱く、脆く、浅ましい存在だろうとも、その奥にある尊い魂を俺は信じたい。人は人を大切に出来る弱さと強さを持った者なのだから」

「随分と理想語るんだな。まるで羨ましがってるようだ」

「そうかもしれないな。それでどうだ、一緒に抗議に参加してくれるか」


デュラは少し考え込むように蓋を閉め終わった弁当箱の縁を触る。


「何で俺なんだ。他にも適任が居るだろう、いつも一緒に居る奴はどうした」

「ブライドの事か?あいつは現場監督だ。じゃなきゃ俺はこうして自由に動けない」

「人任せか、あまり良いとは言えないな」

「気分を害したのなら済まない。俺に仕事をさせたいのなら講義の依頼を受けてくれないか」

「そう言う頼み方はよくないな。それともう一度聞く、なぜ俺なんだ」


ゼットは一拍置いてからその答えを口にした。


「デュラが魔法を使えるからだ。いや、言い方を変えよう。魔法を作れるからだ」

「っ!」


その言葉はデュラは明らかに動揺する素振りを見せる。

それを見て続けてゼットは喋る。


「魔法を使える者は少ない。さらに魔法を出しても魔法陣を生み出す者はほとんどいない。俺が知る中で唯一魔法陣を生み出せる人間だ。それはこれから先の正しき力を使うには必要な技量だ。力を貸してくれないか」


デュラはゼットの言葉を聞き疑いの目で見続ける。

そして自身の中で答えを見つけた時、ゆっくりと立ち上がった。


「その言葉が本心かどうか俺に証明してくれ」

「どうやって」

「今から俺と戦え、本気で正しき力を欲しているのなら」

「いいぞ、ただし手加減はさせてもらう」



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