その十 想像力
「さてと、あいつが戻ってくる前に済ませたい所だ」
巨大な火山型のモンスター、奴の存在自体がこの環境を作り出したとしたら。
「あいつを倒せればこの場所もいくらか住みやすくなるな」
もう少し先にある山はモンスターではないよな。
だとしたらここら一帯がモンスターによって作られた土地になる。
さすがにあのレベルを同時に相手するとなると色々と面倒な事になるな。
「っ来るか」
その瞬間、目の前のモンスターの体が震えだす。
それと同時に背中にある火山が震えだした。
火山を噴火させて溶岩の攻撃をするつもりか。
あの火山口は封じた方がよさそうだな。
俺が魔法陣を展開させようとした時、モンスターの口が大きく開いた。
何だ、何か放とうとしてるのか。
火山と言い、そこが見えないな。
先ずは口を閉ざしてからすぐに上の火山口を。
「っまずい!」
魔法陣を展開しようと準備した瞬間、そのモンスターが放とうとするエネルギーを感じ取った。
自然のエネルギーに近い、これはさすがに直撃はまずいな。
直感的にそう考えてすぐさまその場を離れようとした時、ふと考えがよぎる。
これが直線上に放たれた時、その先に人が居た場合どうなるか。
「くそ——————」
すぐさま熱光線が放たれると同時に岩の魔法を展開させる。
形を変えて軌道を上空に逸らそうとする。
「ぐっううううううう!!」
まずい、岩が焼かれる。
追加で風の魔法を展開して、何とか地上に重ならない様に。
そう思った瞬間、岩が破壊されそのまま熱光線をもろにくらった。
「‥‥‥?」
生きているのか?
どれだけ飛ばされた、どれだけ気絶してた。
ぎりぎり熱光線の軌道は変えられた。
だが直撃は避けられなかったな。
すぐに戦線に復帰しなければ。
「っ!」
立ち上がろうとした時、体が急にがくっと下がる。
通常魔法は身体に影響するような効果を持つ物は存在しない。
その為傷の回復をすることが出来る魔法を作る事は出来ない。
だが半獣は人間とは違い並みの攻撃では傷一つ付けられない程頑丈に出来ている。
あらゆる環境に適応できるように出来ており、普通の人間では耐えられない程の極寒や灼熱もある程度耐えることが出来る。
さらに薬によって半獣化された者と違い生み出された時から半獣として生きていく者はもう一段階上の頑丈さを誇っている。
加えて自然回復も人間よりも遥かに優れており、軽い傷なら数分、骨折でも1日あれば完治することが出来る。
それも人工的に生み出された半獣はさらに高い治癒力を持っている。
だがそれは過度の攻撃では無い物に限る。
地上を一瞬にして焼き尽くす程の一撃、それをもろに喰らえばいくら頑丈な半獣と言えど無傷ではすまない。
部位の欠損はいくら最強の半獣といえど治すことは出来ない。
熱光線をもろに受けたその体には右腕が焼き切れていた。
「火傷はさすがに治らないかな」
周囲の環境を変えるほどの熱を持った怪物。
今のあいつらには荷が重いな。
ようやく理解した、俺が生まれた意味とその役割を。
俺は守護者だ。
この島で生きていく人々を命を懸けて守る。
それが俺に出来る唯一の事。
片腕でゆっくりと立ち上がる。
出血はない、熱での攻撃が傷口を焼いてくれたようだ。
だが動き回れば出血は免れないな。
数十キロ先に奴の姿が見える。
「何だあれは」
あのモンスターの背中にある火山から何かが飛び出してきている。
いや、這い出て来ていると言ってもいいだろう。
もしかしてあいつ、何かを生み出しているのか。
「勘弁してくれ、こっちは満身創痍だぞ。それでもやるしかないか」
俺はその瞬間、風の魔法で一気にモンスターの元へと飛んで行く。
さっきは魔法を出現させて最適な形へと変化させようとしたが、間に合わなかった。
素早い攻撃に対して二手必要とする今のやり方では遅れが生じる。
ならどうするか、答えはシンプルだった。
魔法は魔法陣を介して発動させる事が出来る。
魔法陣は設計図だ、ただ魔法を発動するだけではなく魔法を最適な形で展開させる事が出来る。
それを理解していなかった、だが今なら分かる。
全身に巡る魔力と頭の中で想像できる魔法の解釈、それを魔法陣へと落とし込め。
相手が災害レベルの力を行使するなら、こちらも同じレベルの魔法をぶつければいい。
変化も発動もすべて一括で行え。
その時、火山口から出て来た大量のモンスターが一斉にこちらに向かって来る。
そしてそいつらに向かって魔法陣を展開させる。
「ディザスタ―トルネード」
それは一瞬の出来事だった、全てのモンスターが一瞬にして細切れになった。
巨大なモンスターは雄叫びを上げる。
再び熱光線を放とうと口を開いてエネルギーを貯めている。
インパクトは内部に衝撃波を発動させて弾き飛ばす物だ。
内側からの爆発はどんな生物でも耐えることは出来ない。
だがあれだけの巨体だと、俺のインパクトが致命傷になる事は低い。
なら、どうするか。
今の俺なら分かる。
「インパクト」
「ッ!?ウギャアアアア!」
熱光線を放つ直前に顎下にインパクトをぶつける。
内部ではなく外側からの衝撃、口を閉ざしたことで口内で熱光線が暴発し苦しそうに声を上げる。
怯んだ隙に畳みかける。
「ディザスタ―ブリザード」
周囲が一瞬にして凍結される。
だがモンスターはすぐさま背中にある火山を噴火させて熱を溶かす。
それでも周囲の温度が冷えた事でさらに動きが鈍くなった。
これなら行ける。
あのモンスターの体は並みの一撃では傷一つ付けられない。
特に背中の火山はかなりの硬さを誇る、それ以外の生身の部分もそれなりの硬さがあるだろう。
だがそれでも一部だけ、弱点の様な部分がある事を知って居る。
普段は地中に隠れており、出て来た時も一部はずっと地面の下に隠している。
俺の予想が正しければ、腹の下は他のよりも柔らかいはずだ。
「ディザスタ―――――――」
「ブオオオオオオオ!」
その時、モンスターがその場で足踏みを始める。
それにより地面が大きく揺れて地震が発生し、大地がひび割れズレていく。
振動で魔法陣の展開が出来ない、改めて一から頭の中で組み立てた魔法陣は並みの集中力が無ければ発動は難しい。
なら、魔法陣ではなく直接魔法を発動させる。
片手に魔力を込めて発動させる。
風の魔法を発動させて自身の体を浮かす。
空中では振動は伝わらない、これで魔法陣を展開できる。
「ディザスタ―ストーム」
モンスターの真下に魔法陣を展開させて、風の魔法で体を浮かそうとする。
かなり重い、だが必ずやってみせる。
「ぐっうううううう!」
徐々に体が浮かんで行く。
風力は魔力と直結する。
だからこそここに俺の全ての魔力を込める。
そしてついに体が完全に地面と離れ、空中をじたばたと動かす。
「感謝するぞ、おかげで俺は自身の限界を越えられた」
そのままモンスターの真下に魔法陣を五重に展開させる。
一撃では倒せない、だからこそ一度に複数の魔法陣を展開させてぶつける。
「フィフスインパクト」
「―――――――ッ!!?」
五重の衝撃がモンスターの内部から発動された。
流石にこの一撃は耐えられないだろう。
空中を浮かんでいるモンスターは先程までじたばたしていた足を止めた。
終わったな。
「っ何だ?」
周囲の温度がどんどん上がって行く。
熱い、これは一体。
「まさかこいつ、自爆する気か!」
内部の熱を暴走させてここら一帯を吹き飛ばすつもりだ。
いや、あいつの熱を考えると被害はそれどころではない可能性はある。
死に際で道連れにさせようとしてくるとは油断できない奴だ。
こっちはもう、腕の傷口が開いて出血が止まらないって言うのに。
意識も朦朧として来た、魔力ももうほとんど残っていない。
だがやらなければいけない、これは俺にしか出来ない事だ。
頭の中でイメージできる、この場に適した魔法の形。
想像力こそが魔法の強さだ。
「コールドインパクト」
内部からの衝撃波、それがインパクトの真髄。
だが衝撃波以外に内部から発動出来たとしたら。
衝撃波を除いて氷の魔法を付与させた魔法陣、発動できるかどうかは賭けだったが。
どうやら俺の勝ちの様だ。
内部から凍り付いたモンスターはそのまま氷の塊となって地面に落ちて行った。
そして俺も地面へと落ちていく。




