その九 君は何類
「さてと、メンバーはこれ位で大丈夫か」
土地を占領しているモンスターを討伐する為に特別チームが形成された。
チームの内訳はゼットとガイスが決めた。
特に進んで共に行きたい者、その中で腕が立つものを選別して同行させることになった。
メンバーは全部で五人、その内ゼット班とガイス班に分かれて地図に印を付けた場所を奪う事にした。
内訳はゼットが二人でガイスが三人、そして残った人々は五人の帰りを待つのだった。
ゼット班、ゼット、ブライド
「何で他の人を呼ばなかったんですか」
「呼んで欲しかったのか」
ゼットとブライドは火山地帯へと向かっていた。
「そう言う訳じゃないですけど、他にも強い魔法使いは居たでしょう」
「俺は別に一人でも問題はない。だがどうしても着いて行きたいと言ったのはお前だけだった。それについて行くだけなら、ガイスだけでも十分だしな」
「他にもあんたについて行きたい人は居ただろうに」
「足手まといは必要ない」
いつもよりも強い口調でそう告げるゼットに対してブライドは何も言えなくなってしまった。
その為、空気を変えようとブライドは別の話題を提案する。
「一つ聞きたかった事があります」
「何だ、あまり無駄話はしない方がいいぞ。もうすぐ溶岩地帯に入る」
「別にそれ程難しい話をする必要はないですよ。純粋にどうして研究者たちを皆殺しにしたんですか」
「‥‥‥意味はない。ただ言われた通りにしただけだ」
「言われた通りってあのいけ好かない男にですか」
「随分と毛嫌いしているな。まあ、それだけじゃない」
そう呟きながらゼットの瞳は暗く沈んでいく。
ブライドはそんなゼットの様子を見て少し強めの言葉を使う。
「まさかこれも誰かに言われたからとか言うんじゃないでしょうね」
「っ!それはない、これは俺の意思だ!」
ゼットは先程までとは打って変わって声を荒げる。
突然の声量にゼットは目を丸くさせてしまう。
「そこまでデリケートだったのか」
「いや、すまない。取り乱した」
ゼットは頭を抑えると何度か深呼吸して冷静になる。
「確かにお前の言う通りだ。俺は自分の意思で選択をして来なかった。だからこそこれからは俺の意思で道を選んで行く。もう流されたりはしない」
「いや、俺もすんません。ちょっと言い過ぎました。ていうかゼットさんでもそんな取り乱すことあるんですね」
「そんなことはない。俺もまだまだだ。よし、着いたぞ」
目の前には巨大な火山と溢れ出る溶岩、その周りには禍々しいモンスターが二人を待ち構えていた。
その光景はまるで地獄そのもの、普通なら誰しもが死を想像する場面。
だが最強はそれを見てもまるで何事も無いように、冷静な表情を崩さずに悠然とした態度で前へと進んで行く。
あらゆる環境に適応する為に作られた半獣、その中でも産まれた時から最強のその生物は他の半獣よりも身体能力の強度は遥かに高い。
溶岩に足を付けても靴が溶けていこうがその皮膚は溶けてはいかない。
「俺は本命を叩く。周りのザコは任せた」
「え?俺一人ですか」
「やれないか」
「やります」
「安心しろ、何があっても俺が守る」
ゼットは不敵な笑みを浮かべると火山口から這い出て来る巨大なモンスターに向かって風の魔法で飛んで行く。
「悪いがここは俺達の島だ」
その時、跳んで来たゼットに向かって周りのモンスターたちも向かって行く。
だがそれらをブライドが風や水の魔法を使って止める。
そして巨大なモンスターの体に複数の魔法陣が展開される。
「インパクト」
それが光り輝いた瞬間、巨大なモンスターは一瞬にして弾け飛んだ。
「‥‥‥っ!?」
その衝撃にブライドは思わず目を見開き動きを止めてしまう。
そしてモンスターがはじけ飛んだことで体に溜まっていた熱が一気に放出される。
ゼットはすぐさま別の魔法陣を展開させる。
「かき集めろ」
風の魔法を生成させて飛び散った熱を一気にかき集める。
そして今度は水の魔法を作ってそれをすべて消化して見せた。
「あとはザコ処理だな、合わせるぞ」
「はい!」
それから約十分後の出来事だった。
すべての迫って来ていたすべてのモンスターを倒していき、残ったのは二人のみだった。
「はあ、はあ、はあ‥‥‥何とかなりましたね」
「そうだな、息切れしてるが大丈夫ですか」
「ちょっと、魔力切れが起きてるだけです。心配しなくても大丈夫です。それより、ゼットさんは」
「ああ、問題ない」
「でしょうね。強いとは思ってましたけど、ここまでとは」
「とにかくここは占領で来た。一旦戻って休みを——————っ!」
その時、大きな地震が二人を襲った。
おもわずふらつくほどのその揺れは近くの山が小刻みに震えている事で起きている現象だった。
それは徐々に姿を現していく。
山が上がって行き、その下に顔が現れさらには手足が見えて来た。
「な、何だあれ‥‥‥」
「とんでもない化け物を飼ってたみたいだな。あいつらは」
それは山よりも高く、超巨大なその体は動くたびに島を割りそうな程の振動に見舞われる。
「先程の戦いで目覚めたみたいだな。行けそうか」
「いや、これは逃げるべきでしょう。今の状態で戦える相手じゃないってゼットさん!」
ゼットはそんなブライドの言葉とは反して前へと進む。
「あの山がモンスターならちょうどいい。奴が退いた場所は住む場所としては適切だろう。あの山が消えれば周囲の温度もだいぶ下がる」
「本気ですか。山一つ相手にするもんですよ」
「そもそもあんなモンスターが居ればここを土地にすることも出来ない。目覚めた以上、何かしら対処しないと被害が広がる可能性がある」
「でもっ!」
「ブライドを呼んできてくれ。それまでは何とかしのぐ、安心しろ。死ぬまで戦うつもりはない」
ブライドは何かを言いかけたが、ゼットの真っすぐな瞳を見てその言葉を飲み込んだ。
そして拳を握りしめるとそのまま背を向ける。
「死なないでくださいよ」
「誰に言ってる」
そのままブライドは駆け出していく。
そしてゼットは目の前のモンスターを見上げる。
「随分とデカいな」
『このまま戦うのはやめた方がいい。今は自分の身を守れ』
「俺は俺のやるべきことをやる。お前はもう黙っていろ」
頭を強く叩く、そして声は聞こえなくなった。
ゼットは再び目の前のモンスターを見据える。
完全にその体を露わにしたその姿は亀そのものだった。
「ブオオオオオオオ」
「殻に籠ってな、爬虫類」




