その六 久しぶり
「こうやって対等に話をするのも久しぶりだな」
カジノ店から離れた野原で俺達は真正面から対峙した。
「要件を早く言え。俺はもうお前とは関わりたくない」
すると風間は、いきなり突拍子なことを言った。
「5年………5年、俺はこの世界に居る。これの意味が分かるか」
言葉の内容を理解出来ない俺は、ただただ風間の話を聞くしかなかった。
「かつ、俺が行方不明になった話は知ってるか?」
「ああ、学校で1番人気者のお前が行方不明にもなれば嫌でも耳に入る」
「褒めるなよ。照れるだろ」
その言葉に、若干の苛立ちを覚えた。
「まさかその時異世界に行ってたっていうのかよ」
「そういう事〜」
「―――――!?」
風間のふざけた態度に手が出そうになるがギリギリのところで踏みとどまった。
「そ、そうなると時間軸が合わないな。お前がいなくなったと噂されてたのは俺が異世界に行く1ヶ月前だ。お前が5年いたとするなら5年前から消えて無ければ無理な話だぞ」
「そりゃそうだろ」
「な!?」
「俺は5年も異世界に居ないしな」
俺は怒りが沸点に達し風間の胸ぐらを掴んだ。
「お前……おちょくるのもいい加減にしろよ!!」
「落ち着け、そういう意味じゃねぇよ」
風間が苦しそうな声で弁解する。
「は!?じゃあどういうことだよ!」
「とりあえず掴むのやめてくれる?」
風間は俺の手をゆっくりと胸ぐらから引き離した。
「それでどういうことか説明しろ」
「お前がさっき行った通り時間軸が違うんだよ」
「それってどういう事だ」
風間の言葉にまだ納得いってない俺は、再び聞き返す。
「つまり異世界の時間と日本の時間は違うってことだよ」
「てことはお前が5年間異世界に居た時日本では1ヶ月間しか経ってないってことか」
「そういうことだ。これで俺の言葉が嘘じゃないって分かったろ」
こいつがこんな事で嘘付くわけがないのは分かる。
「まだ確実では無いけどな」
素直にはいとは言えず俺は濁す言い方をした。
「ま、どっちでもいいけどな。ていうか本題はこんなどうでもいい事じゃない」
すると風間は、ポケットから地図を取り出した。
「それは……この島の地図か?」
「ああそうだ。この島は大陸よりは小さく日本の島よりは大きいくらいの大きさだ。ま、人が住むには充分な大きさだな」
風間は島の周りを指でなぞる。
「お前はこの外の世界に興味を示したことないか?」
その質問に一気に興味がそちらに行く。
「外の世界?」
そんなこと1つも考えたことがなかった。
こいつはもうそんな事まで考えていたのか。
「この島が他の島と干渉できない理由は2つある。1つは昔起こった戦争の影響だ。2つ目は結界だ」
「結界?」
この島に来て久しぶりの新しい言葉だな。
「この島の端っこにデッカイ扉があるだろ。それを中心に規則正しく配置されてる鉄塔みたいな物が結界を張ってるんだ」
そんなもの見たことないが地図を見た限りそれらしきものが書き込まれている。
「それでこの結界はどうゆう効果なんだ」
「単純に外との接触をできなくさせる結界だ。外から来た奴らにはこの島を認知することができない」
「だからこの島には他の島から来た人が居ないのか」
その時風間はもう1枚の地図を取り出した。
「これは、世界地図?」
「ああ、俺達が知っている限りの地図だ」
「どういう事だ?」
風間の言い方に違和感を感じた。
「本当はもっと世界には多くの島があり、様々な種族が居るんじゃないかと俺は考えている」
「ちょっと待て、それって誰かが隠蔽してるってことか?」
その言葉に、風間はニヤリとほくそ笑む。
「なあかつ、俺は刺激がほしいんだよ。だから日本ではあんな事をしたんだぜ」
「俺が聞いてるのはそんなことじゃない。質問に答えろ」
俺の言葉を無視し風間はそのまま喋り続ける。
「この島だってそうだ。何か巨大な秘密を隠してやがる。俺はそういうのを解き明かし、裏で牛耳ってるやつを叩き出して俺がそいつらを操る。俺の今の目標はこれだ」
「お前何をする気だ?」
その時辺りの空気がピリつく。
こいつ場合によっちゃあ戦うことになるな。
「かつ、お前は強くなったか?俺は5年間をただビジネスの為に費やしただけじゃないぞ。今の俺の魔力レベルは9だ。お前は何だ?」
そうだ、こいつはそういうやつだった。
話し合いでどうこうできる相手じゃない。
「俺の魔力レベルは……」
俺は手に魔力を込める。
それに気付いたのか、風間は少し体制を変える。
ここがこいつを倒せる最後のチャンスだ!
「レベル1だ!ファイヤーボール!!」
「――――――!?」
俺のファイヤーボールが風間に当たる直前で爆発した。
「く――――!!」
俺はそのまま爆煙に紛れ込み後ろに回った。
風の魔法に乗りながら打つ!
「アイススピア!!」
「ふっ――――!!」
笑った!?
すると俺のアイススピアが軌道を変え風間の横をすり抜ける。
「な!?外れた!?」
そんなはずはない、確実に当てに行った。
風間がなにかしたのか?
「くそ!だったら――――」
「やめとけ。お前じゃ勝てない」
「うるさい!お前が決めるな!!」
だったらこうだ!
「ウォーター!!」
「こんな水ごときで何する気だ?」
それだけじゃない!
「喰らえ!サンダー!!」
「しま――――!!」
風間は避けきれず直撃した。
よし!これでダメージは与えたはず。
「だから言っただろう?お前じゃ俺を倒せないって」
「そんな……無傷……」
直撃はした。
ていうことは純粋にパワーが足りなかった。
「まさかお前が、レベル1だとはな。にしてもよくそれで立ち向かってきたな。魔法抵抗は知ってるだろ?それでも向かって来るってことは俺より強いやつと戦ってきたってことかな?」
やっぱりレベル差はデカイ!
純粋な魔法じゃ圧倒的なレベル差を埋められない。
「もう、これしか方法が無い」
「まだ何かやるのか?これ以上はもう――――」
俺は風間がぺちゃくちゃ喋ってる隙に、一気に間合いを詰めた。
風間は、油断しているのか迫ってもあまり動く気配がない。
「これで終わりだ!」
俺の魔力量が一気に跳ね上がったのを感じてようやく動く気配を見せた。
だがもう遅い!
「インパクト!!!」
「―――――――――!!!??」
その瞬間に衝撃波が辺りを包んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……つい全力でやってしまった」
レベル10が耐えたからレベル9でも大丈夫だろうと思ったんだけど。
その時上から風が吹いた。
「ふっ………いらない考えだったな」
風間は、空中に飛んで避けていた。
「流石にあれはヒヤッとしたぞ」
そう言いながら風間は地面に着地する。
「なるほどなこの魔法を貰ってたのか……だから今まで生きてこられたってことか」
「今なんて言った?」
明らかに今の発言に気になる箇所があった。
「ん?今まで生きて来られたって所?」
「分かってんだろ。わざわざ回りくどい事するな」
「分かってるって、そんな怒るなよ。こんな質問するって事はまだ会ってないんだな」
それを聞いた時1つの出来事が頭に浮かぶ。
「お前が言ってる会ったことない奴って」
「そう、俺達をこの島に連れてきた人だ」




