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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
最終章 異世界で最強を目指す物語
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その三 脳内会議

とある無人島の研究所、最重要実験素材保管室


「お前は誰だ」

「俺は‥‥‥誰なんだろうな」


外からでしか中を確認する事が出来ない特殊な防弾ガラスの向こう側で、独特の雰囲気を持った少年はその疑問に対して自ら問うような口ぶりを見せる。

そんな様子を見てその質問を投げかけた青年は不敵な笑みを浮かべる。


「自問自答か。お前は俺の声が聞こえてるみたいだな。これは特殊なガラスだろ」


そう言って目の前のガラスをコンコンと叩く。


「そうだな、通訳が居るんだ。それで聞こえる」

「特殊能力か?」

「早く行った方がいい。研究員が戻って来るぞ。逃げたいんだろ」

「いや、そう言う訳じゃない。暇つぶしにここを探索しているんだ。ここのエリアはまだ来たことが無かったからな。まさかこんな立派な家に住んでいる奴が居る何て思わなかったが」

「確かに俺はここで産まれてここで育った。言えと言う表現は間違ってはいないな」

「皮肉で言ったつもりだったんだがな。そうか、おまえだけ特別な理由が何となく分かった」


その時遠くから慌ただしい足音が聞こえて来る。

それに気づいた青年はすぐにその場を離れようとする。


「どうやらここまでみたいだな。また来る、俺はガイスだ」

「ガイス‥‥‥もう来ない方がいい。罰を喰らうぞ」

「そんな物、別に怖くねえな。それにこれから俺は生まれ変わる。だから今度会う時はもっと近くで話せるかもな。おっと、そろそろ本格的にまずいみたいだ。それじゃあな」


ガイスと名乗る青年はそれだけ言うと足早にそこを離れて行った。

ゼットは不思議そうにその後ろを眺める。


「変な奴だな‥‥‥っ!ああ、分かってる。まだ信頼はしてないさ」


頭を抱えながら独り言を呟いていると、扉が開き研究者がぞろぞろとやってきた。


「ふう、どうやら逃げてはいないみたいだな」

「A-16エリアで対象を捕獲したみたいよ。今は大人しく部屋に戻ってるみたい」

「まったく、毎度毎度手を焼かせる」

「それでも処分するわけにはいかないわ。彼は私達の計画に多大な恩恵があるんだもの」


女性の研究員から書類を受け取るとまじまじとその内容を確認し、感心する。


「数値は驚異的だな。特に優秀な個体の中でもさらに特出している。我々の理想とする物とほとんと一致しているな」

「そうそう出会えないでしょうね。だからこそ彼は好待遇で迎え入れなければならない。それに革命が起きたあの島の出身ですもの。性格からしても一筋縄ではいかないわ」

「半獣化に対しては意欲的な姿勢を見せているしな。脱出することに目を瞑れば、研究にも積極的に協力してくれる。このまま考えが変わらないうちに済ませた方がいいってわけか」

「‥‥‥どうやらあいつは他の奴とは違うみたいだな」

「ん?こいつ、俺達の姿が見えないんだよな」


何かに気付いた研究員は鏡越しからゼットを覗き込む。

ゼットはその視線を気にすることなく暇そうに周囲を見渡し始める。


「ええ、中からは声も聞こえないし完全に隔離してあるわ。それでも新人類とだからかしら。感覚が鋭いから気配とか感じるのかしらね。数値を見る限り、聴覚も優れているみたいだし」

「視線を感じたんだが、気のせいか。とにかく実験に戻ろうと。数日後にはこいつのDNAを元に新薬の開発をするんだ。試作品αはあいつに使うんだろ」

「ええ、優秀な個体の順に配合を変えて実験していく。最初はZ側を多めに、次はモンスターの方、その次は平均的に適性の配合を確認していく」

「これを世界に公表できないのが残念だな。しばらくは裏での取引がメインになるだろうが、各国で口から手が出るほど欲するはずさ。一般人でさえ、強力な兵隊に出来るんだからな」


これから先の未来を想像し、不敵な笑みを浮かべる研究者。

それをゼットは気取られない様に鋭い目つきで睨みつける。

それから研究は滞りなく進んで行った。

ゼットの身体は日に日に成長していき、力も増し体の中にある魔力も膨大になって行った。


「今日はここまでだ」


魔法の訓練で使う施設はいつしかゼットの魔法に耐えきれなくなっており、訓練が終了した段階では常に壁や床が破損していた。


「驚異的な数値だな。この威力はクラスター爆弾と同等の威力だぞ」

「更に伸びしろがあると来た。このまま行けば一人で人類を滅ぼせるんじゃないか」

「そうなれば俺達は世界の破壊者として名を残すだろうな。まあ、さすがにそこまでは行かせはしないが、魔法はまだ未知の部分が多い。だがこの力を自在に使えるようになれば、ようやく第二段階へと進むことが出来る」

「当初は机上の空論だったが、まさかここまで現実味を帯びて来るとはな」

「確実に我々の部門が一番の成果をあげていますね」

「Zそのまま待機していろ。すぐに輸送車を手配させる」


通常ゼットは特殊な監視室の元で24時間監視され続けている。

だがそこから離れる場合は一時的に眠らせて、さらに専用の輸送車に乗って移動する。

車の中は完全な無人で、対象を直ぐに無力化する機能が多数備わっており、絶対的に安全に運ぶことが出来る。

訓練が終わったことでガイスの両手には拘束具が付けられ、さらに両足も身動きを封じられ、完全に動かなくなってからロボットによって輸送車まで運ばれる。

ゼットはそれに対し抵抗する様子も見せずに素直に受け入れる。

それは研究者にとっては想定内の行動だった。

生命の始まりから生み出されたゼットは研究者に対して絶対服従を思考の奥深くに刻まれていた。

それは身体が無意識に行ってしまう行動であり、どれだけ拒否しようとも絶対に反抗する事は出来ない。

脳波からもそれを確認していた研究者は疑う事を知らなかった。

だがそれはゼットのみの場合だった。


「――――――、―――――――」

「また、何か喋ってますね」

「ああ、人間で言う所の六歳を境に度々こういうことをするようになったな」


ゼットが話した言葉はリアルタイムでデータ化されて、百年分のデータも収集する事が出来る。

それを確認しながら研究者たちは訝し気な表情を浮かべる。


「やはり意味が分からない。どこの国の言語とも一致しない」

「そもそも言葉自体、一般的な言語以外は教えていませんからね。どこで覚えて来たのか」

「いや、何処の国にも使われていない言語だ。十中八九、独自で生み出した言語だろう。ここをよく見ろ、意味不明だが発音が同じ個所が見られる。適当に喋ってるわけでもなく、一定の法則の元成り立っている」

「てことは本当に自分で作った言語ってことですか。何でわざわざそんな事を」

「考える限り理由は二つ、特にやる事が無かったから独自の言語を作って遊んでいるか、もしくは会話の内容を悟られない様に作ったかだ。後者だった場合、よくない兆候と言えるな」

「反乱を起こそうとしてるってことですか」

「さあな、そもそもこちらの命令には絶対服従とDNAに刻まれている。そう言う思考には陥るはずがない。となると前者になるんだが」

「暇だから独自の言語を作るって、人間とは暇の潰し方が違いますね。頭が良すぎるとこんなおかしな行動に出ちゃうと言う事ですか。何とか解析できませんかね」

「そりゃ無理な話だ。言ってることに関して現存するどの言語にも関連性が見られない。そうだとしてもこの大量の会話のデータを見ながら、適切な言葉を解析し翻訳するのに一体何百年かかると思ってるんだ。他人の思考を丸ごと覗けない限り、理解は不可能だ。そんな事に時間を使ってる暇はない」


諦めたように研究者はそのデータをすべて削除した。


「まあそうですよね。対象は姿は丸見えですし、変な気を起こせばすぐに分かりますから」

「そう言う事だ。まあ本当に暇つぶしの可能性もあるし、とにかく報告だけすればいい」

「――――。――――――――」


誰も居ない空間でゼットは意味不明な言葉をひたすらに口にしていた。



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