その二 邂逅
「研究所の脱出‥‥‥たしか研究対象の半獣たちが一斉に反旗を翻したって話だったよね」
「そうだ、だが実際に行動に移したのはガイスだ。俺はその作戦に乗っかっただけだ」
ガイスが実行役という事だろうか。
だけど最初に父さんはイマジナリーフレンドから提案されたと言っていた。
「どうして父さんが最初に行動を起こさなかったんだ。頭の中ではその考えがあったんでしょ」
「それに意味を見出せなかったんだ。ここを出て行ったことで本当に自由があるのか。聞くだけでなく実際にこの目で見ていないからこそ、踏み出すことを躊躇った」
「外の状況とかは教えてもらってなかったって事。たしか本を与えられていたって聞いたけど」
「そうだな、そこら辺をもう少し詳しく話すか」
そういうと父さんは静かに語り始めた。
「人間は生まれてから数か月の記憶を思い出せないだろう。だが俺は違った。俺は生まれた瞬間から記憶を保っている」
「え?そんな昔の記憶を持ってるの?」
「ああ、だがあまり思い出したくなくてな。普段は封じている。過去を辿ればだんだんとはっきりして来るんだ。その時はまだ研究者の奴らも油断していたからか、ペラペラと喋っていたよ。その時に知ったことは外の世界はほとんど研究者しか滞在しておらず、一般人が何も持たずに生きていける環境ではないと言う事だ。あの島の環境は中々特殊だっただろ」
「あー確かに。雪原や火山があったりとかよくよく考えるとかなり無茶苦茶な環境だったな」
正直あの時は異世界という理由で勝手に納得してしまっていたな。
異世界だしデタラメな環境になってても不思議じゃないって。
「あれも研究者による産物だ。自由に気候を変動できる装置を作ったとか言っていたな。だが出力が見誤り極端な気候になってしまったみたいだが、とにかく研究者たちが俺に意識がある事に気付いた間で得られた情報はこんな物だ。外は恐ろしく研究所も地獄と言える。だが生かせてもらえる分マシな地獄だと言えるだろう」
「たしかに島の外にはモンスターも大量に居るからな。ああ、でもまだその時にはモンスターは研究所に捕らえられてるんだったっけ」
「そうだな。研究者は半獣の研究とモンスターの研究、複数の研究所に分けてやっていたようだ」
あの島には色んな研究所があった。
その中にはモンスターの研究所もあったし、あそこもモンスターが暴れて壊滅したんだろう。
「しばらくは箱の中に閉じ込められ、情報が一切遮断されたしな。戦闘訓練や知能テスト、魔法の研究をひたすらやらされ続けてそう言った事を考える時も無かったし、考える意味すらない」
「父さんの状況についてはよく分かったよ。でもそれだけ厳重に監視されている状況でどうやってガイスと知り合えたんだ」
「あいつは特別だった。半獣の適正値が高かったらしい。そう言う奴らは何人か居た。そいつらは特別な待遇を受けていたようだ」
「それってブライドとかもか」
「そうだな。あいつらも優秀だった」
その名前を出した時、父さんは懐かしむように笑みを浮かべる。
そしてすぐにいつもの表情に戻り、再び話に戻る。
「ガイスはちょくちょく脱出していてな。研究所内を探索していたようだ。その過程で俺はあいつと出会った。あいつは俺と視線を合わせるとこんな風に言ったんだ。『お前は一体誰だってな』初対面でそんな事を聞いて来るあいつに警戒心を持ったが、素直に答えることにしたんだ。俺はZだってな。そしたらあいつはそう言う事を言ってるんじゃないと言った」
「それってどういう意味だ?」
「俺も同じ反応をしたさ。するとそれを見たガイスはもう一度俺に聞いてきた。『お前は何者だってな』それを聞いて俺は言葉に詰まった。俺は自分が何者か、きちんと理解出来ていなかった。そこからだった俺が自分を知りたいと思うようになったのは」




