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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十四章 半分獣と呼ばれた者達
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その百二 果たせなかった想い

「分かってると思うが、俺はこの一撃にすべてを懸ける。お前はどうなんだ」

「どういう意味だ?」

「俺の一撃を正面から受ける覚悟はあるのかって聞いてるんだよ」


こいつ、まさか俺を挑発している?


「互いの最高火力をぶつけ合おうぜ。それとも源魔石の魔力じゃ、流石のお前もビビっちまうか」


わざとらしい笑みと挑発するような言葉遣い。

分かりやすいな、安い挑発だ。

ここまであからさまだとわざわざ回避するのが馬鹿らしくなってくるな。


「いいだろう、どうせお前の魔法では俺には敵わない」


源魔石の魔力をフルに使う事はないだろう。

もし使ったとしても魔力を制御できずに自滅するのがオチだ。

いや、待てよ。

そんな分かり切ったことを今更やるか。

こいつの事だ、何か企んでいるに違いない。

なら、こちらも同じような手を使うまでだ。


「俺も最高火力をもってしてお前の相手をしよう。源魔弾を使う」

「俺はインパクトだ」


互いにこれから使用する魔法を制限し、数歩後ろに下がる。

十分距離を取った後、向き合い気を伺う。

そしてその時は来た。


「源魔弾!」

「カウンター!」

「何!?」


俺が源魔弾を放った直後に魔法を切り替えて来た。

カウンター、俺の源魔弾を跳ね返すつもりか。

源魔石を使えば確かにそれは可能、だがそれはあり得ない。

ありえないからこそ。


「そう言う手を取るよな」

「っ!?うぐ!」


咄嗟に後ろを振り返ると、そこにはかつの姿がありすぐに奴の首を掴む。

苦しそうに俺の手を振りほどこうとするが、さらに強い力で締め付ける。


「がっあぐ‥‥‥!」

「何かするとは知っていたが、こういう手を取って来たか。魔法を放つと見せて咄嗟に俺の後ろを取るとは。力自慢なのは知っていたが、予想の範囲内であれば十分対処可能だ。やはりお前のオリジナル魔法は未完成だったようだな」

「うっうう!」


さらに力を込めて俺の手を引きはがそうとしてくる。

中々の強さだが、この状態で力負けをするほど今の俺は弱ってはいない。

俺は首を絞めつけたまま、思いっきり地面に叩き付ける。


「うぐっ!?」

「さてと、源魔石は貰うぞ」


奴のポケットに手を入れて源魔石を回収する。


「ようやく、これを手に入れたぞ。これで俺はもう誰にも負けない。お前には感謝しなければいけないな。わざわざ源魔石を俺の元に届けてくれたことを」

「かえ、せ‥‥‥!」

「お前は俺に先程こういったな。これは過去の因縁とは関係なく、俺とお前の戦いだと。確かにその通りだった。お前程度の実力で奴との戦いを思い起こさせるのは不可能だ。期待外れだな」

「インパ――――――」


魔法を放とうとした瞬間、その頭を吹き飛ばした。

これでこの戦いは終わった。

首が吹き飛んだ奴の体はそのまま光の粒子となって消えていった。

これで俺を邪魔する者は‥‥‥


「光の粒子となって消えた?まさか――――――」

「気付くのが遅かったな」

「っ!?」


瞬時に後ろを振り返ったが、さらに早いスピードで後ろに回り込まれ両手を掴まれると同時にへし折られ地面に叩き付けられる。


「っまさか、お前が本物か」

「ああ、あれは俺の分身だ。事前にツキノに作ってもらっていた」

「なるほど、そうなるとこの源魔石も偽物か」

「そうだ、源魔石を手に入れたと油断させるためにな。最初から源魔石は俺の手にあった。魔力を感じ取れようとも、島中のマナを取り込んだ源魔石の魔力を感じ取ろうとすればさすがに位置の特定は無理だろう」


確かにこの島を覆う程の魔力を感じ取り位置は特定できなかった。

まさかそれがこの結果を生むとはな。


「最初に対峙していたのは偽物だったわけか」

「勘違いするなよ、あれも俺だ。俺を元に作られた存在、むしろ本物よりも素直な言葉を言う事もある。あいつが言った言葉の全ては俺の言葉だと思って構わない」

「そうか、なら余計に腹立たしいな」


背中に冷たく硬い物を押し付けられている。

これが本物の源魔石か。

両腕をへし折られ、魔法を上手く発動できないな。

しかもこいつの力、予想以上の強さだ。

今の俺では振り払う事は不可能だな。


「お前の体は全盛期に戻ってるんだろ。俺は薬を飲んでさらに身体能力を強化したが、それでもこうしてお前を押さえつけられるかどうか分からなかった。ここまで追い詰めたのは皆のおかげだ」

「ああ、認めよう。俺は追い詰められていた」

「素直だな」

「この状況を覆す手立てがない。今の俺は現存する魔力がない。源魔石を奪い、魔力を確保する手筈だった」

「そうか、じゃあもう抵抗は出来ないんだな。どうせ俺達はここで死ぬ」


その事も覚悟の上だったか。

死ぬ恐怖に付け込もうと考えていたが、やはり無駄だったみたいだな。


「一つ、聞きたい事がある。お前は本当に王になりたかったのか。その為だけに全てを犠牲にしたのか。自分の子供でさえ」

「今更そんな事を、俺は王になるべき人間だ。だからこそならなければいけない。これは必然であり、使命だ」

「本当はただ復讐したいだけなんじゃないのか。家族を、自らの立場を奪われたそいつらに、そして自分自身がその責任を果たさなければいけないと思ってる。だからお前は全てを犠牲にして強くなろうとした。違うか?」

「違うな。俺はそんな感情に動かされるわけじゃない。奪われた王位を取り戻すのみ。両親の事は関係ない」


そう、俺は王になる為だけに強くなった。

全てを投げうって感情を捨て去り、合理的に判断してきた。

王になる、その為だけに。


「なら、悲しすぎるな。お前は王になったとしても、満足しないんじゃないか。一人ぼっちの王で、大切な物もなくなって、それに意味はあるのか」

「意味はある。それに俺の民はこの世界だ。一人ではない」

「でもお前を理解してくれる人間は居ない。居たとしてもお前は突き放した。家族を捨てたんだよ」

「‥‥‥」


家族、俺には家族と呼ばれる奴はいない。

あいつらは俺の目的の為に育てた。

それだけだ、それだけなんだ。

だが、どうしてこんな時にあの子の言葉が思い浮かぶ。


「知ってるか?ガルアはもう一度やり直せるなら、やり直したいと言ってたんだ。家族を夢見てたんだよ。お前は平気で人を殺し、実の息子でさえ手を上げるようなひどい奴だって分かっているのに。それでも家族に成れるなら、そうなりたいと思ってたんだよ」

「っガルアが。そんな訳がない、あいつは俺を殺そうとした。俺を父親として見ていなかったはずだ」

「それしか方法が無かったんだ。お前を止める方法はそれしかなかったんだよ。自分の息子にそんな選択肢をさせるなよ」


ずっと俺の想いを引き継いでくれると思っていた。

その為の実力も付けさせた。

それが他の人が言う愛なのだとしたら。

俺もあいつの事を、あいつらの事を家族として見ていたのかもしれない。


「ははっそんな事に今更気付くなんてな。どうやら俺は王としても父親としても失格のようだ。もし、時を戻せるのなら。今度は一緒に食卓を囲みたいな」

「もう少し早くそれに気づくべきだったな。せめて直接あいつに言ってやるべきだった」


そうか、これが俺の最後か。

結局俺は何も出来なかった。

何も成すことが出来なかった。

なあ、ゼットお前は正しかったよ。

俺は自分のすべきことを、責任を間違っていたみたいだ。

お前は、すべき事をしたんだよ。

家族を守り切ったんだよな。

だからこそお前はこの世界を離れたんだよな。

ゼット、俺はお前に嫉妬していたんだ。

全てを持っているのに小さな幸せを求めているお前に。

大きな野望すら叶えられるのに、それでもお前はこの小さな島に収まる事を望んだ。

だが今なら分かる、その幸せこそがお前にとっての王になるだったんだな。


「ゼットに会ったら行ってやってくれ。結婚おめでとうと、ご祝儀は渡せなくてすまないってな」

「ああ、伝えておくよ。フルブレイクインパクト」


背中に強烈な熱を感じる。

なあ、ガルア、ラミア。

後は任せたぞ。

お前らなら俺が出来なかったことを成せるはずだ。

みんなが幸せになる、優しく強い王に。

世界は光、そして俺は意識を失った。


この日、1つの無人島が地図から消え去った。



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