その九十八 目覚めたお姫様
「マイトーーーー!!」
「くそっ!」
マイトさんの片腕が吹き飛んで‥‥‥!
「素晴らしいな。全員細切れにするつもりだったが、直前で他の奴らを端へと遠ざけたか。オリジナル魔法を使ってその程度で済んでるのは熟練された魔法と言う訳だろう」
「そりゃどーも」
まずい、僕が早く魔力を制限させていたら。
そうすればガイスがここまで戦えることも無かったはずなのに。
僕の責任だ。
「マイト、逃げろ!もういい!」
「時間は!」
「三十秒っぴ!」
長すぎる、これは間に合わない。
「くっぐうぅぅぅうう!」
「ピンカさん!?」
ピンカさんは無理矢理体を動かそうと歯を食いしばり、体に力を入れる。
まさか強行突破するつもりですか。
「ピンカっち!そんな力んだら出ちゃうよ!」
「うるっさいわね!こんな事してる場合じゃないのよ!!」
その時、ピンカさんの体が動き始めた。
「死ね」
「ここまでか‥‥‥」
「マイト!!」
その瞬間、ピンカさんは駆け出しマイトさんの元にたどり着くと二人を囲うようにして炎の魔法が放たれる。
「ピンカさん、マイトさん!」
「ピンカ、駄目だ!戻って来て!!くっ早く魔法を解除して!」
すぐに助けなきゃいけないのに、体が動かない。
ピンカさんはどうして動けたんだ。
無理矢理突破したと思うんですが、ガイスの魔法を無理矢理突破させる何て。
「あいつらはじわじわとあぶり殺す。今の奴らにこの炎の檻を突破するのは不可能だ。さてと残りは動けない奴らだが、まずは‥‥‥」
「え?」
その時、ガイスが素早い動きでローさんの元へと向かって行く。
残り二十秒、これは間に合わない。
ローさんに向かってガイスは蹴りを入れようと足を上げた。
「フラッシュ!!」
「っ!」
ガイスの目の前が光り輝くと、その光が晴れた時ガイスの蹴りを受け止めているハイさんの姿があった。
「ハイ!」
「早くしろ、ロー‥‥‥お前は俺が守る‥‥‥」
「鬱陶しいハエだな。大人しく寝ていれば死ぬことも無かっただろうに」
その時、ガイスは再び魔法陣を展開させようとする。
あと残り、八秒!
駄目だ、間に合いません!
「‥‥‥?」
ハイさんに魔法が放たれると思った時、何故かガイスの魔法は発動しなかった。
これは一体どういう事でしょうか。
ですがこれはチャンスです。
「今だ!!」
サザミさんの声が聞こえて来たと思ったら、マイトさんによって先程の魔法を回避したサザミさん達が一斉にガイスにしがみ付く。
「少しだけでもいい時間を稼げ!」
「がっはっは!そいつはやらせねえぞ」
「俺達の恩人は殺させないっす!」
「絶対に離さない」
「ちっこの、纏わりつくな!!」
ガイスは体を素早くひねってしがみ付いているサザミさん達を振り払おうとする。
だがサザミさん達はそれに負けることなくがっちりとガイスの体にしがみ付く。
「そんなに離れたくないのなら、いいだろう。これでも離して居られるか」
その時、腕にしがみ付いていたザックさんの体ごとその腕を地面に叩き付けた。
「ぐふっ!?」
「ザックさん!」
その一撃は負傷してもなお、ニュートさんの体を壊すには十分な威力だった。
「っお前‥‥‥」
「ははっまだ、まだだな‥‥‥」
体の骨が砕けようとも口から血を吐こうとも、その笑みを絶やすことなくあくまで余裕を装うようにしてニュートさんはその手を決して離さなかった。
ニュートさん、その勇気を絶対に無駄にはさせません。
「解除っ!」
「王の領域!」
「ピンカ‥‥‥マイト‥‥‥!」
「助けなきゃ!」
「何で一人で突っ走っちゃうんだ」
「あの二人は任せた!!」
僕らは一斉に動き出す。
ガルア様は王の領域を発動しガイスを無力化させるために、ツキノさんとイナミさんとメイさんはは炎の檻に囲まれたピンカさん達を助ける為に、僕とハイトさんは怪我した皆さんを救助する為に駆け出す。
だが、その時僕は気付いてしまった。
発動させた王の領域が展開出来ていないのを。
「魔力不足‥‥‥!」
そうだ、僕達は動けなかった時から魔力を奪われ続けて居たんだ。
つまり、もう既に魔法を放つまでの魔力が存在しない。
そうかだからガイスは魔法を撃てなかったんだ。
過剰な魔力を消費するガイスの魔法はもう回復する事がほぼできないこの状況ではすぐに魔力不足に陥る。
でもそうなると僕らはこの状況では何も出来ない!
「どうやら運が尽きたようだな!」
その瞬間、ガイスはしがみ付いているサザミさん事地面を抉るほどの踏み込みで、一瞬にしてガルア様との間合いを詰める。
その衝撃でしがみ付いていた人々も引き剥がされてしまう。
「嘘だろ!」
「この負傷でここまで動けるなんて!」
「さっきは一撃で殺せなくて悪かったな!今度は背骨ごとへし折ってやるよ!!」
「ガルア様!!」
思った以上にガイスの動きが早い。
今の僕じゃあ、間に合わない!
そう思ったその時、何かが僕の横を勢いよく通り過ぎた。
そしてその影はガルア様を庇うようにして、前に飛び出した。
「っ!!?」
ガイスは容赦なく拳を振り下ろすと、その人物はまるで小石を投げ飛ばした様なほど軽く吹き飛んで行った。
「ハイト!!」
「ちっ健気な物だな。身を挺して王を守るとは、家臣としてはよい選択だ。だがただの犬死だ」
いち早くその人物が誰か気付いたガルア様は必死の形相で吹き飛んで行った、ハイトさんの方へと駆け寄る。
だがハイトさんは既に気絶していて、ピクリとも動かなかった。
「すまない、俺なんかの為に」
「ガルア、全てはお前が弱いからだ。王として未熟なお前は、何も守る事は出来ない」
「力ですべてを支配するのは間違っている。俺はそんな独裁的な政治はしない。みんなが考え、平等に主張し、同じ歩幅で進んで行く。必要なのは力じゃない、他が為を思う心だ」
「実に未成熟で能天気な考えだ。やはりお前は子供だな。力こそがすべてだ、力が無い物は何も守れない――――――」
その瞬間、再びガイスの姿が消えた。
またさらに早くなった。
怪我をして居るんじゃなかったんですか、それとも思う完治を。
「だからこうなる」
「っがは!!?」
声が聞こえた瞬間、お腹に強烈な痛みが走ると同時に背中に強い衝撃が走る。
殴られ、たんですか?
「リドル!やってくれたなっ!」
「厄介な相手は早めに潰すべきだ。何やら壮大な計画を立てていたようだな。島全体のマナが減少している。魔力の回復が著しく落ちている。なら永久魔力機関はなるべく使える状況にはしておきたい。まあこの状況なら必要はないか」
「ガルア様‥‥‥!」
「さてと、もうまともに動ける者はいないな。お前さえ殺せば、もう抵抗できるものは居ない。長かったこの茶番もようやく終焉だ」
ガイスはゆっくりとガルア様に近づくと片腕を掴む。
その時、ガルア様の腕を反対方向へと折り曲げた。
「っ!?」
「さすがだな、悲鳴一つ上げないか。死に際でも王としての風格を失わないのは大したものだ。さっき殴り飛ばした時、左腕をへし折ったはずだが。今度は右足にするか」
「痛ぶるのが趣味なのか?反吐が出る」
「ならすぐに終わらせるか」
そう言うとガイスは拳を振り上げる。
「拳に風の魔法を乗せた時、どうなると思う?お前の頭蓋骨は粉砕され脳みそがブチ巻かれるだろうな」
「自分の息子にいう言葉だとは思えないな」
「お前は俺を父親だと思っているのか?さてと、それじゃあ終わりにしよう」
まずい、このままだとガルア様が殺されてしまう。
そうなったら、もう終わりです。
でも、体が動かない。
意識を保つだけで精一杯です。
「じゃあな、出来損ないの王!」
「やめて!!」
女の子の声が聞こえて来たと思ったら、ガルア様の目の前に立ちふさがる。
両手を広げてその小さな体を震わせながらも、その瞳は決して臆してはいなかった。
それは眠っていたお姫様、ですが今は勇敢にも王の前に立ちふさがるもう一人の家族。
「ラミア‥‥‥!」
 




