その八十九 嫌われる理由
「メイさん!メイさーん!!」
リドルは居なくなってしまったメイたちの捜索を続けていた。
崩れ去った建物の影を事細かく確認しながら捜索を続ける。
リドルの後にはツキノとハイトが共に捜索をしていた。
ピンカとイナミは少し離れた場所で回復を図り、ガイはサラを見送ると魔力の回復に専念していた。
「居ねえな。もしかして前線を離れたのか」
「人知れず前線を離れたのかもしれませんね。もしかすればすでにガイスの魔法で深手を負っていたりとか」
「なら‥‥‥動けないで‥‥‥居るかもしれない」
「そう言う状況もあり得ます。だからこそ捜索を続けないと‥‥‥」
リドルは不安そうに遠くを見つめる。
遠くでは様々な光が消えたり発光したり、衝撃音が響き渡っていた。
今もガイスと激闘を繰り広げている。
すぐに前線に戻る為にもメイの捜索をリドルはさらに集中して臨む。
「っ!今の音」
微かに瓦礫が崩れる音が聞こえ、リドルはすぐにその方向へと走って行く。
ツキノとハイトもリドルの後に続いて行く。
そしてリドルはその足を止めた。
「メイさん‥‥‥!」
「あっリドッち、よかった泣いてないか心配してたんだよ。てっリドッちは強い男だから大丈夫か」
「メイ、お前何してたんだ。急に持ち場を離れるなんて」
「よく見て‥‥‥ハイト‥‥‥」
ツキノがメイの方を指差す。
メイはいつも通りの笑みを浮かべていたがその姿は痛々しく、生々しい傷跡が残っていた。
「メイさん、他の皆さんは」
「全員お持ち帰りしました!‥‥‥まあ、本当はぶっ飛ばされちゃってバタンキューしちゃっただけだけどね」
「ガイスの攻撃を受けたのか。だがお前らはコピーのリドルを守る役目じゃなかったか」
「そうだね、ドッペルゲンガーのリドッちを守ろうとしたんだけど、急に目の前がビカビカって光ってさ。気付いたらドリドっちがくし刺しにされちゃってたの。私はね、いつの間にか空を飛んでたんだ」
「空をですか?まさか重力の魔法?」
リドルは思い当たる節があると言う様に言葉を呟く。
「そっぺプッちが私を浮かせてくれて、カビッちが魔法で威力を落としてくれたの。また助けられちった。二人は休憩所に運んで来たから、後はこれが終わってただいまって言うだけだよ」
「メイさん。まだやれるんですね」
「もちのろん!正直言うと私今結構怒ってるんだよね。大好きな皆が傷つけられて、自分は何も出来なくて。だからこれから私の快進撃を見せてあげる。絶対勝とうね、リドッち!皆!」
そう言ってメイは親指を突き立てる。
それはいつになく眉間にしわを寄せて覚悟を決めた表情をしていた。
そしてリドルはブライドが居る方向へと視線を向ける。
「それじゃあ、行きましょう。あと少しです、あと少しで全ての決着が決まります」
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クリシナが氷漬けにされた頃
「何を言ってるんだ、ナズミ!自分の体の状態を分かってるのかい」
マイトは休憩所まで送ったナズミに対して声を荒げる。
その近くにはミレイが怪訝な表情でその二人を見ていた。
「お願いします。私、連れていってください。あの、この町に近い山に」
そう言ってゆっくりと視線をその山の方へと向ける。
近くと行ってもここから徒歩で歩くには一時間以上かかるほどの道なりだった。
さらに山の頂上まで上るとなると、さらに時間はかかる。
ナズミの身体の状況から見て絶望的な時間だった。
「何度も言うが、その体でこれ以上無理をすれば死ぬぞ。ナズミは十分に頑張った。これ以上はもう充分だ。分かるだろ」
諭すようにナズミに伝えるがそれでもナズミはその意思を折ろうとはしない。
その意思の硬さをマイトは知っていた。
それゆえにその意思を覆す程の物を持っていない事も知っていた。
マイトは諦めたようにため息をつく。
「根負けだ。分かったよ、連れて行く」
「本気で言ってるのか!今のナズミを山に連れて行くだと!?自殺行為だ!」
「そうだね、でもミレイは今のナズミを見てその言葉を覆すことが出来るの。その意思を折る事は出来るの?」
「それは‥‥‥」
ミレイはナズミの方をちらりと見る。
ボロボロの姿でありながらもその瞳はまだ折れてはいなかった。
それを見て誰が引き留められようか。
「本気なんだな。今のナズミに何か出来ることが本当にあると思っているんだな」
「はい、まだ私は動けます。まだ、終わるわけにはいかないんです。命はまだ残ってますから」
「殺させはしないよ。君は生きてこの戦いを終えるんだ。それじゃあ、捕まって」
ナズミはゆっくりと体を起こすと、マイトの背に捕まる。
「直ぐに戻るよ。僕も前線に復帰しないといけないからね。こっちにナズミを連れて戻って来たら、すぐに治療できるように準備しといて」
「分かった。だが本当に大丈夫なんだろうな。今のお前は意識を保つことさえギリギリなんだぞ。そして魔力もほとんど尽きている。本当にそんな状態で無理をしてでもやる事があるんだろうな。無駄に命を削る事を私は推奨しないぞ」
「優しいんですね、ミレイさん‥‥‥」
「なっ私は別に!この戦いは一人一人が命を懸けている。貴様は生き延びた、なのに無駄に命を散らすなと言っているんだ!」
ミレイは捲し立てるようにして誤解を解こうとする。
そんな姿を見てナズミは優しく微笑む。
「ありがとう、その気持ちだけで嬉しいです。大丈夫です、私は命を失う為に行くわけじゃありません。まだ戦えるのに、このまま休むのは嫌なんです。最後まで皆さんと戦っていたいんです」
「はあ、誰に似たんだか。これ以上は何も言うまい。何処へでも行くがいい、だが帰って来いよ」
「はい!」
ミレイはマイトが風の魔法で飛んで行く姿を見えなくなるまで見つめ続けた。
そして山に向かっている道中、背中に乗っているナズミに話しかける。
「やっぱりミズトの妹だね」
「え?」
「ああいう頑固な所、ミズトを思い出したよ。彼女も戦いに関しては決して自身に甘える行為はして来なかった。体が動けなくなるまで、戦いをやめようとしなかったね」
「私なんて、まだまだです。お姉さまには遠く及びません。それでもほんの少しでもお姉さまの背中に追いつけたのなら、頑張って来てよかったです」
「謙遜をしないで。君は間違いなく立派な魔法使いさ」
それから互いに沈黙が続く。
マイトはこれ以上はナズミを休ませるために山に向かう事に集中する。
すると、ナズミがおもむろに口を開いた。
「一つ、聞きたい事があるんです」
「あれ?起きてたんだ、てっきり寝ちゃったかと思ったよ。それで聞きたい事って」
「ピンカさんと、どういう関係なの?」
突然の質問にマイトは思わず息をのむ。
マイトは少しだけ考えるとおもむろに口を開いた。
「特別な関係っていったらどうする?」
「納得します」
「あっはっは!素直だね。あんまり真に受けない方がいいよ。基本的に適当なこと言ってるからさ」
「でも、普通の関係ではないですよね。いつも見てました、二人の間には何か別の繋がりがあるような」
ナズミの鋭い指摘にマイトは困ったように頬をかく。
「戦いが始まった頃、マイトさんが不意の一撃で一時的に前線を離脱した時、ピンカさんも一緒に居ましたよね。それからしばらくして二人とも一緒に戻ってきましたよね。その間何の話をしてたんですか?」
「何だかすごい積極的だね。そう言うお年頃なのかな」
「ああ、すいません。もしかして深堀し過ぎましたか?何だか気になっちゃって」
「隠しておきたいわけじゃないけど、そうだね」
マイトはそう言うと一拍置いて口を開く。
「僕とピンカはね、昔パーティーメンバーだったんだよ」
「え?一緒にパーティーを組んでたんですか。大丈夫なんですか、それ」
「ははっ確かに喧嘩もあったし意見が食い違う事もあったけど、今よりかは距離が近かったかな。それに僕とピンカ以外にも二人仲間が居たしね」
「そうだったんですね。何だか想像つかないですけど、でも確かに良いパーティーになりそうですね」
「そうだね、僕らは良いパーティーだった」
そう言うマイトは何故か暗い表情をしていた。
「マイトさん?」
「ある時ね、ピンカが十二魔導士にならないかって誘われたんだ。シンラ様とは元から交流があったみたいで、本格的に側にいて欲しいって。でもピンカは迷っていた、十二魔導士になったらパーティーをやめなければいけないから」
「そうでしたね。私はお姉さまと一緒に居たので、そう言う事はなかったですが」
「僕はピンカの重荷になりたくなかったんだ。だから僕も十二魔導士になる事を決めたんだ。ピンカが迷わずに行けるように」
「ピンカさんを思ってやったってことですよね。ですが何であんな険悪な態度をされてるんですか。今はあれですけど」
「実は何も相談せずに勝手に十二魔導士になったんだよね。そしたらピンカはそんな事許せないって言って、それっきり会わなくなっちゃったんだよね」
それを聞いたナズミは気まずそうに眉をひそめる。
「それは確かによくなかったかもしれないですね」
「先走り過ぎたんだよね。その後、パーティーは残りの二人で続けていたみたいだけど風の噂でモンスターに襲われて死んでしまった事を知ったんだ。それがさらに僕とピンカの溝を広げてしまった。結局、重荷を背負わせない為にしたことが逆にピンカに重荷を背負わせてしまったんだ。再び会った時は敵意マシマシ、十二魔導士としての立場や会えなかった期間がその溝を埋めるのを許さなかった。僕も素直に慣れなかったんだ」
「それじゃあ、素直に慣れましたか?」
「あの時、自分の想いを口にしたんだ。ピンカの為にしたことだった、そしたらまた怒られちゃった」
そう言うとマイトは乾いた笑みを浮かべる。
ナズミは最後まで話を聞きおいてから、自身の考えを述べた。
「一番必要な言葉は何でしちゃったんじゃなくて、それをしてしまった事のケジメなんじゃないですか」
「え?」
「まだ仲直り出来ますよ。全てが終わった後でも、私ももう少し早く本心を伝えられたらお姉さまともっと距離を詰められたかもしれないですから」
そう言いながらナズミは遠くを見つめる。
既に頂上まで残りわずかだった。
「そうだね、僕はまだチャンスがあるからね。それを逃さないようにしないと。だけど今は目の前の事に集中だ。必ず成功させるんだよ、ナズミ」
「はい!」
ナズミは銃を握りしめて力強く答えた。




