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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十四章 半分獣と呼ばれた者達
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その八十七 クリシナ

「はあ、はあ、はあっ‥‥‥はあ」


半獣の身体能力と風の魔法を駆使して最速で元花畑にやって来た。

だがすでに一足遅かった。


「よお、遅かったな。お友達は助けられたのか?それとも両方失ったか?」


こいつらはあいつらの仲間の様ね。

その人達の足元には掘り起こされた土の穴が無数に出来ていた。

そこには目が出ていた種が潰され、引きちぎられ踏みつぶされていた。


「随分と酷い事をするのね。お花は嫌いなのかしら」

「まあ、好きじゃないわ。花なんか匂いがきつくて溜まったもんじゃない。花よりも女を飾った方が華やかになるだろう」


その言葉に周りの奴らも薄気味悪い笑い声を出す。

その声を聴くたびに激しい怒りに身が震える。

あまりこう言う言葉は使いたくないのだけど。

乙女の口から出てはいけない汚い言葉。


「ぶっ殺してやる!」


それは私の心から出た言葉だった。

その瞬間、殺意を込めた魔法を放つ。


「女一人で、どうにか出来る数じゃねえぞ!!」


声を荒げると同時に周りの取り巻きも一斉に魔法を放ち始めた。

私は瞬時に周りの魔法を対処しながら奴らに殺意の刃を浴びせる。


「くっ!この‥‥‥!」

「あなた達がいくら集まった所で私の肌一つ傷つけることは叶わない。美しさを理解出来ないあなた達は私が直々に教えてあげる。傷つけてはいけないものがある事を」


私は迫りくる魔法を風の刃ですべて切り裂き、さらにその勢いのまま周りの奴らの体を切りつける。

そして最後に残った男に向かって私は魔法陣を出現させる。


「終わりね」

「化け物が‥‥‥!」

「失礼ね、美少女よ」


その時、背後に魔法陣が出現する。

私は咄嗟に体を傾けると、その隙を狙っていたのかこちらに手を差し出してくる。

何を。


「これでも喰らえよ!」


その手は大量の魔力が込められ、気付いた時には手のひらから炎が噴き出した。


「ははっははははは!ざまあみろ!自分の力を過信したな!油断してるからそうなるんだ!何が美しいだ、所詮はただのこむす‥‥‥めっ」

「誰が小娘ですって?」


受けた炎を手で払い除ける。

すると目の前の男はみるみるうちに顔色を悪くさせる。


「な、何で生きて」

「レベルの差じゃないかしら。私とあなたでは圧倒的なレベル差があるもの」

「くそがああ——————ふぐっ!?」


即座に風の魔法を男の腹にぶつける。

風圧で凹んだ腹を抱えよろよろとした足取りでその場に倒れる。

そしてそのまま倒れた男に向かってもう一度魔法陣を出現させる。


「あなたがいけないの。これ以上誰かを苦しませるわけにはいかない。苦しむのは私だけで十分よ。その根源を摘まないとね。あなたが花にやった事と一緒よ、これであなたも美しく咲き誇れるんじゃなかしら」

「この、くそアマが」

「その汚らしい口も一緒に閉ざさなくちゃね」


これが私のすべき事、クルシミナとして私だけが苦しめばそれでいい。

友達を傷つけはさせない。

私は目の前の男を殺す為に風の魔法を出現させ。


「やめとけ」

「っ!」


そこには何故か花畑を燃やし尽くした男が居た。

どうしてこの人が、イズナの方に居たんじゃなかったのかしら。


「そんな事をしてもお前が辛いだけだ」

「それは願ったり叶ったりね」

「もうそいつは気絶している。身包みはがしてそこら辺に捨てておけ、モンスターに襲われれば全裸で逃げ回るしかないだろう」

「それが罰だって言いたいのかしら」

「そんなクズの為に手を汚すな」


男は私を静止する為にその手で私の手を下ろす。


「私の手はもう既に汚れ切っていると言ったら?」

「なら、もう汚すな。イズナの料理をそんな手で食べて欲しくない」


すると男は風の魔法を使って周りの男たちの服を脱ぎ捨てると、そのまま彼方に吹き飛ばした。

繊細な魔力操作が無いと出来ないわね。

この人、もしかして相当な実力者かも。


「人を殺そうとした私にまだイズナの側に居させてくれるの」

「あいつはお前の事が好きだからな。あいつが一緒に居たいと思う人をどうして俺がせいげんさせなきゃいけない」

「危険人物だから?」

「もしお前がイズナに手を出したとしてもその前に俺がお前を倒す」

「へえ、かっこいいわね。ナイトみたいだわ。そんなナイトさんはお花が嫌いみたいだけど」


すると男は気まずそうに顔をしかめると、落ちている芽を掴む。


「全部掘り起こされたのか」

「ええ、また一からやり直さないといけないわね。種集めるの結構大変だったんだけど」

「‥‥‥少し、試したい事がある」

「え?」


男はそれだけ言うと地面に巨大な魔法陣を展開させる。

見たこともない魔法陣、一体何をするつもりなのかしら。


「また燃やし尽くすつもり?言っておくけど、あの時の言葉を忘れたわけじゃないわよ」

「ああ、俺も忘れてねえよ。これは俺なりの謝罪だ」


男がそう告げた瞬間、魔法陣が輝きだした。

そしてその輝きと共に地面に次々と色鮮やかな花が咲き誇った。


「わあ‥‥‥綺麗」

「俺が作った魔法だ。花を咲かせるだけの魔法だがな。本当は最初にやろうと思っていたんだが、お前が自力で花畑を再現させようとしているのを見て無粋だと思った」

「気を利かせてくれたってことかしら。でも、これはこれでありね。美しいわ」


あの時の花畑よりも様々な形の花や色がより一層この場所を特別にしてくれる。

ここも前とは違う新しい場所になったのね。


「美しいな」

「あら、自慢かしら」

「お前の事だよ」

「っ!」


突然の事で言葉が出なかった。

そんな言葉は自分自身で何度も言って来たのに。


「まさか口説いてるのかしら。この花に負けないくらいの美少女をこの場所で口説くなんて、意外と女の子に慣れてるのかしら」

「見た目の話しじゃない、心の話しだ」

「え?」

「みてくれなんていくらでも変えられる。だが心はそう簡単には変わらない。お前はあの時、この場所よりも友達を優先した。お前の心は純粋で綺麗だ」

「私は、ただ自分が苦しむ道を選んでいるだけよ。私の心はとっくに壊れているもの。その証拠に人を殺すことにためらいが無くなったもの」

「人を殺すではなく、誰かを守ることに躊躇いが無くなったんだろ。まず自分を犠牲に考える。誰もが自分の事しか考えないこの世界で、お前は他人の為に考え続けている。それはお前だけが持つ、唯一無二の美しさだ。お前の心は花というよりも宝石の様に不変の輝きを持っているんだよ」


心の美しさ‥‥‥


『スタリィちゃんは醜くないよ。優しくて、気遣いが出来て、とっても頼れる素敵な女の子だよ』


そうだった、どうして忘れていたんだろう。

大切な友達が教えてくれたこと。

クルシミナとして生きていくことを決めて、いつの間にか自分の姿の美しさばかりに気を取られていた。

それしか誇る事が無いと思ってた。

でも違った、美しさはそれだけじゃない。

これじゃあママと変わらないじゃない。


「まさか男の人にそんな事言われるとは思わなかったわ。どうやらあなたの事を誤解していたみたいね」

「どんな風に思っていたんだ」

「うーん、花嫌いの放火魔さん」

「誤解が溶けた様で何よりだ」

「ふふっ冗談よ。ありがとね、えっと‥‥‥そう言えば名前を聞いてなかったわね」


出会い方が最悪だったから名前を聞く気にもなれなかったし。


「そう言えばそうだったな。俺の名前はゼットだ」

「私はクルシミナ‥‥‥ってゼット!?あなたが!」


ガイスが言っていた人ってこの人の事だったの。

この人が皆が信頼できる人物。


「何だ、俺の事を知ってたのか」

「噂程度で、まあでも確かにゼットならいいかもしれないわね」

「何の話かよく分からないが、クルシミナと言ったか」

「ええ、そうよ」


ゼットは少し考え込むようにしてから、思いついたように口を開いた。


「クリミナ」

「え?」

「お前の名前だ。クルシミナは言いにくいからな。クリシナと呼ぶことにする」

「呼ぶことにするって、何でそんな名前にしたの。どういう意味?」

「意味はない。そっちの方が良いと思ったからだ」

「本当に?もしかして特別な意味が隠されてたりしないかしら」

「意味が欲しいなら、自分でつけることだな。そしたら聞かせてくれ、お前がその名前にどんな意味を見出したのか」


こういうのは普通名前を付けた本人が考える事なのに。

でも、名前を付けてくれた人の想いを想像し意味を考えるのも美しいと言えるかもしれないわね。


「分かったわ。その意味を見つけた時、ゼットに真っ先に伝えるわね。それまではこの名前を私の名にするわ」

「いや、別にわざわざ名前を変える必要も」

「いやよ、ここまでしたんだもの。ちゃんと責任取ってよね」


それが私とゼット師匠の出会いとスタリィ、クルシミナの人生の終わり、そしてクリシナの人生の始まりの物語。


——————————————————————————

記憶は死に際に自分自身を見つめ直してくれる。

私がこれまで生きてきた人生がその名に意味を与えてくれた。


「それは一体何なんだ。お前は四つの宝石を使ったオリジナル魔法のはずだ。なぜ領域が発動している。その宝石は何なんだ!」


ガイスは上空に出現した巨大な宝石を見て声を荒げる。


「あれは私だけの宝石、私の心。ここまでの出会いや出来事がその宝石と名前に意味を持たせてくれた」


ゼット師匠が私の美しさは自己犠牲の精神だと言ってくれた。

だからその美しさを損なわない様にどれだけ手を汚そうと、その美しさだけは守り続けた。

見た目じゃない、本当の私を見てくれてありがとう。


「永久不心の美の意味を持つ、この宝石の名はクリシナ!」


これが私が与えたこの名の意味よ。



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