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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十四章 半分獣と呼ばれた者達
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その八十三 笑顔は最高のメイク

「‥‥‥ああ、終わってたのね」


目が覚めると窓も鏡も無い殺風景な檻の中だった。

ここが私のお部屋、おしゃれに模様替えも出来ないしただ血のシミが付いた天井を見上げるだけの日々。

それに最近はあの例の手術のせいでほとんど気絶してしまって、ここに戻って来たのがいつかも分からない。


「体は‥‥‥少し筋力がましたかしら。あんまり動かせないから分からないわね」

「それは当たり前でしょう。その力は人間を容易に殺せる力なんですから」


いつの間にか白髪の美少女が檻の前に立っていた。

相変わらずタブレットを弄りながら素っ気ない様子を見せる。


「あら、こんにちは。一つ聞きたいのだけど、今って何月何日かしら。手術を始めてから日数を記録しようと思ってたんだけど、気絶しちゃって分からなくなっちゃったのよね」

「不必要な情報は喋らない決まりなので。経過観察だけしに来たので」


それだけ言うと白髪の研究者は私の体とタブレットを交互に見ていく。


「そんなこと言わないでよ。誰とも話せないから寂しいの。こんなアクセサリーも付けられちゃって」


私の両手には大きな機械が取り付けられている。

それは私の自由を制限する為の物であり、両手だけではなく片足も大きな鎖に繋がれ織りの外に出さない様にされている。

正直こんな物が無くても脱出する意思なんて無いんだけどね。


「それはあなたが邪な考えを持たせない為の物です。もし無理やりにでもそれを外そうとすれば致死性の猛毒を瞬時に体内に注入しますので」

「もう、私がその事忘れてると思ったの。可愛い女の子の言葉は一言一句覚えてるわよ」

「そうですか」

「ねえねえ、外の世界はどうなっているの?私は後どれくらい手術を受けなきゃいけないの。それと鏡が欲しいって前に頼んだんだけど、それってまだ来ないのかしら」

「まだそんな笑っていられる余裕があるんですね。気絶するほどの激痛を毎回味わっているのに」

「だって女の子は笑顔が一番のメイクなのよ。どんなメイクもその前では霞んでしまうの。だから私は笑顔を絶やさない。そうだ、あなたの笑顔を見せてくれない。そのクールな表情もあなたの魅力ではあるけど、笑みを見せることでまた違った一面が見れると思うの。ねえ、少しでいいから笑ってくれないかしら」


白髪の美少女の笑みを見る為に近づこうとするが足の鎖があるせいで、それ以上前には進めなかった。

そしてその研究者は冷たい視線をこちらに見せる。


「笑顔などとうに忘れました。それよりも次回の手術は明日です。それまでに十分な睡眠をお願いしますよ」

「ええ、モーニングコールでもしれくれたら嬉しいのだけど‥‥‥行っちゃった」


何だかんだ言ってあの子話に付き合ってくれるのよね。

以外に推しに弱いと見たわ、それにああいう一見気の強そうな女性は一度気を許すととことん甘える性格の様ね。

あの冷たい仮面が剥がれる瞬間を見て見たいわ。


「といっても今の関係じゃ、無理なのかもしれないわね」


私は彼女の笑みを想像しながらそのまま眠りについた。

それから何度も体を改造されどれくらいの時が経ったのかあいまいになって来た頃、その時がやって来た。


「あら、いつものあの子じゃないのね」


それはいつも来ていた白髪の研究者ではなく、私の事をモルモットと呼んでいた男の研究者だった。


「あの女はお前と余計なお喋りが多かったからな。外してもらった」

「あら残念、ひどい扱いはしてないでしょうね」

「さあ、どうだろうな」


ううん、あの子じゃないといまいち乗る気がしないのよね。

まあ、あの子の性格上そう簡単に殺されることもないだろうし大丈夫よね。


「それでわざわざあなたが来たってことはもう例の半獣化の準備が整ったと言う事かしら」

「お前の体は既にある程度の強度なら耐えられる体となっている。大型トラックに引かれても数日で完治するだろうな。それでようやく試せる」

「私の質問には答えてくれないのね。寂しいわ、こんな美少女が聞いてるのに」

「さあ、この中に入れ」


結局答えてくれないのね。

そのまま目の前の部屋に入る。

外側から中の様子は筒抜けだった。

それでも中に入ったら外の様子が見えない。

外の情報を見せずにこちらの様子だけを伺うつもりね、それに何もなさそうに見えて壁の隅に微妙な亀裂が入ってる。

それに床もただの床じゃなくてちょっと鉄が仕込まれてるのかしら。

こっちで何かしらの想定外なことが起きた場合を瞬時に感知して、即処分するってこと?

するとガチャリと言う音が聞こえたと同時に、床に穴が開いてそこから小さな注射器が台と共に出て来る。


「これは何かしら」

「その注射器を自分に打て」

「これを打ったら私はどうなるのかしら」


だがその問いに対して答えは帰って来なかった。

強引な人ね、まあでもこれを打てば私は半獣化するってことよね。


「対象の精神状態、正常です。脳波も異常はありません」

「これが最後の配合だ。これが成功すれば全てのパターンを網羅したことになる。この成果を元に完璧な半獣薬を完成させる。さあ、モルモットよ社会から不必要とされた者、俺の為にその存在を証明して見せろ」


何だか視線を感じるような気がする。

あの手術を受けていこう、五感が少しだけ敏感になって居るみたい。


「拘束具、解除します」


煙と共に私の両手を固定していた機械が外れる。

久し振りに解放されて私は両手を握ったり開いたりする。


「うん、綺麗。ネイルとか出来たらいいんだけど」

「早くしろ、これ以上待たせればお前の床下から高圧電流が流れるぞ」


なるほどね、何か特殊な使い方をすると思ったけどそう言う事。


「分かってるわよ」


私は置いてある注射器を手に取る。

これを打てば私は本格的に人間を捨てることになる。

本当にスタリィではなくなってしまう。

クルシミナに本当の意味で生まれ変わることになる。


「それもいいわね」


私はそれを首筋に当てる。

さようならスタリィ、こんにちはクルシミナ。

この日から私は新たな人生を歩んで行こう。

そして私は注射器を押した。


————————————————————————————


『緊急事態、緊急事態!職員はすぐさま退避を。研究対象が脱獄しました、研究対象の排除を速やかにお願いします。繰り返します——————』


外が騒がしいわね。

何だか、夢の中に居るみたい。

早く起きないと。


「っ!」


突如、扉が吹き飛んだ音が聞こえた。

思わずそちらの方を見て見るとそこには私と同じ、耳と尻尾が付いた半獣が立っていた。


「研究者たちに好き勝手やられる時代はもう終わった。これからは俺達の時代だ!さあ、一緒に革命を起こすぞ!」

「え、ええ‥‥‥」


どういう事、一体何があったの。

いや、状況を見るに半獣が反旗を翻して研究者たちに報復してるって感じかしら。

でも何でいきなり、半獣化の薬は完成して完全制御できるようになったはずなのに。

反抗する意志さえ、出ない様にされているのに。

誰がこんな事を始めたの。


「ひいい!助けてくれ!」

「出口を直ぐに閉じるんだ!!」

「おい、すぐに避難経路を確保しろ!迎撃ロボットを全て起動させて足止めするんだ!」

「私の研究の全てがああああ!!」

「別の部門の研究者の方に連絡してこっちに応援を寄こせ!このままだとぜんめっうわあああああ!!」


檻の外はまるで地獄の様だった。

いや、あの時の苦しみが地獄で受ける拷問だと思えばまだ生温いかしら。

半獣化になってからずっと寝たきりで動けなかった。

最近ようやく体がゆう事を聞くようになったのに。


「全ての研究者共を皆殺しにしろ!!」

「俺達にした仕打ち以上の地獄を見せろ!」

「絶対に研究者共を許すな!!」


そりゃあまあこうなるわよね。

今までの扱いから、こっちの方が立場が上になったらそりゃあやり返すに決まってるわ。

私達の力はもう制御できないレベルになってる。

この未知のエネルギーを用いた攻撃手段、まだ本格的な稽古もせずに使いまくれば加減も何もないからすべて壊されるでしょうね。


「‥‥‥出口は何処かしら」


ここに入って来るまでの記憶はないから具体的な入り口は不明。

もしここが地下深くだったり、深海に作られたりしたらアウトじゃないかしら。

そう言えば誰かが出口を閉めろと言ってたわよね。

もしかしたら研究者にしか分からない出口が存在して、このまま暴れ続ければ私達ここに閉じ込められちゃうんじゃない。


「あらあら、まだ油断出来なさそうね。研究者の方はこの人達に任せて私は入り口の確保でもしましょうか」


と言ってもここら辺の研究者はほとんどが皆殺しにされちゃってるし、残っていても恐怖でおかしくなっちゃってまともに話しも聞けない。

そう言えばあの男は何処に居るのかしら、あいつならすぐに脱出の用意を整えてそうだけど。


「早速使って見ようかしら」


この力は自然の力に由来していると聞かされた。

なら風の力を使ってその揺らめぎを感知する。

風が聞こえる、その方向は‥‥‥


「っぐ!」


その時、心臓が急激に締め付けられるような感覚に陥った。

おもわず胸を抑えて深呼吸をする。

すると次第にその痛みは治まって行く。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ‥‥‥まだ使いこなせないってことかしら。まあいいわ、場所は特定できた。後は向かうだけ」


私はすぐにその足で感知した場所へと向かう。

すると辿り着いた場所は単なる壁だった。

だけど微かに隙間から風を感じる。


「はいはい、ここが秘密の入り口ね。さてと、どうやって開くのかしらね」


周りを観察してみると気になる個所が見つかる。


「あっこれかしら」


一部分だけ血の跡が残ってる。

奇襲を受けて怪我をして脱出をしたのかしら。


「残念だけど、神に見放されたようね」


私はそこを指でなぞると引っかかる部分を見つけそこに爪を食いこませる。

するとそこがパカッと開き中にボタンが現れた。

私はそれを押すと床下が動き出し、さらに通路が開かれた。


「さてと、逃がさないわよ」


———————————————————————


「はあ、はあ、はあ、ゴミどもめ。私が逃げられないとでも思ったのか。まだ終わらないんだよ。ここからなんだ、ここから私の研究が本格的に軌道に乗るんだ!」

「それは無理じゃないかしら」

「っうが!?」


私はすぐさま目の前を走っていた男に向かって風をぶつけた。

背中を思いっきり押されてバランスを崩されたからか、そのまま前のめりに倒れる。


「こんにちは、モルモットよ。飼い主に会いたくなってケージから出てきちゃった。可愛がってくれるわよね」

「お前は!復讐にでも来たのか」

「そんなんじゃないわ。ただ育児放棄はどうなのかしら、ちゃんと最後まで飼ってくれないと外の世界は危険がいっぱいでしょ」

「お前らが勝手に脱走したんだろ!くそ、あいつさえ反抗に出なければこんな事にはならなかった。そもそもあいつが俺達を裏切らなければ、そそのかされやがって。やはりまだ生まれたてだったか」

「何を言ってるの」


目の前の研究者はぶつぶつと意味不明なことを言っている。

この人も錯乱しちゃったのかしら。


「まあいいわ。それよりも、一つせっかくだから聞きたい事があるんだけど。あの可愛らしい白髪の研究者は何処に居るのかしら?あなたが私と会わせるのをやめた子よ」

「知らんな。必要以上に研究対象と接触していたから頭を冷やさせた。殺しちゃいないが、どうせもう死んでるだろ」

「場所を教えて」

「教えるか、ばか!」


その瞬間、懐に何か取り出すような仕草をした時発砲音が聞こえて来た。

反射的に顔を逸らすと頬に掠り傷が残る。


「っ!」

「次は当てて!」

「ふん!!」


一瞬で踏み込んでからその拳を目の前の男に振り下ろす。

腹に入れた一撃はそのまま男を数回壁に弾ませて奥へと消えていった。


「はあ、はあ、はあ‥‥‥やっちゃった」


私はそっと顔に触れる。

ほんの少しだけ血が付いた。

だけど捲れている様な感覚はない、しっかりと痛みを感じる。


「よかったあ‥‥‥まだ私はクルシミナで居られる」


ほっと一息つくと、自分のしてしまった事に気付いた。


「結局場所を聞きそびれちゃった」


とりあえずここの場所をみんなに伝えないとね。

そう思い立ち去ろうとした瞬間、近場に何かが落ちてるのに気が付いた。


「これは‥‥‥IDカード」


さっきの男の研究者の写真が載っている。

これで入れる場所がもしかすると。


「まあ、暇つぶしにはいいかもしれないわね」


—————————————————————————


「‥‥‥見つかってしまいましたね」


中に入ると血まみれでもたれかかっている白髪の研究者が居た。


「先約が居たみたいね。残念だわ、私が最初に見つけたかったのに」


私はIDカードを仕舞うとそっと近づく。


「ここに逃げ切れば大丈夫だと思ったんですけどね‥‥‥爪が甘かったみたいです」

「まだ助かる可能性はあるわよ」


その場に座り傷口を確認する。

大きな刃物で切り付けられた様な傷。

風の刃を使えば、可能ね。


「この施設には私達を死なせない為の設備が多くあるわよね。それを使えば大丈夫なんじゃない」

「そんな物、もう壊されてますよ‥‥‥それに私はもう、いい」

「生きたくないの?あなたはもう少し研究欲があると思ったのだけど」

「そうですね、私はもっと色々な人を解剖したかった。人の体の奥底をじっくりと見たかった。ねえ、知ってますか。人は様々な性格や容姿を持っていますが、ひとたび体を開けばほとんど変わらないんですよ。それが私にとっては嬉しかった」

「理解は‥‥‥出来るわ」

「無理に同情しないでください。自分が異常者だって言うのは分かってます」

「私も異常者よ」


そのまま彼女に自分の手を見せる。

その手はべっとりと赤い血に染まっている。


「あのいけ好かない男を殺しちゃった」

「っいい笑顔ですね。確かに今ならあなたの言葉の意味も理解出来る気がします」


すると白髪の美少女は私の手を取るとそのまま自分の首元に導く。


「あなたが私を殺してください」

「私が?ほっといても死ぬわよ」

「あの時、言わなかったんですけど。本当はあなたが手術を終えて出て来た時、綺麗と思ったんです」

「それは顔が赤くなっちゃうわね」


私はゆっくりと両手で首を触る。


「今まで皮の下ばかりに魅了されてきましたが、あなたは初めて皮を来てても美しいと思えた。だから最後はあなたの手で終わらせてほしい」

「分かったわ。可愛い異常者ちゃん、世界で一番美しい私があなたを終わらせてあげる」


そしてそのままゆっくりと首を絞める。

目の前の研究者は苦しんで体を動かすが、その顔は笑みを浮かべていた。


「だから言ったでしょ。笑顔は最高のメイクだって、あなたも世界で一番綺麗よ」



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