表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第二十四章 半分獣と呼ばれた者達
777/827

その八十 作り物

それから何日が経ったのか分からない。

火傷の後遺症と高熱で毎晩うなされ続けた。

まともに体を動かすことも出来ずに、ただベッドに寝込んだまま生きてるかどうかも分からない。

起きている時間よりも寝ている時間の方が多い。

私の顔は生皮剥がされて肉が丸見えになってしまった。

さらにそこから火傷をして肉がただれてさらに醜く酷くなってしまっらしい。

皮膚を移植するにも私の体力を考えると手術が難しいらしい。

というよりも多分、私の命はもう‥‥‥


「スタリィさん、入りますよ」


微かに声が聞こえて来て私は首をほんの少し動かす。

もう耳も聞こえずらくなって来た。

顔を包帯でぐるぐる巻きにされてるから匂いも分からないし、呼吸も人工呼吸器で何とか出来ている。

だがご飯もチューブで直接栄養を送る以外に出来ず、排泄物も看護師さんに手伝って何とか出来ている状態。

人間としての生活も出来ずに私は生きている意味があるのだろうか。

そんな事を考えていたからだろうか、お医者さんの声が終わりを告げに来たように聞こえた。


「スタリィさん、私の声は聞こえていますか」


もうほとんど首を動かせない為、指を微かに動かす。

そうすることで反応があるのを示してくれるようだ。


「スタリィさん、今の経過ですがあまりよくはありません。脈も弱くなっており、傷も治る見通しがありません。このまま命を繋げ続けても、正直完治は難しいでしょう」


何となく分かっていた。

生き残っても結局は死ぬ道しかない事を。

ただ先延ばしにしただけだって。

でもそれでよかったのかもしれない、だってこれは私の罰だから。

美しくなれなかった私の罰、ママが私に言った苦しみな。

それを今受けているんだ、苦しむことがママへの償いになるから。


「本当は患者さんに伝えるべきではないんだけどね、親御さんが亡くなってしまった今、君の身より先もまだ決まっていないんだよ」


そう言えばおばあちゃんとかおじいちゃんも私が生まれたばかりの頃に死んじゃったんだっけ。

親戚付き合いもあんまりしてこなかったから、当然なのかもしれない。

治ったとしても私が帰る場所はないんだ。


「安楽死という選択もある。すまないが、こちらもこれ以上治療を続けるのが難しい。決めてくれないかな」


そうだよね、患者さんは一人じゃない。

先のない人にいつまでもベッドを使わせるわけにはいかないのだろう。

だから私は死ななきゃいけない。

死んでまだ助かる命に譲らなきゃいけない。

この苦しみを終わらせられるのなら、それが一番なのだろう。

私は指を動かしてそれを同意した。


「分かった。それじゃ今からスタリィと言う人間は死んだ。君はもうこの世に存在していないと言う事だ」


‥‥‥え?

それって一体どういう意味?

安楽死をさせるんじゃないの。


「どうぞ、入ってきてください」


お医者さんがそういうと何人かの人が病室に入ってくる足音が聞こえて来た。


「ごくろう、献体の提供感謝する」

「いえいえ、こちらもお世話になってますから。身寄りもなく、先のない患者さんを集めてそちらに引き渡す。それだけでこれだけの報酬が貰えるんですから」


どういうこと、何かおかしい。

すると誰かが側に近づいてきたような気がする。


「さてと、今から君にはこちらの研究に協力してもらう。その見返りとして君の体を完璧に治してあげよう。これから先死にゆく未来しかない君にとってはこれ以上ない提案だろう」


私を献体にするって一体どういう事。

私は死ぬんじゃなくて生かされるの。

このお医者さんもグルだった?

初めから私を提供する為にこの病院に招き入れたとか?

ああ、駄目だ、体がだるくて何も頭が回らない。


「どちらにしろ、君に拒否権はないのだが。おい、こいつを連れて行け」

「はっ!」


すると複数人の足跡が聞こえて来て、私の体を触って来る。

ああ、そうかこのタイミングで来るってことはそう言う事何だろうな。

まだ苦しみ足りないのだろう。

もっと苦しめと苦しみなって頭の中で言われている気がする。

その時、腕に何かを注射される。

その瞬間、一気に眠気が押せって来た。

そしてこれから私は味わう事になる、今までの苦しみがすべて楽に思えるような本当の地獄が。

———————————————————


「これが今回のサンプルか」

「ああ、重度の火傷と顔にひどい傷を負っている。もってあと数日と行った所だろう。お前が作った薬を注射して何とか命を繋いでいるが、効果が切れればすぐに死亡する」


何だろう、声が聞こえる。

あの後、どうなったんだろうか。

私はまだ生きている。


「聞こえているか、聴覚はまだ機能していると聞いている。聞こえているのなら手を握りしめてくれ」


その時、誰かが私の手を握っているような気がする。

言われた通りに私はその手を握った。


「よし、それなら早速始めるのだよ」


始める、始めるって何を始めるんだろう。

まだ頭がぼーっとするな。


「今から君の体を完璧に治す。火傷の後も残さずに元のキレイな状態に戻そう。君の命は私が保証するのだよ」

「さすがだな。医療技術の発展にもっとも貢献したと言われているだけはあるな。これほどの火傷を後を残さず治すなど、断言できる医者は居ないだろうな」

「私は医者じゃないのだよ。医療ロボットを専門している技師なのだよ。とにかく顔が特に重症と言ったね。ならどれほどの物か確認をするよ」


そんな声が聞こえて来ると、誰かが私の顔に手を触れてきた気がする。


「だ、め‥‥‥」


思わず声を出してしまう。

あの痛みは何度も受けているが、慣れることは出来ない。

反射的に声と手が出てしまう。


「ふうん、喉の方も治療が必要みたいだね。安心するのだよ。今君に打ったのは痛覚を遮断する薬なのだよ。包帯を剥がした時に生じる痛みを感じることはないのだよ」


それを聞いて自然に力が抜ける。

痛みがないのなら、大丈夫。

醜い顔を晒すのはなれてるから。

包帯が取れて言ってるのか布がこすれる音が聞こえて来る。


「っ!これは‥‥‥」

「ひどいな。ほとんど壊死してるぞ。あの藪医者はまともに治療するつもりはなかったんだろうな」

「お前がそれを言うのか。あの病院はある意味死体安置所のような物なのだよ」

「そんなに怖い目で見ないでくれ。未来の為には必要な犠牲だ」


私の顔はそれ程醜いのか、包帯が取れた後の二人の声色は少しだけ震えていた。


「それでこの‥‥‥顔は治るのか」

「何を言い淀んでいるのだよ。私の最先端医療ロボットに治せない者はないのだよ」

「治せない者は無くても、元に戻すことは可能なのか」

「眼、鼻、口、そして皮、全て百パーセントの状態に治すのだよ。その為にも私が開発した人工皮膚と、鼻は型を取って中に人工骨を入れて再現、眼も適正者に合わせた物を用意し人工神経を繋げる。視力も次第に回復するのだよ」

「技術の発展だな。昔ならこれほどの重傷は諦めるしかなかったはずだ」

「医療技術は日々進化してるのだよ。いずれは治せない病気などない。それも人間の手ではなくロボットが手術する世界になるはずなのだよ。私が作った最新の医療ロボットはすでに手術が不可能だと言われた手術も成功しているのだよ」

「あれは医療ロボットの発展に大きな一歩を及ぼしたな。それに注目した我々が君をスカウトしたわけだが」

「今では騙されたのだよ。医療技術のさらなる発展の為の協力をしようって言われて通常では出来ない、非合法な実験も出来ると聞いて思わず協力を申し出たけど。ふたを開けてみれば、非人道的な研究の片棒を担がされただけなのだよ」


一体何の話をしているのだろう。

私は結局直してもらえるのだろうか。


「おい、一応機密事項だ。あまりペラペラと喋るな」

「分かってるのだよ。それじゃあ、このスタリィの顔写真を持ってきてほしいのだよ」

「どうしてだ」

「言っただろう。人工皮膚を移植すると、人工皮膚はこちらで一から作るのだよ。拒絶反応も出ずに、表情のデータを入力してそれを元に制作する。そうする事で細かな部分も再現する事が可能なのだよ」

「つまりそのデータの為に顔写真が必要だと」

「そうなのだよ。元に戻すにはデータが必要なのだよ」


元の顔に戻す?

あの顔に戻らなきゃいけないの。

嫌だ、私はもうあの顔に戻りたくない。

私が綺麗ならあんな事にはならなかった。

家族を二回も失う事も無かった。

だから私は苦しんで、そして綺麗ならなくちゃいけない。

生きていくのならそれしかない。

私は必死にその手を掴んだ。


「っどうしたのだよ」

「たのみが、あります‥‥‥」

「何?」

「せか、いでいちばっんきれいな、かおにしてください」


精一杯声を振り絞って相手に伝える。

話を聞いてみて好きなように顔を弄れると言っていた。

ならそれも可能かもしれない。


「分かった、まかせて」

「任せて?かなりアバウトな願いだぞ。本当に可能なのか」

「言ったはずなのだよ。人工皮膚の製作にはデータを必要とするのだよ。加えて私の医療ロボットは主に整形に使われることも多い。そう言ったデータは自然と集まりやすいのだよ」

「そうなのか、てっきり大きな病院で手術に注力している者と思っていたぞ」

「あの時はまだそんな大きな場所では技術提供をさせてもらえなかったのだよ。整形は多くの人が訪れ簡単にできる物で、安全性が高ければ高い程好まれやすい。私の作った物をよく提供していたのだよ。とにかくそれのデータを活用して理想の顔を作る」

「それで価値観は人それぞれだが、具体的な物は決まってるのか」

「世界一美しい顔を作ろうとすれば、失敗するだろうね。だから万人受けする顔を作る。老若男女好かれおおよその欠点も無く、まず不細工と思われることがない顔。それを目標にして制作するのだよ」


機械を操作する音が聞こえて来る。

どうやら私の願いは聞いてもらえたようだ。


「あり、がとう‥‥‥」

「そんな感謝する必要ないのだよ。私は君を‥‥‥嫌何でもない。それにもう喋る必要はないのだよ。喉も焼かれて辛いはずだから」


するとその人はそっと耳元でささやく。


「人工皮膚を君の顔に付けた瞬間、吸着し元の皮膚と馴染んでいく。そうすればいくら顔の皮膚を引っ張っても取れることはない。元の皮膚と同様に熱も感じるし、きちんと痛覚もある。人工皮膚だからと言って何かしらの後遺症も違和感もなく完璧に肌として、君の顔を守ってくれる。軽微な傷なら普通の肌同様に自然と治るが、今回のような大きな傷や手術を必要とする場合はもう二度と同じやり方で治すことはできない。それを理解した上で人工皮膚を付けることを了承してくれるかな」


私は耳元でささやかれくすぐったさを感じながらも頷いた。

すると側から離れたのか微かに気配が消える。


「それじゃあ、後は任せるのだよ」

「もう行くのか」

「言ったでしょ。私は医者ではなく技師なのだよ。データは既に入力した、後はロボットがやってくれるのだよ」

「興味はないのか。世界一美しいと言うその顔を」

「興味ない。言っておくけど、この子がそう頼んだからやるだけで本当はやりたくないのだよ」

「どういうことだ?」

「整形は金とリスクがあるから金持ちの道楽の様に扱われることがある。まあ、最近はプチ整形みたいに手軽にお金もかからないものが流行ってるけど、この子の居た島ってあの有名な美しさを何よりも優先する島なのだよ。あそこにはよくそう言った整形をしたのだよ」

「ああ、だからあの子もそれを求めたと」

「そう、整形は徐々に身近なものになって行く、そして本格的な整形でもリスクなくお金もかからなければどうなると思う?」

「まあ、リスクが無ければやる人も増えるだろうな。顔がキレイな人も整形はやる事もあるし」

「そっそして私の人工皮膚が一般の人にも流通されれば同じような願いをする人も多くなる。そうなると、皆似たような顔になり個性が消える。そんな世界誰が望むのだよ」

「なら、何故そんな物を作ったんだ」

「本来なら一生消せないキズや、今回のようなケースで活躍する物なのだよ。とにかく整形の為に作ったわけではないのだよ」

「まっ技術って言うのは不本意な使われ方もする物だ」

「あ、あの‥‥‥」


私は話せる隙を伺いながら声を振り絞った。


「喋らない方が良いと言ったのだよ」

「わたし、これからどうなりますか。いきて、しまにもどれないんですよね」

「ああ、スタリィは死んだことになっている。戻ったことで日常生活は送れないだろうな」

「そう、ですか」


私は死んだ、もうスタリィいない。

醜いスタリィはもう死んだんだ。

それなら新しい自分を迎え入れる為に名前を変えよう。


「もし、しゅじゅつがせいこうして、うつくしくなれたら、わたしのことをこうよんでください」

「呼称の事か?別に被検体の番号で」

「そう言う所が人間の皮を被った化け物だと言われるのだよ」

「ふっ化け物なら確かに身近にあるがな」

「それで、何と呼べばいいのだよ」


分かってるよ、ママ。

私はこれから生きる為にこの言葉を忘れないように。


「私の名前はクリシミナ、それが新しい私の名前です」


苦しんで生きていく、それがこれからの私の人生だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ