その七十二 最終局面
何だろう、体が浮いてる?
いや、違う持ち上げられてるんだ。
「あ、ああ‥‥‥」
わずかに瞼を開くとそこには見慣れた顔が飛び込んでくる。
「マイトさん‥‥‥?どうして、私を」
「起きた?よかったよ、すぐに臨時休憩所に付くからね。そこで回復すると言い」
「私はどうなって、ガイスと戦っていたはずなんですけど‥‥‥」
ピクリとも体が動かない。
前後の記憶が曖昧だ。
最後に私はガイスの心臓にめがけて弾丸を放ったはずなのに。
「ナズミの戦いはちゃんと見てたよ。最後まで勇敢に戦ってくれた。ミズトもナズミの成長を喜んでくれてると思うよ」
「お姉さま‥‥‥」
ふと手元に視線を移す。
そこには一緒に戦った魔銃が握りしめられていた。
「それずっと離さなかったんだよ。ガイスに最後の一撃を当てられて気を失ってる時も運び出した時も、それは固く握りしめていたんだ」
「‥‥‥」
よく見ると魔剣の部分に傷が入ってる。
どうしてこんな所に。
「ほら、見えて来たよ。そこでゆっくりと休みな。目覚めた時にはすべて終わっているから」
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ガイスとナズミが互いに魔法を放った後の事
「中々の、一撃だったな」
ガイスの手は凍り付いていた。
それは直前に心臓に放たれた弾丸を素手でキャッチしたからだ。
それにより氷の魔法が発動し、その手を凍らせて見せた。
「氷の魔法の弾丸か。着弾すれば心臓を止められる、最適だな」
ガイスは無理矢理手を開くことでその氷を砕いて見せた。
そして右肩に手を置く。
「さすがに最初の弾丸は防ぐことは出来なかったな」
最初の弾丸は雷の魔法が施されていた為、体が痺れていた。
だがそれでもガイスが弾丸をキャッチできたのは事前に心臓の位置に手を置いていたからだ。
ガイスは心臓に弾丸が来る事を予想していた。
だからこそキャッチできたのだ。
「かなりの綱渡りだったが、上手く行って良かった。さてと‥‥‥」
ガイスは炎の魔法を直撃で受けてその場に倒れて動かなくなっているナズミを見下ろす。
「まだ息があるのか。大したもんだ、だがもう瀕死なのには変わらない。このまま苦しめるよりも、せめて苦しまずに逝かせてやる。お前との戦い、実に有意義だった」
ガイスは相手を経緯を評して心臓めがけて切り替えで魔法を放とうとする。
だがその時、咄嗟に巨大な魔力が迫ってきているのを感じ取った。
「さすがに来たか。だが一足遅かったな」
ガイスはすぐさま水の弾丸をナズミの心臓めがけて放った。
その瞬間、気絶しているはずのナズミの手が咄嗟に動き出し心臓へと放たれた水の魔法を防いだ。
「っ!?これは‥‥‥っ!」
その時到着したブライドがガイスに向かって魔法を放つと、すぐさまマイトがナズミを救出する。
そして時は現在に戻る——————
「お前はいつも俺の邪魔をするな、ブライド」
ガイスは鋭い目つきでブライドを睨みつける。
ブライドも警戒しながらガイスを見る。
二人の間には深く地面を抉った焼け焦げた跡が出来ていた。
「あの女をこの手で殺したかったんだが、実に残念だ」
「仲間はやらせねえよ。もう誰もな」
決意を込めた声色でガイスに告げる。
それを聞いてガイスは思わず笑みを浮かべる。
「あの時と同じだな。お前が自らの命をかけて俺を殺そうとしたあの日、あの後お前らはどうしたんだ?」
「関係あんのか今」
「ないな、だが俺が気になるから聞いている」
それを聞いて一呼吸おいてブライドが口を開く。
「お前が殺した息子にくらーいくらーい海の底に閉じ込められたよ」
「ははっそうか。もういいぞ、聞きたい事も済んだところで今度こそ殺すぞ。何度も何度も見逃してもらえると思うなよ」
「悪いがここには死にに来たわけじゃねえ。勝ちに来た」
「前もそんな風に言って俺になすすべなくやられていたが」
「虚勢はんなよ。立っているのだってきついだろ。ナズミに大分痛い目に合わされた見てえだしな。強かったろ、お前がなめてたメメとデュラが作った武器も十分お前に効いたみたいだしな」
それを聞いてガイスは不服そうに目を細める。
「風穴もだいぶ空いたみたいだしな。さらに増やしてやろうか」
「悪いがもう十分楽しんだ。ここからは一方的な虐殺だぞ」
その瞬間、二つの魔法陣を展開させる。
それは全て源魔弾の魔法陣だった。
「血を流し過ぎて頭空っぽになっちまったか」
「何‥‥‥っ!そう言えば居たなあ、一番の邪魔者が」
ガイスの目に飛び込んで来たのはリドルだった。
「スコープ、ロック」
「源魔弾を封じたか、忌々しい奴だ。あれほど痛めつけたのに未だに俺の前に出て来るか」
「喰らいつきますよ。僕の役目はそれだけですから」
「ならなおさら姿を隠しておくべきだったな。悪いがこの戦いにも飽きてきた所だ。そろそろ終わらせよう」
ガイスはその瞬間、地面に巨大な魔法陣を展開させる。
「真王の領域、油断したな。すでに俺の射程圏内だ。他の仲間は近くにいるだろうが、出て来る前に処理を——————」
「クリングファイヤー!」
「っ!?ぐっ!」
突如体に纏わりつく炎がガイスを襲い、苦悶の表情で水の魔法を使ってそれをかき消した。
「なぜ動ける」
そこには領域内に居ると言うのに動いているガイスとリドルの姿があった。
「何でだろうな。その便利なお目目で確認してみたらいいんじゃねえか」
それを聞いてガイスの目が光り輝く、そして数秒後に息をのんだ。
「周囲一帯に同じ魔力だと?」
「つまりこう言う事です」
「僕はリドルですよ」
「こっちにも居ますよ」
「ここにも居ます」
「まだまだ居ますよ」
続々とリドルと同じ姿をした人物が現れる。
それらは全てツキノが複製したコピーだった。
「複製か。役割を分けて魔法を封じることが目的と言う訳だな」
「そう言う意味です。魔力でどれが本物か見分けられても、だれがどの魔法を封じ込めたかは分からないんですよね」
「魔力の減りである程度の目星は突くぞ」
「ですが数は居ますよ」
周囲に十人以上のリドルがガイスをけん制していた。
「特別の魔法はなるべく取っておきたいよな。これで満足に使えるか?」
「はあ‥‥‥めんどくさい事をしてくれる」
「あなたが嫌がる顔を見る為に色々と策を弄しましたからね。それじゃあ、そろそろ終わらせますか、ガイス」
「いいだろう、一人残らず皆殺しだ」
ガイスはすぐさま六つの魔法陣を展開させる。
その魔法陣を見てリドルは思わず背筋が凍る。
それはガイスが本気で殺しに来ているという意味が込められていた。
「リドル、お前は俺が守る。決して逃げるんじゃねえぞ」
「はい!」
「死ね!」
一斉に魔法が放たれる。
それらは全てリドルとブライドに向けられていた。
その中の三つほどがコピーのリドルで無効化し、残りをブライドの魔法で相殺させる。
「双岩巨兵の守護神!!」
その瞬間、巨大なゴーレムが二体出現する。
そして間髪入れずにガイスへと拳を振り下ろす。
ガイスは瞬間的に風の魔法で吹き飛ばそうとするがそれをコピーのリドルが無効化させる事で、範囲内に居るゴーレムは風の影響を受けることなく拳を振り下ろす。
「ちっ!」
直撃したガイスはそのまま体が宙に浮かぶ。
追撃をする為に魔法陣が展開されていく。
「行くぜ、ガイス!さっきのお返しだ!レベル魔法、ギガボルテクスサンダー!」
「続けていくよ!レベル魔法、ポイゾネスデーモン!」
巨大な雷の塊と悪魔の姿で模られた毒がガイスに襲い掛かる。
ガイスは氷の魔法で毒を固めて岩の魔法で雷の塊にぶつける。
すると四方にはじけ飛んでガイスへと襲い掛かった。
だが威力が足りずに直撃してもガイスはものともしない。
そのまま地面に落ちていく中、ゴーレムが再び拳を振り下ろそうとする。
だがその瞬間に、ガイスは源魔弾と永久魔力機関を同時に撃つ。
範囲外に居た為源魔弾の一撃がゴーレムの拳を破壊させる。
「有象無象が集まって来たな」
「ケリ付けましょうか」
「これが最後の戦いだぜ!今度はもう引かねえぞ」




