その七十 共に踊る
「やった‥‥‥の?」
一か八かだったけど予想以上にうまく行った。
別に放った弾丸が当たるかどうかなんて、ほとんど運みたいなもんだったけど、ほんの一瞬わずかに弾丸の速度を遅らせたおかげで何とかなった。
「まさか本当にガイスを私が倒しちゃった」
武器自体実戦はこれが初めてだし、ほとんど感覚と経験で何とかやって来たけどここまで通用できるとは思わなかった。
ガイス自身も普段は戦わない様な相手だったから、反応も遅れていたし色々な運が重なって今の結果になったんだ。
ガイスは倒れたまま動かない、あの瞬間私の目には放った弾丸が心臓を貫いたように見えた。
なら、ガイスは死んでる?
「油断は出来ません。ちゃんと確認しないと」
私は銃を構えながら倒れているガイスに近づく。
弾は既に補充してある。
中の魔力に応じて自動的に弾が補充される仕組みだ。
最大限まで魔力を込めたからこのモードならあと十二発は連続して使えるはずだ。
スコープに目を通さずに直接この目でガイスの様子を確認しながらにじり寄って行く。
以前としてガイスは身動き一つ取らない。
「本当にし——————」
「真王の領域」
その瞬間、私の意識はそこで途切れた。
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魔法陣は突如展開されて、ナズミの体はその場で停止する。
ガイスはそれを確認するとゆっくりと立ち上がった。
「ふう、中々面白かったぞ」
ガイスは自身の胸に手を当てる。
そこは赤い血がべっとりと付いていたが、すでに傷は塞がっていた。
「あと一歩だったな。もう少し早く弾丸が飛んできていたら、魔法で防ぐのが遅れていただろう」
ガイスは弾丸が跳弾して心臓を貫くよりも先に自身の魔法で心臓を避けて胸を貫通させていた。
それにより死亡したと思わせてナズミが真王の領域内に入るように近づけさせたのだ。
「この段階で他の奴らが来る様子はなし。見捨てられたか、他に策があるのか。どちらにしろ、確実にお前の息の根は止めさせてもらうぞ」
そう言ってガイスはナズミにトドメを刺そうとした瞬間、違和感に気付く。
ナズミは念のため銃を構えて近づいて来ていた。
その為、停止した状態ではナズミは銃を構えた状態で停止している。
その状態は違和感がないのだが、その銃の引き金に指が掛かっていた。
「最後の最後までやってくれるな」
ガイスはそう言いながら首を横に傾ける。
そして背後から跳弾してきた弾丸が頬を掠める。
「だがそれで当たる様なら王を名乗っていない」
最後の一撃は外れた。
その弾丸はそのまま真っ直ぐ飛んで行く。
それは一体どこに行くのか、その弾丸の行く末をガイスが想像した瞬間、自身の行動がどれだけ愚かなことだったと悟る。
「しまっ!」
ガイスは止めようとしたが、時すでに遅し。
その弾丸はナズミの左肩に被弾した。
それと同時に爆発が起きる。
その衝撃でガイスの展開したオリジナル魔法が破壊された。
そして左肩が爆発したナズミは肌はただれ、流血している左腕を宙ぶらりんにさせながらガイスに向かって笑みを浮かべる。
それを見てガイスにぞくりと悪寒が走る。
「異常者め」
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意識が覚醒する。
その瞬間、左肩に強烈な痛みと熱さが駆け巡る。
これが来たってことは、最後の賭けに成功したってことかな。
痛みと燃えるような熱さが来ているのに、何故か笑みがこぼれてしまう。
「異常者め」
「ひどいですね。褒めてくれとも良いと思うんですけど。自分の左腕を犠牲にしてまでやったんですから」
「正常者はその時点で実行には移さないんだよ。自身の腕を吹き飛ばす勢いの攻撃なんてな」
「生半可な一撃じゃ魔法陣を破壊出来ないかもしれなかったですから。それにもしガイスに当たった時の為にも一撃で殺せる物が良いでしょう」
「ははっやはり俺の言葉は正しかったな」
それにようやくお姉さまと一緒に隣に立てたような気がする。
「それじゃあ、続けましょうか」
「ん?まだやるつもりか?何を狙っているのか知らないが、今のお前の状態で俺とまともに戦えると思ってるのか。その手じゃその銃をまともに扱う事は出来ないだろう」
確かにガイスの言う通り今まで使った形態は重量がある為、両手じゃないと使う事は出来ない。
私の左腕は爆発させたからまともに動かすことも出来ない。
だったらこの状態でも戦える形態にさせる。
私は片手で縁に触って形態を変化させる。
そして魔銃は新たな形へと変形していく。
「モード変更拳魔銃」
「片手持ち、ハンドガンか。確かにそれなら片手で撃つことも可能だろうな。だが他の形態ほど強力な物ではないだろう。それでどうやって俺に勝つつもりだ?」
あれから十分くらいが経ったかな。
でもこれじゃあ皆さんにはバトンタッチできませんよね。
後もう少し、せめて私が死ぬギリギリの瞬間まで。
ガイスを足止めするのが私の役目です。
「それは今からお見せしますよ」
「楽しみだなそれは」
私は拳銃をガイスへと向ける。
ガイスは今までと違って余裕そうにその場に佇む。
拳銃では威力に欠けると思ってるのだろう。
「その状態でまだ引き金を引こうとしている所を見るに、弾数はまだあるようだな。だが今のお前には魔力は残っていない。俺のオリジナル魔法を受けて、体内にある魔力は吸収されたからな。それを知ったうえで、まだその銃を下ろさないのか」
「もちろんですよ、だってこれはあなたを殺す粛清の銃ですから」
私は引き金を引いた。
拳銃から弾が射出するがガイスは岩の魔法を発動させてそれを弾く。
「粛清だと?随分と上から目線だな。お前程度の奴が俺を粛正するだと、図々しいにもほどがあるな」
弾いた弾は空中へと跳んで行く。
そして再びガイスの方へと向かって行く。
「っそう言えばそうだったな」
今度は強力な炎の魔法で破壊しようと試みる。
私は炎を回避しつつ、発砲をする。
撃った弾は先程弾かれた弾に当たり、それぞれ左右に飛んで炎を回避する。
すると先程よりもより早く弾がガイスの元へと飛んで行く。
「またか」
今度は風を使って弾を吹き飛ばそうとする。
二発目に放った弾はその勢いに負けて吹き飛ばれるが、一発目に放った弾はその風に負けずにガイスの元へと向かって来る。
「何だとっ!」
そしてガイスの体へと当たるが、貫通するまでにはいかずまたも弾かれる。
それは再びより早く動き回る。
『奴の他の銃と共通している特性は弾を操作する事と魔法を込める事。それ以外は奴の天才的な射撃技術でカバーしていた。それだけ気を付ければ大丈夫だと思っていたが』
「まさかっ」
その時、ガイスの目がひときわ輝いた。
あれは解析を使った時に出る物。
『なるほど、そういうことか』
「その魔法、弾けば弾くほど回転と速さが増すんだろ。そして中に込めた魔法の威力も上がって行く」
「そう言えばその魔法は初見の魔法の性質を見抜くんでしたっけ」
『今まで、奴は魔法で戦うと言うよりも魔力を使った武器で戦っていた。その為、性質とは無関係に技術で俺と渡り合っていた。魔法を自動的に避けることを除いて。その証拠に最初に解析しようとした時、状況に応じて変化する銃という情報しか入って来なかった。だからこそ今後は使う必要も無いと思ったが、ここに来て魔法を組み込んだ戦いをして来た。それによりまた戦術が変化すると言う事』
「弾が飛び交うダンス場死ぬその瞬間まで踊り狂いましょう」
私はその瞬間、六発弾を発砲する。
「いいぞ、ナズミ!こんなに気分が高揚するのは久しぶりだ。付き合おう、お前が魂を散らすその時まで」




